499階 破壊のアバドン
『破壊』のアバドン・・・魔王であるインキュバスが『創造』だから真逆の力を持つ魔族か・・・
〘そんなに強いのか?そのアバドンは〙
〘あらゆるものを破壊する力・・・弱いと思う?〙
そりゃあ強そうだ・・・それに・・・怖い・・・
〘勇者に勝った魔王はそのアバドンに破壊される・・・けどどうしてアバドンは勇者が勝った時には出て来ないんだ?〙
〘魔力が足りないから。強い力には魔力を要する・・・少ない魔力では使えないから起きて来ないからよ〙
なるほど・・・だから勇者の負けが必要なのか
人間の希望である勇者の死・・・それを知り人間は絶望し世界は闇に覆われる・・・その闇が魔力を大量に生み出す・・・アバドンが『破壊』の力を使えるほどに
〘・・・つまりアバドンを起こさない為に勇者を殺してはいけないって訳か・・・アバドンを起こさず僕が生き残るには、僕を殺しに来る勇者を殺さずに倒す以外ない、と。だから魔王を超えろってこと?〙
〘そういうこと。まあベストは戦わないことだけど避けて通れないならそうするしかないわね〙
今から勇者の元に行って僕は魔王じゃないと否定するか?・・・いや、魔獣を操り多くの人間を殺めたのは事実・・・魔王じゃなくとも勇者が僕を見逃すとは思えない・・・放置するのは危険と判断して殺しに来る可能性は高い
〘・・・今の勇者の実力を知る必要がありそうだな・・・どっちにしても〙
まあ殺られる前にってのは却下だから実質強くなった勇者を殺さず倒す一択か・・・どちらにせよ勇者の実力が分からないままだとどれくらい強くなればいいのか分からないし・・・でもどうやって調べる?実際戦ってみるか?・・・いや、そのまま白熱してしまって最後までやってしまったらおしまいだ・・・なるべく接触するのは避けた方が良さそうだ
うーむ・・・とりあえず見に行くか・・・ラズン王国ならついでにシークス達を探す事も出来るし
そうと決まれば早速・・・あ・・・忘れてた・・・
〘どうするの?〙
〘とりあえず勇者の面を拝みに行く・・・でもその前に送り返さないといけない奴がいるのを忘れてた〙
〘ああ・・・アルオンだっけ?わざわざ別の国から知らせに来てくれた・・・親切よね・・・腹の中はどうだか知らないけど〙
〘真っ黒だろ?リガルデル王国の人間だぞ?〙
〘まるでこの国の人間はまともみたいな言い方ね。それを言うなら『相手は人間だぞ?』じゃない?〙
〘・・・僕も人間なんですけど・・・〙
〘良かったじゃない腹黒の人間やめられて〙
〘やめてないわ!・・・多分〙
でも実際どうなんだろう・・・僕は人間なのか?それとも・・・まあでも魔王じゃない事は確かだけど、ね──────
アルオンを探しに食堂に向かうと途中でサラとばったり会った
なんでもアルオンは腹を満たしたら街の様子を見て来ると出て行ってしまったのだとか・・・サラはそれを伝えに応接間に戻る途中だったらしい
なんなんだアイツは・・・自由人かよ
「捜して来ましょうか?」
「いや・・・僕が行ってくるよ」
「でしたら私も御一緒致します」
「うん」
この1年間は常にサラと共に行動していた
もうそろそろ結婚してもいいと思うが・・・何度かそれとなく話を振ってみたけどのらりくらりとかわされてズルズルと主人とメイドのままの関係が続いている。もうとっくにメイドの仕事は完璧にこなせるようになってるからメイドを続ける理由はないはずなのに・・・
「ご主人様?」
「あ、いや・・・なんでもない・・・行こうか」
サラが何を考えているか分からない・・・嫌われてはないはずだ・・・昨日だってあんなに・・・
「ご主人様?」
「・・・」
こうやって心を読まれるくらい理解し合ってるのになぜ・・・
これ以上考え事をしていると怒られそうなので一旦考えるのをやめてアルオンを捜す為に屋敷を出た
「やあロウニール!物価が高いぞこの野郎」
「勘弁してくれ、フーリシア王国の中じゃ一番安く設定してるはずだ」
「あらロウニールさん、元モルタナの人達とウチの旦那が喧嘩したらしいんだけど・・・」
「理由は知らないけど仲良くしてくれ・・・どうしてもって時は何とかするから」
「ロウニール!10階のボスを弱くしてくれ!」
「・・・腕を磨け腕を・・・」
「この前歓楽街にある店でボッタクられたんだけど・・・」
「僕に言わないで兵士に言ってくれ・・・その辺を巡回してるから」
「ローグ公爵様!この街に店を開きたいのですが・・・」
「町長か屋敷にいるセイムに言ってくれ」
・・・街に出るといつもこれだ・・・街の人達は僕に言えばなんでも解決してくれると・・・まあ実際セイムや町長達から上がってきた話を僕が聞いてどうするか決めているからその通りなんだけどね
「ケッ・・・公爵様のお通りだってか?」
「・・・オッサンA・・・」
「誰がオッサンAだ!俺にはアブナって名前があるっつーの!」
アブナ・・・やっぱりオッサンAじゃないか
鼻に指を突っ込んだ仲なのに大都市計画には反対らしい
ほとんどの人が好意的だが中には僕大都市計画に否定的な人もいる。オッサンAはその中の一人だ
「チッ・・・村から街に変わっただけでもごちゃごちゃしてたのに更に住みにくくしやがって・・・」
「ならばこの街から出れば良いのでは?」
「なに?」
「サラ!」
「・・・申し訳ありません」
「フン!それが本音だろ?従わねヤツは追い出したい・・・貴族が考えそうなこった」
「違っ・・・」
「けどな・・・俺はここにはお前より先に暮らしてたんだ・・・お前が生まれる前からずっと・・・なのに勝手に変えて嫌なら出て行けだ?笑わせるぜ・・・お前は街を大きくして満足しているかもしれねえがなぁ・・・本音じゃみんな・・・」
「まーた反対派が何か言ってるよ」「暮らしが良くなっているのになにが不満なんだか」「清貧ってやつを楽しみたいんだろ?」「なら街から出て行けって話だよな」
「・・・くっ!とにかく!俺は認めねえからな!こんな街!」
周りの人達の声にバツが悪くなったか捨て台詞を吐いて立ち去るオッサンA・・・反対意見も貴重だからもう少し話を聞きたかったんだけどな・・・
「申し訳ありません出過ぎた真似を・・・」
「いや・・・サラは街をここまでするのにみんながどれだけ苦労しているか知っているからこそ怒ったんだろ?僕もみんなの苦労は知ってるからそれを否定された気がして少しムッとなった・・・けど僕が目指すのはみんなが住みやすい街だ・・・そのみんなの中にはあのオッサンも入ってる」
「・・・しかし望むものが違うとそれは無理なのでは?」
「難しいね・・・けど互いに歩み寄れる余地はあるはずだ・・・だからこの街は『暮らしが良くなる』より『住みやすい』を目指してるんだ・・・」
初めは僕も勘違いしていた
暮らしが良くなる事をみんな望んでいると
なのでなるべくみんなが裕福になるように税金を抑えたり賃金を上げたりと色々とした・・・セイム達の反対を押し切って
すると数ヶ月でその影響が出始める
楽して稼ぐ事を覚えた為に生産性の低下が顕著に現れた。そして稼ぎも減り不満を覚えギスギスとした空気が町を覆う・・・悪循環を絵に描いた様な状態に陥り『魔力を大量にありがとう』とダンコに皮肉を言われる始末
それから方針を変えて裕福さや利便性だけを求めずあくまでも暮らしやすさを追求した
利便性と暮らしやすさなんて同じじゃないかと思ってたがそれも違った
例えば店を同じ種類で固めた方が利便性は高くなる。食材を売る店はこの地区、服を扱う店はこの地区など分けてしまえば移動が少なく済むと考えていた。・・・が、それを実行したら街の税収は一気に下がった
何故なら誰も目的以外の物を買わなくなったからだ
服を買いに行っていい匂いがして来たからふらっと目的とは別の店に寄る・・・装備を買いに店に行く途中で綺麗な装飾品に目がいってついつい衝動買いしてしまう・・・そんな事が起きにくくなり街全体の売上が下がってしまったのだ
目的の物を買ってしまえば寄り道は少なくなる。余計な金を使わずに済むからそっちの方がいいだろうと思ったけどまさか目に見えて売上が落ち込むとは思わなかった・・・ちなみに歓楽街が同じような店を置いて成り立っているのは逆によそ見をさせずに歓楽街の中で金を落とさせるのが目的らしい。利便性を考えた訳ではなく客を取り込む為の手段なのだとか
んで、セイム達の意見を聞き店を適度にバラけさせると各店の売上は回復し税収も元に戻った・・・ちなみに売上が戻るまで落ちた時の倍以上の期間を要した・・・人の意見は聞くもんだな・・・うん
必要な物だけを買う→余計な金を使わずに済む→あまり稼がなくていいとなるより余計な物まで買ってしまう→金が足りなくなる→稼がないといけなくなるとなった方が生産性も上がるし街は潤いその分街を住みやすく出来るし稼ぎも増えて裕福になり心に余裕も出来る・・・働く意欲はそのまま街の活気にも繋がるし街全体が明るくなった気がした
裕福になったり無駄を省く事が必ずしもプラスに働くとは限らない・・・それを知れただけでも充実した一年だったと言えるかもしれない
「『住みやすい』街づくり・・・それを邪魔しようとしているのが勇者・・・という事ですね」
「ま、まあそうなるね・・・自ら蒔いた種だけど・・・」
魔獣を使って人間を殺しまくった僕の言葉を勇者は聞いてはくれないだろう
逃げるか叩きのめすか・・・逃げるのは簡単だ・・・ゲートを使えばいくら勇者とはいえ追っては来れないだろう。けどその場合は魔王認定されたままになるから今の地位を捨てなきゃならない。地位はどうでもいいけどエモーンズを離れるのは・・・
叩きのめすとしたら殺さずにやらなきゃならない。向こうは殺す気で来るだろうからそれなりに実力差がないと厳しい・・・魔王並みに強くなろうとしている勇者を手加減して相手しないといけないんだ・・・今の僕では厳しいだろうな
となると・・・壊すしかないよな・・・
「ご主人様?」
「・・・なんでもない。さっさとアルオンを見つけてリガルデル王国に追い返そう・・・その後はちょっとした小旅行だ・・・まずは敵がどれ程のものか見ないとね──────」




