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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
489/856

485階 平手打ち

ケセナ村


久しぶりに来たけど以前のエモーンズを思い出せてなんだか心地いい


吹いている風もなんだか違うような気がする・・・色んな匂いが混じって・・・決していい匂いって訳じゃないのに生活の匂いというか・・・安心する匂いだ


なぜ街になるとこの匂いが消えてしまうのだろうか・・・この匂いが好きだからこの村をこのままにしたいと思うのはわがままだろうか・・・住む人が望むのならそれでいいじゃないかと思うけど・・・


村の人達は決して着飾らず必要最低限の服を着て贅沢なんてしている様子はない。エモーンズみたいに歓楽街がある訳でもなくオシャレな店がある訳でもない・・・それでも村の人達に笑顔が絶えない・・・この笑顔を壊す必要があるのだろうか?


「閣下、感傷に浸るのも結構ですが現実を見て下さい。魔物がここを襲撃したらどれほどの時間耐えられると思いますか?」


「・・・分かってる」


石などを使用せず手作り感満載の木造りの家は魔物の爪でいとも簡単に引き裂かれるだろう。村を囲む塀は容易く蹴破られ周りには隠れる場所すらない・・・開放的な光景は襲われたらひとたまりもない事を意味していた


「敵は魔物だけではありません。魔物が溢れる時は天変地異も起きやすく大風が吹き嵐が来ると言われてます。地震や火事などと・・・全て魔物が起因しているか不明ですがそれを防ぐ為にはこの環境では難しいと・・・ですが環境を変えるという事はそれだけ費用がかかります」


「外観も変わり人も増やさなければならない・・・命かこれまでの生活か・・・今そこに魔物が大挙してれば有無も言わさず村を変えられるのだがな」


目の前で起きなきゃ信じない人もいる・・・事実魔物に襲われない可能性だってある訳だし僕もそこは強くは言えない


後は住んでいる人達の判断に任せるしか・・・


「脅しと言われてもおかしくないくらいには強く言っております。それでも変えたくないと申してます」


「強く言うから反発してるだけでは?」


「では優しくお伝えしてみて下さい」


ダメなんだろうな・・・多分



僕とサラ、それにナージは共に村長の家へと向かった


村の人達はこちらをチラチラ見るが基本何も言ってこない・・・僕が誰なのか何しに来たのか何となく分かっているみたいだけど誰も・・・



村長の家に着くとナージが扉をノックする・・・出て来た村長はナージの顔を見てげんなりした後で僕の存在に気付き顔を引き攣らせた


「へ、辺境伯様!」


「今は公爵になった・・・中に入らせてもらっても?」


「公爵・・・は。はい!むさ苦しい所ですがど、どうぞ・・・」


中に入らせてもらうと居間に案内されこれまた手作り感満載のテーブルに椅子が四脚向かい合わせに置いてあり座るとサラとナージは僕の背後に立った


奥に行った村長が自ら持って来てくれた水の入ったコップを四つテーブルに置くとどうすればいいのか分からずに立ち尽くす


「えっと・・・座らないのか?」


「・・・あ、あの・・・」


「公爵閣下のお許しが出ている。座りなさい」


偉そうに・・・けどこういうのは慣れないといけないのかな?面倒臭いけど


「・・・そ、それでご用件は・・・」


村長は座ると恐る恐る僕に尋ねる。屋敷に来た時よりもずっと緊張しているみたいだ


「えっと・・・大都市計画についてだけどやっぱり意思は変わらない?」


「・・・はい。もちろん話をして行きたがっている者もいますが大多数はこのままがいいと・・・」


「聞いていると思うけどダンジョンブレイク以外で魔物が外に出始めている・・・この村の近くのダンジョンからも出ないとは限らないし他のダンジョンから出た魔物がこちらに来るかもしれない・・・それでも?」


「・・・はい」


「そうか。魔物が襲って来たらどうする?今の状態では数体の魔物にすら対抗出来ない可能性もあるぞ?」


「村にも若干ではありますが冒険者がいます。それに自警団も・・・その者達と協力し撃退出来ればそれで・・・」


「出来なければ?」


「村を離れます・・・しばらくすれば魔物も誰もいない村など居着かずどこかへと行ってしまうでしょう」


「居着いたら?」


「・・・」


「ダンジョンの外に出た魔物はダンジョンの中と同じ魔物と考えない方がいい」


「と言いますと?」


「人間と同様に魔物も生活する。子を産み育てたり獣を狩ったり武器を作る魔物もいるらしい。そんな魔物が村に住み着いたら人間が居ないという理由で出て行くと思うか?」


「それは・・・けど本当に魔物が生活などするのでしょうか?私はダンジョンに行かないのでそもそも魔物自体を見た事がありませんがダンジョンをうろつき入って来た人間を襲うしか脳のないものだと・・・」


「私もこの目で見たので間違いありません。リザードマンが森で生活し卵を産み繁殖していた姿を」


「・・・そうですか・・・たとえそれが本当だとしても説得は難しいでしょう・・・変わるのを恐れています・・・みんなも・・・私も」


「・・・私にとってもこの村は居心地がいい・・・出来ればこのままでと思いますが・・・大都市に移りませんか?なるべく村を再現します」


村長は申し訳なさそうに首を横に振った


ダメか・・・気持ちは分かるが・・・


振り向いてナージを見ると彼も首を振る・・・それは村長とは全く別の意味の動作だった


「・・・分かりました。では・・・」


もっと考えてくれば良かった


これ以上下手に言えば脅しになる・・・それにナージからここに来る前に言われていた事がある


『決まっていない事は言わないで下さい』


その意味するものは領地の譲渡だ


ファゼンにケセナともぬけの殻となる予定のモルタナの跡地を譲る話はまだ正式には決まっていない。そもそもファゼンはこの事をまだ知らないし


ほぼ間違いなく受け取るだろうけど決まっていないから言えない・・・言えればもしかしたらもう少し考えてくれたかもしれないのに・・・それが分かっててナージは口止めしてきたんだろう


もっと魔物の怖さを伝えられたら・・・いっその事魔物に襲わせるか?


いや・・・それこそ脅しだろ・・・ハア・・・やっちまったな


村長の家を出て項垂れながら村を歩く・・・もうここはファゼンの領地になるのがほぼ確定・・・僕の領地としては最後の光景になるだろう


「・・・他に方法はなかったのかな・・・」


「ありましたよ」


「なぬ?」


「以前にも申し上げました通り相手の言い分を聞かずに推し進めれば良かったのです。この結果は相手の言い分を聞いた結果ですから。閣下の目指す集大成が大都市です。意にそぐわないから反対した者達に言う事を聞かせたいのでしたら多少強引に決めてしまえば済んだ話です」


「いやでもなるべく望み通りにしてあげたいと・・・」


「それは閣下の自信のなさの裏返しでは?必ず良きものにするという自信がおありでしたら多少強引に推し進めても後々感謝することになる・・・そう考えることが出来たのではありませんか?」


ぬぅ・・・いやそりゃあなんてったって思い付きだからな・・・そんな自信は一ミリもない


良い計画にしようとは思っているんだけどなぁ・・・如何せん経験もないしどうなるか分からないし・・・・・・ただの言い訳だな・・・ナージの言う通りもっと自信があれば反対されたとしても説き伏せられたはずだ。そしてそれを証明する為に頑張れたはず


「見切り発車だったかな・・・」


「どうでしょうか・・・その答えが出るのは大都市が出来てからでは?ここの住民が羨むような大都市になり移住を希望した時こそが閣下の勝ちと言えるでしょう」


勝ち負けなんか?・・・まあでも面白い勝負だ


「負けないように頑張るよ」


「そうですね。では早速グルニアス侯爵の元に向かいましょう」


「・・・展開早くない?」


「善は急げと申します」


・・・なんかナージに上手く操られているような・・・




ファゼンがいつもどこにいるか知らないのでまだ王都に残っている事を願って3人で王都へ


そしてファゼンの屋敷に向かうと・・・いた


「領地を譲る・・・ですか?」


もはや立場は完全に逆転・・・侯爵と公爵では天と地も差があるらしく出会った当初は横柄だったファゼンの態度も今や畏まり恐れを抱いているようにも見えた


「ムルタナとケセナ・・・ただエモーンズにおける大都市計画と共にムルタナの住民はエモーンズに移住する予定です。なので正確には人のいない街ひとつと住民そのままの村をひとつお譲りする事になるかと」


「いや、まあ、それでも破格ではありますが・・・なぜ故に・・・」


「正直人手が足りません。管理が行き届かない状態で放置するのは今のご時世危険と判断し隣接する領地を持ち長きに渡り広大な領地を治めていたグルニアス侯爵閣下に委ねようとローグ公爵閣下は考えられました」


よく言うよ・・・体のいい押し付けだろ?


「なるほど・・・ではケセナは即時でムルタナは準備出来次第という認識でよろしいですか?」


「はい。それとケセナに関してですが・・・」


ナージはチラリと僕を見た。この先は僕に言えって事か・・・まあお願いするのだから僕が言った方がいいだろうな


「ケセナに関しては住民が今の状態・・・つまり発展をあまり望んでいない。私も一度はそれを承諾し村を存続させたまま今の状態で守りを固めようとしたが先程ナージが言ったように人手が足りない。そこで貴公にケセナを譲るに至ったのだが・・・こんな事を頼むのは筋違いというのは重々承知しているが出来る限り住民達の意向に沿って開発などをして欲しい」


「・・・村の現状を見ておりませんので何とも・・・ですが今の情勢が情勢です。魔物が闊歩している昨今において防衛手段は必須・・・となるとその予算を村から捻出しなくては赤字となります・・・となるとその予算を補う為の開発は必要になるかと・・・」


だよな


赤字になる村なら要らないってなる・・・将来的に黒字になるなら話は別だが・・・今の状態だとそれは難しい


「ふむ・・・今のケセナに収益が見込めそうなものはありますか?」


「残念ながら・・・現状はありません」


「住民達も贅沢せず自分達の食い扶持さえあればって感じだ。余計なものは要らない・・・食うものに困らなきゃそれでいいって感じかな?」


「・・・分かりました。ケセナはそのままにしましょう」


「え?」


「ただお願いがあります。ムルタナはこちらで自由にさせて頂きたい。それとケセナのダンジョンは破壊して頂きたいのですが・・・」


「ムルタナは全面的に任せる。ケセナのダンジョンの件は住民と国には許可は取ってみる・・・が、いいのか?ダンジョンがなくなれば冒険者もいなくなり更に利益を生まなくなると思うけど・・・」


「こう言っては何ですがケセナに関しては不採算になる事は目に見えています。なればそういった暮らしを望む者達の受け入れ先として活用しムルタナを中心に利益を上げます。ケセナとムルタナに二分していた利益をムルタナに集中すれば充分元が取れるかと」


「と言うと?」


「ケセナに居る冒険者・・・それに・・・ゴホン・・・アジートに居た冒険者などをムルタナに優先的に誘致します。それと商人にはケセナの現状を伝えます。ケセナは冒険者が居なくなれば宿屋や道具屋や武器屋は廃業・・・商人としては寄る旨味もなく泊まる場所すらないので強制せずともムルタナを経由するはずです」


ほうほう・・・確かに冒険者が居なくなれば宿屋は商人や旅人専用になる・・・けどケセナは旅人が行くような場所でもなければ商人が儲けを出す場所でもない・・・道具屋や武器屋も然り・・・これまでムルタナとケセナに分散していた利益はムルタナに集まりこれまで以上に発展する可能性が高い・・・ケセナは何もしなくていいから損はしないし・・・凄いな・・・よくそんな事を思い付くもんだ


ケセナにとってものんびりとした生活を続ける事が出来るし魔物に襲われる心配もダンジョンを壊す事でかなり減る・・・ケセナ近くの街アジートのダンジョンは・・・僕が壊したから一番近いダンジョンはムルタナか・・・ムルタナダンジョンから魔物が来る可能性はあるけどムルタナにケセナが魔物討伐を依頼すればいいだけだ・・・エモーンズでもいいし・・・うん、いいかも!


「さすがグルニアス侯爵殿・・・よくこれ程すぐにそこまで思いつくものです」


「ハハハ・・・あまり褒め言葉とは受け取れませんね・・・」


なんでだよ!


素直に褒めたのに・・・



こうしてファゼンにムルタナとケセナを譲る事が正式に決まった


話した感じだとケセナの意向に沿ってるしファゼンも儲けられるし僕達も大都市計画に集中出来る・・・そうと決まれば早く大都市計画を進めて・・・あ


ファゼンとの話し合いが上手くいって浮かれていた・・・目の前にある人が現れるまでは


「ご機嫌麗しゅうございます・・・公爵様」


「あ、ああ・・・久しぶり・・・カレン」


出来れば会わずに済ませたかった・・・婚約の件をカレンに言わずにファゼンと勝手に破棄しちゃったし・・・


カレンの後ろにはダハットとアンガーが・・・2人は睨むまではいかないけど少し険しい顔をして僕を見ていた


当然理由はカレンの件だろうな・・・悪いと思っているけどこればっかりは・・・


「わたくしに会いに・・・ではありませんよね?」


笑顔が怖いぞカレン


「あ、ああ・・・ちょっとグルニアス卿に・・・っ!」


周囲がざわめく


それもそのはず公爵の頬を侯爵の娘が平手打ちしたのだから


「お嬢様!」


カレンを窘めたダハットはカレンを後ろに下げ素早く僕とカレンの間に入る。更にアンガーもカレンを守るように前に出た


「申し訳ございません・・・お嬢様はある一件で少し情緒不安定でして・・・」


「情緒不安定だからといって許されるとでも?」


「ナージ・・・下がれ」


「・・・はっ」


いや許されるだろ・・・ある一件って婚約破棄の事なんだから・・・


ナージを下がらせカレンに近付くとダハットとアンガーは警戒心を強め今度は明らかに僕を睨みつける


それを無視して更に近付くとカレンに向けて頭を下げた


「すまなかった」


「っ!・・・出て行ってくださいまし!・・・ここから・・・早く!」


「・・・」


返す言葉が見つからない


僕は頭を上げるとカレンの顔を見ずそのまま3人を通り過ぎた


カレンの声は震えていた・・・だから僕はカレンの顔を見る事が・・・出来なかった──────

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人として貴族として逃げて最低なことしたものなぁ 叩かれて当然 [一言] 貴族、領主という面でみればこういった点では逃げ続けてるものな。果たして彼はどうなっていくのか
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