450階 食事会
僕は脱いだ上着を着て部屋を出た・・・胸元がパックリ開いたドレスを身に纏ったエーラに腕を組まれて
「っ!・・・これは失礼致しました」
部屋を出ると執事服を来た人が僕とエーラを見て頭を下げる
やめてくれ・・・その『お邪魔してすみません』みたい態度を取るのは
「今後は気をつけなさい・・・食事よりも大事な事がありますわ」
ありませんわ
「はっ・・・それではご案内致します」
てか何だよ食事より大事な事って!アレか?アレなのか!?と問い詰めたいがやぶ蛇っぽいしやめておこう
にしてもなぜエーラは満面の笑みを浮かべて僕の腕に絡みついているんだ?さっきまで塞ぎ込んでいたり追い詰められた顔してたのに・・・よく分からん
鬱陶し差を感じつつも王女なので振り払う事も出来ずそのまま食事する場所まで案内される
そこで見たものは・・・そのまま回れ右して帰りたくなるような光景だった
長いテーブルに真っ白なテーブルクロス、その上には等間隔で花瓶が置かれて花が咲き乱れる。そしてその間には所狭しと豪華な食事が並ぶ
そして奥には王様・・・左右に第一第二王子・・・第二王子の隣りに第二王女であるスウ・・・席は残り二つ空いており第一王子の隣ときたもんだ
「よく来たローグ卿!まあ座ってくれ」
と王様が立ち上がり言うと第一王子の隣りの空いた席を指した
当然第一王子の隣がエーラだと思いきや座らされたのは僕・・・第一王子と第二王女に挟まれる形に・・・目の前にはスウ・・・おいおい何だこの罰ゲームは
「では始めよ」
王様が言うと何故か始まる生演奏・・・あまりに衝撃的な光景で気付かなかったけど楽器を持った人達が部屋の隅に待機していた
そして生演奏が流れる中、メイドが次々と部屋に入って来る・・・手には飲み物らしき容器を持っておりそれぞれの人の後ろに立つと伏せてあったグラスを起こしその飲み物を注ぐ
「ローグ卿、そう固くならずに好きにやってくれ。食事の席で固い話は抜きにして、な」
「は、はっ」
そうは言われましても・・・やっぱ断るべきだった・・・
「父上、今宵は祝勝会ですか?それとも婚礼祝いで?」
おい第一王子!・・・名前なんだっけ?
〘マルス・オギナ・フーリシアよ・・・エロガッパ〙
エロ・・・クソッ・・・後で覚えてろ!そしてありがとう!
「そのどちらでもない・・・ただめでたい日であるのはたしかだ。頼もしい味方に恵まれ危機は去ったのだからな」
「頼もしい味方・・・ねえ。これまで頼もしいと思ってた味方が頼もしくなかったと分かったから余計にめでたいね」
「フォース・・・それはどういう意味だ?」
王様の言葉に第二王子であるフォース?が嫌味っぽい言葉を言うとマルスが即座に反応する
何だ兄弟仲悪いのか?
「そのまんまの意味だよ兄さん」
「はっきり口にしないと分からないなフォース」
睨み合う2人・・・空気が悪くなる中で王様が口を開く
「止めんか2人共・・・今日はローグ卿も居るのだぞ」
僕を引き合いに出すのはヤメテ・・・ほら見ろ睨まれた
「そうですな・・・何せリガルデル王国軍を撤退させた英雄殿がいる席で話す内容でもない」
「だからこそ話す内容では?」
「このっ!」
「マルス!フォース!・・・すまんなローグ卿・・・2人は頼りにしていた者達が不甲斐ない結果を出して荒れておってな」
「第一騎士団に第二騎士団・・・名前を変えたらどう?第四と第五に」
「スウ!」
「第三も同じではなかったかな?妹よ」
「同じにしないで欲しいわ。逃げた剣奴達を一網打尽にしたのはどこの騎士団かお忘れ?お兄様」
ああ、そういう事か
第一騎士団はマルス、第二騎士団はフォース・・・んで第三騎士団はスウを支持しているとか聞いたような・・・ん?そう言えばエーラを支持している人達は?
振り返ると横に座るエーラと目が合った。彼女は何かを察したのか寂しそうに微笑む
そうか・・・嫁ぎ先が決まっている人を支持しようなんて人はいない・・・だから彼女は・・・
「フン!第三騎士団がいくら活躍しようと平民出身の奴に上に立つ資格などないわ!第三騎士団こそ名を変えたらどうだ?平民騎士団などお似合いだと思うがな」
「お兄様・・・それは言葉が過ぎるのでは?」
「ほう?どう過ぎると言うのだ?」
「お隣に座っている人も平民出ですけど?それでも上に立つ資格はないと?」
うん?お隣?・・・それって僕の事?
エーラの事を見ていたらいつの間にやら話が変な方向に
「もうよさぬか!どうして兄妹集まるといつもいつも・・・とにかくこれ以上目に余るようなら退席させるからそのつもりでおれ!」
楽しい食事会のはずが微妙な空気に・・・王様も大変だな。まあ僕としては初めから楽しくない食事会だけどね
王様だけでも緊張するのに王子と王女そろい踏み・・・そう言えば王妃の姿が見えないけど・・・
「・・・ふぅ・・・ローグ卿には恥ずかしいところを見せてしまったな。冷めない内に食べるとしよう・・・いや、その前に」
ため息をつき一気に老け込んだかのように見えた王様だったが急に目を輝かせ若返ると赤いワインが入ったグラスを傾け僕を見た
「フーリシア王国の勝利に!」
へ?
「勝利に!」
王様の掛け声の後、いがみ合ってた兄妹達もその掛け声に合わせて各々のグラスを傾けた
勝利?何の勝利なんだか・・・ただちょっかい出してきた奴らを撃退しただけなのに・・・どちらかと言うと『生きてて良かった!』の方が合ってるんじゃないか?
「クスッ・・・ロウニール様、こういう場合はグラスを持ち前に傾け最初に言った方の言葉の終わりを復唱して下さい」
「え?あ、はい・・・えっと・・・勝利に!」
うわぁタイミング逃したからかめっちゃ注目浴びてるんですけど!てか周りにいるメイド達が笑いを堪えるのに必死なんですけど!
「くくっ視線も戦果も独り占めか?ローグ卿」
黙れマルス
「妹も独り占めかもしれないね」
いやしないから
「その『妹』の中に妾は入っていないでしょうね?お兄様」
誰も入ってないわ
「当然私だけよ?スウ」
だから誰も入ってないってば!
「ふっ、エーラも隅に置けないのう」
隅に置いとけ!
もうヤダこの家族・・・もしかして王妃がいたら歯止めに・・・いやいや、更に口撃が増えるかもしれないから王妃の事は触れないでおこう
ようやく食事にありつけると王子達もさっきの険悪な雰囲気から一転笑顔で食事と会話を楽しんでいた
もしや腹が減ってただけ?
「なあローグ卿・・・俺達は又聞きしただけなんだがよぉ・・・本当に1人で5万の軍とあの『猛獅子』をやっちまったのか?」
酔った勢いなのか誰もが興味ありそうだけどなかなか突っ込めない話をマルスがしてきた
別に隠す事でもないしどうせいずれはみんな知る事になるし・・・ただ食事の席でするような話ではないと思うけど・・・仕方ないか
「私1人ではありませんよ?」
「ん?じゃあ第三騎士団と組んでか?」
「聞いてませんか?魔獣を喚び出したのですよ・・・大軍に対抗する為に」
正直に創ったと言うのは危険・・・ダンコにそう言われて考えた
何が危険か最初分からなかった・・・ダンジョンでしか創れないしダンコがいなきゃほとんど創れないし・・・
けど理由を聞いて納得・・・確かに危険だ
まず無から有自体がありえない
それは人間で言う神の領域なんだとか
だけど完全な無から創るのではなく魔力を使って創るのだからと反論するとダンコに『それを人間に説明するつもり?』と聞かれた
魔力から魔獣を創り出す・・・そんな事を言えば魔族認定待った無しだろう
実際に魔王と戦った時に魔王の配下になってたサキは魔獣を創り出し人間と戦わせていた。これまでの歴史でもそういう事が度々あったらしい
つまり過去に照らし合わせると僕のやってる事は魔王や魔族と同じって事になる
だからと言って魔力以外で創ったと嘘をついたら何を使っているのか突っ込まれるだろう・・・ゆくゆくはバレて痛い目を見るのは目に見えていた
神でもなく魔族でもないとするには創ったのではなく別の方法を考えた方が良いと理解した
でダンコの助言で魔獣を喚び出した事にした
魔獣や魔物を喚び出す人間は過去にいたらしい
召喚士と呼ばれる人だ
他にも魔獣や魔物を操る従魔士と呼ばれる人もいたらしいが魔獣や魔物と契約して使い魔にするとの事だから却下・・・どこでそんな魔獣達と契約したんだ?ってツッコまれたら答えようがない
魔物ならともかく魔獣は見た事ない人の方が多いしね
召喚士は契約なんて必要ない。マナを使って喚び出すだけだ
けど契約した従魔士と違ってどんな魔獣や魔物が喚び出されるか分からないらしい。マナ量によって変わり下手に自分より強いヤツを喚び出してしまうと言う事を聞かず喚び出した本人が殺られてしまうなんて事も・・・
だから逆に僕にとってはいい隠れ蓑になった
マナ量が多いのは周知の事実だしオルシアに1対1で勝ったのもみんな見てたはず・・・なので大量に魔獣を出してしかも言う事を聞かせても何ら疑われる事は無いって事だ
「喚び出した!?という事は卿はあの・・・召喚士・・・」
「召喚士?・・・父上、その召喚士とは?」
「・・・遠い過去に魔物を喚び出す事の出来る者がおったという・・・もちろん余も見たことがない架空のものという認識であったが・・・」
「私も本で読んだ事が・・・しかし誇張される本にあっても数体程しか召喚出来ないと・・・」
まためっちゃ注目されてる
10万の軍勢・・・その半数を削り追い返すともなれば魔物数体ではとてもじゃないが無理なのは子供でも分かる。戦場に居なかった人達は疑問に思うだろう・・・何体召喚したのだと
「陛下・・・もし良ければ人払いを」
「うむ。皆の者下がれ」
王様の言葉に従い給仕をしていたメイド達が頭を下げて去って行く
今までの話はリガルデル王国に伝わるはずだ。だから広まってもいい話となる・・・けどこれからの話は広まって欲しくない話・・・フーリシア王国としても・・・僕としても
「そんな警戒しなくてもいいのによぉ・・・城のメイドは調査済みだぜ?隅々までな」
コイツ・・・隣の王子様は頭が空っぽなのか?
「そうですか。ではこれから話さないという保証は?何かしらの能力で隠している可能性は?意外と緩いのですね・・・実は情報というものを軽く見ているとか?」
「・・・それだけ言うんだよっぽどの情報なんだろうな?」
「そうですね・・・隠す事で利となり晒す事で不利となる・・・とだけ」
僕の要望が通りやすいようにする為・・・それと利用されない為の駆け引き・・・上手くいくか分からないけど楽しい食事会に少しスパイスを追加してやる──────




