474階 永遠の命
「・・・それで名前は?」
「・・・ヒック・・・ヒック・・・」
「名前・・・聞いてる?人の話」
「煩いこの不埒ものが!よくもワシの頭を叩きおったな!」
「名前」
「こ、拳を握るな拳を!・・・レファレンシア・オートニークス・エムステンブルズじゃ」
「レファ・・・なんだって?」
「レファレンシア・オートニークス・エムステンブルズじゃ!」
「・・・なあシア」
「誰がシアじゃ!ワシは・・・ハアもういい・・・何者じゃお主は。こんなに痛いゲンコツを食ろうたのは初めてじゃぞ?」
「人の彼女を眷族にするとか言うからだ・・・それに質問するのはお前じゃなくて僕だ・・・お前は何者だ?」
ダンコからヴァンパイアハーフと聞いているけど実際にそうなのか。それと何を企んでいたのか・・・転がっている冒険者達とは仲間ではないみたいだけど・・・
「ワシは・・・ヴァンパイアじゃ」
「・・・本当に?」
「フン!恐れをなしたか!魔族の貴族であるヴァンパイア!それがワシの正体じゃ!」
魔族の貴族?なんだそりゃ
「ヴァンパイアハーフじゃなくて?」
「っ!・・・お主一体・・・」
「『本当に?』って聞いたよな?まさか嘘を・・・」
「いや!小さく『ハーフ』と言っておった!お主が聴き逃しただけじゃ!だから拳を握るな!」
ダンコの言う通りヴァンパイアハーフか。てかコイツ・・・シレッと嘘つきやがって・・・
「とりあえず嘘をつかずに全て話せ・・・それからどうするか決める」
「・・・なんじゃ幼気な少女を痛ぶるつもりか?」
「話せ」
「・・・」
ヴァンパイア、レファ・・・シアは200年は生きているというバ・・・お婆さんだった
見た目が若いのはヴァンパイアハーフの能力によるもので人間の血を吸う事で若さを保つ事が出来るのだとか・・・現在は飲み過ぎて若くなり過ぎて少女の姿をしているが昔はもっとムチムチのボインボインだったらしい・・・よく分からん
で、何をしていたかと言うと冒険者に買われて連れて来られたのは本当なのだとか・・・ただ売られたのも自分から『魔眼』を使ってやった事だし買われた後に何をされるかで殺すか生かすか決めようとしていたらしい
「どうしてわざわざ買われたりしたんだ?」
「クズを探すにはもってこいだからじゃ。少女趣味もそうじゃが人間を買い好きなようにする者を殺して何が悪い?この人間達もワシをゴブリンなんぞに襲わせてそれを見て楽しもうとしていたらしいからの・・・清々しい程のクズで笑いを堪えるのに必死じゃったわい」
「何の笑いだ何の・・・まあそれはいいとして・・・クズを探してなぜ殺す?正義の味方のつもりか?」
「人間世界に溶け込み続ける為じゃ。クズを殺しても誰も責めはせぬ・・・むしろ感謝されるくらいじゃ。逆に善人を殺せば人間は殺した者を血眼になって探すからのう・・・」
「経験アリって面だな」
「・・・やむなしじゃった・・・魔族と疑われ必死に生きようと足掻き・・・」
「そっか・・・で?クズを探すようになったと」
「?責めぬのか?」
「責める資格がない・・・身に覚えがあるからね」
5万人の中には命令だから仕方なくって人も大勢いただろう・・・いや、考えるのはやめておこう・・・
「ふむ・・・今度はワシから質問して良いか?」
「どうぞ」
「名はなんと申す?」
「ロウニール・ローグ・ハーベス」
「なぜワシがヴァンパイアハーフと分かった?」
「マナがあるから・・・魔族であるヴァンパイアなら魔力しか使えないだろ?」
「・・・ならばお主はなぜ魔力を使える?マナで魔力を使う人間は見た事がある・・・が、お主は魔力自体を使っているように見えたが・・・お主もまさか・・・」
「いや、普通に人間同士の子供だし祖先にも魔族はいないと思う」
「ならばなぜじゃ?」
「うーん・・・まあシアになら話してもいっか」
境遇的には似ているものがあるしヴァンパイアハーフなら僕の事を他人に言いふらしたりはしないだろう・・・自分が言いふらされたら困るだろうしね
という訳で会って間もないはずなのに妙な親近感を覚えて僕はこれまでの経緯を説明した
5歳の時から魔王の事まで・・・これまでに至る全ての事を
「サキュバスの魔核を飲み込み同化してダンジョンを作りあまつさえ魔王を復活させその魔王を倒したじゃと?・・・成人していると思いきや夢見がちな少年か!?」
「夢じゃないって。もちろん魔王は単独で倒したのではなくみんなの協力があったからだし効いたのは最後の攻撃だけ・・・マナと魔力を同時に出してそれをぶつけて・・・」
「待て待て・・・マナと魔力をじゃと?」
「え、うん」
「相反する力を同時に出せたとしてもぶつければ弾かれるはず・・・それでどうやって魔王を?」
「ひとつの剣の中にマナと魔力を込めて無理矢理くっ付けたって感じかな?」
「なるほど融合させたか・・・それならば可能なのか?いやしかし無理矢理融合させたら反発力はかなりのものに・・・それが破壊力を生み魔王を?・・・試してみるか・・・」
そういえばシアもマナと魔力を使えるから出来るっちゃ出来るのか・・・でも・・・
「少しでも失敗したら弾け飛ぶらしいぞ?自分が」
「さ、先にそれを言わんか!」
指先にマナと魔力を込めてふたつの指をくっ付けようとしていたので忠告してあげると慌てて指を離した
マナと魔力の力を拮抗させて無理矢理ひとつに・・・反発する力は膨れ上がりとてつもない力を放出する・・・あの時少しでも届くのが遅れたら魔王を斬り裂く前に剣は砕けていただろう・・・斬った直後に砕け散ったし
「・・・まあ人間には無理な話よな。そもそも魔力を使えぬし・・・無理矢理マナで魔力を使う者と会うた事はあるがあれも充分危険なニオイを出しておった・・・下手すれば飲み込まれかねん」
シークスとセンジュが使ってたけど確かに危うい力に感じたな・・・その分強力だったけど
「ワシを軽くいなしおったしマナと魔力を使えるのも分かった・・・嘘をつく理由も見当たらぬし・・・信じられんが信じるしかないようじゃな。それで・・・ワシをどうするつもりじゃ?」
「・・・なぜスラム街に?」
「スラム街は皆生きるのに必死でのう・・・他人の事に関心を寄せる暇などない程に。じゃから見た目が変わらぬ者がいても気にする事はない。それにたまに向こうから襲って来てくれるしのう・・・血を自ら提供してくれる輩が多いのじゃ」
「血がないと死ぬのか?」
「そんな事はない。若さを保つ為に血が必要なだけじゃ」
「殺す必要は?」
「ない・・・が、血を吸わせてくれと言って素直に応じる者がいると思うか?」
「・・・いない・・・かな」
さすがにいないよな?血を吸わせてくれるなんて人・・・いやワンチャンいるかも・・・探すのは無理そうだけど
「まあそんなに毎日必要とするものでもない。少量なら1週間間に一度程度・・・今日みたいに大量に摂取出来たら半年くらいは保つ」
「飲まないと歳を取るだけなのか?」
「たまに飲みたくなるが・・・まあそうじゃな。それと『ブラッドミスト』のような能力を使っても血は減るが・・・まあ使わなければ減りはしないからのう」
「で?生きてる者の血を吸ったら吸われた者はお前の眷族に?」
「ん?いや逆じゃ。吸うのではなく逆にワシの血を入れる事により眷族化するのじゃ」
「じゃあさっき噛み付いて吸おうとしたんじゃなくて・・・」
「うむ。牙からワシの血を入れようとしたのじゃ」
便利な牙だな・・・吸う事も吐き出す事も出来るのか・・・
〘それ・・・隷属化だから〙
〘隷属?〙
〘眷族が家族なら隷属は主人と奴隷の関係みたいなもの・・・全く違うわ〙
〘マジ?〙
〘大マジよ。ヴァンパイアは自らの血を入れて強制的に言う事を聞かせるの・・・まあアナタなら抵抗出来るから問題ないけど普通の人間なら抵抗は難しいと思うわ〙
んの野郎・・・僕が知らないと思って・・・
「ん?どうした?ワシの眷族になりたくなったか?なりたいのなら特別に叶えてやらん事もないぞ?眷族となれば力も増すし魔眼は使えぬがある程度の能力も得られるし何より定期的にワシが血を入れれば不老不死も可能・・・」
「シア・・・眷族化じゃなくて隷属化だろ?」
「・・・」
「そうかなるほど・・・どうやらおかわりが必要らしいな。この欲しがりさんめ」
僕が拳に息をかけにじり寄るとシアは狼狽えながら後退る
「ゲンコツはイヤ・・・ゲンコツはイヤァァァ!」
「・・・ヒック・・・ヒック・・・」
既視感のある光景・・・少女の姿で泣かれると若干心が痛むな
「ハア・・・200年も生きててゲンコツ程度で泣くなよな」
「痛いものは痛いんじゃ!ワシじゃなかったら死んどるぞ!?年寄り扱いするなら労われ!」
「中身も外見も躾の必要な子供にしか思えないけど・・・まさかまだ嘘を・・・」
「ついておらぬわ!・・・この格好をしておると皆少女として扱ってくるからな・・・それが続くとワシの中で『あら?ワシ本当に少女なんじゃ?』という気持ちが芽生えてくるのじゃ」
「なんだそれ・・・で?今まで何人の人間を隷属化させてきたんだ?」
「・・・」
「嘘はつくなよ?」
「分かった分かった一々脅すな。2人じゃ」
「その2人は?無理矢理隷属化させたのか?」
「違う!・・・初めの1人はまだ隷属化など知らずに・・・ただ本能的に自分の力を分け与えたいと思うたから血を注いだ・・・」
「2人目は?」
「自ら望んだから隷属化した・・・どうなるか1人目で分かっておったし全て話した上で・・・じゃが・・・」
「今はいない・・・か。不老不死は嘘だった?」
「嘘ではない!・・・自ら望んだのじゃ・・・生の呪縛から逃れたい・・・そう願ったのじゃ」
「死ねない事に飽きたのか?」
「そうかも知れぬし・・・ただワシに飽きたのかも知れぬ・・・2人はワシの恋人じゃったからな」
「・・・」
「そんな目で見るな!その時はちゃんとムチムチボインボインしておったわ!・・・恋人が出来れば他の人間から摂取せずに済む・・・ワシは彼から貰い彼はワシから注がれる・・・そうやって永劫の刻を共に過ごせる・・・そう思っておったのに・・・」
「2人共死を望んだ・・・か」
「うむ。1人目は仕方ない・・・望んでなった訳ではないしな。周りが年老い死にゆくのに自分は歳も取らず周りが死んでゆくのを見ているだけ・・・傍にはワシ1人・・・徐々に精神が蝕まれ最期は恨み辛みを叫び死んでゆきおったわ」
「・・・」
「2人目は永遠の愛を誓い合った仲であった・・・それでも1人目の事がありなかなか言い出せず・・・ワシがなかなか歳を取らぬのを訝しんだのをきっかけに意を決して全て話すと受け入れてくれた・・・喜んでくれたのじゃ・・・じゃがそれも長続きはしなかった・・・しばらくは歳を取りながら居着いた場所で生活出来る・・・が、若返る度に生活する場所を変えねばならぬから長くは居れない。段々と移住するのが煩わしくなり2人の時を過ごしていると・・・まあ結果はお察しの通りじゃ」
他人事には思えない・・・僕ももしかしたらシアと同じく不老不死になってしまったかもしれない・・・いや、多分なっているのだろう
けどサラは・・・
「・・・もしやお主も?」
「多分ね・・・けどサラは・・・僕の恋人はお前の2人の彼氏と同じく人間だ。彼女は歳を取り僕は・・・」
「・・・ならばワシがその者を不老不死にしてやろうか?」
「おい」
「早合点するでない・・・隷属化したとしても何も命令しなければ普通に過ごせるし束縛などなく自由じゃ・・・ワシの恋人が死を望んだように・・・な」
そうか・・・隷属化した相手を強制的に生かし続けようと思えば出来たはず・・・それに死を考えさせない事も可能だったはずだ。けど彼女はそれをしなかった・・・あくまで隷属化は生き長えられる手段として・・・
「どうじゃ?ワシなら出来る・・・未来永劫その者と歩ませる事が出来るのじゃ。考えるまでもあるまい・・・ワシの手を取れ・・・さすればその者に永遠の命をくれてやろう──────」




