487階 お披露目パーティー
目まぐるしい毎日が続きようやくひと息つけたのはお披露目パーティーの一日前だった
結局リガルデル王国には魔物を調査すると言ってから一度も行けてない・・・もしかしてアルオンの奴この1ヶ月ずっと僕を探してたり・・・それはないか
リガルデル王国に行かず1ヶ月何していたかと言うと王都を満喫していた・・・もちろんエモーンズの大都市計画の為に
住んでみたい・・・そう思ってもらうにはどうするべきか
考えているとふと疑問に思った
なぜ王都に多くの人が住んでいるのであろうか、と
元々住んでいたという理由もあるけれど住み続けるにも理由があると思い王都をサラと共に数日散策すると見えてきたのは利便性だ
とにかく王都は何でも揃う
多種多様な店がありどこにでもある物から王都でしか手に入らないような物まで幅広く売られている。何でも売られている為に他の街まで買いに行く必要がなく非常に便利だ
人口が多い為か他国からの商人もこぞって王都にやって来るらしい。なのでフーリシア王国では本来売ってない物まで揃う
その生活に慣れてしまえば他の街の生活は不便に見えるだろう・・・だから王都から出て行かない。そして他所から王都に訪れた人もまた王都の利便性を知り他の街から移住したがる人もいるだろう
出て行かないのに移り住む人がいる・・・そうなると人口は増加の一途だ
まさにそれは大都市計画の肝となる部分・・・せっかく広大な土地に都市を作ったとしても人がスカスカでは意味がない
人口を増やせば税収も上がり更に街を発展させる事が出来る・・・逆に人口が少なければ税収も下がり街は廃れていく一方だ
なので先ずは人口の増加を目指す・・・その為には人口の多い王都を真似るのが近道だと思い王都を満喫・・・もとい調査を行った
色々なものを食べ、色々なものを買い、色々な服を着て・・・
「今日で長い休暇もおしまいかぁ・・・楽しかったね」
調査だ
「閣下・・・贅沢をするなとは言いませんが節度のある使い方をして下さい」
必要経費だ
「ご主人様、メイドに物を買い与えるのは結構ですが出来れば平等にお願いします。以前より勤めていた4人に思い入れがあるのは分かりますが贔屓し過ぎです」
それはすまん
しっかし遊び過ぎたな
もちろんやる事はやった
王様にケセナダンジョンの件の了承を得て、聖者聖女の件も各国に伝えてもらった
ケセナダンジョンは誰が破壊しに行くかはまだ決めてないしケセナの村長にも話してないが・・・それに聖者聖女の件も未だ解決策が見えていない為に頓挫している
ケセナダンジョンは・・・まあ僕が行ってもいい
聖者聖女の件はベルの調査待ちだが各国にいるみんなには伝わっただろうから今頃身の振り方を考えている事だろう。ラズン王国にいたゼガーはフーリシア王国に戻るだろうけど他の聖者聖女はどうだろうか・・・シャリファ王国のマーナはそのまま残りそうだよな
とまあ新しい屋敷の執務室でまったりしている状態だ
僕は机に座り仕事をしているフリをして物思いにふけ、サラは僕の斜め後ろに立ち、ナージは執務室のテーブルに座り何やら難しい顔をしている。サーテンはドアの前に立ち飲み物がなくなればメイドに言って持ってこさせる
平和だ・・・穏やかで時間の流れが普段よりゆっくり流れているように感じる・・・いっその事このまま時間が止まってくれればいいのに・・・いや、むしろ止まれ
その時メイドの1人が部屋を訪ねサーテンに何やら伝えると彼はこちらを見て微笑んだ
「ご主人様、どうやら会場の準備が終わったそうなので一度ご確認願えますか?」
くっ!現実に引き戻される!
「・・・大丈夫だろ」
「ご確認お願いします」
微笑みながら言っているが圧が凄い・・・ハア・・・仕方ない──────
そもそもお披露目パーティーなど必要ないのだ
引っ越しましたと案内を出して来たい奴が来たい時に来ればいい話・・・まあ僕はほとんどこの屋敷に滞在する事はないからすれ違う事受け合いだけど
そう・・・とうとうこの日が来てしまった
お披露目パーティーという名の地獄がついに始まってしまった
会場には白いテーブルクロスがかけられたテーブルがいくつも並び、その上には料理が山ほど置かれている
メイド達はお盆にお酒やジュースが入ったグラスを片手に来客達の要望に応えてそのグラスを手渡していた
僕はと言うといつも以上に着飾りサラと共に来客への挨拶回り・・・サラと一緒なのには理由がある
「公爵閣下お久しぶりでございます!今回はお招き頂きありがとうございます!」
「久しぶり(初めまして)ようこそ我が新しい屋敷へ(用が済んだら帰ってくれ)」
「これは我が妻でしてこの子は我が娘レニスです。この歳にしてもう既に王立学校を卒業し花嫁修業に勤しんでいる最中でして・・・それもそろそろ活かす場所を見つける時期に来ております。もしよろしければ・・・ほらレニス、公爵閣下にご挨拶を」
「初めまちてレニス・エドガー・フルテンです。よろちくお願いします」
はい、よろちく・・・ってどう見ても10歳より下だろ!何が花嫁修業だ!何が活かす場所を見つけるだ!まだ母親が恋しい時期だろ!
「あ、うん・・・申し訳ないが私は彼女に惚れててね。未だ 振り向いてもらえてないが彼女以外の女性は目に入らない状態なんだ。すまないね」
そう言ってサラの腰に手を回し抱き寄せる
目の前の貴族はその様子を見て顔を引き攣らせた後で何か言おうとするがその言葉を飲み込み諦めて奥さんと子供を連れて諦めて僕の前から立ち去った
そう・・・サラは娘を押し付けてくる貴族の対策として傍にいてもらってる
サーテンから散々言われていた
『公爵が未婚となれば娘を売り込もうと貴族達が殺到するので断る場合は気遣って断って下さい』と
どこで関わるか分からないから対応に気を付けろって理由だ
だから断るにも理由がいる。サラと結婚してれば済む話でもなく第二夫人第三夫人でもいいからと言ってくる貴族もいるらしいのでその対策として『他の女性は考えられない』という設定にした
その方が結婚しているという事実よりも納得させられるからだ
結婚した後だと『釣った魚に餌はやらない』じゃないけど次の結婚相手を探している最中みたいな状態となるらしい・・・ほとんどの貴族が第二夫人や妾を囲っているからそういう考えになるのだろう
こちらとらそんなのはお断りだ。サラ以外の女性と付き合う気は毛頭ないのだから
てかこの1ヶ月をどう過ごしたかみんなに公表したろうか?
めくるめく日々・・・ほぼずっと一緒にいるから隙さえあればイチャイチャしていた
掃除中のサラを後ろから襲ったり風呂に突撃したり朝から致したり・・・思い出すだけで下半身が熱くなる日々・・・っ!!
「何を考えているかバレバレですよ?ご主人様?そろそろ腰の手を離して下さいますか?」
痛い・・・思いっきり足を踏まれた・・・
と、とにかくこのパーティー中のサラの役目は盾だ
もうカレンやエーラのような事は懲り懲りなので今日だけは恋人ではなく『公爵が夢中になっている女性』を演じてもらう
「何やってんだお前ら」
僕が足を踏まれたのを見ていたのか珍しく着飾ったキースと胸元が派手に開いたドレスを着たソニアさん、それにお人形さんのようなシシリアちゃんが僕達の前に
「・・・はち切れそうだな・・・そのスーツ」
「前にも着てただろ?まあちぃとばかし筋肉が増えてキツくなっちまったがまだ着れる」
「筋肉?ただ太ったんじゃ?」
「試してみるか?今度は簡単には受け止められねえぞ?・・・あっ」
「・・・燃やすわよ?そのスーツごと」
腕を曲げ筋肉アピールするがビリッと嫌な音をさせてソニアさんに怒られるキース。どうやらどこか破けたらしいが目立たないところみたいだし誰もキースの事なんて見ないだろうから多分そのままにするんだろうな
「ま、まあまあ・・・ところで奴はあれから・・・」
「残念な事に来やしねえ・・・来るなら来いってのに・・・」
奴・・・魔族シュルガットは自身の孫にあたるシシリアちゃんを攫いに来るはずだ
ダンコ曰く魔族にも序列がある
人間みたいに立場や名声などは関係なく純粋に強さだけの序列・・・その序列はある部分に影響する
魔物もしくは魔獣の支配権
ダンジョンの外に出た魔物や魔獣は基本的には支配されていない。なので人間を襲うだけではなく逃げたり無視したりしてこの世界をただ生きるものも存在する
だが魔族はそんな魔物や魔獣を支配する事が出来るのだ
シュルガットが魔物を支配しておうとを襲わせたように
ただそこで序列が関係してくる・・・魔物や魔獣はより序列の高い魔族に従う為にシュルガットが先に支配し王都を襲うように命令していたとしても序列が上である魔族・・・今回の場合はサキ・・・が命令すれば後からでもその命令に従ってしまうのだ
なので序列の低い魔族は支配されない眷族を欲するらしい
ただ眷族を増やすのはかなり大変なんだとか・・・僕みたいに自分が創った魔物や魔獣なら『繋がり』が元からあるから簡単に眷族となるが自分が創ったものではないと別の『繋がり』を持つ必要がある
その『繋がり』は妙に人間ぽく『信頼』や『尊敬』されたりすると出来たり『友情』や『愛情』なんかも関係してくるとか・・・魔族ってそういう感情とか無関係だと思ったけどそうでもないんだな
まあなので簡単には眷族にするのは難しいって訳だ・・・ただひとつの例外を除いて
それが感情等ではなく単純な『繋がり』・・・そうシュルガットとシシリアちゃんのような血の繋がりってやつだ
魔族だって仲間が欲しい・・・けど魔物や魔獣は序列が低いと簡単に奪われてしまう・・・なので手っ取り早く眷族を増やす方法を取るしかない・・・そこでシュルガットが目を付けたのが血の繋がりがあり自分の力を受け継いだシシリアちゃんだ
魔族が子育て出来るのかはともかくシュルガットは他の魔族に負けないよう戦力を増やしたがっている・・・それはもしかしたら・・・勇者対策なのかもしれない
どこにいるのか本当にいるのか不明だが魔王が復活すれば勇者も現れるらしい・・・その勇者は魔王と対峙する前に力をつけたり仲間を集める為に各地の魔族を倒していく
最終目標である魔王はもういないけどその流れになるのは目に見えていた
なので魔族達も準備する・・・勇者にやられる脇役で終わらず勇者を倒し新たな魔王になる為に・・・
シュルガットにとってその準備がシシリアちゃんって訳だ
「こっちから見つけられればいいのだけど・・・」
「シレッと王都に入り込むくらいだ・・・かくれんぼが得意なんだろうよ」
人間に扮している魔族を見破るのは難しい・・・セシーヌの『真実の眼』があれば容易いかもしれないけど普通の人には無理だ
それにシュルガットの能力は『結界』・・・自分の力を隠す結界を張っていたらもしかしたら『真実の眼』でも難しいかもしれないな
「ったく・・・暇で暇で鍛えまくったお陰で一張羅のスーツまでダメになったし・・・何か見つける方法はねえのかよ?」
あるっちゃあるがやらないだろうな・・・さすがに自分の娘を囮に・・・なんて言ったら口に出した瞬間僕が斬られてしまう
「魔族を誘き出すには・・・うーん・・・」
「パーティーの会場で穏やかじゃないですね・・・魔族という単語が出るなんて」
「ディーン」
振り向くとそこにはスーツ姿・・・ではなく普段から着ている銀色の鎧に身を包んだディーンが立っていた。その横には副団長のジャンヌも
彼らは一応招待客なのだが有事の時には腰に差した剣を抜き他の来客達を護る手筈となっている・・・まあ何が起こるのって話だけどね
「こっちは大事な娘がかかってんだ・・・余計な茶々は入れるなディーン」
「それは分かってますがあまりに無粋では?第三騎士団も手伝いますし今はパーティーに集中した方がよろしいかと・・・周りの目もありますしね」
おおう言われて周りを見るとこぞって近寄って来ていた貴族達が僕達を遠巻きに見てヒソヒソと何やら話している・・・話している内容が不穏そうなので遠慮しているのかそれともスーツが破ける程の巨体のキースを恐れてか・・・うん、後者だな
「分かった分かった・・・確かにここで話す内容でもないわな。腹も減ったし見た事もねえ料理も沢山あって興味もあるし・・・今日はここまでにしてパーティーを楽しむとするか」
そう言ってキースはソニアさんとシシリアちゃんを連れて貴族達を掻き分けて進むとひとつのテーブルを独占し食べ始めた
キースはともかくシシリアちゃんまでせっかくのドレスの汚れなんて気にせずに口に頬張りまくる
それを見て頭を抱えるソニアさんを見て心中を察すると共に改めてこの2人が親子であると認識した
「激しいですね・・・皿ごと食べてしまいそうな勢いです」
「それだけストレスが溜まっているのだろう・・・目に見えない敵と戦っているようなものだしな」
「第三騎士団でも捜してはいるのですが・・・おっと、私が言い出したはずが・・・失礼しました。今は屋敷のお披露目パーティーの最中でしたね」
いや建設的な話なら魔物だろうが魔族の話だろうが幾分マシなのだが・・・貴族達の会話はお世辞やおべっかばかりでクソつまらんし
「それにしても伯爵以上の方は全て参列されていますね・・・さすが飛ぶ鳥を落とす勢いの公爵閣下です」
「よせよせお世辞なら聞き飽きた」
「お世辞ではなく事実を言ったまでです。その事は私達だけではなくあの方が参列する事で証明しています」
そう言ってディーンは視線をある男に向けた
誰が呼んだんだよ誰が・・・普通来るか?そういうもんなのか?
その男は僕とディーンの視線に気付いたようで囲んでいた貴族達を押し退けこちらへ近寄って来た
来なくていいのに・・・
「盛況だな公爵・・・貴公はまるで絵本の主人公だ・・・平民から貴族になるだけでも難しいのに公爵となりこのような屋敷を持つとは・・・いや絵本でも出来すぎなくらいであまり好まれないような内容だな」
「それはどうも・・・マルス王子様」
どうしてコイツが・・・サーテンか?ナージか?僕は呼んでないぞ?最初にもらったリストに書かれてなかったはずだから誰かが呼ばないと来ないはずだけど・・・
「様付けはやめてくれ。貴公と俺の仲じゃねえか」
どんな仲だよ
「・・・ちょっとそこのテラスで話さねえか?他の奴らも貴公と話したい事があるだろうけどそこは王子の特権って事で少しばかり時間をくれ」
「ええ・・・構いませんが・・・」
マルス王子・・・エーラの兄であり最も次期国王に近い男・・・その男の話とは一体・・・
不敵な笑みを浮かべて僕を見た後でマルスはテラスに向けて歩き始めた。ここで行かなかったら怒るかな・・・怒るだろうな・・・ハア・・・面倒くさい・・・
マルスの口から何が語られるのか分からないがあまりいい予感はしない・・・辟易しながらも仕方なく重い足を動かし僕はマルスの待つテラスへと向かった──────




