444階 クビ
「あ、悪夢だ・・・」
確かに話を聞く限り切羽詰まった状況だから仕方ない・・・いや、仕方なくないけど・・・それしか方法なかったと言われたら・・・いや、他に何かあるだろう!てかなぜ僕なんだ・・・他の誰かじゃダメだったのか!?
「まだ言ってるの?」
「だって!本人がいない場所で勝手に・・・あんなこと決められたら誰だって・・・てか、サラは何とも思わないの?僕が結婚させられたんだぞ!?」
「侯爵の娘だっけ?貴族同士だとよくある話じゃないの?政略結婚って」
「ヒィィィ・・・彼氏が置かれている状況に冷静すぎる反応・・・きっと僕なんてそれだけの存在なんだ・・・」
「よく言うわ・・・話を聞いた後で散々・・・んん・・・とにかく私は寝るから1人で悪夢の続きでも見てなさい」
「そんなぁ・・・」
そう言ってサラは背中を向けて寝てしまった
いやだってほら・・・10日間も離れ離れだったし報告に来たナージも平然とした顔で言うから僕も『ふーん、そっか』って・・・あの時はサラと早くイチャイチャしたかったし・・・で、冷静になって考えたら・・・
ま、まあ断ればいい話だよな?相手のカレンだって望んだわけじゃないだろうし・・・けど断ったら侯爵との関係も更に悪化するよな?そうなれば領地の人達に迷惑が・・・いっそファゼンの野郎をぶっ飛ばして・・・待て待てカレンの父親と聞いたらさすがに手を出せないぞ?ならどうすれば・・・
「・・・ハア・・・」
「・・・まだ悩んでるの?」
「戦場の口約束って破るのが難しいってナージが言ってたんだよ・・・緊急時だからこそ結んだ約束は守らないと今後の信用問題に関わるって・・・」
「別にいいじゃない・・・フーリシア王国内での信用なんて」
「・・・まあ・・・そうかもね」
「それよりも私の方が問題よ・・・おちおち寝てられないわ」
「今寝ようとしてたんじゃ・・・」
「あなたの隣だからよ。実際会ったら分かるわ・・・ロウなら平気だと思うけど・・・それでも不安になる・・・」
「剣奴王ジルバ・・・か」
突然サラ達の前に現れたジルバ・・・何とかその場に居合わせた4人で撃退するもいつの間にか忽然と姿を消したという・・・サラはかなりのダメージを負ったと言ってた・・・動ける状態ではなかったと・・・それでも動けたって事は何か隠している力があるのかもしれない・・・サラが不安になるのも分かる
魔人を・・・魔力を封じてあったとはいえ自らもマナを封じて倒すような奴だ・・・強いのは間違いないだろうがそれほどとはな・・・あのオルシアとどっちが強いだろうか・・・
オルシアも強かったな・・・何度死ぬかと思った事やら・・・まあお陰で完璧じゃないにしても師匠の技を使えるようになった。受け止めると言うよりは攻撃を吸収する感覚・・・まだサラのように素早い一撃に対しては対処出来ないけど大振りの一撃ならどんな重い一撃でも耐え切れそうだ
ゆくゆくは自然に使えるように・・・そして師匠のように吸収するだけではなくその力を利用出来るようになれば・・・
「ロウ?まだ結婚の事考えてるの?・・・実はそのカレンって子と結婚出来て少し嬉しいとか思ってたり・・・」
「んなわけ・・・一時期パーティーは組んだけど本当それだけで・・・」
「へぇ・・・でもあなたはどうも思ってないとしても向こうはどうかしらね?案外あなたに惚れてたり・・・」
「ないない・・・さっ、寝よう!10日間もまともに寝れなかったと知ったら一気に眠気が襲ってきた!うん!・・・おやすみ」
「呆れた・・・まあでもそうよね・・・今は寝ましょう・・・これからの事は明日考えればいいわ」
「・・・うん・・・」
これからの事・・・か
ぶっちゃけ問題は山積みだ・・・その中で一番の問題になるであろう『国との関係』
無実の罪を着せられて10日間も幽閉され・・・しかも拷問まで・・・ゼンに力がなかったから良かったもののそれでもかなり痛かった
王様や宰相はリガルデル王国が攻めて来てかなり焦ったのだろうけどそんなのは僕には関係ない・・・それにゼン・・・『真実の眼』を使ったにも関わらず僕の無実の証明をしてくれなかった
セシーヌの事で恨んでいたのか知らないけど今回の件で『真実の眼』が信用出来ないと・・・いや、『真実の眼』は信用出来るけどそれを使う者が信用出来ないと露呈された
もしかしたらこれまでの冤罪はあったのでは?『真実の眼』で無実が分かってもそれを使用した者が嘘をつけばそれが真実になってしまう怖さ・・・使用した者が善人であり嘘をつかないとした前提で成り立ってたものが脆くも崩れ去った
いや・・・もしかしたらそれを恐れて僕の件を闇に葬り去る可能性も・・・
そんな事をしたら僕は・・・
トントン
ノックの音で目を覚ます
怒涛の夜が嘘だったかのような静かな部屋の中に響くノックの音はあまりいい予感を感じさせるものではなかった
「今出る」
急いで服を着てドアを開けると屋敷の執事サーテンが頭を下げた
「おはようございますご主人様・・・お客様がいらっしゃっております」
「・・・誰?」
「城からの使者です。国王陛下が昨夜の件でお話がしたいとのことです」
早速か・・・まあ当然と言えば当然だな
「えっと・・・居ないと言っておけ」
「それは出来ません」
「なんで?」
「お待ち下さいとお伝えしてしまいました。これで居なかったと伝えましたら私が無能な執事と言われてしまいます。主人の在宅の有無も把握していないのか、と」
「・・・有能な執事は気にするところが違うな・・・」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「皮肉だよ」
「存じております」
んにゃろ・・・
「とにかく今は・・・そうだ、体調が悪いと伝えろ」
「畏まりました。確かに昨晩は部屋から苦しそうな声が聞こえてきましたし・・・」
「サーテン」
「はい」
「お前は主人の部屋の音を盗み聞く趣味があるのか?」
「まさか・・・たまたま部屋の前を通りがかった時に聞こえただけです」
「サーテン」
「はい」
「サラには絶対に言うなよ」
「畏まりました。では使者の方には『体調不良』とお伝えしておきます」
「頼んだ」
壁が薄いのか?それとも声が大きい?・・・とにかく聞こえたと分かったらサラの事だ『屋敷ではやらない!』と言い出しかねない
じゃあどこでならって話ですよ
「どうしたの?」
「ああ、お客さんらしいが帰ってもらった。とりあえずやらないといけないことや考えなきゃいけないことを済ませてから会おうと思ってね」
振り返り返事をしながら部屋の中へ戻るとサラのいるベッドにダイブする
「・・・王様は何と言うかしらね?」
「さあ・・・疑ってごめんなさいって言うか仕方なかったとひたすら誤魔化すか・・・僕としてはどっちでもいいけどね」
「それはどっちにしろ許すってこと?」
「違うよ・・・相手の態度は関係ない。僕が『どうするか』だからね。で、その『どうするか』を決めてないってこと」
「そういうことね。で、どうするつもり?全く考えてないわけじゃないでしょ?」
「うーん・・・あのまま殺されてもおかしくなかったからね・・・それに仲間を救う為とはいえ結果的には国を助けた事になるし・・・」
「そうね。リガルデル王国軍を追い払い『タートル』を止めた・・・これだけでもこの上ない功績なのに魔物を退かせたのもサキだし剣奴達を捕える為に第三騎士団の人達を王都に連れ帰ったのもロウだし・・・」
「剣奴王ジルバを止めたり『タートル』の2人を止めたのも僕の彼女だし」
「・・・あんまり大して役に立ってないけど・・・それはさておき1人の人間が挙げられる功績ではないわよね。でもあなたはやり遂げた・・・無実の罪で酷い目に合わされたにも関わらず、ね」
「心中察するよ・・・僕が王様の立場なら生きた心地がしないと思う」
「楽しそうね」
「うん・・・楽しいよ・・・辛かった分ね」
「程々にね・・・やり過ぎは敵を作るだけよ?」
「分かってる」
謝罪されても褒められても嬉しくも何ともないし・・・とりあえず相手がどう出るか分からないけどその前に考えておこう・・・どうすれば僕に一番都合がいいかを
「あ、そうそう・・・この屋敷では禁止ね」
「・・・禁止?」
「分かってるでしょ?」
「・・・」
サーテンとの会話・・・聞かれていたか
どうしよう・・・王様に褒美として防音効果のある屋敷を貰おうかな・・・
その後屋敷にひっきりなしに訪れる客客客・・・キース、ディーン、使者(2回目)・・・全員帰ってもらったが考える暇もない為仕方なく王都を離れエモーンズへと向かった
サラはファーネと会う約束をしていたらしいから1人ぼんやりとエモーンズを歩きながら考える
元から爵位とか権力には興味無い。なので国に媚びへつらい言いなりになる生活が窮屈に思えてきた
けど任された領地を手放すのも違う気がする・・・せっかく僕の領地になったんだからそこで住む人達には幸せな生活を送って欲しいと思っている
でも何が幸せなのかは人それぞれだし難しいよな・・・発展し利便性が向上するのを望む人がいればその逆を望む人もいる
ムルタナとケセナがいい例だ
ムルタナは発展を望みケセナは変わらない事を望んだ
ムルタナの中にも発展を望まない人もいればケセナの中にも発展を望む人はいるだろう
かと言って慣れ親しんだ場所を離れて望む環境に行くかと言われればそれも難しい・・・見知らぬ土地で暮らすのはかなりリスクが伴うしね
思ってたのと違うと思っても簡単には戻れない・・・お試し期間みたいのがあればいいけどそうもいかないだろうし
自由に行き来出来る・・・自分の住みたい環境に・・・でも・・・うーん・・・
自由・・・自由か・・・あれ?もしかしたら・・・
そうか・・・その手があったか・・・でもそうなると・・・いや、出来るかも・・・その辺詳しいのは・・・いたなエモーンズに
上手くいけば住みやすい環境に住める街が作れるかも・・・ダメでも方向性さえ伝えれば近い代案が得られるかもしれない
ただ国が受け入れるかどうか・・・少しプレッシャーを与えてみるか・・・
考えながら歩いていたらいつの間にやら屋敷に辿り着いていた
中に入ると急な帰宅にも関わらず執事、メイドが総出でお出迎え
ちょっと心苦しいけど仕方ない・・・プレッシャーを与える為もあるしぶっちゃけ信用ならないしな。不問にするとは言ったけど前にやらかしてるし・・・すまん、退職金は弾むから許してくれ
「アダム・・・それから王都から派遣されて来た全メイドはクビだ。準備が終わり次第王都に送るからすぐに支度しろ──────」




