479階 決着
降り注ぐ魔力はワシを飲み込んだと勘違いしながら地面に溶けていく
全てが終えたらワシなぞ跡形もなくなっていると信じて疑っておらぬじゃろう・・・そこがチャンスじゃ
ロウニールの存在に気付いてないはずだから魔力が途切れた瞬間にブラッドミストを展開し視界を奪う・・・そしてブラッドソードで奴を・・・あの姿になる前なら通じるはず・・・全てをそこに注ぎ込む
「あの・・・何となく作戦は分かったんだけどブラッドミストやられると僕も何も見えないのですがそれは・・・」
「フン!ここで鼻をほじって待っておれ・・・お主はこれを防いだだけで充分じゃ」
「まさかのタンカー・・・別にいいけど」
強さは認めるがこやつの剣技も通らなければ意味はない
この千載一遇のチャンスを活かす唯一の方法は駆け引きなしに突っ込み後先考えない最大の一撃を放つのみ!
ロウニールの持つあの刀もかなりのものだがワシの全てを懸けた一撃の方が上回るはず
覚悟を決め意思を貫くと言ってたのが恥ずかしくなる・・・ワシが初めてベルフェゴールと対峙し決めた覚悟は・・・『全てを尽くして立ち向かう』だったはず!だからこそ少しでも戦力を得ようと冒険者を眷族にしようとしていたはず!それがこやつに阻まれたがそれなら次にワシが取るべき行動は・・・冒険者より強いこやつの力を借りる事だったはずだ
ワシは忘れていた
気高く死ぬ?
違うじゃろ
母は気高く生きよと言った
気高く・・・貴族として・・・意思を貫き通す!今度こそ!
「終わるぞ」
「うむ・・・ぬかるな」
「いや待て・・・何をぬかるなと言うんだよ?」
「・・・見届けよ」
「了解・・・負けるなよ」
「当然じゃ・・・今度こそ貫いて見せよう」
奴の攻撃が終わる
その瞬間を見計らないブラッドミストを展開する
《なんと!生き残ったと言うのですか!》
驚きの声を上げるベルフェゴール・・・今度は演技ではなさそうじゃ
ワシが振り返るタイミングでロウニールは手を離すと大地を蹴り一直線に向かって行く
その際に背中をトンと押された気がした
見えてないのによくまあ・・・じゃがそのお陰で足が軽い!
ベルフェゴールは動かず狼狽えている様子・・・このまま届けば・・・いや届かせる!
右手に血を集中させる
全てを注ぎ込むように・・・
だが
《芸の無い・・・耐えたのは見事ですがこれしかないのですか?貴女は》
霧が晴れた・・・ベルフェゴールはすぐにワシを捉え身構える
失敗・・・いや、最短で突っ込んだからこそまだ望みはある!
「ベルフェゴール!!」
《吹き飛びなさい・・・ヴァンパイアハーフよ》
手をワシに向け魔力を放とうと・・・
間に合わぬのか・・・これでも・・・届かぬのか・・・
「うおおおおぉぉぉ!!」
もう考えまい
全てを懸けてただ突くのみ!
ベルフェゴールに手のひらを向けブラッドソードを作り出す
しかし奴の放った魔力が凶風となりワシの体を押し戻し更に足を宙に浮かせた
それでも・・・それでも!!
「届け!!」
《無駄で・・・っ!》
押し戻され到底届く距離ではなかった
なかったはずなのに・・・ワシの剣はベルフェゴールを貫いた
それは・・・
「名付けて『ゲート剣』」
振り返るとロウニールはしたり顔で技に名前を付けていた
ゲート剣・・・ワシの剣を飲み込み奴に向けて吐き出した技
ただ単純に小さなゲートをワシの前からベルフェゴールの胸元に繋げたものだがワシを吹き飛ばし油断していた奴には効果絶大だった
《何が・・・貴様は誰・・・どうして『ゲート』を・・・》
「教えてやるもんか・・・黙って死ね」
辛辣じゃなロウニールは
ともかくこれでワシらの勝ちじゃ・・・さすがに胸を突かれては生きてはおれまい
剣を抜くとベルフェゴールの胸から血が溢れ出る
あの血を飲めばもう少し強くなれるか?・・・いや、やめておこう・・・奴の血を飲んだら病気になりそうだ。それに奴の血を飲んで強くなれたところでちっとも嬉しゅうないしな
《よくも・・・よくも・・・だからヴァンパイアは嫌いなのだ・・・魔王様の寵愛を受けるのはワタクシだけで充分・・・なのに奴は人間を支配し魔王様を満足させる・・・何が魔眼だ・・・あんなもの・・・今度こそ魔王様が復活する前に奴を仕留め魔王様に会わせぬよう・・・》
「いや早く死ねよ・・・てかその魔王様はもういないぞ?」
やはり辛辣じゃな
ベルフェゴールはロウニールの言葉を聞き怒り狂うかと思うたが目を点にし固まってしまった
《・・・・・・・・・え?》
溢れ出る血を気にすることなく真っ直ぐにロウニールを見つめて小さく声を出した
「だから・・・魔王は死んだの!なんで知らないんだ?・・・・・・・・・あー、お前ダンジョンにいなかったな?魔王が死んだ時。だから知らなかったのか」
《何を言って・・・まさか貴様・・・勇者・・・》
「違う違う・・・・・・お前『探求』が使えるんだろ?なら探し求めてみろよ・・・力を弱めてやるからさ」
《・・・・・・・・・》
呆れた様子でロウニールは言うと力を弱めると言って体を包み込んでいた魔力を消し去った
なるほど・・・ああやって魔力を纏いベルフェゴールの攻撃を防いでいたのか
そしてそれは奴の能力までも防いでた、と。奴はワシの事を見ただけで名前を知ったと言いおったからその力を使って今はロウニールを知ろうとしているのだろう
《・・・ロウニール・ローグ・ハーベス・・・そんな・・・まさか・・・嘘です・・・嘘・・・嘘だぁ!!》
「嘘の3段活用・・・だと?」
「お主はもう黙っとれ!・・・最悪じゃ・・・まだ終わっておらん!」
胸に穴があき死に体と思っておったが叫ぶと同時にまたあの肥大化が始まり傷口を塞いでしまった
もはや打つ手はない・・・せめてロウニールだけでも逃がさねば!
「ロウニール!ブラッドミストを使う!使った瞬間に逆方向に走るのじゃ!」
《させるかぁ!!2人共いや人間共全て滅ぼしてくれるわぁ!!》
血はもうない・・・溜めた血は
じゃが生命活動を維持するだけの血を残したのが幸いした・・・あと幾許もないがほんの一瞬奴の目を眩ませるくらいなら・・・
「シア待て!」
え?
「そしてお前は・・・少し黙ってろ!」
えぇ!?
肥大化したベルフェゴールに向かってロウニールが飛んだと思ったら生えてきた角と角の間に・・・ゲンコツを食らわせた
ベルフェゴールは頭を首にめり込ませ白目を向いて後ろに倒れてしまう・・・その様子を見て何故かワシまで頭を隠した
恐ろし過ぎる・・・ロウニールのゲンコツ!
「・・・ふぅ・・・ビックリした」
「ワシがじゃ!てかどんだけ凶悪なんじゃお主のゲンコツは!」
「・・・『魔拳骨』と名付けよう」
「知らんわ!」
くっ・・・血が足りん・・・
まだ奴が起き上がって来ぬとも限らない・・・ここで倒れる訳には・・・
立ち眩みを起こし顔を手で押さえていると何かにぶつかる
何かと思い顔を上げるといつの間にかロウニールが目の前に・・・
「ほれ」
「・・・なんじゃ?」
「飲め・・・但し少しでも入れやがったらゲンコツだ。まあ僕には隷属化は効かないけど」
腕を差し出し飲めと言う
自ら血を差し出されたのはいつぶりか・・・
「もう少し美男子の血が良かっ・・・分かった分かった!拳を握るな!・・・ったく・・・冗談も通じぬとは・・・」
腕を前に一瞬躊躇う・・・しかしこのままでは倒れてしまうとそっと口を開け腕に噛み付いた
「ん・・・結構痛いな・・・思わず殴りそうだ」
「~~~!ふぁふるふぁふぁふるふぁ!」
「いや意味分からん・・・ふぁふるふぁってなんだ?」
こやつだけは・・・・・・・・・血は美味いが性格に難ありじゃな
普通に歩けるくらいまで血を貰い口を離すと腕から少しだけ血が滴る
それを舌で舐めていると視線を感じたので顔を上げると・・・物凄く嫌そうな顔をしているロウニールと目が合った
「お前・・・さすがにそれはお里が知れるぞ?」
くっ!こやつには料理を乗せた皿を舐めるように映ったようだ・・・そこまでワシは卑しくない!
「垂れたら服に血が着くと思うて・・・もういい!充分じゃ!」
「ご馳走様は?」
「・・・お粗末様」
「このっ・・・お前には二度とやらん!」
フン!こっちこそお断りじゃ!・・・これ以上恩を重ねたら何百年経っても返せる気せんわ!
「・・・最後に血を入れて試してやろうとしたがやめじゃやめじゃ・・・お主のような隷属は要らんしな」
「なんだそんなにゲンコツを食らいたいなら早く言ってくれればいいのに・・・さあ頭を出せ」
冗談じゃない!あんなの食らったらワシの頭がケツから出て来るわい!
血を吸ったお陰で体力を取り戻したお陰で何とか追い付かれずに逃げ切った
ようやく追いかけっこが終わったのはベルフェゴールが起きたお陰だ。まだ生きているとはしぶとい奴じゃ
《・・・》
元の姿に放心状態で立ち尽くすベルフェゴール・・・隙だらけの状態で追いかけっこをしていたワシらが見えてないように思える。そう言えば『魔王の寵愛』とか薄気味悪い事を言っておったからその魔王が存在しないと知りかなりショックを受けておるのだろう
それにロウニール・・・この男の底が知れぬ・・・ゲンコツ一発で魔族ベルフェゴールを倒してしまうのだ・・・まあ魔王を討伐したと言うておったしこれくらいは当然なのか?
さて・・・どうするべきか
このベルフェゴールは信用ならぬ・・・だからと言って今の状態でもワシは敵わぬじゃろう。ロウニールに委ねるしかないのだが・・・
「識る事が出来た感想は?」
げっ・・・こやつ・・・失意の奴に何という言い草じゃ
《・・・魔王様の最期は・・・》
「ん?・・・何か褒められたな・・・『見事だ』って・・・あとは僕の事を『魂の解放者』とか何とか・・・」
《・・・本当に輪廻を断ち切ったのですね・・・勇者との因縁は終わりを告げた・・・ワタクシはとうとう理解出来なかった・・・楽しげに勇者を待つ魔王様の気持ちが・・・》
「誰も理解出来ないだろ?そんなの。・・・まあ相手の勇者は理解出来たかも知れないけど」
《誰も理解出来ない?》
「てか理解する必要あるか?魔王の気持ちなんて。お前はお前で魔王は魔王だろ?逆に理解出来る方が気持ち悪いわ」
《・・・それでもワタクシは理解したかった・・・魔王様のお気持ちを・・・理解したかったのです・・・》
「ならお前も誰かに因縁を持てばいいんじゃないか?そうすればお前も少しは理解・・・」
《だ、誰と因縁を持てば良いのですか!?》
うわぁ・・・凄い食い付き・・・どんだけ魔王を理解したいのじゃコイツは
「し、知らんがな・・・コラ肩を揺らすな・・・てかお前魔王を殺した僕に何か思う事ないのかよ!」
うむ・・・そう言われてみればそうじゃな。何か普通に話しておるがさっきまで『人間共全て滅ぼしてくれるー』と言ってた者と同じ人物とは思えんのだが・・・
《・・・喪失感のあまり取り乱しましたが魔王様が負け貴方様が勝った・・・それだけです。それ以上でも以下でもありません。それと何より先に識りたかったのに今の今まで識る事が出来なかった自分が許せず・・・つい》
『つい』で滅ぼされたら溜まったもんじゃないのう・・・やはりこやつは危険じゃ・・・落ち込んでいる様を見ると少し気が引けるがやはりここで始末するべき・・・
《ロウニール様!ワタクシを貴方様の幕下に加えてもらえませんか?》
「あん?」
「なぬ!?」
《ワタクシは誰かの上に立つ度量は持ち合わせておりません。誰かを支える事で真価を発揮する者と自負しております。魔王様亡き後、ワタクシが支えるべきは魔王様を倒されたロウニール様・・・貴方様しかおりません!》
「えぇ・・・本気で言ってんの?」
ま、まずい・・・ロウニールはこやつの本性を知らんはず
人の事をコソコソ調べ傷口を抉るような奴じゃ・・・ここで始末しなければ後々ロウニールが痛い目を見る!
「ベルフェゴール!こやつは人間ぞ?お主は魔族じゃろ?魔族が人間に降るなど・・・」
《ワタクシは本気です!ロウニール様!もし幕下に加わる事をお許し頂けるのなら何でも致します!体の一部を差し出せと言われればその通りに!内臓でも眼球でも腕でも足でも!》
うわぁ・・・ワシになんて目もくれず懇願するベルフェゴール・・・今この場での生殺与奪の権利はロウニールにある・・・ここで奴の本性を言うべきか・・・しかし言い終わる前に死に物狂いでワシを殺しに来そうじゃな・・・くっ・・・どうすれば・・・
「・・・いいよ」
「ロウニール!」
「けど条件がある。シアに謝れ」
《シア・・・ここにいるレファレンシア・オートニークス・エムステンブルズにでしょうか?》
「よく覚えられるな・・・そうだ」
バカな・・・こやつなら謝るくらい平然と・・・いや、待てよ・・・こやつは女を軽蔑しておる・・・女に頭を下げるくらいならと・・・
《レファレンシア・オートニークス・エムステンブルズ・・・申し訳御座いませんでした》
謝りおった──────




