430階 王都周辺
「ハアハアハア」
「なんで門が閉まってんだ!?この非常事態に・・・」
「非常事態だからだろ?国はワイ達を見捨てた・・・そうだろ?フレイズ」
閉まっている門に手をかけ肩で息をするフレイズはドーズを睨みその後で門を見上げた
「・・・ハア・・・そうとは限らない・・・普通なら・・・門を閉め迎撃態勢をとるはず・・・けど私達は・・・攻撃されなかった・・・」
「そりゃあ全速力で逃げて魔物から離れたからじゃねえのか?それを証拠にほら・・・すぐ後ろにいた魔物の大群はまだ来てねえし・・・」
フレイズ達3人や他の調査に加わった冒険者達は調査が終わった後も魔物討伐依頼を受けて王都周辺を回っていた
今日この日まで全てが順調だった・・・しかし突然どこからともなく魔物が現れたと思ったら手に負えないほどまで膨れ上がりAランクと言えど逃げるしかなかった
たとえ王都を守備する兵士から攻撃されようとも魔物に囲まれやられ生きたまま喰われるよりマシだと考えた
が、攻撃されずに王都に辿り着いた・・・予想外だったのはいつも開かれている門が閉じられていた事だった
「どうする?もうひとつの門・・・北門に行ってみるか?」
「そうだな・・・いつもワシらは北門を使ってたし実は南門は夜は閉まるとかあるかも知れん」
「それはないと思うが・・・っ!誰だ!」
フレイズが気配に気付き振り向くとそこには魔物ではなく人間らしきものが立っていた
人間と断じれなかったのはそのものがフードで顔を隠していたから・・・もしかしたら魔物が人間のフリをしているかもしれないと考え警戒していたからだ
「・・・閉まってる・・・」
人間らしきものは閉じた門を見上げながらボソッと呟く
「っ!・・・人間か?」
「・・・」
フレイズの問い掛けに答えずしばらく門を見上げていたが、急に門に向かって飛び上がった
「お、おい!」
さすがに飛び越えられる高さではない
門は10メートルはある・・・だが人間らしきものは飛び上がり2メートルくらいの高さで門に足をつくと更に上へと飛び上がった
そして門を越えるとその姿を消した
「・・・は?」
無論門に足をかける場所など存在しない。試しにドーズがワーズを投げてある程度の高さまで確認したがやはり足をかける凹凸などはなくどうやってアレが門を越えたのか謎だけが残った
「・・・タンカーの一部にはマナを空中に固定させる事が出来る者もいるらしいし・・・恐らくその類であろう」
と、結論付けた
何より今はそんな事で悩んでいる暇はなく自分達が生き延びる事が先決だった
門のそばに勝手口のような小さい鉄扉があるのに気付き開けようとしたが施錠されており、叩いたり呼び掛けたりしたが反応無し・・・そうこうしている内に他の冒険者達が戻って来た
「おぉ!?なんで門が閉まってんだ?」
Cランクのザイウス率いるパーティーはやはり初めて閉まっている門を目の前に驚きの声を上げる
「ザイウス!お前達も今戻ったのか。状況を教えてくれたまえ」
「フレイズか・・・状況も何も狩りに夢中でこんな時間までやってたら急に魔物が増えて来て・・・慌てて戻って来たらこのザマだ・・・一体何が起こってんだ?」
「私にも分からない・・・他の冒険者は見かけなかったか?」
「エノバだっけか・・・アイツらも近くで狩ってた・・・って言ってるそばから戻って来たみたいだぜ?」
ザイウスが横を向き顎を上げると確かにその先にエノバ達がこちらに向かって走って来ていた
これで3パーティーが王都の南側にある門の前で閉め出しされた事になる
「・・・ハアハア・・・これはどういう事ですか?・・・」
「増える度に同じ質問されては適わんな・・・他にいたか?」
「いんや俺が見た限りじゃこの近くにはもういねえはずだ。何せお前らスリーナイツが近くにいると獲物が減るからな・・・他のパーティーはお前らが南に来るって聞いて北側に行ったよ」
「北側はかなり片付けたはずだが・・・まあそれはいいとしてエノバは何を見た?」
「何って・・・急に魔物がそこら中に・・・あれは何なのですか?それになぜ門が・・・」
「私にも何が何だか・・・私達が戻って来た時には既に門は閉ざされており勝手口も施錠され叩いても呼び掛けても反応はなかった。これまで夜でも勝手口どころか門は開放状態だった事を考えると何かがあった・・・いや、その何かこそ魔物が急に増えた事なのかもしれない」
「つまり魔物の数にビビって門を閉めたって事か?」
「・・・そうなるな」
「しかし妙ではありませんか?魔物が迫って来ているならそれこそ騎士団が出て来て討伐するべきでは・・・」
フレイズ達冒険者は知らない・・・王国騎士団以外の全ての騎士団が国境付近でリガルデル王国の軍と戦っている事も現在残っている王国騎士団が剣奴達と交戦している事も
なので当然魔物の大群が現れたら騎士団が出るものと考えるがその気配は感じられなかった
「・・・王都の中から爆発音が聞こえなかったか?」
「そういやさっきデカイ音が鳴ってたな」
「ええ・・・振り返ると上空で爆発が・・・まさか王都の中で異変が?」
「可能性はある。そして門を閉めたのも魔物を入れない為ではなくその異変の為かもしれない・・・耳を澄ますと中から悲鳴のようなものも聞こえて来た・・・」
「おいおい・・・じゃあもしかしてその異変が解決するまで門は開かないって事か?」
「魔物が迫っているこの状況で?・・・ちょっとそれはさすがに・・・」
「ああ、マズイな・・・幸い魔物はまだここまで来ていないがもし攻めて来たら私達は・・・」
混乱を避ける為にパーティーリーダー同士だけで話をしたが解決の糸口など見えるはずもなく途方に暮れる
「き、北側の門が開いてるかどうかまだ確認してねえんだろ?だったら壁沿いに北を目指して・・・」
「北側・・・そうだな。南側だけに魔物が大量発生したと考えるのが普通かもしれん・・・南側が異常なだけで」
「・・・もしかしたら手遅れかもしれません」
「なに?エノバそれはどういう意味だ?」
「・・・私はスカウトでして今視力を強化したところ・・・闇夜に紛れて魔物がこちらに向かって来るのが見えました・・・」
「はあ?だったらすぐに北に・・・」
「私が見たのは西と東です」
「っ!・・・まさか包囲されているってのか!?」
「可能性は高いと思います・・・となると門を閉めたのもやはり魔物の対策として・・・」
「そんな事はありえない!騎士団が存在するのに魔物に怯えて門を閉めるなど・・・あってはならない!」
突然叫ぶフレイズ・・・エノバとザイウス・・・それに3人の話し合いの間待機している冒険者達が目を点にする
「お、おお・・・まあそうかもしれねえが今は現実を見ようぜ?」
「そ、そうですよ・・・どんどん迫って来てますし・・・」
「・・・ふぅ・・・すまない。・・・現実的に今の状況から私達が取るべき策は二つ・・・一つは北側の門が開いていることを願い移動する・・・もう一つはここに留まり門が開くまで魔物を退治する、だな」
落ち着きを取り戻したフレイズの二つの案に2人は難色を示す
「いや、そんなの一択だろ?どれだけの数の魔物がいると思ってんだ?」
「・・・私もザイウスさんに賛成です。ここに留まらず一刻も早く北を目指すべきです」
2人の意見は一致していた・・・が、フレイズは首を振り剣を鞘ごと抜くと地面に四角を描いた
「今いる地点がここ・・・で、北側は真反対だ。今から壁沿いに北を目指すとしてその間に魔物が襲って来る可能性はかなり高い・・・既に視力強化をしていない私の肉眼でも魔物は見えているからな。仮に四方が全て魔物で埋め尽くされていたとして同じ速度で迫って来ていたらどうなると思う?」
「・・・北側に辿り着けず結局魔物と交戦することに?」
「そうだ。この状況で壁から離れるのは論外・・・囲まれれば一瞬で私達は魔物に食い尽くされるだろう・・・そして壁沿いに移動したとしても途中で魔物と交戦し立ち往生するのならここで時間を稼ぎ門が開くのを待つのも一つの手であると思う・・・そして私はその方が生き残れる可能性が高いとも・・・」
「確かに移動中に攻撃されるのと待ち構えて攻撃されるのでは気持ちも態勢も違う・・・しかしいつ開くか分からない状態で精神が保てるかどうか・・・」
「ずっと魔物が王都の周りにいて騎士団が放っておくはずがない。今は中で何かが起きているとして、それに騎士団が対応しているとしたら・・・それが終わればすぐに門が開き騎士団が出て来るはずだ。確かにいつ開くかは分からないが移動しリスクを侵すよりここで耐え抜く方が・・・」
「・・・なあ」
「なんだ?」
「ずっと気になってたけどなんでそんなに騎士団を信用してんだ?」
「ザイウスさん!今はそんな事を気にしている場合じゃ・・・」
「エノバ・・・いいんだ」
魔物が迫っている中、時間が経てばそれこそ一択となってしまう。エノバが魔物の接近を気にしながら声を荒らげるとフレイズはそれを止めて自嘲気味に笑った
「・・・やはりバレバレか・・・騎士団を信用しているのではなく騎士団に憧れているのだ・・・子供の頃から私達3人は憧れ、騎士団ごっこに明け暮れて・・・騎士団になれないと分かり冒険者になった後も『スリーナイツ』等と名乗りここまで来た・・・」
「なれない?何言ってんだ騎士団なんて誰でも歓迎みたいな感じで常に募集してんだろ?」
「そうですよ・・・私の街でも募集の張り紙が常に張り出されて・・・」
「・・・募集要項をよく見たか?」
「いえ・・・私は騎士団に興味なく冒険者になると決めていたので・・・」
「俺もそうだ。てかぶっちゃけ騎士団に入ろうとする奴なんて冒険者にもなれない奴くらいだったしな」
近年戦争もなく平和な国において騎士団の役回りとしては有事の際に対しての訓練が主であった。第三騎士団のように雑務をこなす騎士団もあったが第一第二騎士団は訓練に明け暮れる毎日・・・それを国民も知っていた為にやり甲斐のない不人気職と成り果てる・・・それが現在の騎士団。決して憧れる存在ではなかった
「・・・だろうな。けど私達は憧れた・・・そして文字が読めるようになり愕然としたのだ・・・過去に犯罪歴がある者は騎士にはなれないという文字を見た時は、な──────」




