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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
488/856

484階 領主の苦悩

以前僕がリガルデル王国に行く時サラが流した涙・・・それは悔し涙だった


Sランクとなり冒険者の頂点に立っている彼女が僕に『足手まとい』と言われたも同然だったから・・・言い訳はしてみたけど本音は見抜かれていた


足手まといと思っていた訳ではないがそう取られても仕方がない理由だった


『何が起こるか分からないから』


それが理由で僕は彼女を置いて行った


リガルデル王国はレオンの口車に乗り戦争を仕掛けて来た国・・・そして僕が5万もの兵士を殺してしまった国だ。これまで訪れた国のようにはいかないと踏んでいた


結果的には友好的な?関係を結べたが今も何をしてくるか分からない怖さがある


けど・・・僕も心のどこかでサラを共に戦ってくれる人と見ていたかもしれない


Sランク冒険者を守るなんておこがましいとか戦う術を教えてくれた人だからとか・・・ぶっちゃけ甘えていた


僕がサラを好きになったのは強いからじゃない


共に居たいと思ったのは冒険者だからじゃない


サラだから


僕にはサラが必要だからだ



いつからサラの強さに甘えてしまっていた?


強くなろうとしているサラに気付いていたのになぜ言わなかった?


手を繋げば隣に歩く事なんて簡単に出来るのに僕は手を離したまま彼女の必死な姿を眺めていただけ・・・なぜその時に・・・『一緒に行こう』と言って手を差し伸べなかったのだろう


「・・・何を考えているの?」


「随分遠回りしたなって・・・」


「ふーん・・・そう言われると私もそうかも・・・あなたに追いつこうとして離れて行ったのはその為ね。あなたの共に歩こうと努力してたけど気付いてなかった・・・もうあなたは隣にいるんだって」


「うん。共に歩くと肩を並べるは違う・・・足りない部分は互いに補えばいい・・・僕が出来ることは僕が・・・サラが出来ることはサラが・・・支え合い補い合い愛し合う・・・それが恋人・・・」


「自信がなかったのかなぁ・・・強くないと振られちゃうって思ってたのかも」


「振るなんてとんでもない!・・・僕の方こそカッコイイ人を見る度にサラに会わせたくないって思ってるくらいだし・・・」


「へぇ・・・カッコイイ人いた?」


「・・・リガルデル王国に1人・・・地位もあり顔もイケてて実力者・・・アイツがサラに迫ったらと考えたら・・・」


「ぷっ・・・顔で選んだのなら私はここにいないわよ」


「え?それ地味に酷くない?」


「あら?あなたは顔で選んだの?」


「・・・」


「ちょっと!」


「じょ、冗談だって!・・・サラしかいないと思ったから・・・もちろんそりゃあ顔も好みだったけど・・・」


「・・・まあいいわ。きっかけが顔でも・・・悪い気はしないしね」


「あとこのお胸も・・・」


「調子に乗るな!・・・ちょっ!朝だって!もう朝だってば!」


「公爵様がご所望ですぞ?」


「職権濫用!・・・あっ・・・」


今日は特に予定はないはず・・・このたわわに実った果実を朝食代わりに・・・


「ロウニール様」


聞こえない聞こえない


「創って頂いたペットの扱い方も覚えましたのでそろそろ承りました調査に出たいと思います」


聞こえないって言ってんだろ!


「ロウニール様?」


「・・・ベル」


「はっ!」


「お前が仕えているロウニール・ローグ・ハーベスは人間だ・・・なのでお前も人間のルールに従って行動しろ」


「畏まりました」


「とりあえず二つ・・・大事なルールを教えてやる。一つ目は『部屋に入る時はノックをしろ』だ」


「ノック・・・畏まりました」


「二つ目は・・・『主人がイチャイチャしている現場に出会したら黙って部屋を出る』だ」


「なるほど・・・交尾の最中は邪魔をするなと言うことですね」


「そうとも言う・・・今後破ったら・・・分かっているな?」


「はっ!」


「・・・」


「・・・」


「ベル?」


「はっ!」


「『はっ!』じゃない!出て行け!つーか調べまくって来い!今すぐ!」


「か、畏まりました!交尾中失礼しました!」


なんて気が利かない奴だ!


ベルが慌てて出て行ったので続きを・・・と思ったらサラは立ち上がり素早く置いてあったメイド服に着替えてしまい・・・


「残念でした・・・交尾はお預けで。朝ですよご主人様」


ぐぬぬ・・・ベル・・・許すまじ──────





「失礼致します。ご主人様朝食の用意が・・・どうやら御機嫌が悪いようですね」


「ああ、すこぶるな。今日は予定がなかったはずだ・・・朝食をとった後、サラと出掛ける」


「ナージ様とセイム様、それにジェファー様より大事なお話があるのでどこにも行かないよう伝えてくれと申しつかっております」


「・・・分かった」


くっ・・・サラと2人で出掛けてイチャイチャしようと思ったのにどうしてこんな時に・・・


大事な話と聞いてすっぽかす訳にもいかないし・・・今日は厄日か?



朝食を食べた後で3人に呼ばれて執務室に・・・そこには大きな紙に描かれた大都市の完成予想図が広げられていた


それを囲むように僕とサラ、そして3人が立つ


「シツジから聞いたけど大事な話があるって?」


「はい。私から説明させていただきます」


そう言うとナージが大都市の外側に描かれているムルタナとケセナを指差した


「大都市の外側に位置する予定の2つの領地・・・計画通りですと希望する住民は大都市に移住する事になりますがひとつ問題があります」


「問題?」


「ケセナは移住してくる者が少ないと予想していますがムルタナに関してはかなりの者が移住してくると予想されます。領主の話では半数以上・・・大都市が完成した後はもしかしたら全住民の移住もあり得るとの事です」


「それが?喜ばしい事じゃないか」


「はい。そうなのですがこの2つの領地にはあるものがあります」


「・・・あるもの?・・・・・・あっ、ダンジョン!」


「はい。住民が居なくなれば突然冒険者も住めなくなります。ダンジョンブレイクの原因がダンジョンの放置ならば放置する訳にも参りません。かと言って大都市からは距離があり冒険者を定期的に送るには無理があるかと・・・」


すっかり忘れてた


そうだ・・・ケセナは大都市にあまり乗り気じゃないけどムルタナは意欲的だ・・・移住者が増えれば増えるほど街として立ち行かなくなり必然的に全員移住してくると予想していた


そうなると街の近くにあるダンジョンは放置せざるを得ない・・・わざわざ遠くのダンジョンに行く冒険者はいないだろう


「ムルタナダンジョンに大都市から行けるようゲートを繋いでも・・・無駄だよな?」


「各階層にゲートがあり冒険者に優しいダンジョンと特に特筆べき点がないダンジョン・・・行く手間が同じでしたら後者を選ぶ意味はないかと」


ですよね


かと言ってムルタナからの移住を今更断る訳には・・・これは困ったぞ


いっその事ダンジョンを破壊してしまうか?ケセナはともかくムルタナは確実に放置になるし・・・


「そこでひとつ考えがございます」


「なんだ?」


「グルニアス侯爵にムルタナ・・・そしてケセナを譲るのです」


「なに?ファゼンのところに?・・・譲るだと?」


「はい。ムルタナはもちろんのことケセナも大都市完成後は管理が難しくなります。私兵もまだ少なく大都市の規模でも足りないくらい・・・その状況下で無人となったムルタナのダンジョンと移住を拒むケセナに人員を回すのは到底不可能・・・もちろんこれから先も人は増やし続ける予定ですが人が増えたからと言ってすぐに使える訳でもありません。となると結果最悪の事態を招く事に・・・」


「・・・けど無責任じゃないか?人が足りず守れないから放棄するって・・・それにケセナの人達からしてみれば大都市に賛同しなかったから見捨てられたと思うかも・・・」


「見捨てて何が悪いのですか?」


「え?」


「領主である公爵閣下の意見に賛同せず自分達の考えを押し通す・・・それでいて安全を確保しろなど図々しいにも程があります。方針に賛同しないのならそれなりのリスクは自らが負うべきです」


「しかし・・・てか押し付けられたファゼン側もいい顔しないんじゃないか?譲るとは言っているが実際は無人の街と村ひとつだろ?欲しいかって言われても正直微妙な気が・・・」


「領土拡大にダンジョン二つ・・・やり方次第ではかなりの財を生み出します。丁度アジートのダンジョンが無くなったので収益が減ったのは事実です・・・閣下が国に働きかけて税金免除しても収益は減った事実は変わりませんので」


「ま、まあそうかも・・・けどやり方次第ってあまりケセナの人達には歓迎するような内容じゃなさそうだけど・・・」


「そこまで閣下が気にする事はありません。ケセナにとっては領主が代わるだけ・・・そこに深い意味はありませんので」


いやあるだろ・・・利益を追求しようと考えればケセナを発展したがるはず・・・そうなれば今の生活を続けたいと考えて大都市計画に難色を示したのに結局今の生活は続けられない事に・・・


「公爵様・・・厳しいようですがナージさんの言う通りだと思います」


「セイム・・・けど村の人の事を考えたら・・・」


「公爵様は領地の人の事を考えてこの計画を練られたのではありませんか?本来なら強引に推し進めても文句を言われる筋合いはありません・・・それが私利私欲ならまだしも領民を思っての政策なら尚更です。全ての領民の意向に沿った政策など無理に等しい・・・ならば多少の反発は無視してでも進めませんと何も出来ないと思われます」


んーまあそうだよな・・・誰もが望むってのは難しい・・・大多数が望んでも反発は必ずあるとは分かっていた


けど・・・


「村の中には本当は大都市計画に興味あっても周りの目を気にして言い出せない人もいると思うわ。相手の顔色を伺う政策も嫌いじゃないけどそういう人達の意見が隠されちゃうって事もあるのよ」


あー、ジェファーさんの言う事も分かるな。同調圧力というか『え?お前行くの?裏切り者!』みたいな流れになるのが嫌で言い出せないみたいな・・・


「ならファゼンの所にあげるんじゃなくてケセナを強引に大都市計画に組み込むのは?」


「いえ、一度村として継続を認めてその約束を反故にするとかなりの反発を生みます。それならば『村』としてグルニアス侯爵に譲った方がよろしいかと・・・その後にグルニアス侯爵が村を街に変えようがこちらの預かり知らぬ問題となります」


「なんだか騙しているみたいで気が引けるな」


「あっちもこっちもと欲を出せば割を食うのは領民です。それに領地経営は慈善事業ではありません・・・不採算の場所は切り捨てなければ閣下を信じて付いてきている領民にも不利益を与える事になりかねません。閣下は大都市で暮らす人達が納めた税金を大都市の外の閣下に従わなかった者達へ投入するつもりですか?それで皆が納得すると?」


「いやまあ・・・そうだね・・・」


従わなかったって言い方は違うけど賛同しなかった人を賛同した人をそっちのけで守るのかと聞かれたらそれは違うと思う。やっぱり賛同してくれた人により多くの恩恵をって思うし・・・


「従うのも自由ですがこちらの自由が阻害される自由ならば一緒くたに考えず離すべきかと・・・余裕があるのならまだしも人数的にも財政的にも大都市計画を続けるのならギリギリ・・・いえむしろ足りない状況です。何も廃村にしたりする訳ではなく領主が変わるだけです・・・あまり深く考えずとも良いかと・・・」


ダンジョンの事を忘れてたのは失敗だった・・・少なからず村の収入源にはなっているだろうし破壊してしまえばなんて簡単に言えない


モルタナの方は破壊してしまっても大丈夫かもしれないけどケセナは・・・


「他に良案は?」


「ありません。ケセナの全ての村人が大都市計画に賛同し村を捨てるというのならダンジョンの破壊も視野に入るのですが・・・説得してみますか?」


「いや・・・ケセナはケセナの良さがある・・・無理に大都市計画に組み込むのは酷だろう。ファゼンが領主になってケセナ村がどうなるか・・・分かるか?」


「グルニアス侯爵でしたらおそらく自分の手の者・・・領地を持たぬ男爵や子爵などを村に派遣し頭をすげ替えるでしょう。そして街へと発展させるかと」


「だよな・・・結局村の人達の望みは叶わないか・・・この件は一度ケセナ村の村長と話してみる。大都市計画は予定通り進めるからケセナ村には二択・・・いや三択か・・・大都市計画に入るか、僕の庇護を受けず独立して頑張るか、僕ではなくファゼンの領地となるか・・・」


「・・・本来なら公爵閣下が独断で決めることなのですが・・・参考にされるのなら聞いても良いのではないでしょうか。ただ行く時は私も行きます・・・閣下だけですと情に流されそうなので」


うっ・・・確かに


「分かった。では今から行くとするか・・・ケセナ村に──────」

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