表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
475/856

471階 ロウニールVSアルオン

リガルデル王国王城内執務室


そこに集まるは同国国王フォーデム・サーザント・リーブル、同国宰相ハムナート・エイザ・クモクス、同国将軍アルオン・マダスト・エシリス、同国冒険者ダンテ・キノキスの4人


フォーデムは自らの椅子に深く腰かけ、残り3人は部屋に備え付けてあるソファーに座りある執事の話に耳を傾けていた


「『かくれんぼ』・・・だと?」


「はい。庶民の間・・・それも幼い子供が行う遊びでして2人以上の人が集まり1人以外が決められた範囲内で隠れ、1人が隠れた人を探す・・・そういった遊びで御座います」


「それを部屋で行ったと?」


「はい。メイドの話では特殊なルールでして探すのは選ばれたメイドの2人・・・隠れるのは公爵様お1人だったと聞いております」


「そして朝まで探せなかった・・・か」


「はい。ルールは至って簡単でして公爵様を見つければ終わりというもので御座います。ただ他にもいくつかルールが御座いまして・・・」


「申してみよ」


「はい。①制限時間なし②探している間何をしても可③何か食べたい物や飲みたいものがあれば公爵様の名前を使い頼む事④寝る時はベッドを使う事⑤眠くなったら寝る事⑥諦めが肝心・・・と言われたそうです。そして付け加え『遠慮はフーリシア王国では無礼に当たるので遠慮するな』とも言われたようです」


「・・・他には?」


「いえ、その他は特には聞いておりません」


「確認する・・・その2人のメイドに一切手は付けなかったのだな?」


「はい。ですが朝方私に『昨日は楽しかったので2人に褒美を与えてくれ』と」


「分かった。その方は下がれ」


ファーデムは執事を退室させしばらく目を閉じ立ち去った執事の言葉を反芻すると目を開きある人物を見た


「ハム・・・どう見る?」


ハムと呼ばれたリガルデル王国宰相ハムナートはコクリと頷き自分の考えを口にする


「結論から申しますと御しやすいかと」


「ほう・・・その理由は?」


「執事と11人のメイドにはある事を伝えておりました。『誰も選ばれなかった場合一族郎党皆殺しにする』という内容です。そしてこの事は公爵には伝えるなと申しておりました。公爵の反応は想定内・・・その中でも最も貴族らしからぬ反応をしております」


「具体的には?」


「想定出来た反応は様々でして『用意した中から選ぶ』、『用意した以外の者を指定する』、『誰も選ばない』が主な反応でしょう。話に聞くと公爵は『誰も選ばない』を選択した後に『用意した中から選ぶ』に変更しております。この事から欲が少なく情に厚い人物である可能性が高くなります」


「ふむ・・・なぜ彼奴は変更した?その変更が情に厚いと言わしめる理由か?」


「仰る通りです。変更した理由はおそらくメイド達を想っての事だと思われます。言えずとも顔に出すなとは言われておりません・・・公爵が『誰も選ばない』を選択した瞬間にメイド達の表情の変化を読み取り変更したのかと・・・」


「なるほど・・・確かに貴族らしからぬな・・・この国にメイドの行く末を思いやる貴族が何人いるか・・・」


「皆無でしょうな。それに欲も少ないかと・・・操を立てるというのは聞こえはいいですが権力への執着や性欲が気薄な事も伺えます。小国の公爵と言えど金銭も潤沢であるでしょうし・・・権力欲、金銭欲、性欲が気薄であれば餌で釣るのは難しいと言えるでしょう」


「ふむ・・・既に満たされているのかそもそも欲がないのか・・・どちらにせよ一筋縄では行かぬな。それでも御しやすいと申す理由はなんだ?」


「情を利用するのです。さすればいとも簡単に御する事が可能でしょう──────」





フーリシア王国の屋敷で一泊した後でリガルデル王国のあてがわれた部屋へ戻って来ると2人のメイドは仲良くベッドで寝ていた


テーブルを見るとちゃんと飲み食いしたようで安心したけど起きた時に僕の顔を見て慌てて起きて申し訳なさそうにしていたのには少し心が傷んだ・・・彼女達にとって何が正解の行動だったのか・・・未だに分からずにいる


その後部屋に朝食が運び込まれありがたく頂くとダラダラと部屋の中で過ごしパーティーの準備が整ったと言うのでその会場へと向かう


フーリシア王国で経験があるとはいえ他国・・・しかもついこの前にいがみ合ってた国のパーティー・・・辞退しとけば良かったと後悔していた


きらびらやかドレスを着込む貴婦人にスーツを着こなす紳士が集まる社交場にポツンと取り残される僕


パーティーは立食形式でテーブルには美味しそうな料理が置かれており、給仕がお盆の上にお酒の入ったグラスを運び希望する人にグラスを渡す


慣れない場所で自分から料理を取り知らない人を呼び止めて飲み物を受け取るなんてハードル高過ぎるだろ・・・特に給仕の人に声をかけるのは厳しい・・・呼び止めて『え?』とか言われたら泣きながら会場を後にしてしまいそうだ


それに注目を集めているようで集めてないような微妙な立場・・・みんな遠巻きに僕をチラチラ見るだけで誰も近寄って来ない・・・フーリシア王国の時は向こうから近寄ってきたから何とかなったけど・・・くそっ・・・見られてるからやけ食いも出来ないしリガルデル王国は僕を孤独死させる気か?


「皆様緊張しているのですよ・・・公爵閣下に対して」


やっと話し掛けられたと思ったら・・・リガルデル王国のディーンと勘違いしていた腹黒君だった


「・・・アルオン殿・・・この会場には赤い絨毯は敷かれてないので警戒しなくてもいいですよね?」


貴族っぽい人達は帯剣していないがアルオンや数人は帯剣していた。おそらくパーティーに参加しながら警備も兼ねているのだろう


「虐めないで下さい・・・閣下ならお分かりになるのでは?同胞を失った悲しみ、苦しみ・・・そして怒り。攻め込めばそうなる事もあると覚悟はしていましたがやはり実際に失うとどうしても・・・」


「・・・回りくどいな。で、何が言いたいんだ?」


せっかくのパーティーだからと丁寧に対応してたのにクドクドと・・・やはりディーンとは似ても似つかないな


「付き合って下さい・・・私の憂さ晴らしに」


うん、一瞬でも似てると思った僕の目が節穴だったよ・・・ごめんディーン──────




主役であるはずの僕が抜けてもパーティーは何事もなく続いているようだ


ここはパーティー会場の一つ下の階にある中庭・・・上の階の会場からは笑い声や楽しげに話す声が微かに聞こえてきていた


僕はと言うとパーティーを抜け出して野郎と対峙している・・・彼曰くこれは『憂さ晴らし』なんだとか


「申し訳ありません閣下。陛下からは閣下を国賓としておもてなしせよと下命を受けているのですが今の私には難しい・・・いえ無理です。すぐに割り切れるほど人間が出来ていませんので」


とか何とか言いながら腰の剣を鞘ごと外して壁に立て掛けた


一応殺し合いをする気はないって事か・・・パーティーの主賓を殴る気満々だけど


「私がアルオン殿の憂さ晴らしとやらに付き合うメリットは?」


「ここまで来て今更ですか?・・・そうですね・・・少しでもやり過ぎたとか罪悪感があるならその気持ちが晴れるのでは?私に殴られ痛みを感じれば」


・・・殴られる前提かよ・・・それに


「この手合わせを断ったらまるで私が罪悪感をちっとも感じていないみたいじゃないか」


「そうなりますね」


「・・・ハア・・・仕方ない。けど気持ちは晴れないかもしれないな・・・」


「何故ですか?」


「痛みを感じる事がないかもしれないか・・・ら!?」


速い!


僕の言葉が終わる前にアルオンは大地を蹴り突進して来た


一瞬で間合いを詰められ右拳を突き出すアルオン・・・このくらいなら・・・っ!


右の突きはフェイント!本命は・・・左っ!


「くっ!」


辛うじて腕を上げ左の拳は防いだけど・・・痛い・・・


「おい・・・開始の合図くらいしたらどうだ?」


「今のが合図です・・・では行きます!」


このっ!サラ直伝の技で泣かしちゃる!!




こいつ・・・剣士・・・だよな?


突然始まった手合わせ・・・僕は上着を脱いだだけの比較的動きづらい格好で向こうは何かあった時の為の動きやすい軍服・・・その差が特に気にならないくらい圧勝してやるつもりだった


しかし蓋を開けてみれば一方的に攻められる始末・・・動きがまるで読まれているかのようにこちらが仕掛けると距離を開け、隙を見せると間合いを詰め鋭い攻撃を繰り出してくる


翻弄され徐々に冷静さを失うともはや相手の思うつぼ・・・気付けば僕は汗だくとなり肩で息をしアルオンは汗ひとつかかずに僕を見下ろしていた


「貴族にしてはそこそこやりますね・・・公爵閣下」


()()()()()()()


「・・・君こそリガルデル王国の者にしては・・・やるじゃないか・・・」


「お褒めの言葉ありがとうございます・・・そろそろパーティーに戻らないと主役が居ないと誰かが騒ぎ立てるかもしれませんので・・・終わらせて頂きますね」


「褒めてないし・・・」


防戦一方で受けてる腕がジンジン痛む


オルシアの斧を受けていた技を見て剣士と思ったけど実は違うとか?逆にそうであって欲しい・・・剣士に剣を使わずここまで圧倒されたら教えてくれたサラに顔向け出来ない


少しだけなら・・・


手に魔力を込める・・・怪我はさせるつもりはない・・・少し・・・ほんの少しやり返すだけ・・・


「そこで何をしておる!」


突然上から響く怒鳴り声・・・見上げると会場階のテラスから下を覗き込むリガルデル王国の王様ファーデムの姿があった


「へ、陛下!」


「アルオン・・・これはどういう事だ?主賓であるロウニール卿が居ないと思ったら・・・あれほど丁重にと言ったにもかからわずまさか・・・」


あ、これはマズイやつだ・・・ハア・・・仕方ない


「申し訳ありません国王陛下・・・朝食を少し食べ過ぎたようで軽く運動をして腹を空かせようと思いアルオン殿に私が手合わせをお願いしたのです」


「っ!閣下?」


驚いた顔でこっちを見るな・・・察して話を合わせろって


「・・・そうか。主賓がいないと皆寂しがっている・・・そろそろ上がって来てはくれぬか?」


「分かりました。そろそろ上がろうと思っていたのでただ今」


「うむ待っておるぞ」


王様は引っ込みとりあえず事なきを得た・・・ったく・・・なんで僕がアルオンなんかを庇わないといけないんだよ


「ありがとうございます閣下」


「・・・それで?憂さ晴らしは出来たのか?」


「はい。1人分くらいは」


「そうかそれは良かっ・・・ちょっと待て1人!?おまっ・・・私が何人殺したか分かって言ってんのか!?」


「正確な数はまだ聞いておりせん・・・が、10万の半数・・・5万人ほどと聞いております。このままいくと何年かかることやら・・・」


「何年じゃ済まないだろ何年じゃ」


「素直に殴られて下されば1000単位で減ると思うのですがどう致しますか?」


「なんで私がそこまで君の憂さ晴らしに付き合わないといけないんだ・・・」


「何日か滞在されるでしょう?その期間だけでもお付き合い願えませんか?」


「お断りだ。それに用事が済んだら帰る・・・長居する理由なんて・・・」


「確か閣下は各国の魔物の調査をされていて今回我が国に訪れたのですよね?王都周辺に魔物がいる・・・謁見の間でメバス殿が言われてましたが閣下の目で確かめなくても良いのですか?実際の目で確かめないのであれば通信道具を使い各国に尋ねるだけで終わるのでは?わざわざお越しにならなくても」


・・・さすがに情報収集は二の次でいつでもゲートを使って各国に移動出来るよう企んでいた・・・って言ったらマズイよな・・・多分・・・いや、間違いなくフーリシア王国の王様はそう企んでいたはずだ


となるとそれを悟られるのはちょっと・・・


「か、帰ると言ったのは言葉のあやで・・・ほら、私って公爵じゃん?公爵が公爵って街をウロウロしていたら気を遣うって言うか何と言うか・・・だから身分を隠して冒険者風な感じで調査しようかと・・・」


「・・・『公爵って』の意味がよく分かりませんが確かに気を遣うでしょうね・・・では護衛も・・・あ、いやそれは余計でしたね。分かりました・・・では明日には城から街へ?」


「ああ、そうするつもりだ」


「畏まりました。ではそのように伝えておきます。何か必要なものがありましたらお申し付け下さい。あと・・・」


「あと?」


「私の憂さ晴らしに暇があったら付き合って下さい・・・後49999回残ってるので」


「・・・やっぱりフォローしなきゃ良かった・・・君なんて王様に怒られちゃえば良かったんだ・・・」


「・・・50000回・・・」


「増やすな!なんで私が君のご機嫌を伺わなきゃいけないんだよ!」


「・・・50001回・・・」


「なんでだよ!」


もうヤダコイツ・・・なるべく明日街に出たら城に近付かないようにしよう・・・特にアルオン・・・コイツに会わないように──────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ