454階 ロウニールとディーン
なぜここで太ももの話が・・・そりゃあイヤだったけどそこまで殺気を放つ事でもないのに・・・
「ちょっとサラ!なんで言っちゃったの?」
隣にいたファーネが小声で話しかけてきた
だって仕方ないじゃない・・・黙ってるのイヤだし
凄む彼に押し黙る3人・・・周りも興味本位にチラチラ見てるしこれ以上はなんだか可哀想ね
「ご主人様、私がご主人様のものと知らなかったという事もあります。それにランクを偽った私を助けてくれた事もありますしここはどうか穏便に・・・」
「・・・そうだな。サラがそれで良ければこれ以上は何も言うまい。3人の考えも何となくだが分かった事だしディーンに紹介するのは構わない・・・が、あくまで紹介だけだ。騎士団に入れる入れないはディーンの判断になるだろう」
あ、なんかちょっと嬉しそう・・・『ご主人様のもの』って言葉が効いたかな?
「なあ!それなら俺も紹介してくれよ!確か第三騎士団の副団長は美人で・・・」
「ファーネ」
「はい」
ザイウスが横から喚くと彼はファーネの名を呼び彼女はすぐに意図を理解し魔法を放つ
「んーーー!?んん!?」
口の当たりを魔法で凍らせて喋れなくさせるのはさすがね・・・ちょっとやり過ぎのような気もするけど
「他に紹介して欲しいという冒険者は?資格があればいくらでも紹介してやる・・・その測り方はその時によるけどな」
ここで名乗り出れば私かファーネが出て来る・・・そう思ったのか名乗り出る冒険者はいなかった
何とも言えない雰囲気になった冒険者ギルドを後にして6人で向かうは第三騎士団の駐屯所
もちろん目的はディーン様に会う為・・・で、当の本人達は・・・
「ほ、本当に中に入っていいのだろうか・・・」
「やべぇ・・・やべぇ・・・生騎士だ・・・」
「・・・」
かなり緊張している様子・・・と言うか駐屯所に入ってから感じる視線が何か変だ・・・多分私ではなく彼に向けられている視線?
何回か来た事あるし国境付近でも見掛けて彼の事を知ってるはず・・・いやだからか・・・国境付近で彼がやった事を見てたからこの視線なんだ
多分この視線の正体は・・・恐怖
「ご主人様・・・ご主人様は何も間違っていないかと」
ソッと耳打ちすると彼は振り向かずに小さく頷いた
精鋭揃いと言われる第三騎士団ですら恐怖するなんて・・・一体どんな状況だったのだろう
一夜・・・いえ数刻で5万ものリガルデル王国軍が彼の力に飲まれた・・・その光景はどのような・・・
1人の騎士に案内され応接室に辿り着く
部屋に入ると私達の来訪を聞きつけたディーン様が待っていて立ち上がりロウの元へ
「お出迎え出来ずに申し訳ありません辺境伯様」
「突然押しかけて悪いな」
軽く挨拶を交わして2人はテーブルを挟んで座る
私とファーネは彼の後ろ、3人は入り口付近で直立不動となっていた
「用件は・・・彼らですかね?辺境伯様の護衛にも見えませんし・・・冒険者ですか?」
「は・・・ああ、彼らの件で来た。その前に・・・昨日屋敷を訪ねて来たみたいだが・・・」
「それは・・・お礼を申し上げたかったのです。この度の件殆どにおいて辺境伯様の御助力がなければ成し得なかったものと・・・私と団員達が今も命を繋いでいるのは辺境伯様のお陰ですし剣奴達の捕縛もそして・・・」
ディーン様は私達そしてフレイズ達をチラリと見て言葉を止めた
「『そして』の後の話が気になっているようだな」
「何分臆病なものでして」
何を言わんとしているのか私には分かる・・・この場ではおいそれと話す事が出来ないような内容・・・今回の件の首謀者『タートル』の行方だ
まだ国は国民に対して何の発表もしていない。リガルデル王国が攻めて来た事も街を魔物の大群で埋め尽くされた事も公表していない。ただコロッセオから剣奴達ガ逃げ出しただけ・・・その裏で起こった数々の事件は表に出る事はないのかもしれない
ディーン様は言葉を濁しつつ話すとロウもそれが分かっているようで濁しながら返す
首謀者『タートル』の面々は・・・彼が跡形もなく消し去った事を触れずに
その事はディーン様も王様か他の方から聞いているのだろう。それでも自ら聞いておきたかったんだ・・・これだけの事件を起こした犯人の行く末を
「貴公が気にする程でも無い。全て・・・いや一部を残してはいるが終わったのだから」
「はっ。・・・その一部と言うのを聞いても?」
「それは・・・また今度にしよう。他に何かあるか?」
「いえ。お礼と確認だけでしたので・・・して辺境伯様の用件と言うのは・・・」
ディーン様が再び入口付近の3人を見る
察しがついているのか品定めするように上から下へと真剣に見つめていた
「紹介する。左からフレイズ、ワーズ、ドーズの3人だ。騎士に憧れてて騎士団に入りたいらしい・・・冒険者でランクはA・・・即戦力になるとは思うが・・・どうかな?」
「辺境伯様のご紹介となれば断る道理はございません。ただし規定によりどれほど強くても騎士見習いからやって頂きますが」
「それは構わないがそんな簡単に受け入れていいのか?身辺調査や試験などは・・・」
「言った通り辺境伯様のご紹介なればこそです」
「無駄にプレッシャーをかけるな」
「そういったつもりは・・・そもそも第三騎士団は格調高い騎士団でもありませんし罪を犯した者ならいざ知らず・・・」
「罪を犯した事がある者だと言ったら?」
「それを辺境伯様がご存知なのに連れて来たのが答えでしょう」
「あまり買いかぶられると背中がむず痒くなる」
「いずれ慣れます・・・貴殿の全てを知っている訳ではありませんがご活躍は存じてます。これからもっとむず痒くなる事は続くと思いますので慣れるのも直かと」
「面倒だな」
「その感想は聞かなかった事に致します」
和やかな雰囲気でトントン拍子に話は進みフレイズ達はおそらく実感が湧いてないだろうが騎士団に仮入団という形となった
その後は2人で近況を報告し合い話は終わるかと思ったけど・・・
「辺境伯様・・・この後ご予定はございますでしょうか?」
「特に今日は予定はないが・・・」
「でしたら一手お付き合い願えないでしょうか?」
「・・・私と?」
「はい」
ディーン様は真剣な眼差しでロウを見つめる
ロウとディーン様が?・・・2人って戦った事あったっけ?
「っ!」
気付いているのは私だけ?ディーン様の目を見返すロウの背中から殺気にも近い・・・これは熱気?湯気でも出て来てもおかしくなさそうなくらいだ
「ねえ・・・辺境伯様が強いのは知ってるけど・・・実際どれくらい強いの?」
「さあ・・・私も分からない・・・だって彼は・・・いつも予想を超えてくるから・・・」
聞こえないように小声でファーネと言葉を交わした後で改めてロウを見た
5万の軍勢を追い返したのは紛れもなく彼の強さ・・・でもそれは魔物を使ったに過ぎない
私も常に鍛えているけど彼は目を離した隙に遙か高みへと行ってしまう
今の彼は一体どれくらい強くなっているのだろう
「条件が・・・あります」
あります?
「どうぞ」
「辺境伯と騎士団団長ではなくロウニールとディーンで戦うというのなら受けます」
「・・・もちろんです。真剣勝負に地位は関係ありません」
見るとフレイズ達の頭の上にはハテナが浮かんでいるのが見て取れた。それはそうだ貴族なんてほとんどが偉そうにしているだけで自分で着替える事すらしない者達がほとんど・・・血統の良さだけにかまけた無能集団というのがほとんどの人の意見だろう。現にそういう輩が多いのも事実・・・だからその貴族が『剣聖』や『至高の騎士』と呼ばれているディーン様と戦う姿なんて想像もつかないはず
「ではやりましょう・・・ディーンさん」
彼の立ち上がった姿が一瞬エモーンズで門番をしていた時の姿と重なった
そう言えば彼は以前ディーン様に憧れていたって言ってた
辺境の地にも名が轟く騎士ディーン・・・剣を持つ者・・・いえ戦う者戦わない者老若男女問わず彼の名を知らない者はいない
こうして平然と会ってるけど本来なら遠くから見るだけの存在なのよね・・・縁って不思議
もし私がロウと出会わなかったら・・・私はこうしてこの場にいることはなかっただろう
そんな彼に追い付く為にも・・・この戦いを見て今の自分の位置を確認しよう・・・あ・・・もしかしてディーン様も?
確か国境の戦いにてディーン様は相手の将軍に負けたとか・・・その将軍にロウは勝ったらしい・・・だからディーン様は?
練兵場に着くと互いに上着を脱いで刃引きされた剣を手に取った
どこから聞いて来たのか騎士団員がゾロゾロ集まって来て練兵場は超満員状態・・・そっか団員はロウの強さを知っている・・・だから気になるんだ・・・
直接戦ったらどっちが強いのか
そうよね・・・気にならないはずがない
お金を取ってコロッセオで開いても超満員になるのは確実の戦いだもの!
「あの・・・サラさん、なんで騎士の方がこんなに集まって・・・ここではディーン様が戦う姿ってそんなに珍しいんですか?」
・・・フレイズ・・・今せっかく乗ってきたのに話しかけないで欲しかった・・・
「団長と言えどディーン様は訓練を欠かさない方と聞いてるわ。なのでしょっちゅう見てると思うわよ?特にここにいる第三騎士団の方なら」
「ならどうして・・・」
「見てれば分かるわ・・・騎士になるのならこれから始まる戦いを一挙手一投足見逃さない事ね・・・思い込みを捨てて純粋な目でね」
騎士団団長と貴族の戦い・・・字面だけなら見る必要性は皆無
でも実際はフーリシア王国の頂上決戦と言っても過言ではない!
「・・・こちらから行きます」
「ええ」
始まる!
先手を譲ったロウはゆったりと構える
逆にディーン様は剣を腰に当てまるで鞘に納めたかのように構える
沈黙
空気が痛いくらい張り詰める
唾を飲み込むのも忘れるくらい見入っていると意を決したのかディーン様が宣言通り先に動いた
あれは・・・剣気一閃
基本中の基本の技だがディーン様が出すともはや必殺の一撃となる剣技・・・だが
ゾクッ
背筋が凍るほどの寒気
彼は剣気一閃を音も立てずに受け切った
ディーン様が止めたようにも見えた・・・けど違う・・・当てたのに衝撃が・・・音すらも吸収された!?
「いつまで経っても来ないから寝てるのかと思いましたよ」
「それは失礼・・・今からは瞬きすら出来ないよう努力します」
ディーン様の言葉は冗談ではなく嵐のような攻撃がロウへと降り注ぐ
さすがに全てを吸収出来ないのか次第に剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてきてロウの顔にも焦りの色が滲み出る
「そ、そろそろこっちの番かな?」
「ご自由に・・・出来たらの話ですが!」
「んにゃろ・・・ハッ!」
ロウは受けるタイミングでマナを纏い強引に押し返す
するとディーン様は飛び退きその力を流すとひと息つき再び構えた
ディーン様が型通りの速度重視ならロウは型など関係ないといった力任せ・・・普段のロウならどちらかと言うとディーン様に近い戦い方なのにどうして・・・
「挑発がお上手ですね・・・ロウニール君」
「こういう戦い方に弱いと思ったら・・・そうでもないんだな・・・ディーン」
あっ・・・もしかしてディーン様を敗った相手の真似?
「あの・・・2人共殺気立ってませんか?これ・・・」
「ははっ・・・気のせいよ・・・うん」
と言いつつ心の中で私は呟いた
血の雨が降るかも、と──────




