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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
439/856

435階 息ピッタリ

不思議な事がある


結構な時間食事をしていない・・・水はキースに貰ったけど充分かって言われたらそうでもない


時間の感覚がないから何とも言えないが数日は確実に何も食べていないし飲んでもいない・・・もちろん空腹感はあるけど・・・普通・・・じゃないよな?


ふと過ぎるのはダンコに以前聞いた話『魔物も魔族も食事を必要としない』という話だ。人間を食べる魔物も別に腹が減ったからではないと・・・やっぱり僕はもう既に・・・魔族なんじゃ・・・


実はダンコ成分が増えて来ていつの間にか人間部分を侵食し魔族に・・・考えて1人ゾッとした


半分魔族なのは仕方ないにしても人間部分は残しておきたい・・・腕輪が外れてダンコと話せるようになったら確認しよう


フーリシア王国の城の地下でそんな事を考えているとこちらにやって来る気配を感じた


キース?いや・・・ゼンか?


ゼンなら一泡吹かせてやろうと立ち上がり切れた鎖を掴みまだ繋がっているかのように装うがその必要がなかった


「くっさ・・・何この臭い」


「こらこら久しぶりに会った兄に対しての一言目がそれか?妹よ」


「久しぶりの再会が牢屋ってのはどうなのよバカ兄貴」


うっ・・・返す言葉もございません


「・・・何しに来た?まさか繋がれた僕を笑いに来たとか言わないよな?」


「そのつもりだったけど・・・この現状と臭いで笑えないわ」


せめて笑ってくれ・・・と思っているとシーリスは僕に近付く


暗がりの中、離れている時は表情が見えなかったが近付くとその表情がはっきりと見えた


いつも見せていた呆れ顔ではなく僕の身体を見回して心配するような表情で・・・


「何か悪いものでも食べたか?」


「別に・・・それで何をしたの?」


「何も・・・冤罪ってやつだな」


「冤罪?法の番人であり『真実の眼』を持つ法務大臣がいるのに?」


「嫌われたんだろ?個人的に」


「あーセシーヌ様・・・どこがいいのかしらね・・・こんな臭い男の」


「おい・・・臭いのは仕方ないだろ?数日ここに繋がれて・・・お前も繋いでやろうか?」


「遠慮しとくわ・・・で上からの鎖はなんで切れてんの?」


「キースが来た時に・・・あ、これは内緒な」


「ふーん・・・じゃあこれもキースさんがした事にしとこうっと」


「お、おい!」


そう言うとシーリスは魔法を放ち足に繋がれていた鎖を砕く


かなりの音がしたけど・・・警備兵はやって来なかった


「いいのか?冤罪とはいえ今の状態で僕を逃がせば犯罪者の仲間入りだぞ?下手したら僕の疑いが晴れたとしても・・・容疑がかかっている可能性がある者を逃がしたとなったら・・・」


「そうも言ってられない状況なの・・・リガルデル王国の軍が侵攻を始め、王都では剣奴達が暴れ、王都の外は魔物だらけ・・・城にいた兵士達も近衛兵を除いて総動員状態よ」


「・・・え?何それ」


リガルデル王国が侵攻?剣奴って・・・それに魔物も・・・なんだその状況は・・・


「知らないようで良かった・・・もしバカ兄貴が計画していたとしたらどうしようかと思ったわ」


「そんな事するか!・・・てか本当なのか?今の話」


「本当も本当よ。現に大きな音を立てても誰も駆け付けて来なかったでしょ?」


確かに・・・それは気になった


という事は本当に?でも・・・


「リガルデル王国が攻めて来たって事は他の国がリガルデル王国を攻め始めるはず・・・放っておけば明日は我が身だし・・・リガルデル王国は大陸全土を巻き込んで戦争を始める気なのか?」


「どうだろう・・・聞いた話だと各国に連絡が取れないって話よ?無視されているのかそれとも何か事情があるのか・・・だから今陛下と宰相は大慌よ・・・アタシがここに来る事なんて気にしている暇もないほどにね」


無視するなんてありえるだろうか・・・アーキド王国のデュランは・・・まあ損得考えてどうするか悩むくらいはしそうだしラズン王国のワグナは・・・喜んで戦争に参加しそう・・・シャリファ王国のフレシアは・・・攻め込むのは難しいと思うけど無視はしないだろう。ファミリシア王国の・・・名前忘れた・・・えっと・・・王様は温和そうだったしどうなんだろう・・・まあフレシアと同じく無視はしなさそうだよな


となると考えられるのが通信が届いていない・・・妨害?でもそんな事が出来るのか?


ダンコに聞きたいけど腕輪は外れていない・・・シーリスに外してもらおうとするが・・・


「腕ごとなら出来ると思うけど?」


だよな・・・魔法で腕輪だけ切るって相当難しいだろう


困ったぞ・・・僕を繋いでいた鎖は無くなったけど腕輪がある状態だと何も出来ない・・・逃げても見つかれば殺されてしまう


鍵穴があるからとにかく鍵を見つけて腕輪を外さないと・・・一先ずここを出て見つからないように鍵を探すしか手はないか・・・


「・・・とりあえずここから出ようよ」


「ああ・・・シーリスはここまででいい・・・あとは僕が・・・」


「はあ?最後まで付き合うわよ・・・これで外に出て死なれても目覚めが悪いし」


「待て待て。仮にも宮廷魔術師だぞ?せっかくなれたのにそんな事したら・・・」


「別になりたくてなりたかった訳じゃないし別に気にしないけど?なんなら今すぐ辞めてもいいくらい・・・」


「そんな人に負けたなんて心外ね。だったら辞退すればいいのに」


「っ!この声は・・・」


入口の方から声がする


シーリスが眉間に皺を寄せて振り向く・・・どうやらシーリスは声の主が誰だか分かったみたいだ


僕も聞いた事があるような・・・ないような・・・


「何しに来たのよ・・・派手子」


「王女様と呼べ・・・地味子」


派手子?地味子?


近くに来てようやく姿が確認出来た・・・なるほど・・・確かに派手子だ


現れたのはスウ・ナディア・フーリシア・・・この国の第二王女でありシーリスと宮廷魔術師の座を競っていた相手だ


なぜ彼女がここに?


「ここに来たのにマナ封じの腕輪の鍵を持って来ないとは・・・本来宮廷魔術師は王国の頭脳である事が多いが・・・今回の宮廷魔術師は残念な限りだ」


「何を・・・ってそれって・・・」


「そうその鍵だ。妾に抜かりはない」


「・・・助けてくれるってこと?」


「そのつもりだ・・・が、条件が・・・きゃっ!」


気付いていた・・・けどキースが来るまでずっと立ちっぱなしでかなり体力が消耗していたらしく動こうとしたけど思うように体が動かなかった


王女の後ろから忍び寄る影・・・それが突然王女に襲い掛かると腕輪の鍵を強奪する


「なりませんぞ王女様!この男は極悪人・・・決して外に出しては・・・」


「アースブレッド!」「エアロフォース!」


有無も言わさぬ魔法攻撃・・・背後から王女の鍵を奪い取った男ゼンに対して2人は同時に魔法を放つ


どちらも殺傷能力は低い魔法だが2つ同時に食らって吹き飛ばされると壁に激突しあえなくゼンは気を失った・・・一体何がしたかったんだこのオッサン


「息ピッタリだな」


「どこが!」「どこが!」


僕の言葉に2人同時にしかも同じセリフで反応する


まるで息ピッタリなことを証明するかのように


「・・・ま、まあ邪魔が入ったけどとりあえず・・・その条件とやらを聞かせてくれるかな?スウ王女──────」





キース邸


既にマナもなく抗う術を持たない2人が笑う姿を見てシュルガットは眉をひそめる


《この状況下で何を笑う?人間とは理解し難いな・・・まあいい・・・逆らった時点で決まっていたのだ・・・恨むなら自らの選択を恨め・・・っ!誰だ!》


初めて自ら攻撃を仕掛けようとするシュルガット・・・しかし突然振り向き声を上げた


もしかしてキースが戻って来た・・・そう思いシュルガットの視線の先を見るもその姿はなく代わりにあったのは一匹の・・・猫の姿


「ぷっ・・・最後に笑わせてくれるじゃないか・・・猫に対して『誰だ!』って・・・」


「ほら巻き込まれない内に帰りな・・・ここにエサはないよ」


笑うソニアに猫を気遣い手を振って追い払おうとするラディル・・・しかし猫は平然とシュルガットへと近付くとその小さな首を傾げた


《にゃんでここにいるにゃ?シュルガット》


「・・・え?」


「猫が・・・喋った?」


《・・・サキュバス・・・貴様こそなぜ・・・》


《質問に答えるにゃシュルガット・・・まさか手負いのあんたが私に勝てるとでも思ってるにゃ?》


《くっ・・・複製風情が・・・》


《その複製風情に負けるあんたは何なのにゃ?ここは新たな魔王の縄張りにゃ・・・喧嘩を売るなら覚悟しとくといいにゃ・・・》


「新たな・・・」


「魔王?」


《バカな・・・インキュバスは理の外でこの世を去った・・・輪廻は崩れもはや復活など・・・》


《嘘だと思うなら私と戦ってみるにゃ・・・新たな魔王の眷族の私に勝てると言うなら受けて立つにゃ・・・ただでさえ機嫌が悪いにゃ・・・手心加えてもらえると思ったら大間違いと知るにゃ》


ソニアとラディルには分からないが猫が毛を逆立てるとシュルガットは慄き後退るとチラリと屋敷の方を一旦見て悔しそうに唇を噛んだ


《まさか本当に・・・くそっ!覚えていろ!サキュバス!それに・・・貴様らもだ!ワタシはまた来る・・・必ず我が眷族を・・・》


《さっさと行くにゃ!!》


《・・・チッ!》


先程まで傲慢だったシュルガットは猫を相手に怯みついには飛び上がり去って行ってしまう


あまりの展開に目を丸くしているとシュルガットを追い払った猫・・・サキは大きく息を吐きそのまま立ち去ろうとした


「ちょ・・・猫さん!?」


慌てて呼び止めるラディルに反応し振り向くサキ


あまりの出来事に続く言葉を失った2人に対してサキは軽くため息をついてラディル達に向き直る


《なん・・・なんにゃ?」


「アンタ一体・・・」


「通りすがりの猫にゃ」


「いやいやいや・・・猫が魔族を追い払うなんて聞いた事ないし・・・てかさっきまでの声と随分違うみたいだけど・・・」


「・・・魔力を使った声は人間を不快にさせるらしいにゃ・・・だから合わせてやったにゃ・・・感謝するにゃ」


「感謝ならいくらでも・・・とにかく話を・・・命の恩人だしせめて何か・・・」


「それならその感謝を私の主にするといいにゃ・・・まあお前達が色々としてくれた事も知ってるからおあいこって事でもいいにゃ」


サキの言葉の意味が理解出来ずソニアとラディルは顔を合わせ首を傾げる


頭の中では猫の主の姿・・・大きな猫を想像しそれを助けた記憶を探るが2人とも覚えがない


「えっとその主?私達が・・・してあげた?」


ソニアが尋ねたタイミングでサキは突然城の方を見て口の端を上げると再び2人を見て得意気な顔で言い放つ


「そうにゃ・・・私の主はロウニール・・・ロウニール・ローグ・ハーベスにゃ──────」

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