483階 闇照らす光
今、僕は正座させられている
メイド服姿のサラに
「それで・・・なぜ正座させられているか分かってる?」
と聞かれましても思い当たる節がない
僕がベルのペットを創っている間、サラはシアとサキと共に訓練所に行っていた
で、帰って来たら屋敷で食事をして風呂に入った後この状態・・・つまりそうなるとシアに何か吹き込まれた可能性が高い
それとも魔族であるベルと1人で戦ったからかな?危険な事をすると怒るし・・・でも実際危なげなかったし問題はないと思うけど・・・
「ロウ?」
「はい!・・・ベルと戦った事でしょうか?」
「外れ」
違うか・・・じゃあシアの方かな?
シアとの事でサラを怒らせそうな事あったか?浮気してないしそれ以外で何か・・・
「・・・シアに聞かれたわ・・・『眷族にならないか』って」
っ!シアの奴!
「怖い顔しない。あの子は答えが分かってて聞いてきただけだから」
「答えが分かってた?それって聞く必要ある?」
「あなたが『サラは断る』みたいなこと言ったんでしょ?それの確認と・・・私の覚悟を試す為・・・かな?」
「覚悟?」
「不老のあなたとずっと寄り添えるか・・・ね」
「なんでシアがそんな確認を・・・あれ?サラに不老の事って話したっけ?」
「・・・聞いてないわよ?」
あぁ・・・怒っている理由はそれか・・・
「えっと・・・何度も話そうか迷ったんだけど・・・まだ確定的じゃないって言うか・・・」
「って言うか?」
「いや・・・どう話そうか迷って・・・」
「迷って?」
「・・・ごめんなさい」
ダメだ言い訳のしようがない・・・それに顔は笑ってるが目は笑っていない・・・下手な事を言うと火に油を注ぐだけだ
「聞かせてくれる?不老の事を」
「あ、ああ・・・とりあえず僕の体に起きた変化から・・・」
僕の体に起きた変化・・・それは魔王復活の時まで遡る
ダンコとサキの事はサキの事を説明する時に話したけど改めて話す事にした
元々ひとつだったダンコとサキ・・・だけど僕の中で魔王に従おうとするサキとそれに反発するダンコに分かれてしまい魔王にサキを抜かれてしまった
僕はその時にダンジョンコアを失いただの人間に戻ったと思っていたけどそれは違った・・・既にダンコは僕と同化しておりシアと同じような半分人間で半分魔族のような構造に変わってしまっていた
「多分完全に同化したのは魔王と戦っている最中だと思う・・・それまでは魔力を使うと痛みが走ってたけどそれからは平気だったから・・・同化して魔力が体に馴染むようになったんだと思う」
「ダンコと同化・・・それで魔族と同じ不老に・・・」
「僕の体が魔族と同じになってたら・・・の話だけどおそらく・・・」
人間の体は魔力に耐えられない・・・それが耐えられるって事はそういうことなんだろう
「なんで言わなかったの?」
「確証がなかった・・・と言えば言い訳になるな。怖かったのかもしれない・・・その事を告げた時にサラがどういう反応を示すか・・・」
「その割にはシアに私は断るみたいな事をドヤ顔で言ったのよね?」
「ドヤ顔はしてないと思うけど・・・ただその時はそう言うかなって思った・・・もちろん一瞬悩んだけどね」
サラと永遠に一緒にいられるなんてどんなに素晴らしいか・・・
「そうね・・・私も話を聞いた時悩まなかったと言ったら嘘になるわ。けど後悔していないわ・・・今もこれから先も・・・後悔することはない」
うん・・・そして僕も・・・後悔させない・・・決して
「という訳で私が死んだ後は好きにすればいいわ・・・永遠に1人は可哀想だし」
「・・・サラ~・・・」
「冗談よ。でも・・・あなたの幸せが私の幸せでもあるの・・・それは死んでからも同じ・・・だから・・・っん」
その先を言わせないように立ち上がり彼女を抱き寄せ口を塞いだ
彼女がいなくなったらなんて考えたくもない・・・いずれ必ず起きる事だとしても生きてる内は・・・考えない
「・・・コラ!長すぎ!」
「お仕置も兼ねているからね」
「お仕置って・・・本来なら黙ってたあなたが受けるべきでしょ?」
「え・・・」
サラからお仕置・・・ちょっとドキドキ
「ドキドキすなー!」
「・・・そう言えばなんでメイド服だったの?」
結局普通にイチャコラした後で脱いで置いてあったメイド服が視線に入り聞いてみた
「あー・・・あなたに好きに生きてと言っておいて自分が好きに生きてなかった事に気付いたから・・・今後は好きに生きようと思ってね」
「・・・メイドがそんなに楽しかった?」
「違うわよ。メイドとしてあなたの傍にいる時が一番幸せかなって・・・。ずっと思ってた・・・あなたの隣に立つ資格があるのかって・・・だから自分なりにがむしゃらに鍛えていたけどそれって恋人と言うより相棒とかパーティーメンバーのような感覚かなって。私はロウニール・ローグ・ハーベスの相棒でもなくパーティーメンバーでもなく恋人なんだって考えたら無理に鍛えてその時間あなたと共に過ごす時間を削っているのが馬鹿らしく思えてね・・・結果メイドとして過ごすと長い時間共に過ごせるし警戒も出来るって気付いたの」
「それは僕も嬉しい限りだけど・・・警戒?」
「放っておくとライバルが増える一方だから傍にいて阻止しないと・・・ね?」
「ライバル?いやいやそれはこっちのセリフだけど?」
「私の場合は体目当ての男が寄ってくるだけ・・・あなたの場合と違うわ」
「どういう事?」
「まっ、気付いていないならいいわ。それよりもリガルデル王国はどんな国だったの?話を聞かせて」
「あ、うん・・・寄り道はほとんどしてないけど偶然立ち寄った街でね──────」
「へぇ・・・十二傑ね。六つの国を代表する十二人・・・その中で知っている人がいるって結構鼻が高いわね」
「何言ってんだか・・・サラだって知られてないだけでもっと知名度が上がればキースかディーンの代わりに入るかも知れないんだぞ?」
「ないない・・・あるとすればあなたの方でしょ?」
「うーんそれこそないかな。これ以上目立たないようにするつもりだし」
「・・・国境付近でド派手に暴れておいて?今更じゃない?」
「うっ・・・けど多分あの話は各国に伝わらないと思う・・・リガルデル王国はバレたら非難の的になるから自ら言わないだろうしフーリシア王国には文句言わせない」
「さすが公爵様ね。まあ被害はリガルデル王国に比べたら微々たるものらしいし・・・けどこのままあの王様達が黙っているかしら・・・聖女達を『毒』と呼んで武器にするような人達でしょ?」
「まあね。今は僕の力を恐れて言うことを聞いている・・・いや聞いているフリをしているのだろう。いずれは何か仕掛けてくるはずだ・・・それがいつどのようにかは分からないけどね」
「1人の人間が国の抑止力になってる・・・その人が今私の横にいるって考えてみれば凄いことよね・・・」
「・・・サラは僕が5万の人間を殺したと聞いてどう思った?」
「・・・正直分からない・・・あなたが無事で良かった・・・その結果がそうだったとしか思わなかったし・・・あなたは自分がやり過ぎたと?」
「自分で言い訳を考えている時点でやり過ぎだったんじゃないかと思ってる。このまま大群がフーリシア王国に攻め入れば犠牲者はもっと多かったかも知れないし関係のない人まで巻き添えになってたかも知れない・・・けどそれは言い訳で僕ならもっと上手くやれたんじゃないかって・・・」
あの場をダンジョン化して魔獣を創った・・・その後でオルシアと戦っている最中に僕の創った魔獣達はリガルデル王国の兵士を蹂躙した・・・オルシアと戦ってなければ魔獣をもっと上手く操り殺さずに追い出す事が出来たかもしれない
オルシアとの戦いも無駄に長引かせないように出来たのに・・・そうすれば・・・ぬおっ!!
「さっき言った通り『あなたが無事で良かった』が全部よ。あなたの言う通り彼らが来た理由は明白・・・だからといって殺していい訳じゃないけどその時のあなたは最善を尽くして私の元に帰って来てくれた・・・今はそれだけでいい・・・そして私のご主人様は今後はもっと上手くやる・・・そう信じてる」
いきなり抱き締められて驚いたけど優しい言葉と包まれて感じる温もりが僕の後悔を消し去る
ダンコに言われたのも真実だ
相手を人間という括りで考えなかったら気が楽になったのも確かだ
けどそう考えてしまうのは人間をやめているような気がする・・・やっぱり僕は人間だし人間でいたい・・・だから今は・・・せめて彼女と過ごす日々は人間でありたい・・・
彼女だけが僕を人間でいさせてくれる・・・だから今は彼女に甘えよう──────
リガルデル王国北部デザースロムの街
その街には宮殿のような屋敷がありその主人であるクーガ・エリエント・リーブルは応接間にてある男から話を聞いていた
その男の名はダンテ・キノキス・・・『不死者』と呼ばれるSランク冒険者である
「・・・最近国はオレの事をこき使い過ぎじゃ?」
「それに見合った報酬は払っているだろ?それで?間抜けにも5万の兵士を失ったオルシアは処分なしか?」
「表向きはね。裏じゃどうだか・・・相手が相手だけに仕方ないって意見とオルシアの行動を批判する意見で真っ二つって感じだったな」
「・・・お前はどう見る?」
「ありゃ仕方ねえよ。突然魔物が大量に現れたら対人間の訓練しかしてねえ兵士にどうにかしろって方が酷だ・・・ただまあそれが分かってて自分は一騎打ちに勤しんでるダンナを擁護する気にゃなれねえけどな」
「そうか・・・こちら側のお前がそう言うならそうなのだろうな」
「おいおい・・・人聞きの悪い事言うなよ。オレ達は単なる雇用関係だろ?期間限定の」
「金の繋がりが最も強固だろ?それに後腐れがない」
「確かに・・・それで?延長はするのか?」
「いや・・・大勢は決した。父の愚かな判断と豊穣の国に感謝しているところだ」
「なるほど・・・とうとう・・・」
「ああ。闇が覆う時に光が照らすのは世の常だ・・・そして闇は光に勝てぬ・・・決してな──────」




