439階 聖魔術師
コロッセオに続く道
「レギン・・・ハズン・・・」
2人は倒れ重なり合い・・・刺された
上から一切の容赦なく・・・無惨に・・・無慈悲に・・・
なぜ私があそこにいない?
私はみんなを守るタンカー
それなのになぜ・・・私じゃない!!
「ごめん・・・もう回復出来そうにないや・・・」
「・・・ジーナ」
「マナを全て魔法に注ぎ込む!・・・2人の・・・仇を取るまで!!」
彼女が『タートル』に加入した理由の一つだ
魔法使いとヒーラーの適性があったジーナ・・・彼女は悩んだ挙句二つの道を同時に歩む事に決めた。周囲の反対を押し切って
反対された理由は至極単純・・・人の一生は限られている・・・その限られた時間の中で一つの適性を大成させるのも困難なのに二つなんてよっぽどの才能がない限り無理だからだ
世に出ている『天才』と呼ばれる人達もほとんどが一つの適性を極めた人・・・レオンが特別だっただけで普通なら数ある冒険者の中に埋もれていく
魔法使いとヒーラー・・・一見すると後方支援のエキスパートとして活躍するように思えた
戦闘時は魔法を使い、必要になれば回復する・・・パーティーにいれば心強い存在・・・だが現実は違った
人生に時間が限られているのと同様にマナ量も限られている
故に冒険者パーティーは役割分担をしマナ量の消費を抑えながら戦う。加えて魔物も得手不得手があり魔法が効かない魔物もいれば魔法しか効かない魔物もいる・・・もし誰かが怪我をして回復が必要な時に魔法しか効かない魔物に遭遇したら?回復するか魔物を倒すか・・・そういった選択を迫られる事になる
更にパーティーメンバーは少ない方がいいとされている・・・報酬を分担する為に人数が増えると実入りが減るからだ
二つの適性を持つ彼女はパーティーメンバーを減らすには好都合に思えるが実際はその逆だ
世間一般の見方は『どっちつかずの中途半端な存在』となる
魔物は回復中だからといって待ってはくれない。マナが足りないからと待ってはくれない
同時に回復と魔法を使う事も出来ず、二つの役割をこなしていけばあっという間にマナがなくなる・・・中途半端な存在なのだ
だからといって彼女を入れて他の魔法使いとヒーラーを入れたら本末転倒・・・つまり彼女は『要らない存在』となってしまったのだ
それでも彼女は努力した
自分の選択を悔いることなくひたすら魔法使いとヒーラーの両方を高め続けた
そんな姿を見てか彼女を誘ってくれたパーティーが現れた
彼女は努力が認められた喜びそのパーティーに加入する
だが・・・
ここからはよくある話だ
彼女を誘ったパーティーは彼女を必要とした理由は努力して身につけた力ではなく体だった
マナ切れを起こした彼女に屈強の男達相手に為す術はない
更にダンジョン内でなら尚更だ
よくある手はボス部屋の前で選択を迫らる
抱かれるか死か
自力で戻る事も進む事も出来ない状況下・・・見捨てられれば死が待っている
彼女は手を差し伸べてくれたと思ったパーティーメンバーに騙されたのだ
彼女は生きる事を選択する
やっと自分を必要としてくれる人達に出会えたと思った・・・だがそういう目でしか見られなかった事にショックを受けた
辱めを受けた事よりも・・・必要とされてなかった事にショックを受けたんだ
当然生きて帰ったあと彼女はそのパーティーを抜ける
そして茫然自失になって何も手につかなくなった彼女が出会ったのが・・・レオンだった
レオンは彼女の才能を見抜いたのか手を差し伸べる
だが彼女はレオンのあのパーティーと同じと思いと信じることが出来ずその手を拒む・・・がレオンはそんな彼女にある一言を放った
それが彼女が『タートル』に加入した二つ目の理由
『断るのは自由だ。しかし必要とされたいからではなくやりたい事があるなら来るといい。タートルはそういう組合だ』
その一言で自分が何をやりたいか見失っていた事に気付いた
自分だ選んだ道・・・それなのにいつの間にか誰かに必要とされる為に悩み道を失っていた
二つの道を選んだ事を後悔し自分の力のなさを恨んだ
けどそれは誰かに必要とされていないからであり決して自分が誤った道を選んではないと知る
誰かの為ではなく自分がやりたくて選んだ道なのに・・・他の誰かに依存していたと知ったんだ
やりたい事がある・・・彼女は『タートル』として歩む事となる
魔法使いとヒーラーを極める為に
「了解!私が守る・・・だから仇を・・・アイツを討って!!」
「貫け!ストーンスピア!!」
石の槍がジュネーズに襲いかかる
しかしジュネーズにそんな魔法は効かない・・・奴は剣を抜く瞬間さえ見せずに瞬く間に切り裂いてしまうから・・・
「10秒!」
「長いな・・・了解!」
彼女と組んでそこそこ経つ
だからその秒数が何を意味するか瞬時に理解出来た
詠唱・・・より強い魔法を使用するには集中する時間が必要だ。更に細かくイメージするには使用する魔法をイメージしやすいように詠唱を唱える・・・だがその間魔法使いは無防備となる
故に私とジーナは相性がいいと言える
彼女が魔法を準備している間・・・私は彼女を守ればいい
守り切れれば私達の勝ち・・・守れなければ私達の負け・・・ただそれだけ
「受けてもいいが・・・時間が無限にある訳でもない。終わらさせてもらおう」
ジュネーズは当然ジーナが強力な魔法を使おうとしている事に気付く
その魔法を使用させない為に彼女を狙う
だから私は『10秒』・・・彼女が詠唱を終えるまでの時間彼女を守る事に集中する
腕に固定された二つの盾・・・一つでは弾かれたけど二つを同時に剣に当てることさえ出来れば!
「バカめ・・・タンカーとしての素質は目を見張るものがある・・・が、如何せん恵まれなかったな・・・」
「くっ!」
タンカーに必要なのは強固な盾・・・マナで硬化させても限界があるからだ
だがたとえ防げたとしても一つ問題がある
私はタンカーにしては・・・軽過ぎる
迫り来るジュネーズが放つ剣の軌道を予測し盾を構える
奴のこれまでの戦いから見て変化などは好まないはず・・・ただ剣を抜き相手を斬る・・・その分剣の軌道は単純
ただその一撃が全て必殺の一撃・・・防げたとしても吹き飛ばされればジーナは死ぬ・・・絶対に・・・吹き飛ばされる訳にはいかない!
ピクリとジュネーズが動いた
直後二つの盾から腕に衝撃が伝わり全身へ
体が浮きそうになるのを必死で堪え地面をずりながら後退する
受け止めた・・・あとは・・・
「お願いジーナ!」
「・・・塵となり彼の者のを包み込め!ダストストーム!!」
詠唱を終えた事を確認すると私はその場から飛び退いた
するとジュネーズの足元から土が渦巻き状に巻き上がりジュネーズを包み込む
魔法が斬れると言ってもこれなら・・・
「時間をかけてこの程度か」
負け惜しみ?・・・違う・・・奴は包み込まれ見えなくなった瞬間行動に出た
剣が空気を切り裂く音が聞こえジーナの魔法は跡形もなく消えてしまう
「なんで・・・」
「逆に聞きたい。何故斬れぬと思ったか」
格が違う!
そもそも二軍の実力は全員合わせても『至高の騎士』ディーンに遠く及ばない・・・レオンや一軍なら何とか出来るだろうけど・・・
そのディーンより厄介と言われているジュネーズに・・・私達が・・・しかも2人を欠いた状態で勝てるはずもなかったんだ
「盾を・・・構えないのか?」
っ!・・・あ・・・
いつの間にかジュネーズの間合いに・・・咄嗟に防いだけど今度は片手・・・体は一瞬で壁まで飛ばされ背中に鈍い痛みを感じた
1本や2本どころじゃない・・・全身の骨が砕けたような感覚・・・事実砕けたかもしれない
・・・もう・・・私は立てない・・・せめてジーナだけでも・・・逃げ・・・っ!?
「なに・・・を・・・」
「喋らないで!今回復させてるから!」
違う・・・逃げないと・・・奴に魔法を放てば一瞬でも・・・足は止まるはず・・・その隙に・・・
「魔法使いとヒーラーの適正持ちか・・・どちらかを極めれば私に傷一つくらい付けられたかもしれないが・・・どちらも中途半端のようだな」
「くっ!うるさい!私は・・・私は二つとも極めてみせる!」
「そうか・・・次の生で頑張るのだな」
お願い・・・ジーナ・・・逃げて・・・
「・・・逃げて!」
顔を起こすとジュネーズが構えている姿が見えた
ダメ・・・殺さないで・・・動け・・・動いてジーナを・・・守・・・・・・・・・え?
突然ジュネーズが後ろに下がりその後すぐにナイフが地面に刺さる
ナイフが刺さった場所はジュネーズがいた場所・・・ジュネーズを狙った?でも一体誰が・・・
「・・・まだ仲間がいたか」
仲間?いえナイフを使う仲間なんていない・・・でも明らかにあのナイフは私達を助けようと・・・っ!?
ナイフがひとりでに地面から抜けて・・・飛んで行った??
どこに飛んで行ったか見ようにも・・・体が悲鳴を上げこれ以上動けない・・・一体あのナイフは・・・
「その子知り合いなんッスよ・・・見逃しちゃくれませんか?」
!!この声・・・まさか・・・
「・・・貴様の知り合いだからといって逃がす理由になるとでも?」
「あー何をしたか知りませんけどよく言って聞かせますんで・・・ダメッスか?」
「ダメだな」
「そうッスか・・・ならやるしかないッスね」
体の痛みが消えていく・・・ジーナの回復魔法が効いてきた
私は急ぎ顔を上げ声の主の名を叫んだ
「ケン!」
「よおシル!・・・これで全員揃ったな・・・んじゃ逃げる準備しとけよ?このオッサン相手じゃ保って数秒だ・・・」
全員揃った?まさかマホ達も?
でもケン以外誰も見当たらない・・・もしかして近くに隠れている?
「ダメよそいつは・・・王国騎士団団長のジュネーズ!あなたじゃ・・・」
「ははっ・・・マジ?」
たとえここにマホ達がいて私とジーナの6人でかかっても通じない・・・悔しいけど格が違い過ぎる!
でもケンの性格からいって逃げてと言って逃げるはずないし・・・一体どうすれば・・・
「あっ!」
突然ケンがジュネーズの背後を指さした
そんな子供だましに騙されるはずも・・・え?
「どうした?死んだ奴らが生き返ったとでも言うのか?」
「いや・・・まだ慣れてないんで1本忘れてたッス」
「なに?」
ジュネーズの背後に残っていたナイフが宙に浮き刃先を奴に向けていた
ジュネーズは振り向きそのナイフに気付くとすぐに剣でナイフを弾き飛ばした
ジュネーズがナイフに気取られているとケンはその隙を狙っていたのか間合いを詰めていた
しかし今気付いたがケンは何も持っていない
いつもは腰に剣を差してたのに・・・丸腰で向かって行ってどうするつもり!?
ジュネーズが振り向く
ケンは既に間合いの中・・・ケンのではなくジュネーズの
このまま奴が剣を抜いてしまったら・・・
「手ぶらと思って油断したな・・・残しておいてくれてありがとう・・・マホ」
「なんのつもりだこれは」
いつの間にか杖を持ち、その杖先をジュネーズに押し当てる
そして意味不明な事を呟くと彼は・・・寂しげに笑った
「悪いな王国騎士団団長殿!これでもくらいやがれ!」
杖を押し当てながら叫ぶケン
しかし何も起こらず・・・だけど何故かジュネーズは剣の柄から手を離す
まさか見えなかっただけで既にケンは斬られてしまった!?
「・・・何者だ・・・貴様・・・」
「そこのシルの・・・パーティーメンバーだ」
「・・・『タートル』め・・・」
そう最後に呟きジュネーズは前のめりに倒れた
一体何が起こったの?
ケンは一体奴に何を・・・
「ふぅ・・・危なかった・・・てか俺『タートル』じゃねえし!・・・・・・あ」
ジーナに抱えられ起き上がると冷や汗を拭うケンと目が合った
エモーンズで会った時以来・・・か
「久しぶり・・・ケン」
「・・・色々言わなきゃいけないことがあるけど・・・とりあえず・・・久しぶり──────」




