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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
445/856

441階 共に歩くもの

Sランク冒険者・・・フーリシア王国ではそれになるには条件がある


『魔族を倒せしもの』


きっと国には思惑があるのだろう


けどその思惑と関係なく冒険者が誰しも憧れる存在だった・・・だから私もSランク冒険者になれると聞いた時に拒まなかった・・・実力が伴わないと分かっていたのに



「ニーニャ!邪魔!」


「なぬぅ!?サラちゃんこそ!」


王都が騒ぎになっている


至る所から聞こえる悲鳴や争う音


それを仕掛けたのは『タートル』


闇の組合だ


本来なら私は彼女達を捕らえるべきなのだろう・・・Sランク冒険者として


だが今は・・・同じ方向を向き同じ相手と戦っている



剣奴王ジルバと



共闘する流れになったのは至極当然だった


ジルバは剣奴生活を邪魔したという理由で『タートル』のニーニャ達に喧嘩を売るが多分それは口実・・・『タートル』と関係のないと言う私達にも容赦なく攻撃を仕掛けてきた


普通の相手なら適当にあしらうつもりだったがこの男・・・剣奴王と言うのは伊達ではない。自分がSランク冒険者を名乗るのが恥ずかしいと思えるくらい・・・強い


4対1・・・しかもそこそこにやれる4人に対してジルバは1人・・・にも関わらず差は歴然だった・・・圧倒的に1人のジルバの方が優勢


感覚的には魔王と戦っている時と似ている


こちらの攻撃は何も通じず相手の攻撃はひとつひとつが強力・・・魔王と違うのは簡単に言えば乱暴かどうか


魔王はその強さ故に工夫というか無駄な動きを極力しない・・・する必要がなかったと言うべきか。だがジルバは無駄な動きが多く雑・・・が、それ故に動きが全く読めない


似ているようで対極にあるのかもしれない・・・ぶっちゃけ厄介極まりない相手だ


逃げれないのなら戦うしかない・・・で、敵わないのなら協力するしかない・・・ニーニャ達との決着はお預け・・・今は目の前の降って湧いた災害を片付ける事に集中するしかない。なので否が応でも協力するしかなかった



「一式・風牙!」


「んにゃろぉー!!」


「ふん!」


本当無茶苦茶だ・・・風の牙を片手ひとつで粉砕しニーニャの剣を口で咥えて止めた


「んぎゃあぁぁ!ニーニャの剣を食べるなぁ!!」


「ハフイハ」


「何言ってんのか・・・分かんねえんだよ!」


奇術師オードが指を鳴らすとジルバの顔付近で爆発が起こる


その爆発の際に一瞬口元が緩んだのかニーニャは剣を引き抜き慌てて私達の元へと戻って来た


「何なのよアレはぁ!人外!?魔族!?」


「チッ・・・あれだけ至近距離で当てたのに火傷すらしちゃいねえ・・・あまり大味なのは好きじゃねえのに・・・」


「大味?大魔法のこと?」


「魔法って言うんじゃねえこの詐欺師!また口ん中に突っ込むぞメスブタ!」


「メスブタ・・・どこがブタなのよ!失礼な!!腹の中のもん出て来たら送り届けてやるから待ってなさいよ!」


「おい・・・それはやめろ・・・奇術が過ぎんぞそれは」


さっきまで殺しあってたのに仲がよろしいこと


にしても突破口の糸口さえ掴めない・・・オードの言う通り大味・・・強力な技ではないと彼には傷一つ付けられなさそう・・・この中で一番火力があるのはおそらくオード・・・彼の魔法・・・奇術が効かなかったら抗う術は・・・ない


感覚的に魔王と似ていると思ったのはそんなところだ・・・私達の・・・ディーン様の攻撃さえも効かない魔王・・・結局ロウの一撃がなければ私達は負けていただろう


魔王ほどの耐久力があるとは思えないからあそこまで高威力な技ではなくてもいいと思うけどジルバを倒すには彼を超える威力が必要だ


「・・・どれくらいでその魔・・・奇術の仕込みは終わる?」


「いいね!飲み込みが早いじゃねえか・・・一分・・・それで仕込みは終わらせる」


「一分・・・どれだけ長く詠唱するつもりよ」


「詠唱じゃねえし!魔法と一緒にすんな!・・・てかただの一分じゃねえぞ?奴の注意を引き付けての一分だ」


「・・・それはまた・・・長い一分になりそうだな」


「?一分は一分でしょぉ?怖気付いたぁ?サラちゃん」


「体感的な問題だ・・・それに足元でチョロチョロされて思うように動けないしな」


「くぉのぉ・・・」


「はいはい!喧嘩は後でね・・・仕方ないから一分間・・・あの大きいお友達と遊びましょうか!」


ファーネは言うとジルバの足を凍らさた


本当に火魔法ではなく水魔法が得意なのだな。自分の得意適性を偽ってでもソニアさんに弟子入りしたかったのか


「保って数秒・・・あとは任せた!」


「配分がおかしいが・・・任された」


1人最低20秒なのだが・・・まあ何とかしてみよう


「相談は終わったか?勝てる算段がついたと言うなら楽しめそうだが・・・」


「どうだろう・・・な!」


飛び上がるのは得策ではない・・・ニーニャと同じように体を低く・・・地を這うように近付く


それを見てジルバはニヤリと笑うと拳を握り地面スレスレにまで体勢を低くした私に向けて拳を放つ


当たれば死・・・その一撃を私は体を起こし飛び上がって躱す


「いい的だ」


「私以外なら、な」


飛び上がるのは得策ではないのは事実・・・空中では身を躱す事など出来ないからただの的となる。けど・・・


「一応これでも『風鳴り』の名で通ってる」


「なに?」


風牙龍扇を使い風を起こす


その風に身を任せてジルバが空中にいる私に放った拳をヒラリと躱した


「器用な奴だ・・・ん?」


視線は宙を舞う私に・・・なのでもう1人・・・地を這うように進む存在に気付くのが遅れた


「ジャンジャジャーン!・・・足1本もらうよぉ!」


ニーニャの存在に気付いた時にはもう遅い・・・彼女は通り過ぎざまに足を斬りつけてそのままジルバから急いで離れる


皮1枚ってところか・・・それでもこれまで傷一つ付けられなかったのだ・・・大きな進歩と考えよう


「硬ぁ・・・何で出来てるのよぉ」


「皮と肉と骨・・・それに血だ」


「アハハ・・・似てるねぇニーニャと・・・んぎゃあぁぁ!」


斬ってすぐに離脱したはいいけどジルバは振り返りニーニャの数歩を立ったの1歩で追い付いた


そして踏みつけようとしたけど間一髪でニーニャはそれを躱す


「人を踏みつけようとすなぁ!」


「人?猫かと思ったぜ」


いや猫も踏んじゃダメだろ・・・


てかジルバがニーニャを踏もうとする度に地面にジルバの足跡が・・・踏まれたら無事では済まないな・・・頑張れニーニャ


「ちょ!サラちゃん何涼しい顔して見てんのぉ!?」


「近付いたら私も踏みつけてしまいそうだからな」


「シャー!覚えてろぉ!!」


怒り方まで猫だ・・・サキとどっちが猫っぽいだろう


「ったく本当仲がいいわね・・・アイスジャベリン!」


「どこを見てそう思うんだか・・・一式・風牙!」


氷の槍と風の牙が同時にジルバを襲うが・・・まるでホコリでも払うかのように払われてしまう・・・ちょっと自信なくすな・・・


「ちょうど熱くなってきたところだ・・・ちょうどいい涼しさをありがとよ」


「どういたしまして」


もうイヤこの人


それに耐久力も然る事ながら・・・


「次は何を見せてくれる?それともネタ切れか?」


動きが速い!しかも私やニーニャ以上に!


ニーニャを追っていたと思ったらあっという間に私との距離を詰めてきた


必至の距離・・・油断していた訳ではない・・・いくらなんでも速すぎる


「遺言は?」


「そっくりそのまま返してやろう・・・一分だ」


「サラ離れろ!熱い冷たいとくりゃあ・・・次は痺れる・・・だろ?待たせたな・・・一大ショーの始まりだ!」


痺れる?一体何をしようと・・・なっ!


「あん?痺れるってなんだ?」


バカか!あんなものを作るなんて!


過去に大魔道士が使ったとか使ってないとか・・・けどダンジョン内では役に立たない為に誰も試そうとしないアレをオードは・・・


「痺れるって言ったら分かるだろ?」


そう言って指を上に向けた


闇夜に紛れて漂う雲・・・たまにチカチカと光る事であの中にタネも仕掛けもギッシリと詰まっているのが分かる


そうあの雲は・・・


「ほう?・・・やりおる」


「だろ?あとは見てのお楽しみ・・・ってな」


オードが指を鳴らすと辺りは閃光に包まれすぐ後に轟音が鳴り響く


目がしばらく見えなくなるくらいの光・・・そして耳をしばらく聞こえなくさせる轟音


カミナリ・・・あんなものが人に落ちたらさすがのジルバもタダでは済まないだろう


どうやらオードの準備とはあの雷雲を出すものだったらしい・・・先に言ってくれれば・・・あんなもの近くにいただけで丸焦げになってしまう


「さてさて細工は流々仕上げを御覧じろってか?」


やっと耳が元に戻りオードの声が聞こえた


「オードぉ!どうしてアンタはぁ!」


「ブハハハハッ!なんだその髪は!?逆立ってんぞ?」


「うるさいぃ!いつも周りの事を考えて使えって・・・あれ?・・・うそ・・・」


ニーニャが気付いた事に私も気付いた


今は煙で何も見えないが、煙の中にいるものは・・・生きている


しかも気絶すらしていない・・・生きてあの煙の奥からこちらを伺っている・・・獲物を見るような視線で


「おいなんだよ・・・仕返しのつもりか?」


「黙って・・・魔法使いの2人はゆっくり下がる・・・刺激しないようゆっくりと」


「だから魔法使いって・・・」


そう言いかけた相手・・・ニーニャが吹き飛ぶのを見てオードは言葉を失った


最悪だ・・・剣奴王・・・これほどか


「ガハッハッハッ!痺れたぜ?お次は・・・なんだ?」


ニーニャは?・・・吹き飛ばされ壁に激突したけど生きてるっぽい・・・けどしばらく動けないだろう


次の手は浮かばないけど私が止めるしか・・・ない!


こんがり焼けたジルバは煙を吐きながら不敵に笑う


恐怖で足が竦みそうになるのを無理やり動かす・・・その時


〘サラ?〙


「ロウ!?」


「なんだ?今の声は」


懐に入れていた通信道具から声がした


城の地下にある牢屋に入れられていたはずの・・・ロウの声が!


私は迷わず懐から通信道具を取りだしマナを流す


「ロウ!?無事なの!?」


〘まあね。今助けてもらったとこ・・・誰にとは言えないけど。んで今どこにいる?屋敷に戻ったら出掛けたって聞いたけど・・・〙


「今?・・・今は・・・」


ロウが屋敷に・・・近くにいる・・・それだけで全てが片付いてしまったような安堵感に包まれる・・・けど・・・


〘何かあった?もしあるなら・・・〙


「大丈夫・・・何もないわ」


〘そう・・・これから国境付近に行ってディーンを探さないといけないんだ・・・探したらすぐ戻るよ〙


「分かったわ・・・それまでに戻るね」


〘うん、じゃあ〙


「ええ・・・またね」


通信を終えて道具を懐にしまった


もし私が助けてと言えば何を捨ててでも彼はここに来てくれただろう・・・けど・・・


「待っててくれたのね・・・行儀がいいこと」


「・・・いいのか?助けを呼ばなくて」


「別に・・・彼にも用事があるしね」


「女の顔になりやがって・・・残念だったなもう彼氏はお前を抱くことは出来ない」


「それはどうかしら?私はこれから屋敷に帰ってお風呂に入るつもりなんだけど・・・そして火照った身体を鎮めてもらうの」


「彼氏にゃ屍姦の趣味でもあんのか?」


「人の話聞いてた?自分の足で屋敷に帰ってお風呂に入るのよ・・・詳しく言わないと理解出来ないの?もしかして今のカミナリで脳みそまで焼けちゃった?」


「・・・さっきまで震えてた奴がえらい強気じゃねえか・・・彼氏の声聞いて勇気をもらったか?そりゃあめでてえ事だが勇気が出たところで俺とお前の差は縮まらねえよ」


「それもどうかしらね・・・今気付いたけどさっきまでのあなたならいきなりニーニャを蹴り飛ばしたりしなかったんじゃない?煙の中で偉そうに立って効かないと笑い飛ばすくらいしそうだけど・・・それをしなかったのってもしかして結構ダメージ受けたんじゃないの?だから不意打ちでニーニャを蹴り飛ばした」


「・・・」


「そうよね・・・剣奴王とはいえ所詮人間だもの・・・カミナリの直撃を受ければ痛いはずよね?もしかしたら体が痺れてたりもする?誰か1人でも減らさないと厳しいくらいに」


「語るじゃねえか・・・なら試してみろよ」


「魔法を放ったオードじゃなくてニーニャを狙ったのは動かれると厄介だから・・・違う?」


「魔法じゃねえ!」


「アンタは黙ってなさいよ・・・それ反射的に反応する仕組みでもあるわけ?」


「うるせぇ!」


2人の掛け合いはさておき明らかに様子が変わっている


焦り?それを誤魔化すための虚勢?・・・もし違えば私は・・・でももう迷わない・・・恐れない・・・彼の隣りを歩く為に!



試したことのない技がある


試せる相手がいなかった・・・というのが正解か


オードのカミナリでダメージを受けていると言っても私の攻撃が通じるとは限らない・・・だからあの技を・・・使うしかない!


「・・・いくわよ?」


「さっさと来い・・・貴様の体にこの拳をめり込ませてやる」


息を吐く


そして大地を蹴り一気に間合いを詰めた


「正面・・・いや違うな」


見透かされてる・・・それでも・・・構わない!


ジルバの目の前で再び大地を蹴ると横に体を滑らせた


奴はそれを読んで体を私に向け拳を放った


ここまでは狙い通り・・・正面から行けば必中の距離まで溜められる・・・けど私が動けば奴も動きその流れのまま攻撃を仕掛けてくると思った


あとはこの攻撃を何とかするだけ・・・ジルバの拳は必殺の一撃だ・・・おそらくこれまで躱そうとする者はいただろうけど向かって来る者は皆無だったはず!


迫り来る拳はまるで巨大な岩・・・しかも錯覚なのか私の体と同じくらいの大きさに見える


その巨大な拳に向かって突進し三度大地を蹴るとその拳に触れた


「サラ!!」


タイミングがズレればペチャンコになっちゃいそう・・・ファーネもそれを心配して叫ぶけど大丈夫・・・私なら・・・出来る!


触れた拳の威力を利用し体を舞い上がらせると奴の上を飛び越して背後に回る


体を捻らせ背後を取ると両手を突き出し奴の顔を挟み込む


背後から両耳を塞いだだけ・・・さすがにこれ以上は試せなかったからどうなるかは分からない


「風の音を聞け・・・『合掌風殺』」


体はいくら鍛えられても耳の中までは鍛えられない


掌から風を送り込む


もちろんただの風じゃない・・・耳の中を喰らう風だ!


ありったけの風を送り込み背中を蹴って離れるとジルバは振り返らず立ち尽くす


終わった?・・・そう思った瞬間に奴は振り返る


「うるせえ女だ・・・俺の嫌いなタイプだ」


「・・・最高の褒め言葉よ」


耳から血がドロリと流れ出てジルバはそのまま倒れた


どれだけのダメージを与えられたか分からない・・・けど誰にも試せないし・・・


「魔物の耳って見た事ないのよね・・・今度見掛けたら試してみるわ──────」

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