500階 邂逅
あの後駄々をこねるアルオンをリガルデル王国へと送り返し僕とサラはラズン王国のケッペリに訪れていた
何故ケッペリかと言うとラズン王国はダンジョンがほとんどなく勇者達がやる事と言えば仲間集めくらい・・・となるとラズン王国に行き仲間を集めたら次の国へと向かうはず。次の国がアーキド王国だとしたら・・・
「やっぱり船・・・だよな」
「お見事ですご主人様。あの集団が勇者パーティーで間違いないと思われます」
ケッペリに着き港に向かうと勇者パーティーを発見した
何故勇者パーティーと分かったか・・・それは遠くからでも分かるくらい強い奴らが集まっていてその中に見知った顔があったからだ
にしてもどうしたもんか・・・今は港にいる勇者達を遠くから眺めているだけ・・・力を抑えているとはいえこれ以上近付けば気付かれる可能性が高い・・・けど近付かないと勇者が今どれくらい強いのか分からないし・・・
本当は戦っている場面を見たい・・・けど港に来ているって事はラズン王国の用事は済んだって事だよな?となると次の国・・・アーキド王国に着くまで勇者の戦っている姿は見れないってことに・・・いっそゲートでアーキド王国まで送ってやりたい
「どうしますか?私が変装して襲い実力を確認して来ましょうか?」
「いやいや・・・洒落じゃ済まない事態になりそうだしそれはやめておこう」
実力は測れるかもしれないけどサラが少しでも怪我したらアバドンなんか関係なく全面戦争突入してしまう・・・実力を測るのは断念するか・・・
「まだすぐに出発する雰囲気じゃないしアイツを呼び出して聞いてみるか──────」
「ご無沙汰しております・・・ダカン王子の御誕生以来ですねロウニール様」
昼間という事もあって大盛況の蕎麦屋の中で一際目立つ鎧姿の男が僕達を見ると頭を下げた
「やめてくれ・・・今は貴族としてじゃなくて観光を楽しむ普通の人として来ている。ただでさえ目立つ格好なのにそんな奴に頭を下げられたら僕達まで目立つだろ?」
「そうでしたか・・・ところで何故お店で?」
「いいから座れ・・・食事でもしながら少し話そうじゃないか・・・シャス」
シャリファ王国の『氷盾騎士』シャス・クーデリ・アンキス・・・やっぱりと言うか当然と言うか勇者パーティーの一人として勇者に同行していた
遠くからシャスの耳元にゲートを開きこの店に来るように伝えて待ってたのだが来てくれてよかった
それにしてもシャスの言う通りあの時以来だな・・・『氷の女王』ことフレシアの子供であるダカンが誕生した日に僕とサラでお祝いに行ったあの日・・・そう言えばみんな生まれた子が男の子で良かったと胸を撫で下ろしていたけどなんでだったんだろう?
僕が疑問に思っているとサラが微笑み口を開く
「ダカンは元気ですか?」
そう言えば産まれたばかりのダカンを興味津々に見てたよな・・・サラ。いずれは僕との子を・・・
「ええ・・・陛下がサラ様に会いたがってましたよ?また王子を抱いて欲しいと」
「え、ええ・・・けど大丈夫かしら・・・あの時もどう抱いていいか分からず・・・ちゃんと出来るかどうか・・・」
「もう首も座りましたので平気かと・・・あの時は焦りましたが・・・」
うん、あの時はやばかった・・・女王に促されて産まれたての子を抱いたサラ・・・けど首が座っておらず首が90度に曲がった時は殺ってしまったと焦ったもんだ
「帰りにでも寄ってみるよ・・・ところでマーナとはどうなってんだ?」
「・・・ぼ、ぼちぼちです。聖女としての役目を終えてフーリシア王国に戻っても大丈夫になったのですがマーナは残ってくれて・・・私もその気持ちに応えようと思いこの旅が終わったら結婚を申し込もうと思っています・・・はい」
「何となくだがその言い回しはやめた方がいいぞ?」
「?何でですか?」
「だから『何となく』だ」
何となくその言い回しをすると叶わないような気がする・・・シャスは強いし何も無いと思うけど・・・
「・・・分かりました。ロウニール様が言うならそうなのでしょう・・・ところでお2人はラズン王国に何しに?この前はかなりお忙しい感じでしたが・・・」
「その忙しさが一段落したからちょっと骨休みにね・・・そしたら港でシャスを見かけたから声を掛けたって訳さ」
「そうでしたか・・・そう言えば観光を楽しんでいると仰ってましたね。でもなぜこっそりと?直接声をかけて下されば・・・」
「あー、それはほら・・・僕って人見知りするだろ?知らない人といるシャスに声をかけづらくてさ。それよりお前こそ国を離れてこんな所で何やってんだ?しかも一緒にいたの『地仙』だろ?」
「ええ・・・ロウニール様達にならお伝えしてもいいと思うのでお伝えしますが・・・実はあの中に勇者がいるのです」
「・・・勇者?」
知ってるよ・・・知らないフリをするけどね
「はい。光栄な事に私とバウム殿は勇者殿に誘われまして・・・今は魔王を倒す旅の途中なのです」
『地仙』バウムはともかくシャスは選ばれて当然だしな・・・で、その2人の他に6人いたけどその中に勇者がいる・・・僕を狙う勇者が
「魔王・・・ね。出現したとは聞いてないけど?」
「私もです。ですが勇者殿は魔王は既に存在していると仰りシャリファ王国へ協力を要請してきました。代わりに溢れかえる魔物や魔物の出処であるダンジョンを攻略すると言われて・・・勇者殿は約束通り魔物を討伐しいくつかのダンジョンを攻略しました・・・そして陛下は要望通りに援助と私達を協力者として勇者殿に付き従うよう仰ったのです」
「よく女王がお前を出したな」
「勇者殿にご指名されまして・・・なんでも巷では十二傑なる方達がおりその中に私とバウム殿が入っているらしく・・・」
そう言えば入ってたな・・・シャスとバウムは。十二傑を参考にして選んでいるのか・・・となると勇者以外の奴らは十二傑の奴らか・・・
「そりゃあ大変だな・・・でも魔王か・・・出現してたら大陸中大騒ぎになってるはずだけど・・・」
「ラズン王国の国王陛下もそのように訝しんでいたのですが勇者殿は自信満々に『いる』と答えてました。どうやらファミリシア王国のウルティア殿とエメンケ殿も何か知ってるようなのですが多くは語ってくれず私達も真意は分からないままでして・・・」
僕が魔王認定されていると知ったらシャスはどうするのだろうか?ちょっと見てみたい気もする
「ここの殿様がその言葉だけでよく納得してくれたな」
「ええ・・・割とすんなりと・・・勇者特有の説得力でも発揮したのか・・・ただ少し・・・ラズン王国の国王陛下は楽しんでおられたような・・・」
それ有り得るな・・・別に魔王がいるかどうか関係なく楽しそうだから援助した可能性は充分有り得る
「じゃあシャリファ王国の時みたいにこの国の魔物を討伐してダンジョンを?」
「いえ、この国はシャリファ王国に比べて平和でしたので・・・なので勇者殿は協力者だけをお願いして次の国アーキド王国に向かおうと港を訪れてたのです」
「ああ・・・そう言えばラズン王国はほとんどのダンジョンを破壊してたな・・・それで港にいたのか」
「はい、ちょうどタイミングが良かったです。まだ出港しないみたいで自由にしてて良いと言われたばかりでした」
となるとシャスはあまり勇者の戦いを見ていないか・・・やはり自分で確認するしか・・・
「心配ですか?」
「え?」
「いえ、何か不安そうな表情でしたので・・・大丈夫ですよ魔王が出現していたとしても勇者殿なら必ず討伐してくれるでしょう」
その魔王が僕なんだが・・・それにしても・・・
「そんなに強いのか?勇者は」
「・・・今はまだ・・・ですが1年もしない内に誰も勇者に敵わないくらい強くなると思います。それくらい成長速度が常軌を逸しているのです」
今は弱いけど成長が早いのか・・・安全に叩くなら今・・・けどそれは殺す前提の話だ。もし殺せないなら更に勇者は強くなって僕を倒しに来る・・・成長過程で倒すなら殺すしかない・・・けどそれだとアバドンが・・・
やっぱり勇者が成長しきった状態を超えるしかないか・・・そこで完膚なきまでに叩きのめして二度と向かって来ないようにするしか・・・ない
3人で注文したソバを食べ、また会う約束をして店を出た後シャスと別れた
結局どれくらい強いかは分からなかったな・・・残念・・・っ!?
「何をコソコソ探っているんだか」
背後に人の気配が・・・振り向くとシャスと共にいた少年が僕を見つめていた
シャスと会っていた事を話していた内容も知らないのに『探っている』だと?もしかしてこの少年・・・僕を知っている?
「・・・何の事だ?・・・」
「とぼけるのかよ・・・意外と人間っぽいな」
間違いない・・・この少年は・・・んなっ!?
「っと!街中でおっぱじめる気かよ!?」
「黙りなさい小僧!ご主人様に無礼ですよ」
サラが突然動いたと思ったら少年に蹴りを放った
少年は何とか後ろに下がりその蹴りを躱すが・・・サラさん?今はメイドと主人じゃなくて単なる観光客を装っているはずなんですが・・・
「足癖の悪い従者を連れてるな・・・本気でやる気?」
「やる気も何も私は口の悪いお子様を躾ようとしただけです。目上の者に向かっての口の利き方を教えて差し上げましょう」
完全に臨戦態勢のサラ
少年も額に汗を浮かべながら背中に背負った剣に手を伸ばす
僕を知っているような口ぶり・・・そして殺気・・・と言うより敵意か・・・それを向けるという事は・・・
この少年が勇者か
サラが戦えば実力が測れるかも・・・でもそれでサラが怪我したら・・・いっその事僕が戦うか・・・ん?
「何してんのジーク!」
「イテッ!・・・叩くなよラナ・・・」
突然ジークと呼ばれた少年の背後に忍び寄り頭を杖で叩く少女・・・この子もシャスと共にいたな・・・
「少し目を離したらこれだ・・・本当成長しないわね」
「違うって!ほら、アレ」
『アレ』と言って僕を指差すジーク・・・うん、サラの言う通り躾が必要みたいだな
「あっ!魔お・・・嘘でしょ!?」
「多分僕を追って来たんだ・・・ラナはみんなを呼んで来て!僕はここでコイツらを足止めする!」
「わ、分かった!」
おいおい完全にやる気だぞ?てか『僕を追って』か・・・ジークが勇者なのは確定だな。僕がここに来た理由を『魔王が勇者を殺しに来た』と思っているらしい
そもそも魔王じゃないし・・・それに殺せないし
「えっと・・・とりあえず落ち着け」
「落ち着けだと?・・・くっ!ここじゃ人が多過ぎる・・・街の人を巻き込む訳には・・・」
「・・・やる気満々なところ悪いがこっちはやる気ないぞ?」
「人に蹴りを放っておいてやる気ない?もしかして魔物なりの挨拶だったとでも言うのかよ」
「あれは・・・なんで?」
横を向きサラに尋ねると彼女はジークを睨んだまま答えてくれた
「背後から忍び寄り敵意を向けていたからです」
確かに敵意は感じたな・・・けどそれで手を出すようなサラじゃないと思ってたけど・・・今日は妙に殺気立ってるな
「敵意?敵に敵意を向けて何が悪い!」
「誰かと勘違いしてないか?私は君なんて知らないけど」
「勘違いなもんか・・・もういい・・・あの時と比べて僕も強くなったはず・・・今の僕なら・・・」
あの時ってどの時だよ!それに街の人どうこう言ってたのにいいのかよ!・・・くそっもう少し余裕があったら会話になってたか?・・・いや・・・多分コイツは人の言葉に耳を傾けないタイプだ・・・いくら言い訳してもコイツの中での僕は『魔物を使って人を大量に殺したモノ』からは変わらないだろう
もう少し時間をかけて誤解を解いていけばもしかしたら・・・けどもし誤解が解けなきゃ待ってるのは『死』・・・
「・・・どうやら話が通じないようなので私達はここで失礼する・・・」
「待て!」
「待ったらいい事があるのか?さっきのは心配していたフリだったのか?」
「くっ!・・・汚いぞ!街の人を盾にするなんて!」
違う違う!巻き込んじゃうって言ってたでしょ?別に僕が手を出す訳じゃ・・・
「うぉっ!?」
空から炎の矢『ファイヤーアロー』が僕の目の前に落ちて来た
見るとさっきのラナという子と一緒に魔法使いっぽい女性が近付いて来ていた
これ以上ここに留まったら本当に戦う羽目になる・・・僕は急いで背後にゲートを開きサラの腕を掴んだ
「じゃ」
「ま、待て!・・・いや待っていろ!もっと力をつけてお前の所まで僕が行く!その時まで・・・大人しく待っておけ魔王!」
やめて!周りの人が何だ何だと注目している時に僕を魔王と呼ぶのは
何か言わないと・・・『僕は魔王じゃない!』・・・は通じないよな・・・多分・・・なら・・・
「私の名は魔王ではない・・・ロウニール・ローグ・ハーベスだ」
「・・・ケッ!なら待ってろ・・・ロウニール・ローグ・ハーベス!僕の名前はジーク・・・お前を倒す者だ!」
うん、何だかただ自己紹介しただけになってしまった
魔王であることを否定出来ず・・・てか否定出来る気がしない
睨みつける勇者ジークから視線を切り僕はゲートを潜り抜けた
エモーンズの屋敷の自室に戻ると大きくため息をつく
勇者がどんなもんか見に行っただけなのにまるで宣戦布告でもしに行った感じになってしまった・・・もう後戻りは出来そうにないな
「申し訳ありませんご主人様・・・つい・・・」
「どうせ話が通じるようなタイプじゃないし何しても結果は変わらなかったと思うよ・・・多分既にリガルデル王国の第二王子に洗脳されているんだろうね」
嘘をつかず真実だけ述べてもほとんどの人が僕を魔王かそれに準ずるモノと見るだろう。僕でさえ『魔物を操り5万の人を殺した』と聞けばそいつ魔王じゃんと思ってしまうし・・・
自ら蒔いた種・・・だから刈り取るのも・・・
「多分ここに来る頃にはかなり強くなってるはず・・・今よりもずっと・・・。なら僕のするべきことはただ一つ・・・その強くなった勇者より遥かに強くなってやる──────」




