448階 ベッドの中身
気まずい・・・すこぶる気まずいぞ
王都の屋敷に戻ってサラとイチャイチャしようと思ってたら城からの使者がまだ居た・・・聞けば2回目に来た時からずっと外で僕を待っていたらしい。おそらく王様に連れて来るまで帰ってくるなとでも言われたのだろう
少し可哀想に思った僕は勢いでここまで来てしまった・・・何度目かになるだろうフーリシア王国城内謁見の間
本来なら壁にズラリと兵士が並び王様の横にも護衛がいるのだが今日は王様と宰相の2人のみ
2人に会うのはもう少し考えがまとまってからにしたかったが・・・仕方ない。何とかなるだろう
「急な呼び出しに応えてくれて感謝する・・・それと・・・貴公には再三に渡り国の危機を救ってもらった。その行動に深い感謝を」
おおっ!?王様が頭を下げたぞ?
「・・・国に仕える者として当然の事をしたまでです」
なんて思ってもないことを口にしてみる。僕も成長したもんだ
「そうか!余は素晴らしい国民に恵まれたものだ。貴公は心根も含めて英雄と呼ばれるに相応しい」
こらこら嬉しそうにするんじゃない。まだ他に残っているだろう・・・僕に言わなきゃいけない言葉が
「あーローグ卿・・・その此度の件で行き違いがあり・・・その・・・卿の話も聞かず私の独断で卿を拘束した件についてだが・・・」
宰相のクルスが僕の思いを汲み取ったのか切り出してきた
しかし『私の』か・・・国ではなく個人の判断って事にするつもりか・・・それで許されるとでも?
「その件についてですが・・・」
わざと溜めると王様とクルスは離れている僕に聞こえるくらい音を立てて生唾を飲み込んだ
「色々と考えたのですがあの時は仕方ないかと・・・内通者を疑い拘束するのは当然かと」
「お、おお・・・分かってくれるか!」
「ですが・・・その件で一つ」
「・・・な、なんだ?」
「『真実の眼』を持つからと言ってゼン殿を信用し私の言葉を聞いては下さらなかった・・・確かに『真実の眼』は嘘を見抜きます。ですが『真実の眼』を持つゼン殿が嘘をつけば?もし少しでもその事を考え私の言葉に耳を傾けて下さっていただければ・・・私は10日間も苦しまずに済んだのでは?そう考えると残念でなりません」
「・・・」
「申し訳ない・・・『真実の眼』を信用しゼンという人となりを見逃していた。聖者と呼ばれていた奴を盲目的に信じてしまっていたのだ・・・これは全て私の落ち度・・・謝って済むことではないことは重々承知している・・・何でも言ってくれ・・・甘んじて受けよう」
「・・・ゼン殿は?」
「更迭した。今は牢に入れてあるが・・・もし極刑を望むならすぐにでも・・・」
「望みません・・・もし可能なら出してあげて下さい」
「しかし!・・・ゼンのやった行為は国を脅かす行為に等しい・・・無実の罪を着せて闇に葬り去ろうとしていたのだぞ?英雄である卿を!」
英雄・・・ねぇ
てかゼンに僕の敵対心を向けさせて自分達は悪くないって事にしたいのか?
「ゴホン・・・余もゼンを信用し過ぎていた事を反省しておる。貴公が罰を望まぬのならその通りにしよう・・・ただし復職はさせぬがな」
まあそれはそうだろうな
『真実の眼』で見たものを偽られても判断出来ないだろうし今後信じるのは難しいだろう
「・・・そうなると法務大臣の座が空いてしまいますね・・・」
「致し方あるまい。ただ法務大臣の職は誰にでもやれるものではない。罪を犯した者を法と言うなの剣で裁き人々を法という名の盾で護る『法の番人』・・・武を統括する騎士団団長、知を以て余を支える宰相、そして法を司り国を正す法務大臣・・・この国の根幹を担う三者の一人・・・欠かせぬ者だからこそ簡単には選べぬし・・・」
チラチラと王様の視線を感じる
王様が何を言いたいのかは分かった・・・人によってはこれをチャンスと捉えて立候補するかもしれないけど・・・
「陛下・・・お気持ちは察しますが本人が望まぬのなら何とも・・・私も他にいないと心より思っていますがこればかりは・・・」
クルスまで僕をチラチラと見始めた
誰が好き好んで法の番人とやらに・・・今の状況なら僕が望めば就かせてやるって感じだよな。で、望みを叶えてやったんだから無実の罪を着せた事を水に流せという事だろう・・・だが残念だったな・・・僕は権力とやらに全く興味がない!
僕が自分にやらせてくれと言い出すまで黙っているつもりだろうか?この無言の時間が居心地の悪さを加速させる
いっその事興味無いと言ってやろうか・・・いや、実はそのつもりはなくて何言ってんだこいつと言われる可能性も・・・
「・・・ローグ卿」
「はっ」
「卿は興味は無いか?」
「と言いますと?」
「法務大臣の職だ。陛下も今回の件で卿にかなりの信頼を寄せている。その信頼に応える気はないだろうか?」
アホかある訳ないだろ
何が悲しくて苦労を買って出ないといけないんだか・・・
「申し訳ありませんが私は所詮平民の出、貴族へと引き上げて頂いた事に感謝はしておりますが礼儀作法に疎く法に対する知識も不充分と自覚しております。他に適任者がおられると思いますのでその方をお選び下さい」
無下に断る訳にもいかないしこんな感じで良かったかな?
僕の言葉を聞き王様は視線を横に立つクルスへと向けた。その時に笑みを浮かべたのは気のせいだろうか?
「・・・そうか・・・それは残念だ。もし望むなら今回の功績に対する褒賞とも考えたが・・・クルス」
「はい。ではこれより今回の功績に対する褒美を与える──────」
つらつらと並べられた功績は改めて人から聞くとかなりのものだと実感する
攻めて来たリガルデル王国軍を追い返し今回の首謀者である『タートル』のレオンを止めて計画を阻止した
ただ『タートル』を誰1人として捕まえられなかった為に何を企んでいたのかは分からずじまい・・・それでも国に仇なす行為であるのは確実であり僕の活躍なくしてこの騒動は悲劇をもたらしていたのは間違いなかった
その偉大なる功績には多大なる褒賞を・・・クルスが巻物を懐から取り出して読み上げるととても覚えきれない数の褒賞がそこには書かれていた
その中で僕を辺境伯から公爵へという部分ともう一つセットになっている
『第一王女エーラ・ナシス・フーリシアもしくは第二王女スウ・ナディア・フーリシアを与える』
確か公爵は侯爵と違い王族に連なる者・・・つまり僕が公爵になるにあたっては王族を娶る必要がある
第一王女と第二王女は他国もしくは自国の有力権力者に嫁がせるつもりだったらしい・・・胸糞悪いが政略結婚の道具として扱われる
で、王女達の嫁ぎ先の有力候補はリガルデル王国・・・だった
隣接している国で大国と呼ばれるリガルデル王国・・・そこにフーリシア王国の王族を嫁がせる事により懇意を深めるという名目だ
事実過去の王女でリガルデル王国や他国に嫁に行った人はいるらしい・・・その後どういう扱いをされたか確認などしていないとの事だが
噂によれば嫁ぎに来た王女はその国の有力者の第二第三夫人となり優雅な生活を送っているとか他国の王女と蔑まれ幽閉状態にあるとか・・・まああまり良い状態ではないのかもしれない
それでも国としては人一人の犠牲で国家間の友好関係が継続出来るのであればと送り出す・・・たとえそれが自分の娘であってもだ
そこに僕が口を挟む権利はない・・・もし仮に王女を差し出さなければ他の国が攻めてくると言われれば口を噤むしかないし・・・
で、だ
王女達の嫁ぎ先最有力候補であったリガルデル王国・・・その王国が武装をし国境を越えた。当然これは侵略であり許す事など到底出来ない
となれば王女の嫁ぎ先がなくなった事になる・・・友好国ならまだしも敵国に娘もやる訳にはいかないから
となると国は敵国に備えて戦力を増強しなくてはならない・・・国防に力を注ぐ・・・まあ当然と事だ
またいつリガルデル王国が攻めて来るかも分からないし必要ならばフーリシア王国から攻める時もあるかもしれない・・・まだリガルデル王国から正式な声明は出ていないから国境越えが宣戦布告の代わりなのかどうかは定かではないけどフーリシア王国としては準備はしなくてはならない
戦争の準備を
で、その準備に際して真っ先に白羽の矢が立ったのが僕って訳だ
1人で10万の軍勢を追い返せる者・・・その者を国の盾として、剣として考えるのは当然と言えば当然かもしれない
だから地位と娘を与えてでも抱え込もうと・・・こっちとしてはいい迷惑なのだが
もちろん丁重にお断りした・・・『私には愛すべき人がいます』と恥ずかしがりながらもはっきりと伝えた
だけど・・・
「ハア・・・疲れた・・・」
今夜は是非城に泊まって欲しいと言われ与えられた部屋へと案内される
国からの褒美を全て聞きその上で僕の要望も全て伝えた・・・かなり驚いていたし考える時間が欲しいのか返答は後日すると言われたけどどうなのだろうか・・・部屋に入りため息をつきながら上着を脱ぎボタンを外す
案内された部屋は屋敷にある僕の部屋の倍はあり見た事もない装飾品がこれでもかと並ぶ豪華な部屋・・・多分かなり身分の高い人を泊める為に用意された部屋なのだろう・・・ホコリひとつなくピカピカの室内はどうにも心が休まりそうもない・・・逆に汚してはダメだと神経がすり減り疲れそうな部屋だった
奥にあるベッドにフラフラしながら向かいそのままダイブ・・・この後食事を用意していると言ってたからそれまで一寝入りするかと思ったが・・・
「キャッ!」
なぬ?
シーツが妙に盛り上がっていてこういうものかと思ったけどまさか先客が?んなバカな・・・
でも明らかに声はシーツの中から・・・そう思って顔を上げると・・・目が合った
どこかで見た事がある顔・・・そうこの人は・・・
「エーラ王女!?」
「いきなり激しいですのねローグ辺境伯殿・・・いえローグ公爵殿とお呼びした方が?」
なぜ第一王女のエーラがベッドに潜り込んで・・・いや、それより激しいってなんの事だ??
「あんっ・・・食事の前に契りを結びますの?私は一向に構いませんが・・・期待していたのも事実ですし」
契り?期待?・・・てかなんて声を出すんだよ・・・今のはまるで喘ぎ声・・・・・・右手の感触・・・これってもしかして・・・
「あっ・・・あまり強く握られると痛いですわ」
やっぱり!
「す、すみません!知らずに・・・」
てかこの感触・・・シーツ越しとはいえこの柔らかさは・・・
「恥ずかしいですわ・・・全てを見てもらおうと決心したもののいざ入られて来たと分かるとつい隠れてしまって・・・ですがローグ公爵殿が望むなら・・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい!ぼ・・・私は公爵ではなく辺境伯でして・・・てか何が何やら・・・」
「あら?聞いておりませんの?私かスウ・・・どちらかが公爵殿の妻になると私は聞いております。まさかもうスウを選んで?」
「そんな訳・・・私はどちらも・・・と言うか確かに提案はされましたが断りました!なのでどちらも何も・・・」
「断っ・・・そんなっ・・・」
えぇ・・・なぜそんなに落ち込む!?
てか・・・このシーツの下って・・・裸・・・だよな?
ベッドの上で今にも泣きそうになるエーラ
それをどうする事も出来ずに挙動不審になる僕
精神的に疲れたので用意された食事会まで休みたかったのに・・・勘弁してくれ──────




