453階 偽りの名の代償
一夜明け面倒な客が来る前に僕とサラ、そしてファーネは屋敷を出て冒険者ギルドへと向かった
連続して貴族服に身を通すのはかなり疲れるのだけど仕方ない・・・今日は貴族として冒険者に会わないといけないからな
なのでサラも冒険者としてではなく僕のメイドとして行動する為にメイド服を着ておりファーネも僕の護衛として胸元が開いた服ではなく露出が少ない服を着ている
そう言えば私兵隊の制服ってまだ作ってなかったな・・・今度ナージに相談してみるか
「ご主人様、冒険者ギルドに到着しました」
「あ、うん・・・よし!」
考え事をしていたらいつの間にやら冒険者ギルドに辿り着いていた。気合を入れていざ貴族モードで中に入ろうとすると慌ててファーネが僕達を止める
「ちょ、ちょっと・・・私ってなんて呼べばいいんだっけ?辺境伯様?閣下?」
「辺境伯様でいいんじゃない?」
「わ、分かった・・・なんか私が緊張してきた」
「なんでよ」
「いやなんか・・・昨日の3人の顔を見たら私まで・・・」
「そう言えば貴族を連れて来るって聞いたら3人共固まってたわね」
「まあ貴族に苦手意識持つのは仕方ないと思うけど・・・」
「おう!姉ちゃん達入るのか入らねえのかハッキリしやがれ!」
ギルドの入口で話し込んでいると後から来た冒険者がいきなり怒鳴り始めた
確かに邪魔だな
「・・・あら?誰かと思ったらザイウスじゃない」
「あん?・・・なんだファーネと・・・サニャか?なんだ仮装パーティーでもおっぱじめようとしてんのか?」
サニャ?・・・そう言えば偽名を使ったとか何とか・・・
「仮装パーティー・・・どっちかって言うと今までが仮装よ。本職はこっち」
「本職?その地味な格好とメイド服がか?」
「そう。私はロウニール・ローグ・ハーベス辺境伯様の護衛でサニャ・・・サラは辺境伯様のメイドよ」
「護衛にメイド?意味分かんねえぞ?」
「別にアンタに分かってもらわなくたって・・・こっちには色々事情があるのよ事情が」
「サラ?・・・まあいい、用事がねえならそこをどけ」
「アンタバカね・・・私が護衛でサラがメイドだとしたら誰と一緒に居ると思ってるの?」
「・・・げっ、貴族・・・」
ファーネがスっと横にズレると僕と目が合い不快感たっぷりの表情をするザイウスと呼ばれた男・・・死刑にしたろうか
「アンタはそこで子犬のように怯えて辺境伯様が入るのを待ってなさい・・・分かった?ザイウス」
「くそっ・・・覚えてろ!ファーネ!」
何故かファーネは勝ち誇った顔をしてザイウスを煽る・・・なんだかこれだと僕が偉ぶってるみたいじゃないか
意気揚々とギルドの扉を開けまるで本当の護衛のように僕が通るまで頭を下げ扉を開けておく・・・あ、私兵だから当然なのか忘れてた
サラは僕の斜め後ろに立ち共に中に入るとファーネは扉を閉めてサラの横に並び立つ
おお・・・2人を引き連れる偉そうな貴族みたいだ
そんな事を思いながらギルド内を眺めていると後ろからサラか小声で今回の目的の3人組を教えてくれた
アイツらの内の1人がサラの太ももを・・・
思わず殺気が溢れ出そうになるが何とか抑えて3人の元へと向かうと僕達に気付いた3人組は立ち上がり頭を下げ僕達を迎えた
「お、お初目にかかります辺境伯様・・・フレイズと申します」
「ワーズです」
「ドーズ・・・です」
なるべく偉そうに・・・なるべく偉そうに・・・
「ロウニール・ローグ・ハーベスだ。よろしく」
ああ・・・無理だ・・・もう限界に近い・・・なんだよ偉そうに
てかそもそも貴族が偉そうにしなきゃいけない法律なんてない・・・どっかのアホな貴族が尊厳とか気高くあれみたいな事を言って偉そうにするのが普通になったからだ・・・多分
そう言えばディーンは平民の僕に対しても普通に接してくれた・・・ケインは平民風情が!みたいな感じだったけど・・・そうだ・・・何も偉ぶる事なんてない・・・自然に接すればいいだけ・・・
「立って話すのもなんだ・・・座って話そう」
何となく考え方を変えたらスっと言葉が出るようになった
自然体でいこう・・・偉ぶるのが性にあわないのなら無理にあわせないでもいい・・・公式の場では・・・その都度考えよう!
「し、失礼します!」
緊張するフレイズに対してワーズとドーズは少し冷めたような感じだな・・・3人共貴族になりたいって聞いてたけど熱意の差があるのかな?
僕と3人が座るとサラとファーネは僕の背後に立つ・・・2人共従者っぽくてかっこいいな
「それで・・・話はファーネとサラからある程度聞いたけど私が第三騎士団団長のディーンに君達を紹介すればいいのかな?」
「は、はい!その・・・騎士団に入るのが夢でして・・・はい・・・」
「フレイズは分かった・・・ワーズにドーズも?」
「・・・まあ、はい」
「・・・」
ワーズは何故か不貞腐れた感じで返事してドーズに関しては頷くだけ・・・とても入りたいようには見えないが・・・
「おい!ワーズにドーズ!辺境伯様に失礼だろ!」
「へいへい、すんませんすんません」
「ワーズ!」
「・・・別に態度は気にしないけど・・・ワーズは何か私に言いたい事でもあるとか?」
明らかに態度がおかしい・・・わざと怒らせようとしているような・・・
「別にありませんよ・・・まあでも・・・あえて言わせてもらうとただ自分の配下とはいえ危険な事をさせるのはどうなんですかね?」
「うん?何の事だ?」
「んのっ!ファーネは元第三騎士団って知ってたけどメイドのサニャ・・・サラを危険な目に合わせるなんてどうなんっすかねぇって言ってるんですよ!」
あーなるほど・・・そういう事か
ドーズもウンウン頷いているって事はそれがあったからあまり僕にいい印象を持ってなくて態度がおかしかったわけか
「ワーズ!いい加減にしろ!」
「いい加減にするのはそっちだろ!フレイズの騎士道ってのはその程度かよ!自分が騎士になれりゃそれでいいのか?間違った事を間違ってるって言える騎士になるんじゃねえのかよ!」
「っ!だが・・・」
うわぁーなんだこの熱い展開は・・・聞いてないぞ僕は
僕の後ろに立つ2人に視線を送っても知らん顔
なに?僕にこの場を解決しろと?
ただでさえ胡散臭い・・・まあ僕の事だが・・・冒険者ギルドに似つかわしくない貴族がギルドに現れ注目されているのにワーズが大声を出すから更に注目を集めていた
さっき入口で会ったザイウスもニヤニヤしながらこちらを見ている
ハア・・・何で僕が・・・
「だがもしかしもねえ!こんな貴族に頼って騎士団に入って・・・それで満足なんかよフレイズ!」
こんなって・・・
「女なんぞに頼る軟弱者に成り下がりたいのか?」
女なんぞ?
「・・・」
よく本人を目の前にして言えるな・・・普通の貴族なら怒り狂って卒倒しそうなレベルだぞ?
まあでも今のでだいたい3人の性格は分かった
フレイズは騎士団に入りたい気持ちが抑えられない少年みたいな感じでワーズは見た目に反して正義感はあるけど口が悪い・・・そして多分女好きだ。で、ドーズはワーズと似てるけど反対に女嫌いか典型的な男尊女卑か・・・まあよくこの3人でパーティーが成り立っていたもんだ
それとサラは偽名を使った理由がランクを隠す為か・・・まあ『タートル』を探るのに表立って動いたら目立つし当然と言えば当然か
「・・・別にこちらから頼んだ訳ではないから紹介するもしないもどちらでも構わないのだがひとつ誤解を解いておこう」
「誤解?」
「ワーズ・・・君が言うように私はサラとファーネに危険な目に合わせるような依頼をした。けどそれは彼女達なら大丈夫と思ったからであって決して無茶をさせた訳ではない。それとドーズ・・・君は女なんぞと言うが君より遥かに優秀な女性は腐るほどいる。自分の狭い世界で物事を考えぬ事だな」
「大丈夫だと?」
「腐るほど・・・見せてもらいたいものだ。その優秀な女とやらを」
「ワーズ!ドーズ!も、申し訳ありません普段はこのような感じじゃ・・・」
「いや、構わない。お互い思う事があったままではスッキリしないだろ?言いたい事があれば言えばいい・・・別にそれで罰しようなどとは思わない」
「罰しようとは思わない・・・か。貴族にしては話が分かるじゃねえか・・・ちなみに殴ったらどうなる?後ろにいるサラに泣いて助けを求めるか?」
「仮定としては面白いがありえない」
「あ?何がありえないんだよ」
「『殴ったら』という仮定がだ」
「・・・面白ぇ・・・後で吠え面かいても知らねえぞ!!」
突然立ち上がり殴りかかって来るワーズ
何が彼をそこまでさせるのか・・・分からないけど根性はありそうだな
「っ!・・・サラ・・・」
僕は椅子に座ったまま何もしなかった
僕の顔面に向かっていたワーズの拳をサラが手を出し難なく止める。見た目魔法使いっぽいけど鍛えているのかそこそこの突きだった・・・けどサラにしてみれば止める事など朝飯前だろう
「・・・死にたいの?」
止めた拳を握り殺気を放つ
知り合いじゃなければとっくに死んでたかも・・・ワーズが
「うっ・・・くっ!」
ワーズは拳を引き困惑した表情を浮かべ、残りの2人は驚き口をポカーンと開けたままサラを見る。この驚き方はサラの強さを知らなかったってことか・・・偽名を使ってたし当然ランクも隠していただろうからそれも仕方ないか
「サラ・・・もう名乗っていいぞ」
「はい。騙していたのは謝るわ・・・私の名はサラ・セームン・・・Sランク冒険者よ」
「Sっ!そんな・・・」
「サニャ・ハーベスじゃなくて・・・サラ・セームンだって!?」
「・・・『風鳴り』・・・」
ん?今ワーズの奴なんて言った?
サニャ・ハーベス?
気になってサラを見ると顔を背けた
どうやら恥ずかしいらしい・・・顔は見えないけど耳まで真っ赤だ
「そういう事だ。私は彼女達なら安心して任せられると思い依頼した。もちろん危険はあるがそれを言ったらキリがない・・・それに彼女達に任せてダメだったら他の誰がやってもダメだろうしね。それとドーズはすぐに謝罪した方がいいぞ?今ここで女なんぞにコテンパにやられたくなければな」
「・・・『風鳴り』が稀なだけ・・・所詮女なんぞ・・・」
「元宮廷魔術師ラディル、現宮廷魔術師シーリス、爆炎の魔法使いソニア、シャリファ王国女王フレシア、『タートル』のニーニャ、アーキド王国海将ネターナ・・・もちろんここにいる2人も君より強い。次に『女なんぞ』と口にしたら見る目のないその目をくり抜いてやる」
「・・・」
「も、申し訳ありません!ドーズは女性を軽視している訳ではなく家庭に入って欲しいと強く思ってまして・・・ワーズにしてもサラさんやファーネさんが力不足と思ってるのではなく2人を心配して・・・」
「・・・そうか。では聞きたいのだが私のサラの太ももに手を乗せた輩が3人の中にいるらしいがそれも家庭に入って欲しかったり心配しての事なのか?」
「え?」
フレイズはキョトン顔・・・ドーズは無表情・・・ワーズは・・・そうかお前か・・・太ももの恨み・・・どうしてやろうか──────




