465階 十二傑後編
熱く語る十二傑好きな彼はレッキと名乗り話を聞いていた男はオッドと名乗った
僕は軽く挨拶すると追加オーダーした酒が来る前に気になってた事を聞く
「なあ・・・なんで各国2人ずつなんだ?12人なら12人でも別に2人ずつじゃなくても・・・多い国は4人とか居ない国もあるとか・・・」
「なかなかいい質問だ。見所あるぜアンタ」
なんの見所だよ
「いいか?十二傑は単純に強い奴ってだけじゃない・・・勇者パーティーのメンバーに選ばれるかもしれない12人なんだ。勇者ってのは不思議な人物で何かに導かれるように旅をし仲間を集め各地で人々を救いながら強くなっていく・・・で、最終的には6人で魔王に挑み倒してハッピーエンドを迎える訳だが・・・実際の勇者の仲間って6人以上いる・・・最後の魔王の城に挑む時に6人になるだけなんだよ」
まあ6縛りがあるからね
「で不思議な事にな・・・どの勇者の物語でも最終的に選ぶメンバーは異なる国の者達なんだ・・・近接アタッカーはリガルデルとしたらヒーラーはフーリシアみたいに・・・」
「・・・そうなると一国だけ選出されないって事だよな?」
「ああ・・・その国は勇者の出身国だ」
なるほど!勇者が現れた国からはメンバーが出なければちょうど6人が別々の国の出身となる
「でな、十二傑っていうのは勇者が現れる前に誰が選ばれるかって話す中で生まれた候補者達って訳だ。いっぱい人数を出してそこから絞込み各国2人・・・計12人を選出する・・・それであーだこーだ話しながら更に絞り込むのよ・・・考えるだけでワクワクするだろ?」
「もしかして賭けたりするのか?」
「中には賭けたりする奴もいるが・・・本格的に始まるのは勇者が出現してからだ。じゃないと賭け自体が成立しないからな」
あ、そうか
勇者が出現しなきゃ終わりのない賭けになる・・・それに一国多い状態だから早く予想したらその分損をすることに・・・勇者出身国の2人は自動的にパーティーメンバーからは外れるって事だもんな
「まあでも勇者のパーティーメンバーを予想するってだけじゃなくて単純に誰が強いかって議論も入ってる・・・戦争がないからなかなか強さってのは伝わって来ないから憶測もかなり含まれているが・・・ネタ元は大体商人だし信用度もな・・・適当なこと言うやつもいるからなかなか・・・」
商人も実際に戦った訳じゃないし人伝てに聞いた話をしてるだけだろう・・・いまいち信用度に欠けるが酒のつまみにはなる話って程度か
「もちろん十二傑に選ばれなかったからと言って弱いって訳じゃないが噂になるくらいの人物って事はそれなりに強いはず・・・だろ?」
十二傑の中で今のところオルシアとは戦った事がある・・・確かに強かった・・・それなりに
それにしても各国一名ずつなのは少し驚きだな・・・6縛りの他にそういう縛りが存在するのか?・・・あ、もしかしてディーンが理の内側でも勇者パーティーメンバーではないのって一緒に行くけど最終的に結界の中に入るメンバーに選ばれなかったって事か?
そんな事を考えているとテーブルに酒の入ったグラスが3つ・・・いつの間にか僕の分まで頼んでくれたみたいだ
何故か3人で乾杯するとレッキはニヤリと笑い続きを語り出す
「待たせたな・・・続いては・・・どこまで話したっけ?」
「あのなあ・・・これまで話に出たのは6人・・・リガルデル、ラズン、アーキドの6人だ」
「そうだった!・・・ならお次は北の国からいこうか・・・シャリファ王国出身であり十二傑唯一のタンカー!」
おっ、やっばりそうだよな・・・アイツが選ばれない訳がないと思った
「『氷盾騎士』のシャス!ほぼ決まりと思ってるが・・・まあタンカーの強さって分かりにくいからな・・・まあでもほぼ当確だろうよ」
いや強いぞ?防ぐだけじゃなくて強力な攻撃も繰り出してくるし・・・まあまず間違いないだろうな
「シャリファ王国もう1人は魔法使いだ!『地仙』と呼ばれるほど土魔法に精通しているSランク冒険者!魔法使いバウム!」
マジか・・・いやでも強かったな確かに
「魔法使いもそのバウムだけ?なら・・・」
「いや魔法使いは他にもいる・・・で、シャリファにはタンカーのシャスがいるからバウムは選ばれない可能性が非常に高い・・・倍率も十二傑の中じゃトップに近い」
倍率って・・・
「まあでも他のタンカーが選ばれればバウムも選ばれる可能性も無くはない・・・それに強さは折り紙付き・・・噂だと同じくらいの強さを持つ魔法使いの嫁と最近よりを戻したらしくますます暴れ回っているって話だ。本当か嘘かは知らないけどな」
よりを戻したかどうかは知らないけど暴れ回っているのは本当だろう・・・街中で痴話喧嘩して
「さてお次はファミリア王国だ。農王国と呼ばれているが陰では能王国と呼ばれるくらい特殊な能力を持つ人間が多い・・・その中で特殊じゃないのに名が上がる程の強者がいる・・・『天侯爵』ウルティア!彼女が望めば天気が変わる!農王国にとっては王より敬われ神にも等しい扱いをされているという魅惑の魔法使い!その姿を目にしたらその年は豊作間違いなしって話だ!」
知らんな・・・ファミリア王国はほとんどスルーしたから仕方ないか・・・そう言えばもう1人は誰だ?まさか師匠・・・
「そしてファミリアからもう1人!手も触れず物を動かすその能力は『神の手』の名に相応しい!そいつが武器を100本手に入れたら相手にゃその数の鉄の雨が降る!Sランク冒険者エメンケ!」
な訳ないか・・・師匠は最近住んでた山を降りて来たみたいな事を言ってたし噂になるには時間がかかる・・・でも師匠の強さはかなりのもの・・・もしかしたら数年後にはどちらかと入れ替わっているかもな
「そのウルティアってのが魔法使いの本命?」
「そうだ!けど『天侯爵』はファミリアの神とも言われる存在・・・果たして勇者が連れて行くと言って素直に出すかどうか・・・」
「けど魔王が復活したらそうも言ってりないだろ?」
「確かにな・・・誰が選ばれるかは神のみぞ知る・・・俺は勇者がファミリア出身じゃなければ選ばれるとは思うけどこればっかりは分からねえな」
まだ勇者は出て来ないのかな・・・まさか魔王が倒されたからこのまま出て来ないとか・・・そうなると各地に出て来ている魔族は誰が倒すんだ?
「でだ!名残惜しいが最後・・・聖王国フーリシアだ!」
おぉ!ぶっちゃけ1番気になってた・・・まあ大体想像がつくけどここは黙って聞いておこう
「一人目はこの国にも名を轟かせ知らない者は生まれたばかりの赤ちゃんだけって言われてる超大物!美貌と実力を兼ね備えた次代の『剣聖』と言われているディーン!」
だろうな
一人はディーンだと思った。けどもう一人は?まさか・・・
「フーリシア二人目は知る人ぞ知る冒険者最強説が出る男・・・その大剣は天も衝くほどと言われているSランク冒険者!武器の名が二つ名になるって事はその武器でその者以外使い手はいないと言っているようなもの!『大剣』キース!」
ですよね・・・何を期待してんだか・・・
「フーリシアでは魔族を討伐しないとSランクになれないんだろ?ならそのキースってのは・・・」
「そう!魔族を討伐した人間!話を聞いた時はフーリシアに勇者が現れたって騒ぎにもなったほどだ。まあでも2人で討伐してしかももう1人は死んだか何かでいなくなっちまったらしいけどな」
キースが勇者って!それにしても情報が古いな・・・まあ国が違うから仕方ないか・・・キースの他にも美人で強いSランク冒険者がいるってのに・・・
それと・・・
「フーリシア王国はって事は他の国では魔族を倒してなくてもSランク冒険者に?」
「は?当たり前だろ?魔族なんて一生の内に出会す可能性がどれだけ低い事やら・・・フーリシア以外はその国に認められりゃSランクになれる・・・その認められるのがどれくらいの実力かは国にもよるけどな」
へえそうなのか・・・てっきり他の国も魔族を倒したらSランクになれるのかと・・・
「それじゃあ出揃ったことだしそろそろ始めるとするか」
「・・・始める?」
「決まってんだろ?十二傑・・・誰が勇者パーティーメンバーになるか・・・それと誰が最強か、だ!」
レッキが叫ぶと店にいた人達が歓声を上げる
いつの間にみんな聞いてたんだ?てか一体感あり過ぎだろこの店!
「最強はコゲツだろ?拳ひとつで山をも砕くって言われてるらしいぜ?」
「おいおい非国民かよ?やっぱ『猛獅子』よ『猛獅子』!」
「ディーンじゃねえの?正統派って感じがして俺ァ好きだね」
「天気を操るんだぜ?ウルティアに決まってんだろ」
「もしかしたら知られてねえだけでバベルガヤバいかもだぞ?なかなか狂乱なんて言われねえだろ?それだけぶっ飛んでるのかも・・・」
「俺はシャスだな・・・最強かどうかはさておき勇者パーティーには欠かせない存在だろ?」
みんな各々の意見を言うがその中で知ってる人の名前が出ると妙に嬉しい
「ったく素人はこれだから・・・」
店の隅で1人場の雰囲気に流されずチビチビと酒を飲む男が呟く
それを聞いたレッキがその男に近付くと男の対面に座った
「へえ・・・じゃあ玄人さんは誰が最強だと?」
「そんなの決まってるだろ?あの豊満なボディは一度見ると脳裏から決して離れない・・・彼女こそ世界を救う強者・・・」
まさかここで・・・サ・・・
「ミルリンちゃん・・・彼女こそ最強・・・ちょ!やめろ!蹴るな殴るな!」
・・・そう言えばあの男・・・十二傑の話の前から『ミルリンちゃんミルリンちゃん』言ってたヤツだった・・・
うん、大人しく死んどけ
「けどよぉ豊満なボディで思い出したけどフーリシアにもう1人Sランク冒険者が誕生したって聞いたぜ?それってつまり魔族を倒したって事だよな?」
一人の男が呟くと『ミルリンちゃん』男を殴っていた男達も手を止めて話に戻る
それって・・・だよな?
「ああ、そう言えば俺も聞いた事がある・・・なんでも爆乳だとか・・・」
そうそう・・・ん?
「確か乳が揺れたら風が起きて魔物が吹っ飛んでいくらしい・・・付いた二つ名が『乳鳴り』」
・・・
「太もももムチムチしててスリットから出るその太ももで魔族を魅了して倒したんじゃないかって言われるほどらしい・・・かー、堪んねえな一度でいいから拝みてえなその太もも」
・・・
「なんだっけ名前・・・ああ、そうそうサラ・セッ・・・な、なんだ!?店が揺れっ・・・」
好き放題言いやがって・・・このまま店ごと生き埋めにしたろうか・・・
「まさかこれが・・・『乳揺れ』!?」
さっきは『乳鳴り』って言ってたじゃねえか!一文字も合ってねえぞ!
てかあの乳も太ももも僕のだ!僕の・・・
「収まった・・・なんだ地震か?」
しまった・・・想像したらほんわかしてしまった
「・・・の、飲み直すべ!多分まだ酔いが足りねえんだよ俺達!」
どんな理屈だ・・・でもまあサラの名前が出たのは少し嬉しい・・・卑猥だったのは許せんけど
「よし!今日は僕の奢りだ!みんな遠慮せず飲み食いしてくれ!」
「おっ!マジかよ!」
「太っ腹だな!」
「おーい!酒だ!酒をジャンジャン持って来い!」
いい情報を聞けたしこれくらいはいいだろう。もしかしたら酔った勢いで別の話も聞けるかもしれないし
「ご馳走様!・・・・・・てかお前・・・誰?」
1人の男が素朴な疑問をぶつけてきた
街の酒場で見かけない奴が1人・・・客全員が知らないとなれば少し怪しく感じるのも仕方がない
商人ならまだしも商人ぽくもなく流浪の冒険者っぽくもない謎の男・・・その男がみんなに酒を奢るなんて不思議でしょうがないだろう
シーンとなった店内・・・居たたまれなくなった僕は何故かやらかしてしまった
「ぼ、僕が最強のロウニールだ!!」
椅子に乗りテーブルに足をかけると叫んだ
十二傑?ハッ、そんなもん半分くらい知ってるし勝ってるし!
・・・いかん・・・酔ってるなこれ・・・
痛いくらいの静寂に恥ずかしさがMAXになった頃、静まり返っていた店が突然爆笑の渦に包まれる
「ナッハッハッ!確かにお前さんが最強だ!」
「『猛獅子』の代わりにロウニールを入れてやれ!彼こそが十二傑最強の男だからな!」
「いやもう勇者でよくねえか?彼こそが勇者だ!」
誰かがそう叫ぶと客は『勇者勇者』の大合唱
僕は顔が熱くなるのを感じて目立たぬよう店の隅に行くと適当に座り顔を伏せた
なぜあんな事を叫んだのやら・・・すると肩をチョンチョンと突っつかれ顔を上げると・・・
「間違えるな・・・ミルリンちゃんが最強だ」
と真面目な顔して言われたのだった──────




