473階 ハーフ
頭に乗せた手を払い除け憎々しげに僕を睨みつける少女・・・一瞬何が起こったのか理解出来ず頭の中が真っ白になる
「あー台無しじゃ台無しじゃ・・・か弱き少女と偽りギリギリまで期待させといてゴブリン共を一掃し間抜け面の冒険者共を喰らうてやろうと思っておったのに・・・興醒めじゃ」
〘・・・ダンコ・・・彼女が何を言っているか理解出来るか?〙
〘ええ・・・どうやら演技だったようね今までのは〙
〘って事は変装?じゃなくて変身か?〙
〘さあそこまでは・・・聞いてみれば?〙
聞く・・・いや、もうなんかごめんなさいしてこの場を離れたい気持ちでいっぱいなんですが・・・
ちょっと自分でも振り返るとクサイ感じの登場だったしそれを邪魔とか言われるし手は払い除けられるし・・・穴があったら入って蓋をするレベルで恥ずかしい・・・こんな事なら仮面をかぶって出て来るんだった・・・
「お、お前何者だ!」
おぉ・・・冒険者達はまともな反応だ・・・普通こうだよな?突然現れたとはいえ助けてくれた感じの人に対して邪魔だとは言わないはず・・・コイツらは実際邪魔された訳だから文句を言うのは頷けるけどこの子は一体・・・
「何をジロジロ見ておる・・・ほらあの者達が問うておるぞ?さっさと答えぬか」
ボロボロの布切れを着込みアイツらにやられたのか生傷をいくつもつけながら腰に手を当て偉そうに言う少女・・・見ていて不安になるしこの少女こそ『お前何者』状態なのだが・・・
「答えろ!何者だ!・・・もしかしてそのガキと共謀して俺達を・・・嵌めやがったのか!」
いやいや全然・・・初対面と言うか関わりたくないと言うか・・・
「おい・・・」
冒険者の1人が他の奴らに目配せすると全員頷き各々の武器を抜き構える
答えない僕に焦れて・・・と言うよりとりあえず怪しいから殺しとくかって感じだな
分かりやすい・・・非常に分かりやすくて好感が持てる!
「くっくっ・・・行動が予想通り過ぎて笑えるのう・・・さてと・・・これからどう楽しもうか・・・」
ヤダもう何この子・・・全力で逃げたい
・・・いや、もしかしたら恐怖のあまりに気が狂ってしまったのか?それで現実逃避して・・・
「ね、ねえ・・・」
「今喋りかけるでない!・・・一人ずつ・・・いや全員を・・・」
怒られたし!ブツブツ何か言い始めたし!
「・・・まあいい・・・今回は失敗として次回に活かすか・・・」
そう呟くと少女は武器を構える冒険者の元にトコトコと歩き始めた
なんだろう・・・強く見えないのに全然危ないと感じない
「ガキィ!てめえはすっこんでろ!!」
「ワシがガキじゃと?ならお主らは赤ん坊にも満たないぞ?」
へぇそうですか・・・ってまさか!?
〘ダンコ!もしかしてあの少女・・・魔族?〙
〘多分違うわ。見てみれば分かるけどマナを感じるし〙
マナを?なら彼女は一体・・・
「チッ!狂ったか・・・もういい!ガキ共々アイツを殺っちまうぞ!」
どうする?少女が何をしようとしているか気になるけどもし見た目通りただの少女だったら・・・くそっもう知らん!
マナを足に纏い地面を蹴ると冒険者達に突進する
突然動いた僕に驚き構えるがもう襲い・・・ゲートを開き剣を取り出すと1人目の首を刎ねた
「なっ!?て、てめえ!!」
サラやディーン・・・それにアルオンと比べるのもおこがましいレベル・・・冒険者と言ってもC・・・いやDランクくらいか?魔力を使うまでもない
あっさり2人目3人目と息の根を止めると最後の1人を足払いで倒して胸の辺りに剣を突き立てる
「ま、待て!待ってくれ!誤解だ・・・俺達は別に・・・」
「いやいや誤解だとしても仲間を殺した僕に命乞いするなよ・・・殺された奴らが仲間ならな」
「え?・・・な、仲間じゃない!た、たまたま一緒に・・・」
「そうか・・・」
「あ、ああ!だから別にアンタを恨んじゃいな・・・ガッ・・・ちょっと・・・刺さってる刺さってるって!」
「せめて最期くらい『仲間をよくもー!』くらい言ったらどうだ?そしたら・・・まあどっちにしろ殺すけど」
「て・・・てめぇ!!ガブッ!!」
剣を握る手に力を込め押し込むと最後の1人も簡単に死んでしまう・・・
人を殺したのに何も感じない・・・むしろ清々したような・・・相手が悪人だからか?それとも・・・
〘ロウ・・・あの子・・・〙
あっ!そうだ・・・よく分からん少女!存在をすっかり忘れ・・・・・・・・・え?
振り返り見ると少女はいた
僕が首を切り落とした死体の前で
首から出る大量の血を啜り僕の視線に気付くと顔を上げニッコリ少女らしい笑みを見せる
「なかなかやるのう・・・ワシの獲物を奪った罪は水に流そう・・・血はワシが貰うがな」
「・・・ど、どうぞ」
思わず答えてしまったけど・・・この少女は一体・・・もしかして余程喉が渇いてて・・・
〘そんな訳ないでしょ?多分この子・・・ヴァンパイアよ──────〙
ヴァンパイア・・・確かセシーヌ達聖者聖女の『真実の眼』は『魔眼』と呼ばれる能力を使うヴァンパイアが元になってるとか・・・そのヴァンパイアが・・・この少女?
〘正確にはヴァンパイアの子ね・・・ヴァンパイアハーフと呼ばれて昔は沢山いたそうよ〙
〘ヴァンパイアハーフ・・・だからマナを感じられたのか・・・〙
魔族と人間の子・・・ソニアさんと同じって訳か
しかし・・・死体から出る血を啜る姿を見てると魔族と人間の子と言うよりゴブリンの子の方が近いような・・・
「フゥ・・・これで暫くは保つか・・・待たせたのう」
どうやらお腹いっぱい?になったヴァンパイアハーフの少女は口元に付いた血を腕で拭うと僕に振り返る
「・・・なんじゃ?そんなにマジマジと見つめおって・・・ワシの顔に何か付いておるか?」
「血がたっぷり」
「むっ!?拭うたと思ったが拭いきれてなかったか・・・久しぶりの血に興奮してしまったからのう・・・ところでお主」
「はい」
「なぜ冷静でおられるのだ?そこそこ衝撃的な場面に出会したと思うのだが・・・」
「初めはビックリしたけど余程お腹が空いていたのかと・・・」
「んな訳があるか!・・・ふむ・・・不思議じゃのう・・・そこそこ腕が立ちワシの食事を見ても驚かぬか・・・・・・・・・どうじゃお主・・・ワシの眷族にならぬか?」
「お断りします」
「即答か・・・眷族とは何かとか疑問に思う事はないのか?そもそもワシが何者か聞きもせぬし・・・ちぃと危険じゃのう・・・お主・・・」
うん?少女の黒目の部分が縦長になり色が赤く変わった・・・もしかしてこれが『魔眼』?
「強制はしたくなかったが仕方ない・・・まあ悪いようにはせぬ・・・ワシに尽くせば今以上に強くもなれよう・・・ただ束縛はさせてもらうがな」
そう言うと少女は僕の前まで歩み寄り飛び上がると首筋に口を近付け・・・
「ズホッ!」
噛み付こうとしたのでゲンコツを落とすと奇妙な声を上げて地面に落ちた
「いやいや何しようとしてくれてんだ?」
「???・・・お、お主・・・何ともないのか?」
「何ともって?」
「確かに動きを止めたはずじゃ・・・なのになぜ・・・なぜ動けるのじゃ」
動きを止める?何言ってんだこいつ
〘『魔眼』を使ったのよ。ヴァンパイアの『魔眼』は弱いけど色々便利なのよね・・・相手を動けなくしたり見透かしたり魅了したり・・・弱いけど〙
〘弱いけど2回言ったよこの人・・・そんなに弱いのか?〙
〘普通の人間になら通じるんじゃない?魔物も中級くらいなら支配出来るかも・・・ただまあその程度よ〙
〘・・・ヴァンパイアに何か恨みでもあるのか?〙
〘・・・ないわ〙
あるなこれは
ともかくこのヴァンパイアハーフっ子は僕の動きを止めて首筋に噛み付こうとしたのは事実
見た目が少女だからあまり気が進まないけど躾は必要だよな
「ほうワシとやる気か?動きを止めたと思うて油断して先程は食らいはしたが止められぬと端から分かっておればお主の攻撃なんぞ食らいはせぬ・・・それが分からぬとはお主もたかが知れとるのう」
両手を広げながら呆れた様子でため息をつく・・・躾にちょっと力が入りそうだ
「・・・とりあえずその言葉遣いから直さないとな・・・目上の人にはちゃんとした言葉を話せと習わなかったか?」
「目上?フンどこに目上の者がおると?お主こそ人を見た目で判断するなと教わらなかったか?」
「どういう意味だ?」
「さあのう・・・知りたくばワシの老練さを感じ答えを出してみよ!」
少女は言うと真っ直ぐに突っ込んで来た
身長が僕の半分くらいの少女・・・元から小さい彼女が体を低くして突っ込んで来たので軽く合わせるように蹴りを放つ・・・が、彼女はその蹴り足に手を乗せ飛び越えると更に速度を上げて間合いを詰め拳を振り上げた
足が上がった状態で体勢が崩れていた僕は躱す事が出来ないと腕を上げ少女の拳を受け止める・・・が
「ぐっ!・・・いってぇ!!」
鋭く・・・そして重い
骨が折れたかと思うくらいの衝撃に思わず声を上げると少女はニヤリと笑い目の前から姿を消した・・・いや、正確には見えなくなった
「これは・・・」
「『ブラッドミスト』じゃ・・・この中ではお主はワシの姿は見えずワシからはお主の姿が丸見え・・・これが何を意味するか分かるか?」
「・・・まったく!」
「・・・ならば身をもって知るがいい・・・」
見えないだけじゃなく気配すらも消えた
確かに厄介だけどこれって・・・
「サラ直伝・・・『風鳴り』」
まあ直伝と言いつつ何度も見て覚えただけだけどね
霧なら風で拭き飛ばせばいい・・・そうすれば・・・
「くっくっくっ・・・風魔法如きでワシのブラッドミストは・・・・・・・・・」
「・・・」
血の霧とやらは『風鳴り』でキレイさっぱり無くなってほくそ笑む少女が丸見えになっていた
「・・・ハッ!なぜじゃ!なぜ・・・」
パンチ力は可愛げないけどちょっとこの少女が可愛く見えてきた・・・特にこの狼狽えようが
「っ!おのれ人を小馬鹿にしおって!その薄ら笑いをすぐに止めさせてやる!」
手に魔力を!?あの威力に魔力が加わったらさすがに骨が折れるどころか腕が千切れ飛ぶ!
「があぁぁぁ!!」
いや怖っ!
魔眼の状態でなりふり構わず襲い来る少女に恐怖し思わず叩き落としてしまった
軽く・・・本当に軽くだ・・・ペチッて音がするくらいの軽さで頭を叩いただけで物凄い勢いで地面に突っ込んだ少女・・・傍から見たら虐待?しかも少女に?・・・証拠隠滅しとくか・・・
「ブハッ!貴様よくもワシを・・・・・・なんじゃその足は」
「いや今の事を言いふらされたら僕の評判が・・・だから踏み潰そうかなって」
「お、恐ろしい事をサラッと言うな!」
「サラ?」
「サラッとじゃ!・・・ほう・・・少し視えたぞ?『サラ』か・・・お主の想い人のようじゃがそやつからワシの眷族に・・・」
・・・
「ま、待て・・・じょ、冗談じゃ冗談・・・いやそもそもお主なんで魔力を・・・」
「誰を眷族にするって?」
「いや聞いておるか!?冗談と言うておろう!・・・待て近付くな・・・待てと言うておろ・・・うがぁ──────」




