43階 Aランク冒険者
冒険者ギルド・・・冒険者がダンジョンに入る際に入場料として料金を払い、ギルドで発行されているギルドカードを預ける場所。1階には受付と冒険者達が軽い飲み食いや待ち合わせなどに利用出来るスペースもある
この街エモーンズにようやく冒険者ギルドの建物が完成し、仮設の建物から引っ越して来て数日が経った
私はこの建物の2階に部屋を設けてもらい、何かあればギルドからの要請で動く・・・もちろんダンジョンに入る事も許可されており私だけはいつ入っても入場料は取られない事になっている
「暇だな・・・ダンジョンに行くか・・・」
部屋には寝泊まり出来るようベッドを完備しており、その他にもテーブルや椅子なども揃っている。まだ慣れていない為に備え付けられていた椅子が居心地悪く感じダンジョンに向かおうかと立ち上がった時、タイミング良く部屋のドアがノックされる
「おいおい・・・若い娘がグーダラと。今はやる事ねえから街でも見て来たらどうだ?1年前と比べたらかなり進歩してるぜ?」
フリップギルド長が返事をする前にドアを開けて失礼な事を言い放つ
別に好きでグーダラしてる訳ではないのに・・・
「昨日ダンジョンに潜った冒険者のギルドカードに異変があったと聞きましたが?」
職員から念の為に待機していてくれと言われてもう昼間だ・・・そろそろ出掛けてもいい頃だろうと思っていたこのタイミングで来て第一声がグーダラはないだろうグーダラは
「あー、それな。ついさっき他の冒険者が持って来た・・・遺品を、な」
「そうですか・・・遺品という事は遺体は・・・」
「まだあるそうだがさすがに・・・なあ。遺品は引き取り手がなければ持って帰って来た奴のものになるけど遺体はそうはいかねえし、俺達も処理に困る・・・遺族の依頼でもない限りは放置する他あるめえ」
それも仕方なしか・・・出来ることならしっかりと埋葬してやりたい気持ちはあるが・・・
「ちなみに何階で?」
「20階のボス部屋らしい。情報開示してんのに見なかったか過信したか・・・スカウトは居なかったな」
「ボス部屋・・・やはり・・・」
「ん?何かあるのか?」
「いえ!・・・別に・・・」
ダンジョンでは冒険者の犠牲は付き物・・・犠牲の上で徐々に攻略されていく。ここのダンジョンは話によると成長する速度が異様に早く、最初の内は犠牲者はほとんど出なかったが最近ではポツポツと犠牲者が出始めた
しかし犠牲者のほとんどは同じ場所・・・ボス部屋だ
「ふーん・・・その顔・・・また『ダンジョンナイト』の事を考えてやがったな?」
「違っ・・・違います!ボス部屋での死者が多いと思ったので・・・」
図星をつかれて焦ってしまった
そう・・・このダンジョンにはダンジョンの守護者・・・ダンジョンナイトことローグ様がいる
冒険者の中には慎重派もいれば無謀な連中もいる・・・無謀な連中は儲けが多い分死ぬ確率も高い・・・だがローグ様のお陰かここのダンジョンの死亡率はかなり低かった・・・そんな中である特徴が浮き彫りになる
ボス部屋にはローグ様は現れない
神出鬼没のローグ様の事だからボス部屋にも現れるかもと思ったけどさすがのローグ様でもボス部屋には現れないか・・・
「なるほど・・・ダンジョンナイトがボス部屋には現れないって事を考えてたな?当たり前だろ?ボス部屋は同時に入ったパーティーがボスを倒すか全滅するかしないと再び開かれない・・・そんなの常識だろ?」
うっ・・・分かってるけど・・・分かってるけど・・・
「まあ奴がいつどこで何をしてるかまったく不明だし、どうやって死にそうになってる冒険者を見つけてくるかは謎だけどな」
そう・・・ローグ様は謎多き方・・・私を助けてくれた時もそうだし他の冒険者を助ける時も偶然そこに居合わせたとは考えにくい・・・謎を解明するにはまずひとつずつ紐解いていくしかない
「ってお前さんまだ・・・」
「そろそろ出掛けるので出て行ってもらえます?それともこの場で着替えましょうか?」
「待て待て早まるな!そんな事されたらカミさんに殺されちまう!」
「ならさっさと出て行ってください。それと今後ノック後にすぐにドアを開けるのはやめてください・・・次やったら腕斬り落としますよ?」
「罰が重い!・・・わ、分かった・・・肝に銘じておく・・・」
すごすごと部屋を出て行くフリップ・・・もう突然ドアを開けることはないだろう・・・もし開けたら・・・本当に斬り落としてやろうか・・・
結局今日はダンジョンには行かず久しぶりに街を散策する事にした。私が来た頃は数ある村のひとつ・・・その中でも栄えてない部類に入っていたエモーンズは今では都市と呼ばれてもおかしくないほど成長していた
ただ建物の数は増え、店も充実してきたが問題は定住者の数か・・・
ダンジョン都市アケーナでもそうだったが定住者の数に比べて冒険者や店の数が多い。ダンジョンが街の中にある場所の宿命とでも言うべきか・・・それでも街は儲かるのだろうけど何かあった時に大変になるのは目に見えているから領主としては心配だろうな
何かあった時の何かとはもちろんダンジョンの消失
ダンジョンは最奥にあるダンジョンコアを破壊するとダンジョン自体が消失する
余程の間抜けでない限りはダンジョンコアを破壊する事はないだろう・・・が、例えばダンジョンブレイクが頻繁に起きたり、ダンジョンの成長が著しく遅かったりしたらその限りではない
国から『ダンジョン破壊指令』が出されれば騎士団が派遣されダンジョンコアは破壊されてしまうのだ
もしこの街からダンジョンが無くなったとしたら・・・冒険者は他所に行き、店も撤退するだろう。そうなれば残るのは空になった店と無駄に広い領地だけ・・・街として機能せずまた村へと逆戻り・・・いや、廃村すらありえる
そうならない為にもどうにか定住者を確保したいはず・・・まあ簡単にはいかないだろうが・・・
ローグ様は果たしてダンジョンがなくなってもこの地に残るのだろうか・・・『ダンジョンの守護者』・・・他のダンジョンでそのような存在は聞いた事ないけどこの街のダンジョンが無くなれば他のダンジョンで同じように?・・・ああ・・・もっとお話がしたい・・・あれから一度もお会い出来ていない・・・ローグ様・・・
賑やかな街・・・この街を2人で歩けたらどんなに・・・
そんな未来に思いを馳せていると突然影が差す
「ん?」
顔を上げるとむさい顔がひとつ・・・今日はオフと決めたから髪もひとつに束ねただけだし服装も普段着だ。この格好で私と判断できるほど深い関わりがある顔ではない・・・というか『はじめまして』だ
「よう嬢ちゃん、出勤前か?どこの店よ?」
!!??・・・嬢ちゃん!!?
私のこと・・・だよな?
まさかそんな風に呼ばれる日が来るとは・・・いや、私だってまだ20歳になる前の女・・・周りが姐さんとかあたかも年上風に言うがそんなに歳は離れていない。ひどい時などは明らかに年上の冒険者にも年上扱いされる時もしばしば・・・
本来私は攻略扱われるはずなのだ・・・そう・・・そうに決まってる
「おい聞いてんのか?」
「あ、ああ・・・ところで店とは?」
「おいおい今更とぼけんなよ。この時間にフラフラとここいらを歩くって事はこの先で働いてんだろ?」
「この先・・・」
何気なく見るとこの先は確か・・・歓楽街
街の開発にあたって最も重要視されていたと聞く
なぜならこの街の稼ぎ頭は冒険者・・・その冒険者が最も金を落とすのは装備や道具ではなく・・・食事や遊びだ
私もパーティーを組んでいた時はよく行ったものだ。特に大変な目にあった時などは必ずと言っていいほど訪れた記憶がある
どうやら目の前の男は私がそういった店の店員と勘違いしているのだろう
「残念だが私は冒険者だ。店員ではない」
「あ?んだよ同業かよ・・・にしても・・・」
店員ではないと分かった男はあからさまにガッカリしていたが、なぜかいきなり目を光らせ私の体を上から下へと舐めるように見回す
「・・・パーティーは?」
「いや、ソロだが」
「・・・なあ・・・俺のパーティーに入らないか?」
コイツは・・・頭がおかしいのか?私の適性を知らずにパーティーに誘うなんて
パーティーを増やすメリットは当然ダンジョン攻略に必要な能力の増強。魔物に対する武力や探索する為に必要な技術、それに傷付いた時の治癒・・・パーティーによってはスカウトを抜いたりヒーラーを抜いたりする事もあるが役割は被らないようにするのが常識・・・なのにこの男は自分のパーティーに適性が分からない私を誘う・・・頭がおかしいとしか思えん
「悪いが他を当たってくれ。私は・・・」
「いいから!黙って俺のパーティーに入れ!」
ずいっと近付きあろう事か私の胸へと手を伸ばす
さすがに街中で切り刻むのも気が引けたので腕を取り関節でも決めてやろうかとすると私に届く前に男の腕は動きを止めた
「なんだてめえ!!」
「通りすがりのお人好しさ」
は?
むさい男の腕を止めたのは自分の事をお人好しと言う優男
危うく2人同時に殴ってしまいそうになるがグッと我慢して成り行きを見ると優男は難なくむさい男を放り投げる
身長は同じくらいだが体重は明らかにむさい男の方が重そうなのに軽々と・・・マナを使っているようにも見えなかったし体術の類か?
「まだやるなら相手になるけど・・・ちなみにボクは冒険者で近接アタッカーってやつだ。君は?」
「同じく冒険者で・・・剣士だよ!!」
剣士と言いながら殴りに行く姿はかなり滑稽だがそこそこの動きだな。対する優男は・・・ほう、身構えもせず余裕の表情
「せめて返事をするなら合わせてくれないか?ボクが近接アタッカーと言ったのに剣士と答えたら会話が成立しないじゃないか」
「同じ事だろ!剣士も!近接アタッカーも!」
必死に攻めるむさい男に対して余裕で躱し続ける優男・・・実力差があり過ぎて話にならないな
「まるでその言い方だと近接アタッカーは剣士だけ・・・とでも言いたげだね」
「実際そうだろうよ!」
優男の雰囲気が・・・変わった
「違うよ・・・本当に強い近接アタッカーは・・・武器など要らない」
優男はむさい男の拳を軽くいなすと体を回転させ後ろで髪を掴み一気に地面へと引き倒す
ダメージは受けてないのかすぐにむさい男が立ち上がろうとした・・・が、優男はむさい男に顔を近付け呟く
「そう言えば自己紹介の途中だったね・・・肝心な事を言ってなかったよ・・・ボクの名前はシークス・ヤグナー・・・Aランク冒険者だ」
シークス・ヤグナー・・・聞いた事がある。確か・・・
「Aランク・・・だと・・・そんな・・・」
「心に刻め・・・ボクの拳の痛みを、ね」
むさい男の顔面に拳がめり込む
そう・・・Aランク冒険者シークス・ヤグナーは・・・拳士だ──────




