438階 騎士として
王都南門前
そこでは今まさに激しい戦いが行われていた
地面を埋め尽くす程の魔物の大群・・・それを迎えるのはフレイズら冒険者達
閉じられた門がいつか開くと信じ魔物と戦い続ける
「交代だ!!中に入ったら休め!すぐに番は回ってくるぞ!」
フレイズが叫ぶ
彼ら3パーティーは近接アタッカーは4人、タンカーは2人、スカウトが2人に魔法使いが3人のヒーラーが1人の12人で構成されていた
門を背に半円の陣を組み、近接アタッカーとタンカー6人の内5人が一番外側の一列目、スカウトの2人が二列目で万が一に備え三列目の魔法使い3人が魔法を放つ。近接アタッカーとタンカーの6人の内1人が最後尾で休憩する・・・その休憩の際に傷付いていたらヒーラーの1人に回復してもらうという作戦だ
ひっきりなしに迫り来る魔物に対して守りの布陣・・・ただ門が開くまでひたすら生き残る為の陣形だった
「なあ!騎士を目指していた奴がどんな犯罪を犯したんだ?」
交代で休憩から戻って来たザイウスは目の前の魔物を棘付きの鉄球が先端にあるモーニングスターという武器で叩きながら隣で黙々と魔物を切り刻むフレイズに声を掛けた
「ザイウスさん!そんな話をしている場合ではありませんよ!」
二列目で魔物の動きを見ていたエノバがザイウスを叱責する
「・・・話をしていた方が気が紛れる・・・気にするなエノバ。それで・・・何が聞きたいって?ザイウス」
「だから!・・・何して騎士団に入れなかったかって聞いてんだよ!」
フレイズは難なく魔物を倒し続けるがCランク冒険者であるザイウスはいっぱいいっぱいだった・・・それでも目の前の魔物を叩きながら再び尋ねる
「・・・騎士団に憧れたのは物心ついた時からだ・・・ワーズの親が商人でな・・・アイツを連れてよく王都に行っていたんだがその時に王都の中を行進する騎士団を見掛けたらしい・・・アイツは街に戻って来て私達に興奮しながら騎士団が如何に格好良かったか熱弁してな・・・段々とそれを聞いていた私とドーズも騎士に憧れるようになった」
「はいはい!それで!」
「騎士団とは・・・国を護る盾であり悪い者に正義の鉄槌を下す正義の集団・・・私達はそんな騎士団の真似をしようと今の『スリーナイツ』の前身である『ジャーズ騎士団』を結成した」
「へぇ!街の名前を冠する騎士団か!子供の遊びにしちゃ本格的じゃねえか!」
「街の外にも出られぬ子供の身・・・剣の代わりに木の枝を腰に差し見回りと称して街を練り歩く・・・それが私達の日課だった」
「かわいいですね」
「結局てめえも聞いてんじゃねえか!それで?」
「・・・ある時ワーズがある話を小耳に挟んだ・・・記憶は曖昧だがどうやら家で話しているのを聞いたとかそんなのだったと思う・・・その話と言うのが『領主の悪口』だった」
「あー何となく!結末が・・・見えたぜ!」
「内容は忘れたが悪口を言われるイコール悪い事をしていると考えた幼い騎士団は悪い奴らを成敗すべく領主の屋敷に向かいちょうど出て来た領主に正義の鉄槌を下した・・・年端もいかぬ子供とはいえ貴族に対して平民が暴力を振るったのだ・・・本来なら死罪となるべきだったが何とか免れた・・・事の発端であるワーズの家の財産を全て没収という形でな」
「・・・そりゃまた・・・おっと!・・・何とも言えねえな!」
「罪をワーズさんのご両親が・・・でしたら3人は平気なのでは?」
「残念ながらその領主は未だ健在でな・・・まあ私達がしでかしたことだから仕方ないのだが・・・街から騎士団を希望する時は領主の許可がいる。騎士団に入りたいと領主に許可を求めに行った時言われたのだ・・・『犯罪者に許可は出せない』と」
「そりゃあまあ・・・ご愁傷さま!」
「自業自得と言えばそれまでですが・・・子供だったことを考えるとその領主様は大人気ないというか・・・あっ・・・魔法が・・・」
「ワーズ!!」
「・・・すまねえ・・・弾切れだ・・・」
昔話をしながらもフレイズとザイウス・・・時折だがエノバは魔物を倒し続けていた
最前列の他の3人と二列目のもう1人のスカウトも同様に
大地を埋め尽くす程の魔物の群れ・・・それに5人とスカウト2人のサポートで切り抜けていた訳ではない。後方で魔法使いの3人が最前列のフレイズ達と戦っているすぐ後ろの魔物を魔法で攻撃しその数を減らしていたからだ
連続して攻撃されないのも包囲されないのも魔法使いの魔法があったからこそ・・・弾切れ・・・つまりマナ切れになってしまった今・・・本当の地獄が始まる
「陣形を変更する!タンカー2人は左右に分かれて魔法使いとヒーラーを死守しろ!残りのアタッカーは正面に集中!私とドーズで・・・魔物を狩る!」
「おい!俺は・・・」
「聞いていただろう?ここから先は・・・足でまといだ」
AランクとCランク・・・2つとはいえその違いは雲泥の差だ
更にフレイズとドーズは同じパーティー・・・息が合わず実力が伴わない者が近くにいれば2人は思ったように力を発揮出来なくなる
会話をし多少なりとも情が湧いた相手への辛辣な一言・・・言われた本人もショックを受けるがフレイズ自身も心苦しくなる
だが・・・
「ケッ・・・疲れたって言っても交代してやらねえぞ?」
「っ!・・・フッ・・・護ってやるから黙って待っていろ」
互いに笑みを浮かべ決められた場所につく
ザイウス達は魔法使いとヒーラーの前に陣取りフレイズとドーズは魔物達の前へ
ゴブリンとコボルトがほとんどだったが徐々に魔物の種類も増えていく
スケルトン、グール、ビッグベアー・・・さらながらダンジョンを降りて行くかのように種類も強さも上がっていく
「ドーズ・・・準備はいいか?」
「・・・どうした?えらくご機嫌だな」
「そう見えるか?・・・気の所為だろう」
「そうか。準備万端だ・・・団長!」
「よし・・・では行くぞ副団長!」
「おい!副団長は俺だって言ってるだろ!!」
後ろの方から声がする
それを聞いて2人は笑うと魔物の群れに突進して行くのであった──────
「もう・・・ダメだ・・・あの2人がやられたら・・・」
スカウトの1人が頭を抱え震えていた
フレイズとドーズの2人・・・最初こそ圧倒的な力でねじ伏せていたが徐々に傷付き押されていく。なるべくマナを温存していたがついにはマナを使い始めそのマナも尽きかけていた
そして新たな魔物の集団が姿を現す
オークやスケルトンナイト、奥にはビッグアームの姿も見えた
「くそっ!こうなったら俺も・・・」
「待って下さい!ザイウスさん!」
「なんだ!?今のあの2人でも俺は足でまといって言いてえのか!」
「・・・はい・・・足でまといです」
「このっ!・・・だったらあの2人の後ろで指くわえて見てろって言うのかよ!ふざけんな・・・ふざけんなよ!!」
叫びザイウスは肩に置かれたエノバの手を振り切り2人の元へと駆け寄ろうとする
「おい!Cランク!」
「あぁ?」
「勝手な行動するな・・・黙って見ていろ」
「けど・・・」
「あの2人に加わりたいなら強くなれ・・・2人の加勢にはオレが行く・・・」
「ってアンタ!さっき弾切れって・・・」
「絞り出しゃ出てくんだろ?騎士は仲間を見捨てない・・・ってな」
ワーズはザイウスを止め2人の元へ
そして肩で息をする2人の後ろに立つと盛大にため息をついた
「ハアァァ・・・オレがいないと何も出来ねえんだから・・・」
「・・・ぬかせ」
「・・・マナが切れている魔法使いほど使い物にならないものはない・・・下がってろワーズ」
「そう冷たいこと言うなって・・・死ぬ気で絞り出しゃ何とかなるだろ?・・・それに・・・勝手に逝かせねえ・・・イク時は一緒・・・ってな」
「なんだかとても不快な気持ちになったんだが・・・」
「同じく・・・聞かなかった事にしよう。武器はあるか?」
「ねえよ・・・杖で殴るか・・・」
「すぐに折れるだけだ・・・何とかマナを回復しろ・・・その間私とドーズで持ち堪える」
「りょーかい・・・死ぬなよ」
「死なぬ!」
「さて・・・もうひと踏ん張りといくか・・・突撃ー!!」
2人は息を吹き返し魔物へと突進して行く
もはやマナはない・・・それでも2人は魔物を圧倒し始めた
燃え尽きる前の炎のように
「・・・すごい・・・あれがAランク冒険者・・・」
「くそっ・・・くそっ・・・くそっ!・・・」
「ザイウスさん!どこに・・・」
ザイウスは拳を握り振り返ると門の前に立つ
そして決して人間の手では開かれることのない重厚な門を殴り始めた
「何を!?」
「さっさと開けやがれ!こんな門を閉めるより・・・街を護ってくれる奴らの方が大事だろうよ!!開けろ!開けろよ馬鹿野郎共!!」
「・・・ザイウス・・・さん・・・」
ザイウスがいくら叫び叩こうとも門は開かられる事はなかった
その間についに・・・2人のマナは尽き最悪の事態を迎える
「ドーズ!!」
「ぐぁっ!」
倒れるドーズ
そのドーズに群がる魔物達
不快な咀嚼音が聞こえる
「やめたまえ・・・やめろ・・・やめてくれ・・・」
「どけフレイズ!!」
微かに回復したマナを振り絞りワーズが魔法を放つ・・・が、ドーズに群がるほんの一部の魔物を倒しただけ
魔物は尚もドーズの上で蠢く
「やめっ・・・」
ドーズに気を取られている隙にフレイズも魔物に不意打ちを食らう
背中を地面に打ち付けすぐに立ち上がろうとするが魔物は容赦なくフレイズの上に・・・
遠くから声が聞こえる
「・・・レイズ!・・・今・・・た・・・」
ワーズの声・・・逃げろと言おうとしたが頭の中で『どこへ?』と思い口を閉ざした
恐怖はない
死は覚悟していた
しかし護れなかった後悔が涙を流させる
自分に群がっている魔物の隙間からみんなが見えた
泣き叫び必死に魔法を出そうとしているワーズ
門に向かい何かを叫ぶザイウス
ザイウスを止めようと必死なエノバ
そして・・・足?
《全く・・・人使い・・・猫使い?・・・眷族使い?が荒いご主人にゃ》
「・・・にゃ?」
《ん?まさかこの山・・・人間が埋もれてるにゃ?あっちの山も?・・・{お預け}》
「おあ・・・ずけ?」
フレイズとドーズの上に乗っていた魔物の動きが止まる
それだけではなくフレイズ達を囲んでいた・・・果ては見える限り全ての魔物の動きが・・・止まっていた
《シュルガットもやりっ放しで逃げるにゃんて・・・ハア・・・ご主人様はご主人様でいきなり『外の魔物をよろしく』とか言ってくるし・・・ヒトがどれだけ心配したと・・・》
「ぐっ・・・」
《ああ、重いにゃ?そのまま死んでも私のせいじゃにゃいけど何故か怒られそうな気がするにゃ・・・{退け}》
彼女が命令すると魔物達は潮が引くように去って行く。フレイズとドーズの上にいた魔物達も
しばらくすると完全に魔物は見えなくなり唯一のヒーラーが瀕死のドーズを回復させていた
「ドーズ・・・生きて・・・っ!待って下さい!」
魔物が完全に引くのを確認した女性が無言で立ち去ろうとするのを見掛けたフレイズが慌てて女性を呼び止める
《何・・・かしら?」
「にゃ・・・は付けないのですね」
「あれは口癖のようなもの・・・気にしないで。で、なに?」
「あ、いや・・・ありがとうございます・・・その・・・助けて頂いて・・・」
「別にアナタ達を助けた訳じゃないわ」
「え?」
「ご主人様に魔物をよろしくって言われたから・・・ハア・・・もういい?行くわね」
「ご、ご主人様?魔物をよろしくって・・・貴女は一体・・・」
「私?私はサキ・・・ロウニール・ローグ・ハーベスなんちゃら伯の・・・眷族よ──────」




