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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
459/856

455階 互いの指標

ヤバイ・・・ヤバイヤバイヤバイ!


強い!そしてカッコイイ!


剣術のお手本のような流れ・・・そこから繰り出される強力な一撃。隙の無い構えに計算し尽くされた連撃・・・彼が剣聖でなくして誰が剣聖だって話ですよ!


初めの大振りの一撃は完璧に受け止める事が出来たけど続け様に攻撃されたら無理!師匠クラスになれば出来るかもしれないけど今の僕には到底捌けない


卓越した剣技に洗練された剣撃・・・剣を持つ者の道標・・・僕はそんな人と今・・・剣を交わしてる


「本気を・・・出さないのかい?」


「本気ですよ・・・充分ね」


「・・・あの日見させてもらった・・・回復し切ってない私は情けない事に起こしてもらい支えてもらいながら観戦した・・・あの戦いを」


「感想を聞くのが怖いですね」


「・・・正直勝てないと思った・・・『猛獅子』は噂に違わぬ実力・・・君の一撃は大陸一と言っても過言ではないだろうが他はまだ拙さが目立っていたから」


あの時・・・魔王を倒した時の一撃か・・・マナと魔力を衝突させた力だから確かにあの一撃は強力無比・・・その反面少しでも力の加減を間違うと自分の身体が吹き飛ぶらしい


リスクが高過ぎて出せない・・・あれはあの時だけの技だ


オルシアにも出すつもりは全くなかった


「しかし君は勝った・・・前半がまるで嘘のように後半は一方的に・・・戦っている最中に強くなったとかの次元ではない・・・手加減しているようにも見えなかったし手加減する必要もなかったはず・・・分からないんだ・・・君が一体どこにいるのか・・・」


「・・・ここにいますけど?」


「違う・・・フーリシア王国で・・・いや大陸でどの位置にいるのか・・・10本の指に?それとも5本?もしくは・・・考えても分かるはずもないのに考えてしまう・・・そして私はどの位置にいるのかを」


「なるほど・・・僕は物差しか」


「ああ・・・先ずは君のいる場所を見極め次に私のいる場所を確かめる・・・その為の物差しだ。そしてこの戦いは・・・私の指標となる」


「まさか僕との戦いがあのディーンの指標になるとはね・・・分かった・・・僕も憧れを捨てよう・・・」


「憧れ?光栄だな・・・君にそう思われていたとは・・・なら私も捨てよう・・・君に対する恐れを」


「っ!くっ!」


突然目の前から消えたと思ったら左から現れた


そして力任せに振ってきた剣は受け止めると体が沈み全身が軋むくらい重い・・・まるでキースの大剣をまともに受けてしまったような感覚に陥る


「このっ!」


「押し返そうなどと思わない方がいい・・・今の君には無理だ」


「なら・・・これでどうだ!!」


マナから魔力に切り替えて押し返すとディーンは一瞬驚いた顔をするがすぐに微笑み体を捻って僕の押し返そうとする力を逃がした


そしてそのまま回転し腕を振ると剣は僕の顔に迫る


受けるか・・・いや、軽そうに見えて重い気がする・・・ならっ!


ディーンと同じように体を捻り更に反る


ギリギリで顔の前を通る剣を見て冷や汗を出しながらそのまま後方に飛んで地面に手を付き回転し体勢を整えた・・・が


「うそだろっ!?」


既にディーンが間合いに!


ひと息つく暇もないのかよ!まるで血に飢えた獣だ


すかさず剣を前に出し構えるもディーンは間合いに入ったにも関わらず何もして来ない・・・ん?ってか剣を持ってない!?


真上から気配を感じる


チラッと上を見ると剣先が僕に向き真っ直ぐに落ちて来ていた


こいつ・・・剣を投げやがった!


今剣を振ればディーンは剣を持ってないから受けられないはず・・・けどそうすると落ちて来た剣が僕を・・・どうする?どう・・・


「くそっ!・・・ぐっ!」


迷っている暇はなく落ちて来ていた剣を弾くと腹部に鈍い痛みが・・・おい剣聖・・・


「・・・いつから拳聖に?」


「必要とあらば何でも使いますよ」


剣を拾いながらシレッと答えるディーンに殺意が芽生える


お腹痛い・・・おもくっそ殴りやがってちくしょう!


「随分乱暴じゃないですか・・・『至高の騎士』の名が泣きますよ?」


「別に私が名乗った訳でもありませんし・・・まだまだこっちの方が強くいられるみたいで残念です」


なにが残念なんだか・・・


ディーンが目指しているのは最初の綺麗な剣技で今のような戦い方は好みじゃないのか?戦いやすさは断然最初の方だ・・・けど今の戦い方は乱暴過ぎて隙だらけ・・・もし僕が迷わずディーンに向けて剣を振ってたら良くて相打ち、最悪の場合落ちて来た剣は僕に当たらずやられて終わりだっただろう


もったいない・・・せっかく・・・


「生真面目な性格が出てますね・・・両方とも高い境地にいるのにどっちかなんて・・・いっそ混ぜてしまえばいいのに」


「混ぜる?」


「ええ・・・真っ直ぐに振るのも魅力的で確かな強さはありますけどそれに今のような凶暴さも混ぜたらもっと・・・」


あれ?戦いの最中なのに顎に手を当て考え込みやがったぞ?


今なら軽く叩くだけで勝てるんじゃ・・・


「・・・ロウニール君」


「はい!」


「?・・・君のお陰で何か掴めそうです・・・続けても?」


不意打ちしようとしたのがバレたと思って思わず声が上ずってしまった


にしても・・・雰囲気が変わった?最初の・・・正統派とも言える剣技の時は表情の動きはなかった。次に荒々しくなると若干表情に動きがあり今は・・・笑ってる?


その表情を見て額から汗が吹き出る


いや、額からだけではなく背中や剣を握る手からも


もしかしたら余計な事を言ってしまったのかも・・・ディーンが見上げるほど大きく見えてしまう



気後れしてる?


何を今更


相手はあの至高の騎士


強いのは当然じゃないか



なるべくマナだけで戦おうと思ってた・・・自分がどれだけ強くなったか知りたかったから


でも・・・自分の考えがどれだかおこがましかったかに気付き自嘲気味に笑う


「・・・何がおかしい?」


「今だけは憧れを捨てたつもりでも・・・やっぱり憧れますディーンさん・・・だから・・・全力でやらせてもらいます」


魔力を解放する


決してディーンをなめていた訳では無いけど・・・使う気はなかった


だって魔力って・・・反則だろあんなの


濃度にもよるがほぼ無限に使える魔力・・・まあそれも本人の技量によるところもあるが量が限られているマナと違って使いたい放題だ


限られたマナと無限に使える魔力・・・その差は歴然であり持久戦に持ち込めば負ける事はないと思う


ただ差が歴然なだけにそれにかまけていると技術や向上心が失われていくような気がする


魔力を溜めて放てば大抵の敵は倒せる・・・はっきり言って思考を停止しても勝てる・・・が、マナを使う場合は考えなくてはいけない。限りあるマナで如何に効率良く敵を倒すか・・・目の前にいる敵が最後とは限らないし全て使い果たしても倒せないかもしれないから


なので人間は腕を磨く


力をつける者もいれば技術を磨く者もいる


もし僕が魔力を使い続け自分を鍛える事を疎かにしたら・・・もし万が一魔力が使えなくなった時に何も出来なくなり魔力が使えたとしても足元をすくわれるかもしれない・・・あの魔王のように



「凄い圧だ・・・あの時を思い出す・・・」


「あの時ってどの時か気になるな・・・魔王?オルシア?それともキースかな?」


「それは・・・」


「何をしているのですか!!」


これからって時に練兵場全体に響き渡る怒鳴り声


見ると肩を震わせこちらに来る女性が1人


彼女は・・・第三騎士団副団長のジャンヌさん!


「何をしているのか聞いているのです団長!」


「いやその・・・辺境伯様と手合わせを・・・」


「それは見れば分かります!私が戻って来たらどこにも人が居ないからおかしいと思ったら・・・誰が公務をサボり観戦していいと?」


ジャンヌさんが言いながら睨んだのは練兵場に集まっていた団員達


もしかして駐屯所にいる団員全員集まってたの?


「それは・・・見るのも訓練になるかと・・・」


「ええそうですね!ですが駐屯所を空にするのはどうなんですかね!?」


「・・・それは不味い・・・」


「ですよね!?この駐屯所を統括する団長が手合わせに夢中になりいざ何かあった時に動けないでどうするのですか!今は第一第二騎士団が不在で王国騎士団も人手不足なのに・・・ハア・・・団長に任せて城に行ったのが間違い・・・こんな事なら無理矢理にでも団長に生かせるべきだった・・・」


「・・・返す言葉もない・・・」


おお・・・さっきまで大きく見えていたディーンが限りなく小さく見える


「辺境伯様も!」


ええ!?


「大貴族ともあろうお方が公衆の面前で剣を振るうなど以ての外です!高位の方として民衆の模範になるよう振舞って頂きたい!」


どこにそんな貴族がいるのだどこに・・・とは言えず黙って頷いとく・・・怖いから


「サラ様も!」


「へ?」


「『へ?』じゃありません!この場を収められる方がなぜ勝負に見入っているのですか!普通止めるでしょう!?」


「・・・そ、そうね・・・」


「ハア・・・それとファーネ・・・貴女は後で説教ね」


「ちょっとジャンヌ!なんで私だけ・・・」


「何か文句ある?」


「・・・」


サラやファーネすらひと睨みで黙らせるとは・・・もしかして・・・


「ディーンさん・・・もしかしてあの時って言うのは()()()じゃ・・・」


「分かりますか?ジャンヌの圧に勝るものはないと思ってましたが辺境伯様の圧もなかなか・・・」


「そこ!コソコソしない!」


「はい!」


あれ?僕って貴族だったよな?


「とにかく!さっさと解散して全員公務に戻りなさい!それと今の時間分はキッチリ残業してもらいますからね!団長も!」


「・・・」


「言われたらすぐ動く!」


「はっ!」


第三騎士団がディーンがやられても機能していたのはジャンヌのお陰だ・・・間違いなく



長居すると更なる悲劇が生まれそうなので僕とサラはファーネとフレイズを残していそいそと退散・・・背後から『裏切り者~』と言う声が聞こえたような気がしたが気のせいだろう


それにしても第三騎士団副団長ジャンヌ・・・恐るべし──────




「それで?辺境伯様の紹介だからと言ってあの3人を身元も確認しないまま受け入れた、と?」


「・・・面目ない・・・辺境伯様には多大な恩がある為に・・・」


「分かりますがそれとこれとは話が違います。規則に則り必要な事は確認しないと・・・何か不都合があって多少の事は目を瞑るにしてもです」


「・・・そうだね・・・」


「少し落ち込んでおられると思ったから代わりに城へと行ったらまさかこんな事に・・・目を離すといつも・・・あのリガルデル王国との一戦の時もそうです!確かにあのままだとケインが危険だったかも知れませんが団長が行く必要はありませんでした。あそこは命令するべきです・・・『ケインを助けよ』と」


「・・・だね・・・」


「今後1ヶ月は誰とも手合わせ禁止にします。今回の件の報告書も溜まってますし他にも色々やる事があるので」


「もう少しで何かが掴めそうなんだが・・・」


「何かを掴む前に書類を掴んで下さい」


「・・・」


「・・・剣を振るなとは言いません。まだ本来の体力には程遠いでしょうし療養も兼ねて無理はなさらずに・・・第一第二が戻って来たら更に忙しくなるのは団長も分かってますでしょう?」


「ああ・・・揉めるだろうね」


「・・・それに関連してか分かりませんがスウ王女様より言伝です。近々に来るように、と」


「分かった。今日の午後にでも行こう」


「お願いします。それと・・・」


「まだあるのか?・・・あ、いやすまん、そう睨むな。それで?」


「・・・エーラ王女様からも言伝を賜りました・・・『今日中に来るように』と」


「エーラ王女が?私に?」


「はい」


「珍しい・・・いや初めてか・・・他の御兄弟と同じで出自を気にされる方だと聞いているが・・・そのエーラ王女がなぜ・・・」


「分かりません・・・が、手放しで喜べる話では無いでしょうね・・・間違いなく」


「騎士団に関心を寄せる方ではない・・・もしかしたらスウ王女の件もエーラ王女が関係しているのかもしれないね・・・不謹慎かもしれないが戦場の方がよっぽどマシだ」


「いずれ始まるとは覚悟していましたが・・・始まったかもしれませんね・・・後継者争いが」


「かもしれない。一難去ってまた一難とは正にこの事だな」


「剣を握る暇もないかもしれませんね」


「逆だよ・・・握らざるを得ないかもしれない方が・・・可能性としては高いかもしれないぞ──────」

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