463階 激動の時代へ
「・・・頭が痛い・・・」
居住地と商店のバランス、施設の配置、水道、道路etcetc・・・チャチャッと周りの囲いとなる壁を作って終わりかと思ったら全然・・・これは計画だけでも数年かかりそうだぞ?
「普段使ってないからよ・・・それでどうなったの?」
「後で話すよ・・・今はそれどころじゃ・・・ないっ!」
エモーンズの屋敷の隣にある宿舎・・・その地下でサラと手合わせしていた
ファミリシア王国で会った師匠の事を話したらその技を見たいと言われての手合わせだったけど・・・
「どうしたの?力を吸収したり弾いたりするのでしょう?」
出来るか!
まだ速い攻撃には対応出来ないって!
上段回し蹴りからの背中を見せての後ろ蹴り・・・何とか腕を交差させて防ぐが衝撃で壁際まで飛ばされてしまう
着地と同時にサラの接近を察知して横に逃げようとするが逃げた方向から蹴りが飛んで来て手合わせは終了・・・あっという間の出来事だった
「で?」
「もっと遅ければ吸収出来たのに・・・」
「違うわよ。大都市計画?はどうなの?」
「ああそっちか・・・とりあえず領主達と何度か話し合う必要があるからすぐにって訳にはいかないね。外側の壁を作って魔物の侵入を防いで決まっている所だけでも工事を始めて・・・数年はかかるかな?完成するまで」
「え?もしかしてすぐにでも完成すると思ってたの?」
「・・・うん」
「な訳ないでしょまったく・・・しっかりしてよね?公爵様」
「・・・はい・・・」
「それで・・・これからはその計画に向けてエモーンズで生活するの?」
「そのつもり。まあその前に最後の訪問先であるリガルデル王国に行くつもりだけどね」
「・・・行くの?」
「ああ・・・あんな事があったからこそ行かないと・・・歓迎はされないだろうけどね」
「私は?」
「・・・残って欲しい」
「危険だから?」
「逆・・・今回のように間抜けな事をしてしまったら助けて欲しいんだ・・・こんな事を頼めるのはサラしかいない」
「物は言いようね・・・まあいいわ・・・ただしあまり遅いと浮気しちゃうかも・・・ほら私ってそこそこモテるでしょ?だからもしかしたら寂しさのあまり・・・」
「その時はその男に言っておいてくれ『遺書は書いとけ』って」
「冗談よ。それにどうせリガルデル王国に行ってもしょっちゅう戻って来る気でしょ?体目当てで」
「人聞きの悪い・・・まあ否定は出来ないな」
「否定しろ!・・・無事に戻って来て・・・いつでも・・・毎日でもいい・・・理由が体目的でもいい・・・だから・・・」
「いいの?そんな事言ったら毎日戻って来てあんな事やこんな事を・・・」
「ええ、いいわ・・・だから無事に戻って来て」
彼女が僕に手を伸ばしながら微笑む
頬に涙を伝わせながら──────
またしばらくエモーンズを3人に任せて僕は最後の国・・・リガルデル王国に旅立った
涙を流すサラを置いて
あの涙の意味は何となく分かった
別れる寂しさでもなく悲しさでもない・・・悔し涙だ
僕の真意を見抜いて流した悔し涙
本当は悟られまいとしたがやっぱりサラには通じなかった・・・僕の心など簡単に見破ってしまう
〘足でまといってハッキリ言えばいいのに・・・遠回しに言われた方が余計に傷付く事もあるのよ?〙
〘分かってるよ・・・それでも・・・少しも彼女を傷付けたくなかったんだ・・・結果は散々だったけどね〙
不甲斐ない・・・守れる自信もサラの強さを信じる事も出来ないなんて・・・
〘なら強くなりなさい・・・誰よりも〙
〘ああ・・・強くなるさ・・・誰よりも、ね──────〙
エモーンズダンジョン魔物訓練所
「ハア・・・やっと戻って来たと思ったのににゃんで・・・」
「文句言わないの・・・私が強くなればあなたのご主人様も色々と助かるでしょ?」
「それはそうだけど・・・ちょっと図々しいと思わないかにゃ?せっかく創った魔物を訓練相手で消耗するってのは・・・」
「ちなみに魔物を倒して手に入った魔核は私が貰うわよ」
「・・・図々しいにも程があるにゃ・・・一体何があったんにゃ?」
何があったか・・・か
キースと勝負して改めてキースとの差と・・・ロウとの差が身に染みた
キースの最後の一撃・・・あれは躱しても躱さなくても私の負けを意味していた。躱せば足場は崩壊し次の一撃でやられていただろう。躱さなければ言わずもがな・・・そしてロウはあの絶対的とも言える一撃を止めた
かなりショックだった
まだ追い付いていないのは分かっていたけどこれ程までの差があるとは思わなかった
しかもロウとの手合わせの時にも手加減される始末・・・更には気を遣われて・・・
「今のままだと一生彼に追い付けないと思ったから・・・がむしゃらにやろうと思っただけ。使えるものは使ってでも・・・」
「・・・なるほどにゃ・・・なら魔物よりもっといい相手がいるにゃ」
「え?」
魔物を相手にしながら話していると背後に強力な気配を感じ振り向くとそこには人型となったサキが柄の長い鎌を持ち立っていた
「仕方ないにゃ・・・ご主人様の未来の伴侶を鍛える為にご主人様一の眷族である私が一肌脱ぐにゃ」
「サキ?・・・ちょっと・・・殺気が・・・」
「あぁ気にする事ないにゃ・・・手加減するのがすこーし苦手なだけにゃ・・・殺しはしないにゃ・・・多分」
魔物とは段違いに強いのが分かる・・・これがサキ・・・
てか私は・・・生きてここから出られるのだろうか?
・・・いや、これくらいじゃなきゃダメだ・・・彼に追い付くには死に物狂いで・・・やるしかない!
でも・・・
「最初はお手柔らかに・・・って無理そうね・・・死んだら彼に言い付けてやる!」
「その時はご主人様にバレないように完璧に隠し通すから心配しないでいいにゃ!という訳で・・・死に晒せ!!」
はは・・・これは本気で・・・死ぬかも──────
フーリシア王国王都
王都には煌びやかな表通りの陰となる場所がいくつか存在する
その代表的な場所として三つが挙げられる
コロッセオに近く剣闘士達がよく集まる剣闘士街
全ての物が揃うと言われている闇市場街
そして・・・裕福な貴族達とは真逆な存在が蠢くスラム街
その中のスラム街の一角に地下を有するボロボロの建物があった
その建物に勝手知ったる様子で中に入る男とその男に付いて行く男・・・2人はすぐに地下に降り奥にある重厚な扉を押し開けた
「・・・遅かったじゃないか」
「仕方ねえじゃねえか・・・街には警戒を強めた王国騎士団の野郎共が溢れ返ってやがる・・・俺は有名人だからな・・・こういう時に思うよ・・・顔が知られてるってのは考えもんだってな」
「よく言う・・・その目立ちたがり屋な性格を治す気もないくせに・・・」
「まあな・・・受けてた依頼は完了だ。金と・・・面白そうな依頼は余ってねえか?」
「金は渡そう・・・依頼の前に・・・その後ろの男は誰だ?」
「あ、初めまして!この度ジャックさんの弟子になりましたケンと申します!よろしくお願いしまッス!」
暗殺者ギルドのギルド長ツァーガがギルドを訪れたジャックの後ろにいる見慣れない男が誰かと問うとその男・・・ケンは場に似合わぬ大きな声でツァーガに自己紹介をした
「・・・ジャック?」
「わーってるわーってるって・・・そう睨むなよ・・・成り行きだ成り行き・・・コイツにゃ興味はないが持ってる道具に興味が湧いた・・・殺して奪っちまおうかとも考えたが・・・まっご愛嬌ってところだな」
「何がご愛嬌だ・・・我々と対極にあるヤツを連れて来やがって。それにお前はそういう奴が一番嫌いじゃなかったか?」
「ああ、大っ嫌いだ・・・が依頼主になるかもしれねえんだ・・・殺すより楽しそうだろ?」
「なに?」
「ほれ、ギルド長に依頼内容を言いな・・・きっと興味を示すと思うぜ?」
ジャックに促されケンはツァーガの前に歩み寄ると机の上に3本の短剣を置いた
「・・・これは?」
「成功報酬ッス!」
「・・・」
「足りなかったら・・・俺の命ではらうッス!」
「・・・ジャック」
「ったく・・・俺はお前の子守りじゃねえってのに・・・その短剣は1本でもかなりの値打ちもんだ。自由自在に操れる短剣・・・ウチの奴らの中にゃいくら出してもいいって奴がゴロゴロいるだろうよ」
「自由自在に?・・・確かにそれが本当なら欲しい奴はいくらでもいるだろう・・・それで依頼は?」
「ほれ、言えよ・・・あの愉快な依頼をよぉ」
「・・・俺を鍛えて欲しいッス・・・ある奴を殺せるくらいに・・・」
「・・・ここは暗殺者ギルドだ・・・暗殺を学びたいなら専用の養成学校でも行くんだな・・・そんなものが存在するかは知らないが」
「ジャックさんは受けてくれると言ってたッス!けど依頼自体が成立しないとって・・・お願いします!依頼を受けて下さい!」
「・・・ジャック・・・」
「そんな目で見んなよギルド長・・・暇潰しにゃもってこいな内容だったからよぉ・・・俺とも少なからず因縁がある奴だし・・・クソみたいな依頼に比べたら面白そうだと思っただけだ」
「お前と因縁?そう言えばターゲットの名を聞いてなかったな・・・誰を殺したいと言うんだ?」
「・・・そいつは・・・俺が殺したいのは・・・ロウニール・・・ロウニール・ローグ・ハーベス・・・辺境伯ッス──────」
フーリシア王国王城内サロン
貴族達が集まった時の社交場として扱われるサロンにて2人きりで極上の酒を酌み交わす第一王子マルスと第二王子フォースがいた
「先ずはおめでとう・・・かな?それとも憐れな妹に慰めの言葉でも?」
「どちらもだ。俺は王となりエーラの芽は摘まれた・・・不相応な地位は望まず慎ましく生きていればまだ花開いたかもしれぬのに・・・」
「でも彼はエーラの自由を求めたらしいよ?約束を反故にすればせっかく手に入れた武器が兄さんに向くことになるかも・・・」
「自由にさせるさ。だが嫁いだ先が運悪く没落するかもしれない・・・貴族の中に俺に逆らってまで・・・おっと、俺の可愛い妹を娶りたいって奴がいるかね?」
「まあいないだろうね。新たな王になる兄さんと女だてらに愚かにも王座を狙った妹・・・天秤にかけるまでもない」
「ふっ・・・だが可愛い妹だ・・・従順になると約束すれば追い込むまではしないさ」
「難しいだろうね・・・気が強いのは誰譲りなのか・・・それでもう1人の妹はどうする?何やら『至高の騎士』としきりに会っているみたいだけど?」
「・・・第三騎士団は落ち目だ・・・今回の戦争は第一第二騎士団が大国リガルデル王国軍を退けた事になっている・・・が、第三騎士団は敵前逃亡・・・まあ王都を剣奴から守る為という後付けくさい功績で敵前逃亡の罪は免れたが求心力は失われただろう・・・民衆の英雄は滅亡の危機を救った騎士団だ」
「逃げ帰り王国騎士団がほぼ制圧していた事件に首を突っ込み手伝いをした第三騎士団と大軍押し寄せる中で奮闘した第一第二騎士団・・・民衆は想像力を膨らませている事だろうね・・・目の前でゴミを片付ける第三騎士団と見えない所で命懸けで戦い国を救った第一第二騎士団・・・そのふたつの場面を比較して」
「本当公爵様々だな・・・手柄を譲ってくれるだけではなく邪魔者を排除してくれるなんて・・・」
「けど末の妹は何か企んでいるようだけど・・・どうするの?」
「さあな・・・どうせ足掻いたところで結果は変わらん・・・精々駆け落ちでも企んでいる程度だろ?自由になったのはエーラだけ・・・スウはまだ贈り物のままだからな」
「公爵が反対したら?」
「その時は好きなようにさせるさ・・・それでまた公爵に貸しが出来るなら安いものだ」
「そうだね・・・ならこれは前祝いだ・・・大陸統一おめでとう兄さん」
「気が早い気もするが悪くない・・・ここは素直に受け取っておこう」
手に持ったグラスを合わせると甲高い音がサロンに響き渡る
2人の王子は未来の勝利に酔いしれる
大陸全土が激動の時代を迎えようとしていた──────




