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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
435/856

431階 母娘

キース邸


ソニアとラディルは2階で寝ているシシリアをメイド達に任せシュルガットを庭へと誘い出す


2人共火魔法を得意としている為屋敷の中では全力を出せない・・・外に出れば屋敷の心配をすることもなく全力で魔族シュルガットに向けて魔法が放てる・・・そうすれば勝てると思っていた


「・・・ねえ・・・こんな化け物に勝とうと思ってたの?」


「奴が言ってたろ?人間は記憶が薄れるものだって・・・どうやらそうみたいだね・・・記憶が薄れていたようだよ・・・まさかここまで化け物じみた力を持っているとはね」


シュルガットと対峙し軽口を言い合う2人・・・しかし内心ではかなり焦っていた


ラディルは娘であるソニアが幼い頃魔法を覚え才能の片鱗を見せた時、親の贔屓目ではなく冷静な目で見た感想が『天才』だった


自分に似て火魔法を得意とするソニア・・・火の扱いは彼女の同年代は疎かラディルの年代にも匹敵しマナ量も群を抜いて多かった


心の中で『魔族との子』だからと考えあまり指導しなかったのが今更ながら悔やまれる


もし幼い頃からみっちりと指導していれば誰にも負けない大魔道士に成長していただろう


だがラディルはソニアが強くなる事を望まなかった


強くなれば彼女の父親である魔族シュルガットが来て連れて行ってしまうかもと考えたからだ


ラディルはそんな事はさせまいと自らを鍛え続けシュルガットが来ても追い返せるよう研鑽を重ねた


その為娘であるソニアを蔑ろにした感は否めない・・・結果親子仲は冷え切りソニアは自ら母ラディルと離れ冒険者となり今に至る


すなわちソニアは幼い頃にラディルが指導しておけば()()はならなかったかもしれないのだ・・・元宮廷魔術師とAランク冒険者が全力で戦っても傷一つ付けられない今の状況には


「・・・最近サボってたんじゃないのかい?お腹もたるんでるように見えるよ」


「私は誰かさんと違って子育てに積極的だからね。自らを鍛えるよりなるべく近くに居てあげたいと思ってるし」


「それは守る為だと・・・まあ言い訳さね・・・」


「ええ言い訳・・・だからただの言い訳で終わらせない為にもう少し頑張ってみれば?娘を守る為じゃなく孫を守る為に・・・ねえ?お婆ちゃん」


「・・・老体に鞭打って楽しいかい?・・・まあ出し惜しみするつもりはないけどね・・・いざとなったらこの命投げ打ってでも2人を逃がしてやるさね」


「・・・それだと足りないわ」


「なに?」


「まだまだ大変な時期よ?もっと孫の面倒を見てもらわないと・・・私を放置した分までね。それからならいつでも逝っていいわ」


「非道い娘だよ・・・一体誰に似たんだろうねぇ」


「・・・さあね・・・」


2人が構えると腕組みをして目を閉じていたシュルガットが腕を下ろし目を開けた


《・・・終わったか?意気込みは買うが今なら子を差し出せば帰ってやるぞ?》


「ハッ!何か言ってるよお婆ちゃん」


「そうさね・・・魔族には理解出来ないんだろうねぇ・・・親が子を差し出す事など有り得ないって事を・・・思えば憐れな種族だよ・・・魔族ってのは」


《人間如きが魔族を憐れむか・・・面白い》


これまでも全力で戦って傷一つ付けられていない・・・だから当然中途半端な魔法は効かずかと言って自らが放てる最大の魔法を連発する事も出来ない


ラディルは決まらなければ負けが確定する魔法を放つよりも2人ならではの戦法を取ることを選んだ


「ソニア!・・・()()()()


ラディルはシュルガットの周りに4本の火柱を作り出す


それに合わせたソニアは自らも4本の火柱を・・・合計8本の火柱がシュルガットの周りで燃え盛る


《・・・どういうつもりだ?まさか増やせばこの程度の種火でワタシを退けるとでも?》


「いやだねぇ()()種族ってのは・・・生きる為の工夫すら理解出来ない・・・魔族に生まれなくて良かったと思うよ」


《ほう?()()種族に生まれて工夫して生きて何の得がある?》


「・・・必死に足掻くからこそ見えるものがある・・・強さにかまけているからこそ見えないものがある・・・アンタが人間ならその場に突っ立ってないで早々にそこから抜け出してたはずだよ?死の予感ってのを感じてね」


ラディルは視線をソニアに向けて頷くとソニアも無言で頷き返す


そして2人は同時に火柱を操りシュルガットを中心に回転させ始めた


互いの火柱は回転するにつれ重なり合い勢いを増す


ただの火柱が更に熱を帯び業火となり渦巻きシュルガットを包み込む


全ての火柱が1つの巨大な火柱となった時、中心にいるシュルガットはその業火の炎に焼かれた


人間なら消し炭さえ残らない程の高温に自ら放ったラディル達さえも顔を歪める


これなら殺すまでいかなくとも致命傷は与えたはず・・・油断せず構えたまま業火の火柱が消えるのを伺っているとようやくその火柱が煙だけを残し役目を終え消えていった


「・・・さすがに無傷・・・って事はないわよね」


「あの威力で無傷なら魔族に対して人間は抗う術などないだろうね・・・」


煙が晴れる


固唾を飲みシュルガットが立っていた位置を見つめ続けると2人は自らの目を疑う事となる


《憐れな種族だ・・・何をしたところで変わらぬ現実を直視出来ないのだからな》


見えてきたシュルガットの身体には火傷は疎か傷一つ付いていなかった


火柱の魔法は魔法を覚えたての魔法使いでも1ヶ月も訓練すれば使える程の初級魔法・・・しかしラディルとソニアが放った火柱は一般的な火柱と違い高火力に高めたものだった


それが4本、2人で計8本の火柱が合わさりシュルガットを包み込む際には上級魔法を超える威力だったのは間違いなかった



だがそれでも・・・魔族シュルガットには届かない



「このっ・・・どんな体してるのよ・・・」


「まさかこれ程とは・・・これではどんな人間でも・・・そんな理不尽な事が・・・」


自惚れではなく今の一撃は人間のソレを超えていた


1人の魔法使いが出せる魔法の限界・・・ソレを2人の力を合わせて超えたはず・・・それなのにシュルガットは無傷・・・膝の力が抜け崩れ落ちるのを何とか踏ん張りただシュルガットを睨みつける2人・・・そんな中、シュルガットはゆっくりと2人の元へと歩み寄る


《どうした?今のはなかなか良かったぞ?もっと強い魔法を重ねればかすり傷一つくらいは付けれるのではないか?》


「くっ!」


他人の魔法と重ねる事など普通は出来ることでは無い。マナを魔法へと変化させ放った時点で自らをも傷付ける刃となるからだ。普通なら刃同士がぶつかり合えば互いの力を削り合い力が均等なら消滅しどちらかが優れていれば優れている方が残るだけ


ラディルとソニアの魔法が重なったのは精密な魔法の操作と互いの力を均衡させる技術があったからこそ・・・少しでも操作を謝ればぶつかり合い消滅し、少しでも力の均衡が崩れれば重なり合う事はなかっただろう


なのでラディルはあえて初級魔法の火柱を使用した


操作も調整もラディルやソニアレベルなら可能だからだ


しかし中級魔法ましてや上級魔法ともなれば操作も調整も途端に難しくなる


たとえ息の合った2人でも不可能と言わざるを得ない



打つ手なし



ソニアもそれは理解したはず・・・ラディルは当初の予定通り彼女とシシリアを逃がそうと視線を向けるが彼女はラディルを見ず次なる魔法の準備をしていた


「ソニア!」


「逃げるなんて御免だね・・・逃げて胸張って生きているとでも思ってるのかい?」


「恥なんて捨てな!それにアンタだけの命じゃない!これにはシシリアの命も・・・」


「・・・大事な命が一つだけって訳じゃない・・・僅かでも可能性があるのなら・・・置いて行けるほど軽くはない()()!」


「・・・どこかで聞いた事ある口癖だね・・・」


「さあね・・・今度は私に合わせな!母さん!!」


「・・・全く・・・母使いの荒い娘だよ!!」


初級魔法ではダメだった・・・ならばその上を行く魔法を重ねるしかない


たとえ不可能であろうとも目の前の魔族を倒すにはその方法しか浮かばなかった


「踊れ踊れ・・・」


「っ!このっ!」


ソニアは踊り詠唱を始める


それを見たラディルは口元を緩めた後で合わせて踊る


「炎よ踊れ」「踊り狂いて」


「全てを」「焼き尽くせ」


「フレアランページ!!」


完全にシンクロした2人が同時に叫ぶとシュルガットの周りに複数の白き炎が現れ回転し始めた


《これは・・・》


自分が思い描いた数と出て来た炎の数は同じ・・・互いに同じ魔法を唱えれば倍になるはずなのに同じ数だった


つまりそれは2人で一つの魔法を唱えた事になる・・・一つ一つの炎の大きさは変わらずとも自分だけが放った魔法とは明らかに違うのが一目で分かった


「これでダメならどうする?」


「そうさね・・・3人仲良く逃げるってのはどうだい?」


「それはいいわね・・・逃がしてくれたらだけどね」


シュルガットの周りをグルグル回る白い炎は徐々にその速度を上げてシュルガットに迫る


さすがのシュルガットも顔を歪め白き炎を睨みつけた


そして・・・


白き炎の一つがシュルガットに触れると爆ぜ、それに誘爆するように次々と爆ぜ始めた


2人は爆風に巻き込まれながら後退し再び煙が晴れるのを待つ事に・・・もはやマナは残っておらず最後の最後の奇跡の一撃・・・これでダメなら2人には本当に打つ手がなかった


祈るように煙の中を見つめる2人


しかしその祈りは届く事はなかった


《・・・素晴らしい・・・超えてきたか・・・》


「・・・母さんマナは?」


「すっからかんだよ・・・アンタは?」


「同じく・・・ハッ、マナ量くらい父親譲りの方が良かったかもね」


「滅多なこと言うもんじゃないよ・・・これっぽっちも似てなくて良かったと思っているんだからね」


軽口を叩く2人の前に現れたのは傷だらけのシュルガット・・・致命傷とは言わないまでもこれまで傷一つ付けれなかった事からかなりの進歩と言える


だが、2人には既に戦えるほどのマナは残っておらず絶望的な差は埋めることは出来なかった


「・・・シシリアを連れて逃げて!城に・・・城に行けばキースがいるから!」


ソニアが残りの力を振り絞り叫ぶ・・・シシリアを見てくれているであろうメイド達に向けて


「・・・あの愚義息がアンタがやられたのを知って素直に逃げるかねぇ?」


「逃げなきゃ離婚よ・・・あの世でね」


「そりゃあ痛快だね・・・あの世に行く楽しみが出来たってもんだ・・・来たら地獄の業火ではなくあたしの炎で燃やしてやるさね」


《もう足掻かぬか?弱き人間よ》


「ハッ、少しは情ってもんを持ったらどうだい?仮にもアンタの子を産んであげたんだよ?それにこの子は間違いなくアンタの子だ・・・ほら、少しは情が沸いただろ?」


《今更命乞いか?》


「違うよ・・・どうせならあたしから殺しておくれ・・・親より先に逝くなんて親不孝にも程がある・・・だからせめてもの情けをかけてくれないかって言ってんだよ」


《たった数秒違うだけで何が変わる・・・いいだろう・・・せめてもの情けで同時に始末してやろう》


「このっ・・・血も涙もない冷血漢が!」


《涙はないが血はあるぞ?貴様らが命を懸けてワタシの体に傷を付け流させたではないか・・・貴重な・・・魔族の血をな!》


「おおう、ご立腹だね・・・やっぱり逃げてけば良かったわ」


「そうさね・・・世の中には理不尽なものはないと思ってたけど・・・まさか最後の最後で理不尽の塊に出会っちまうとはねぇ・・・」


2人は怒りを露わにするシュルガットの前で笑い合う・・・メイド達が娘を・・・孫を無事ここから連れて行ってくれるよう願いながら・・・笑い合った──────

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