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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
496/856

492階 ジーク

僕の記憶は孤児院から始まる


本当の両親がどこの誰なのか知らないし一体いくつで孤児院に入れられたのかも分からない


院長先生や先生達に聞けば分かったかも知れないけど・・・正直興味がなかった


院長先生や先生達・・・それにラナがいればそれで良かった・・・あの時までは


ラナと孤児院の外に出掛けている時に頭に響いた声



『目覚めよ勇者よ』



誰の声か分からない・・・けどその声が聞こえた後で色々な()()が流れ込んで来た


僕に親愛の視線を送る人達、恐ろしい見た目の魔物達、そして・・・不敵な笑みを浮かべ僕を見つめる魔族


場面はコロコロ変わる・・・人も魔物も変わるけど最後は同じ魔族が目の前に現れて終わる


それを繰り返しようやく終わったかと思ったら全身に力が溢れて来た


何でも出来るような万能感・・・その時ようやく最初の言葉を理解した



僕は勇者なのだ、と



理解したけど半信半疑だった僕が確信を持てたのは孤児院に戻った時だ


ラナと一緒に孤児院に戻るといつも僕をいじめていたブルート達が僕にちょっかいを出してきた


僕はいつものようにラナの後ろに隠れその場をやり過ごそうと考え行動に移す


いつもはラナが『先生に言うよ!』と言えばブルート達はすぐに立ち去っていたけどその時は違った・・・ブルートは事もあろうにラナを突き飛ばしたのだ


突き飛ばされたラナは尻餅をつき僕とブルートは対峙する


いつもならブルートを前にした僕は恐怖で縮み上がっていただろう・・・けどラナを突き飛ばされた怒りと何故か小さく見えるブルートに向かって一歩前に進んだ


いつもと違う僕を見て一瞬怯んだブルートだったが彼は本能に従わずこれまでの僕と侮り拳を突き出した


怖さはなかった・・・体が竦む事も


でもいつもの癖で目を瞑ってしまいまともにその拳を受けてしまう・・・だが・・・痛みは全くと言っていいほど感じなかったんだ


拳を受けた後で目を開けブルートを見るとその顔は恐怖に歪んでいた


それはそうだろう・・・いつもならその拳を受けたら吹き飛び泣きじゃくってた僕が拳を受けても微動だにしなかったのだから


何かの間違いだと拳を引きもう一度打ち込もうとした瞬間を狙い僕は両手を突き出しブルートを突き飛ばす


すると力の加減を間違えたのかブルートは数メートル後方に吹き飛びブルートの取り巻き共にぶつかりみんな倒れてしまった


自分の力に驚き振り返るとラナも驚いた表情を浮かべていた


その表情を見て理解から確信へ


それから僕とラナの環境は目まぐるしく変わっていく



院長先生に勇者の事を話した次の日には国から使者が来た


そして僕を王都へ連れて行きたいと言ってきた


院長先生は僕の意志を尊重すると言ってくれた・・・なので僕は『ラナと一緒なら』と言うと使者はそれでもいいと言ってくれたので僕とラナは王都に行く事になった


王都に着くと王様との謁見、僕の力を疑う人との対戦、そして修行の日々・・・気が付けば僕とラナはダンジョンを踏破出来るほどの力を身につけていた


もちろん2人だけの力ではなく色んな人に手伝ってもらってだけど・・・それでも孤児院でいじめられていた時に比べたら別人のような活躍だと思う


こうして様々な経験を経て僕は勇者としての名を確立していった


もはや僕を知っている人で疑う者はいなくなった・・・ただファミリシア王国の王様は僕が勇者である事を隠した方がいいと言ってきた


その理由は孤児院にあった勇者の物語が描かれている絵本をよく読んだから知っている


魔族は勇者を狙う


もちろん絵本の中での勇者はその魔族達を退け見事魔王を倒すのだけどまだ僕には魔族に勝てる力はない


僕自身の力もそうだけど強力な仲間も必要だ


少し前までは僕なら大丈夫と思っていたけど王様の言う事を聞いて勇者である事を隠していて良かったと思った出来事があった


魔族同士の戦い


近隣の街から魔物同士が争っていると聞いてその場に派遣された僕達が目にしたのは魔物ではなく魔族同士の戦いだった


僕のこれまでの戦いが子供のお遊戯レベルと突き付けられたような衝撃・・・なぜ魔族同士が戦っているか知らないけど2人の戦いは次元が違った


2人の戦いで地形は変わり天が裂ける・・・僕があの中に入ったら数秒も保たないだろう


孤児院でブルート達にいじめられていた時を思い出し魔族に勝てない事を悟るとその場を離れ王都に戻ると修行に励んだ


いずれ戦う事になるだろう魔族に勝つ為に・・・そして植え付けられた恐怖を振り払うように


そんな時に舞い込んで来た今回の話


リガルデル王国の第二王子から勇者である僕に頼みたい事があるとの事


なぜその第二王子は僕が勇者だと知っているかと言うとファミリシア王国の王様と懇意にしているからなのだとか・・・つまり信用出来る人物らしい


僕の為に色々してくれた王様が信用する人なのだ・・・恐らく味方なのだろうと僕はその頼みを聞くことにした


初めてファミリシア王国を出る事に少し不安はあったけど王様は信頼出来る2人の人を旅のお供に付けてくれた


『天侯爵』ウルティアと『神の手』エメンケ


ファミリシア王国で一二を争うこの2人を付けてくれたのは嬉しさ反面寂しさもあった


けど仕方ない・・・僕はまだ半人前だ。それでもいつかは・・・




ウルティアの案内でリガルデル王国のデザースロムという街に辿り着くとその街の中心にある大きな屋敷へ


そこで迎えてくれたのはリガルデル王国の第二王子であるクーガ・エリエント・リーブルだった


彼はファミリシア王国と深い繋がりがあるらしい・・・なんでも大陸の北に位置するシャリファ王国との交易に一役買ってくれているのだとか・・・シャリファ王国は寒さゆえか作物があまり育たず食料を他の国に頼っているらしくその中でも八割を担っているのがファミリシア王国なのだとか


なので頻繁にファミリシア王国からシャリファ王国へ食料を輸出しておりその交易ルートとしてこのデザースロムを通るらしくここの領主であるクーガは安全に安心してシャリファ王国に届くよう商隊の護衛を買って出てくれているらしい・・・しかも無償で


そんなクーガが困った状況に陥り助けを求めている


僕もこの国リガルデル王国に来てその困った状況を肌で感じていた


「・・・つまり今困っているのは外に出て来ている魔物がシャリファに食料を届けている商隊を襲っている・・・何とか今までは防げたけどこのままの状態が続くと厳しい・・・ってこと?」


「はい・・・これまでは野盗に気を付ければ良かったのですが魔物までとなると無償で護衛する訳には・・・となると運搬費に護衛費も掛かるようになりシャリファ王国の負担は大きくなります。かと言って護衛を付けない訳にはいきませんしどうしたものかと・・・」


「そうなってしまった原因の一つに国の腐敗があると仰ってましたが・・・」


ウルティアが尋ねるとクーガは顔を顰め口を真一文字に結びしばらく無言になった・・・そして意を決したのか僕達を見ると静かに語り始める


リガルデル王国は強い冒険者が少ない


その理由は国が冒険者からダンジョンを奪ったからだ


国がダンジョンを管理しているのは他の国と変わりないが入場料を高く設定して簡単には入れないようにしている


その理由はダンジョンで取れる魔核を安く確保するため


冒険者が取ってきた魔核は冒険者ギルドで買い取る・・・そしてその魔核を加工し魔道具として売っているのだがリガルデル王国はその買い取る費用を惜しみ冒険者にではなく国直属の部隊に魔核を取らせていた


そうする事で買い取り費用が発生しなくなり魔道具を売った利益は加工費のみとなるため莫大な利益を生むことになる


そんな事を続けていれば冒険者になる人などいなくなるのは当然の結果だ。入場料が高くて魔核を多く売らねば元が取れないなら効率は悪いから仕方ない


けどそのツケが回って来た


冒険者が少ない為に外に溢れ出た魔物の対応に苦労しているのだ


「我が父である国王陛下も簡単に考えていたのでしょう・・・魔物が溢れ出ても軍で対応すれば良い、と・・・しかしつい最近とある事件のせいで軍は半壊し結果魔物への対応が出来ていない状況なのです。もし冒険者が育っていればこんな事にはならなかったのに・・・」


「・・・その事件とは?」


「公表していないので知らなくて当然なのですが・・・実は我が国リガルデル王国は少し前にフーリシア王国に攻め入ったのです」


「なっ!?」


「攻め入った?それって・・・戦争を仕掛けたって事ですか?」


「そうです。フーリシア王国の正体不明の人物に唆され軍を出しました。その数・・・10万」


「じゅ、10万!?10万の軍がフーリシアを?」


「はい・・・ろくに調べもせず大義はこちらにあると信じ大軍を率いて攻め入り・・・」


「ちょ、ちょっと待って!10万って・・・え?・・・ウルティア、ファミリシアの兵士って何人いる?」


「・・・貴族の私兵を含めても10万に満たないかと・・・」


「だよね・・・つまりそんな大勢でフーリシアに攻め込んだ?・・・でもなんでそんな大事件が世間一般に広まってないんだ?大陸中が大騒ぎするような事件だろ?」


「それは・・・リガルデル王国軍が負けたから・・・です」


「負けたから広まらなかった?そんな訳・・・いやそもそもフーリシアは10万に対抗出来る戦力があった?国土はファミリシアと同じくらい・・・いやファミリシアより小さいはずなのに・・・」


「仰る通り戦力的に見たら10万の軍であればフーリシア王国を飲み込む事など容易だったでしょう。誰もがリガルデル王国の勝ち戦と信じて疑わなかった・・・リガルデル王国もフーリシア王国でさえも」


「それがなぜ・・・」


「10万の軍をもってしても越えられなかった壁があったのです。聞いた話によると国境を越えたリガルデル王国軍はフーリシア王国軍に対して優勢であったそうです・・・ですがたった一人の人物の出現により覆された・・・そして10万の半分・・・5万の尊き命がそこで奪われた」


「っ!?」


一人?たった一人!?・・・しかも5万って・・・


「その者はフーリシア王国軍の主力が敗走した後に現れ10万の軍相手に戦い勝利した・・・我が国最強と言われている『猛獅子』オルシア将軍を下し兵士達を蹂躙し・・・リガルデル王国軍に勝利した・・・」


ありえない・・・5万・・・5万だぞ?その10分の1でも信じられないのに・・・5万・・・


「私も話を聞いた時は信じられませんでした。ですが事実です・・・我が国は5万の兵を失いそのせいで魔物への対応が遅れている・・・それが我が国が冒険者を蔑ろにしていたツケ・・・そして唆されたとは言え他国に攻め入るなど愚かな行動をした代償です・・・ですがその代償は我が国に留まらず関係のないシャリファ王国にも・・・」


確かに10万の内5万の兵士を失えばこれまで魔物の対応をして来た人達が半数になったって事だから魔物が溢れても対応に遅れが生じるのも無理はない・・・なら・・・


「僕に頼みたい事って交易ルートの安全の確保?」


「いえ・・・それは身から出た錆・・・私が私財を投げ売ってでも護衛を続ける覚悟です・・・が、それも長くは続きません・・・なので勇者様には根本を断ち切って頂けないかと・・・」


「根本を?」


「10万の軍を相手に出来る人間などおりません。たとえ人類最強と言われる勇者様とて無理でしょう・・・となるとその人物は何者なのか・・・」


「まさかそいつが・・・」


「恐らく・・・」


「誰なんだ・・・そいつは・・・そいつの名は・・・」


「その者の名はロウニール・ローグ・ハーベス・・・少し前まで辺境伯でしたが此度の功績で公爵となったフーリシア王国の貴族です──────」

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