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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
486/856

482階 サラとシア

慌てふためきながら説明する彼を見て吹き出しそうになるのを何とか堪えた


少しも疑っていないのに必死になっちゃって・・・少しくらい後ろめたい事でもあったのかな?


訓練所で手合わせしている時にサキが突然『ご主人様が帰って来たにゃ』と言うからすぐ汗を拭いて髪を整えて来たというのに女の子を連れているものだからちょっとした意地悪だったのに・・・それにしてもこの子シアって言ったっけ・・・凄い整っててお人形さんみたい・・・まあいくら可愛いと言っても子供だけど


「・・・ってな訳でさすがにそのままスラム街に置いてく訳にもいかないし本人も来るって言うから・・・聞いてる?」


「ええ、お痛をしてないのは分かったわ。シアちゃんよろしくね」


「レファレンシア・オートニークス・エムステンブルズじゃ・・・い、いや好きに呼ぶがよい」


ロウが拳を見せるだけで頭を抱えるシア・・・こう見てると父と娘って感じね


「それで・・・私の顔を怖い顔で見つめているのがベルね」


「・・・この顔は元々でグッ!・・・も、元々です・・・が、怖くないよう努力・・・します」


ベルには容赦ないわね・・・アレ・・・普通の人なら死んでるくらいかも・・・


振り向きざまに腹部を殴打・・・ボグッという音がなりベルの体がくの字に曲がるもベルは顔を上げて言葉を続けた


「ベル・・・魔王の側近だったか知らないが僕と行動を共にすると決めた以上サラは僕と思って接しろ。それと誰彼構わず『知ろう』とするな・・・次やったらこんなもんじゃ済まないからな」


「・・・申し訳ございません・・・」


どうやらベルは私に何かしようとしたようだ。なるほど・・・ツッコミにしては激しいと思ったけどそんな理由があったのね


「それでダンジョンには何しに?」


彼がここに人を連れて来るのは珍しい・・・私が知る限りでは初めてだ。そんなに長い付き合いでもないだろうし信用しているからって訳じゃなさそうだけど・・・


「ベルにペットを創ってやろうと思ってね。連れて来たのはシアの()()()


「なぬ?」


「?シアちゃんを元々ここに連れて来るつもりでベルはそのついでって事?」


「そう・・・シアにはここで魔物を鍛えてもらおうかと」


「聞いておらぬぞ!なんじゃ魔物を鍛えるとは」


「働かざる者食うべからず・・・だろ?かと言ってその姿で表立って働かせたら色々言われそうだし・・・って事でこのダンジョンで働いてもらう事にした。そうだな・・・役職的には『教官』・・・魔物専属のな」


「・・・まあタダ飯を食らうつもりは毛頭ないが魔物を鍛えてどうするのじゃ?まさか大陸制覇でも狙うつもりか?」


「まさか。抑止力は強い方がいいだろ?魔族達も各地で暴れてるし・・・戦力があるに越したことはない。僕がいつでも動ければまだしも同時に各所で魔族に暴れられたら対処出来なくなるしね」


「えらい自信じゃのう・・・お主が出れば万事上手く行くが出られなかった時の為に他を鍛えると言うわけか・・・ワシも含めて」


「レファレンシア・オートニークス・エムステンブルズよ自信ではなく事実です。貴女も見ていたはずです・・・ワタクシが一撃で完膚なきまでにやられる光景を」


「・・・自分がやられた事を嬉しそうに語るのう・・・確かにまあ・・・そうじゃのう」


ロウとベルが戦った?で倒して仲間にしたって事?


ベルって魔族よね?ベルゼブブと同じ


私とフレシア・・・それにアネッサさんの3人でようやく倒せた魔族・・・もしベルゼブブとベルが同等・・・いや魔王の側近だったと言ってたからベルゼブブより強いかも・・・だとしたら私と彼の距離はどれほど離れているの?


近付いても近付いても離されていく縮まらない距離・・・私はどうすれば彼の横に・・・


「・・・相分かった。そうじゃのう・・・ここに詳しそうじゃからそこのサラに案内してもらってもよいか?」


「うん?ああ、サラが良ければ」


「え、ええ。私は構わないわ」


「じゃあ僕はベルとペットを創っているからサラとサキはシアを訓練所に連れて行ってくれ。ペット創りはそこそこ時間掛かるだろうから適当に他を見て回ってもいいし早速訓練しててもいいぞ」



私が呆けている間にあれよあれよと話は進み私はシアを連れてまた訓練所に戻って来た


考えても仕方ないのに・・・考えている暇などないのに・・・どうしても考えてしまう・・・彼との差を


「ほう・・・魔物が仰山おるのう・・・これを全部ロウニールが創ったのか・・・ますます惚れそうじゃのう」


・・・え?


振り返るとシアは魔物を見ず私を見て微笑んでいた


惚れる?・・・誰に?


「なんじゃその顔は・・・この姿だからないと思うたか?彼も言うておったじゃろ?ワシはヴァンパイアハーフでもう200年も生きておる・・・見た目はこれでも中身は充分大人じゃ恋くらいする・・・しかもあれ程の器量の持ち主になら尚更じゃ」


「ちょっと何言ってるにゃ?さっきのご主人様の話を聞いてなかったにゃ?ご主人様はサラと・・・」


「不老の彼と普通の人間が釣り合うかのう?自分は老いていき彼は若いまま・・・その事実に耐えられるかのう?」


「・・・不老?」


「ちょ!いきなり何を言ってるにゃ!」


「なんじゃ知らなかったか?彼はワシと同じく不老の身・・・人間と同じ時を生きてはおらぬ・・・悠久の時を生きる者じゃ」


「このっ・・・いきなり何にゃ!続けるならその口強制的に・・・」


「待って!サキ・・・シアちゃん本当なの?・・・彼は・・・ロウニールは歳を取らないの?」


「うむ。ワシとは違うがな。ワシは定期的に血を摂取する事で老いをコントロール出来、彼はそもそも歳を取らぬ。環境は違うが同じ不老の身である事は確かじゃ」


彼は不老・・・歳を取らない・・・でも私は・・・


「・・・サキ・・・この子の言ってる事は本当?」


サキなら知ってるはず・・・元々サキは彼と共にいた訳だし今も彼の中にいるサキュバスと同一人物だった彼女なら・・・


「・・・本当よ。ハア・・・何で言っちゃうかな・・・他人の口から聞くのと本人から聞くのじゃ印象も違うでしょうに・・・まるでロウが騙してたみたいじゃない」


「『にゃ』は付けんのか?」


「そういう気分じゃないのよ・・・あまり調子に乗ってると・・・殺すわよ?ヴァンパイアハーフ」


「最近の猫は凶暴だのう」


「ハア・・・忠告はしたわよ?」


サキは人の姿になり大鎌を手に持ちシアに向かって行く


止めないと・・・でも・・・


「ワシを殺せばロウニールが何と言うかのう?」


「別に何も言わないわ・・・一日二日の付き合いと同じにしないでよね。私はロウニール・ローグ・ハーベスの眷族のサキ・・・まだ言葉足らずの時から彼を知っている・・・アナタとは年季が違うのよ年季が」


・・・バカみたい・・・情けないな本当に・・・


「サキ・・・ダメよ」


「・・・指図しないでくれる?」


「そう・・・なら」


私がシアの隣に立ちサキに向かい構えると彼女は驚きの表情を浮かべた後、私を睨み唇を噛んだ


「本気?私を苛立たせアナタの邪魔をしようとするそこのおチビちゃんの味方をするわけ?」


「ええ・・・だけどひとつ訂正させて。サキを苛立たせたかもしれないけど私の邪魔にはなってないわ」


「・・・そっ。だったらいいわ。適当な時間に向かいに来るからあとはよろしく」


サキはそう言うと私達に背を向けゲートを開く


「サキ!・・・ありがと」


「なんの事?・・・じゃあね」


彼女は振り返らず手を振ると去って行った


彼女の怒りは私の為・・・不甲斐ない私の為に彼女は怒っていた


「・・・助けられた・・・みたいじゃのう」


「彼女は本気であなたを殺そうとはしてはいないわ・・・ロウが怒るようなこと・・・しないもの」


「ワシが殺されるとロウニールは怒るか・・・ならばチャンスはありそうじゃのう」


「ないわ」


「ほう?えらい自信じゃのう・・・まあ気長に待つとするか・・・どうせお主はワシより早く死ぬ。彼とは永遠の時を過ごせぬ憐れな身じゃからのう・・・あと50年・・・いや、もしかしたら十数年もすればロウニール自らワシを求めるかも知れぬな・・・お主を捨てて」


「残念だけどそれもないわ」


「・・・老いには勝てぬぞ?サラ・セームン・・・これは経験者からの忠告じゃ。今は盲目になっておるかも知れぬが時が経てばワシの言葉が理解出来よう。その時になって後悔しても」


「良かったわあなたが長生きで」


「なぬ?」


「あなたの言葉が間違っていたと証明するにはあと50年はかかりそうだしね」


「・・・永遠の愛など存在せん・・・理想を追うのも良いが現実を見よ。期待は何よりも鋭い刃となりお主を抉るぞ?」


「ロウを好きと言う割には彼の事分かってないのね・・・彼はいつも期待通り・・・いえ期待以上に応えてくれる・・・今までも・・・これからもずっと・・・応え続けてくれるわ」


「『応え続けてくれる』・・・か。何とも受け身な答えじゃのう・・・応えなければロウニールのせいか?」


「・・・」


「まあよい・・・結果はみえているがここは黙って静観するとしよう・・・お主が老いを感じた時、ワシに泣きつくのは目に見えておるがな」


「なぜ私があなたに?」


「あぁ言い忘れておった・・・ワシの眷族になればワシ同様若さを保つ・・・いやそれ以上の効果を得られる。ワシが生きておる間ずっとな。つまり・・・彼と同じ時間・・・悠久の時を過ごせるのじゃ」


「へぇ・・・それは魅力的ね。でもさっきまで私から彼を取ろうとしていたのにそんな話をするなんてどういうつもり?」


「ロウニールには多大な恩がある。とても返し切れぬ恩がな。こう見えてもワシは義理堅くてのう・・・恩を返せるのなら恋心は封印しても良いと思うておる。ロウニールも大層喜ぶであろうな・・・お主が永遠に変わらぬと知れば」


「・・・永遠に変わらない・・・」


「そうじゃ・・・互いに変わらず悠久の時を過ごせるのじゃ。永遠に同じ時を過ごせるのじゃ・・・お主が望むならワシがその望みを叶えてやろう・・・お主の為ではなくロウニールの為に、な」


彼女の言葉ひとつひとつがとても魅力的で夢心地になる


どんなに素晴らしい事か・・・想像するだけで胸が高鳴る



けど・・・


「お断りよ」


「・・・なぜじゃ?」


「ロウニールは今の私を好きでいてくれる。そしてこれからの私を好きでいてくれる・・・決して今だけの私ではないわ」


「そう言っていられるのも今の内だけじゃ・・・未来は誰にも分からん。じゃが今この時のお主を彼が好きと言うなら不確かな未来より確実なのは『今』を続ける事ではないか?」


「それは『今』よりも私を好きでいてくれる『未来』を閉ざす事になる・・・だからお断りよ」


「その『未来』とはほんの少し先の事じゃろう?ワシが言っているのはもっと先の未来じゃ・・・お主の髪が白髪となり顔が皺だらけになる『未来』・・・そうなった時に彼は『今』より好きでいてくれると思うか?『今』は愛が重なり続けていると実感しておるやもしれん・・・が、愛は永遠に重なり続ける事はない・・・やがて崩れる・・・確実にな」


「そうかもね・・・けどそうじゃないかもしれない。永遠とか悠久とか偉そうに語ってるけどあなたもほんの200年しか生きてないじゃない」


「・・・それでもお主よりは経験豊富じゃ」


「そう?なら運が悪かったわね」


「運?」


「200年経っても見つけられなかったんでしょ?あなたと共に重ねてくれる相手を。私は運良く見つけたわ・・・永遠に重ねてくれる相手を」


「・・・たかだかワシの10分の1程しか生きておらぬのにぬかしおるわ・・・」


「そうよ・・・私は運が良かったの・・・あなたより短い人生の中であなたより先に運命の人に出会えた。そこにあなたはいなかった。もし永遠の命を与えられてから彼に会っていたら話は別だったけど彼は『今』の私を・・・そして『未来』の私を愛してくれると信じてる。だから『今』を続ける事は彼を裏切る事になる・・・だから答えは『お断り』」


「・・・くっくっくっ・・・」


「?何がおかしいの?」


「ならば足掻くな。お主にはお主の・・・彼には彼の歩幅で歩け。足掻けば足掻くほど足並みは乱れ道を外す・・・今のお主を・・・そしてこれからのお主を好いてくれると信じておるなら尚更な」


この子・・・まさか・・・


「・・・心でも読めるのかしら?」


「ベルフェゴールを一撃で倒したと聞いた時のお主の表情は感嘆ではなく悔しさが滲んでおった。その悔しさはどこから来るか・・・おそらく追いつこうと必死なのじゃろう・・・じゃがやめとけ・・・アレは規格外じゃ・・・人間の枠で追い付けるものではない。まあワシの提案を受けていればその限りでもないが・・・そうだとしてもお主は受けぬじゃろ?」


「ええ」


「じゃろうな。ちなみにロウニールにも提案してみた・・・『想い人を長生きさせてやろうか?』と・・・じゃが今のお主のように断りおったよ・・・まったく2人して・・・似たもの同士というかなんというか・・・付け入る隙がないのう」


「そもそも付け入ろうとは考えてなかったのでは?」


「それはどうかのう・・・来なかった未来をあれこれ言っても仕方あるまい?それよりもワシに言われてもまだ足掻くと言うなら少し手伝うのも吝かではない。かかって来るが良い」


「・・・私は魔物じゃないのだけど?あなたの役目は魔物の教官でしょ?」


「似たようなもんじゃろ・・・さあゆくぞ!」



一体何を考えているんだか・・・足掻くなと言ったり足掻くなら手伝ってやると言ったり・・・


でも・・・心にかかっていたモヤが晴れたような気がした・・・初めて自分の気持ちに素直になれたような・・・自分の気持ちに気付けたような・・・そんな気がした



「ちょっと!結構痛いんだけど?」


「なーに、ちょっとした憂さ晴らしじゃ」


彼女の名前はシア・・・幼くて可愛い・・・強くて気が抜けない・・・私の恋のライバルだ──────

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[良い点] ロウの魅力上昇とともに増える恋 [一言] 誰も彼も応援したくなるね
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