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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
438/856

434階 誰が為に

王国騎士団団長ジュネーズ・カルバニア・アメス


フーリシア王国においてディーンが表の顔ならジュネーズは知る人ぞ知る陰の顔・・・陰ながら王国を護る騎士である


ディーンのように目立つ事もなく、バデスやヨーグのように偉ぶる事もない。ただ淡々と自らの職務を全うするのみ


王国騎士団の主な職務は王都の警護・・・外敵からは当然内部に潜む反逆者に対し正義の鉄槌を下すのが主な仕事である


正義とは当然王家の意向に沿ったもの・・・今はその王家の意向に反する者達・・・闇組合『タートル』の二軍であるシル達と相対する


正義の鉄槌を下す為に



「『ディーンより厄介』か・・・言い得て妙だな」


「僕は苦手だな。顔は好みなのに」


「好み関係ある?ぶっちゃけ私も無理・・・シルが防げないんじゃどうしようもないわ」


「・・・ごめん・・・」


一対四・・・たとえ格上でもダンジョンのボスに対するように連携し戦えば勝てると思っていた・・・が、ジュネーズはその目論見をいとも簡単に崩してしまう


ジュネーズはよく言えば実直、悪く言えば不器用・・・それは戦闘スタイルにも影響していた


多彩な剣技を放つ訳でもなくて力任せに剣を振るう訳でもなくただ剣を真っ直ぐに振るうだけ・・・一見力任せにも見えるがその一振に技術の全てを注ぎ込んでいる


一撃必殺の完璧な一振・・・隙なく繰り出される一振はハズンの剣を凌ぎシルの盾を弾きジーナの魔法を切り裂く


スカウトのレギンに至っては近付く事すらままならなかった


「剣を鞘に納めているから間合いが上手く掴めねえ・・・あの剣術は確か・・・」


「『剣技抜剣』だね・・・それもそれだけを突き詰めた進化系・・・」


「『居合』だっけ・・・はぁヤダヤダ・・・魔法を斬るなんてどうかしてるわ」


「一撃が強力・・・悪いけど防ぐのは無理」


タンカーとしての役割を果たせないシルが落ち込む一方でジュネーズは4人の中で最もシルを警戒していた


もし彼女がいなければ終わっていた


ハズンが無防備に突っ込み、危険を察知したシルが間に入り込みジュネーズの剣を受け止めハズンと共に吹き飛ばされる。2人が吹き飛ばされるのを見て慌ててジーナがアースブレッドを数発放つが全て斬り落とされた


もしシルが間に入らなければ・・・ハズンは斬られ3人になっていたはずだった


「ハズンがニーニャだったら良かったのに・・・」


「このっ・・・それだったらお前がオードだったら・・・」


「もう回復してあげないわよ?」


「コイツ相手に回復が役に立つと思うか?首が吹っ飛んでも回復出来るってなら話は別だがよぉ」


「・・・出来るわ。だから突っ込みなさい」


「嘘つけ!」


ハズンとジーナが会話を繰り広げている最中にジュネーズは如何に効率良く終わらせるかを考える


多対一の場合のセオリーとしてはとにかく数を減らすこと


特にジュネーズが習得している『居合』は一対一には優れているが多対一には向いていない


「貴様らの与太話を聞いている暇はない・・・1人ずつ確実に処分してやろう・・・」


ジュネーズが構えると空気が一変する


空気が張り詰め無駄口を叩く余裕はなくなった


「・・・同時にかかればいけんじゃね?どっちか1人は死ぬ事になっけど」


「僕があの人ならハズンを迷わず斬るけど・・・好みは人それぞれだしね」


覚悟を決めたレギンが短剣を構えてハズンに並ぶ


「ちょっと!見てたでしょ?かなりの数撃ち込んだのに全て斬り落とされたのよ?2人がかりでも・・・」


「バーカ、そりゃあ一方向からならそうなるさ・・・けどなぁ・・・」


レギンはハズンの合図で素早くジュネーズの背後に回り込む


正面と背後・・・居合の性質上前方には強いが後方からの攻撃には弱いと読んだハズンの作戦だった


「へっ!これでどう・・・ってちょっと待て!」


ジュネーズは振り返り背後に回ったレギンに向かって駆け出した


突然の事で反応が遅れたハズン・・・あっという間にジュネーズはレギンとの距離を詰めると腰を落とし剣を構える


「・・・先ずは1人・・・」


「っ!させない!」


咄嗟にジーナはアースウォールで行く手を阻む・・・が


「バカめ・・・これしきの壁を斬れないとでも?」


土壁が迫り上がる前に間合いには入っていた


ジュネーズは壁など気にせず壁の向こうにいるレギンに向けて剣を抜き放つ


真一文字に閃光が走り壁は何事もなかったようにその場に佇んでいた


「レギン!」


「おい!大丈夫か!?」


壁に阻まれレギンの姿が見えないシルとハズンが叫ぶと視線の上から返事が聞こえた


「さっすがジーナ!気が利くねっ!」


「むっ!」


「壁を斬るなんてお見通し・・・そのままいたら斬られるなら・・・斬られないようにしてあげればいい」


壁の向こうにもうひとつ壁を作ったジーナ・・・その壁はレギンを乗せて迫り上がった


そのお陰でレギンは斬られずにすみ、それに加えて飛び上がりジュネーズの前に立ちはだかった壁を越え短剣をジュネーズに向けて落ちて来る


ジュネーズは剣を振った後の状態で上を見上げ固まっている


これは決まったと誰もが思った瞬間に()()は起きた


「もらっ・・・え?」


空中で突然異変を感じたレギンがその異変が起きた場所を見ると服が裂け血が滲み出し腹が開く


これまで生きてきて見た事がなかった臓物を初めてレギンは自分のモノで見る事となった


「うそ・・・」


空中でまさかの出来事にバランスを崩しジュネーズの横に落ちたレギン・・・その際に開かれた腹からは臓物がこぼれ落ちる


「だめだって・・・だめ・・・」


「・・・1人目」


「やめろぉぉ!!」


ジュネーズが剣を逆手に持ち顔に剣先を向けた


レギンは遠くからハズンの叫ぶ声を聞きながら自分の死が間近に迫っている事を悟った


ただ剣先が顔に向いているのが気に食わず思わず一言呟いた


「顔は・・・イヤだな・・・」


人一倍顔には気を配っていたレギン・・・その顔が最後の最後で剣を突き立てられるのがイヤで吐いた言葉


しかしその言葉を聞きジュネーズはこれまでレギンが浴びせられ続けた表情を浮かべた



まるで化け物でも見るかのような・・・そんな表情を



「気持ち悪い・・・死ね」


そう言って剣を突き立てるジュネーズ・・・しかしレギンは首を限界まで捻りその剣先を頬を削りながら躱すと憎悪の目をジュネーズに向ける


「気持ち悪い?そいつはどうも・・・お陰で生き延びたよ」


居心地のいい仲間といて忘れていた記憶が蘇る


誰にも理解されず苦しみ続け親にすら見捨てられたレギンをレオンや仲間達は笑顔で迎えてくれた


「足掻くか・・・醜い者よ」


「醜いのは・・・僕じゃない・・・この世界だ!」


世界が否定するなら自分が世界を否定してやる・・・その思いが再燃し彼を・・・彼女を立ち上がらせる


もはや何も出来はしない瀕死の状態・・・それでも彼女は立ち上がった


「世界を否定するか・・・ならばこの世界から立ち去れ!」



いつもそうだった


世界は異物を吐き出そうとする


けど彼らは違った


異物と思い込まされてしまってた自分を・・・純然たるものであると・・・変えてくれた



「僕の死を・・・無駄にするなよ・・・ハズン」


正面に構えるジュネーズ


目の端に映るハズン


彼女は死の間際目を閉じ、自分が死にハズンがジュネーズを討つ光景を想像した


しかし──────




「最近羽振りが良いみたいじゃねえか・・・こっちにも回してくれよダーネさんよ」


「はあ?全然羽振りなんてよくないよ・・・毎日生きるのに精一杯さ」


「そうなのか?誰かが家の中に大量の食料があるって・・・それに穀潰しが居なくなって久しいし余裕があるんじゃないかって・・・」


「バカ言いなさんな。噂をまともに受け取るんじゃないよ」


「そっか・・・そりゃあ残念。今年も厳しくなりそうだしな・・・何かあったら分けてくれよ」


「あいよ」


とある村の片隅でそんな会話が交わされていた


ダーネは会話を終えるとあばら家に入りある物を見てため息をつく


「・・・腐る直前になったら、ね──────」




レギンが目を開けるとそこには山賊顔があった


「・・・なかなかの地獄だね」


「うるせえ・・・黙ってろ・・・」


「どうして・・・ハズン・・・」


「さあな・・・体が勝手に動いちまって・・・昔は周りから『穀潰し』なんて言われてな・・・貧しい村で大食らいの俺は・・・そりゃあ嫌われたもんさ」


「なに?自分語り?」


レギンにクスッと笑いながら言われるとハズンは照れ笑いを浮かべた



ハズンは貧しい村に嫌気がさし村を出て好き放題やっていた


だが着の身着のまま村を出て彼には何も無かった。そこで彼はこう考える・・・何も無いなら人から奪えばいい・・・持ち前のガタイの良さでみるみる内に頭角を現す事になる・・・野盗として


そんな野盗としての活動の中で手を出してはいけない人物に手を出してしまった・・・その人物こそ『タートル』レオン・ジャクス


育て上げた野盗達を殺され自らも殺されそうになった時にハズンは命乞いではなく世界への恨み言を呟いた


レオンはそれを聞いてハズンに手を差し伸べる・・・仲間を殺したその手を


最初は内心生き延びられた事で喜んだ


しかし『タートル』として活動している時に自分の本当の気持ちに気付き初め・・・


「俺は・・・誰かの役に立ちたかっただけなのかもな」


「それで僕を助けたの?」


「さあな・・・言ったろ?体が勝手に動いちまったって」


「そう・・・なら僕は誰かに『綺麗』って言って欲しかっただけかも・・・」


「何言ってんだ・・・お前は綺麗だぜ?レギン・・・」


「うげっ・・・ハズンに言われても嬉しくも何ともないや」


「・・・てめぇ・・・」


2人は笑い合う


その瞬間が訪れるまで──────




不定期に届く食料


狭くボロい家の中に山のように積まれていた


食べても食べても減らないその食料の束を見てダーネは1人呟く


「穀潰し・・・か。早く帰って来ないかねぇ・・・私達だけじゃ食い切れないよ・・・だから腐る前に・・・とっとと帰って来な・・・ハズン──────」

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