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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
432/856

428階 戦地

フーリシア王国とリガルデル王国・・・その二つの国を隔てる巨大な壁と許可を得た者だけが通れる門は跡形もなく破壊された


もはや二つの国を隔てるものはなく、かの国は我が物顔で他国への進入を開始する


そして・・・


「・・・化け物め・・・陛下はなんと!」


「はっ!このまま応戦し時間を稼げと」


「時間を稼げ・・・だと?あの化け物相手にか・・・冗談じゃない」


第一騎士団団長バデス・アジート・アルファスは声を震わせ天幕から出ると戦場と成り果てた国境付近を見渡した


小高い場所に設営し国境の先に滞留するリガルデル王国の軍を見張るだけ・・・そう思っていたのに現状は一番奥にあるこの場所まで迫る勢いのリガルデル王国の軍を見る羽目になっていた


「何をしている第三と貴族共は・・・前線が踏ん張らねばここが襲われると言うのに・・・」


「バデス団長!ここは第一騎士団も彼らに加わり・・・」


「・・・副団長」


「はっ!」


「俺達が離れたら誰がここを守ると言うのだ?第三と貴族共が前線で奴らを削り我ら第一と第二は体力を温存する・・・そして第三と貴族共を破り体力を消耗したリガルデル王国軍を我らと第二が蹴散らす・・・まさか副団長ともあろうものが作戦を聞いてなかったとでも?」


「し、しかし!・・・あの数の差は・・・それにリガルデル王国の軍を率いるあの者は・・・」


「いくら化け物でも体力には限界がある・・・近付けば殺られるなら魔法や矢で削っていけばいい・・・たとえあの『猛獅子』と言えど、な」


「っ!・・・その時・・・我が団とリガルデル王国が対峙した時第三騎士団と貴族達は・・・」


「当然死んでるだろうな・・・落ちこぼれの第三騎士団と私利私欲に走る貴族達には過分な名誉だろ?国を守れるなんてな。それよりも奴らがあまり削れなかった時だ・・・第二と話し後退しながら勝機を待つ他あるまい・・・すぐにヨーグをここへ」


「・・・はっ」


離れた戦地では1秒毎に人が死んでいる。それを見ても奮い立たない第一騎士団団長バデスを見て副団長ウルグ・ヤグモスはこのままでは確実に敗戦となると拳を握った




リガルデル王国陣営


「遅いぞ!もっと迅速に動き蹴散らせ!倒し確実に息の根を止めろ!!」


攻める軍の後ろに腕を組み立ち檄を飛ばす猛獅子オルシア。その横にひょろりとした男が並び立ち目を細める


「なーにトロトロやってんだ?競走なんだろ?これ」


「・・・『不死者』か・・・戦に口を挟むなと言っていたはずだが?」


「二つ名で呼ぶなっての・・・オレにはダンテって名前がだなあ・・・」


「気が散る・・・用件があるならさっさと言え」


「チッ・・・こちとらさっさとフーリシアの王都に行って風呂に入りながら酒を飲み女を抱きてえんだよ・・・こんな所でグズグズしやがって・・・猛獅子の名が泣くぞ?オッサン」


「ふん・・・む?」


オルシアがダンテに答えようとした時、フーリシア王国の1人の兵士が抜け出しオルシアの元へ


「貴様を殺せば・・・死ね猛獅子!!」


「足らんな・・・雑魚が」


呟くとオルシアは地面に突き刺し立てていた巨大な戦斧を軽々と持ち上げると襲いかかって来た兵士を真っ二つに・・・そしてまたその戦斧を地面に突き刺すと何事も無かったようにダンテに向き直る


「で?なんだったか」


「記憶障害でも持ってんのか?オッサン・・・オッサンが先頭に立って突っ込めばすぐ終わる話じゃねえか。オレの目にはまるで訓練でもしてるように見えるんだがな」


「訓練・・・だと?」


「ああ・・・後ろにまだごまんと控えてるのに数を合わせてチンタラと・・・全軍を出してオッサンが先頭に立ちゃ一瞬で済む話じゃねえのか?」


「よく見てるじゃねえか・・・その通りだ」


「は?」


「レオンとか言う男の口車に乗り軍を派遣しフーリシアを落とす・・・我らは外から奴らは内側から・・・奴らは少人数で工夫し王族を殺すとほざいていたが成功の確率は低いだろう。まあ成功したとしても失敗したとしても何も変わらないがな。どっちにしろ我が国がフーリシアを手に入れるのは変わらない」


「けど確か条件が違ったろ?レオンって奴らが先に城を落としたら奴らに自治領を与えるとか何とか・・・フーリシア全土を手に入れるなら奴らより早くフーリシアを落とした方が良くねえか?」


「・・・陛下はあのレオンという男をいたく気に入っていてな・・・自治領を与えても構わないそうだ。だから俺達はゆっくり進めばいい・・・ここにいる雑魚共を全て片付けてからゆっくりとな」


「んで訓練かよ・・・戦争だぜ?」


「実践に勝る訓練はない。それに貴様もいる事だしな・・・『不死者』ダンテ・キノキス・・・こと回復魔法に関しては聖者をも超える異端者よ」


「異端者って・・・まあいいや。で、あとどれくらいでこれは終わるんだ?」


「そうだな・・・見る限り雑魚でない者も何人かいる・・・そいつらが俺に向かって来ればすぐに終わるが・・・」


「あん?どういう意味だ?」


「俺に向かって来ようとする者はその道を阻むなと伝えてある。だから今のような雑魚でも俺に挑戦する事が出来るのだが・・・先程から雑魚ばっかでな。まあ強き者と戦うのは良き訓練となるのは間違いないがそやつらのせいで進軍が遅れているのは確かだ」


「じゃあオッサンが出向いて殺れよ・・・それともオレが殺ってやろうか?」


「それでは訓練にならんだろ・・・ん?」


オルシアとダンテが話している間に1人の男が前に現れた


「・・・雑魚か?」


ダンテが男を見て尋ねるとオルシアは口の端を僅かに上げて答える


「いや・・・物足りぬが強者の1人だ・・・名を聞こう!」


「ケイン・アジステア・フルー・・・しがない辺境の兵士長だ」


オルシアの前に現れたのはロウニールの私兵として参戦していたケインだった。憮然とした表情でオルシアの前に立ち剣の柄を握る


「貴族?貴族が辺境の兵士長?・・・なかなか面白い奴だな。どれ・・・相手してやるから剣を抜け」


「その必要は・・・ない!」


言うとケインは目の前の戦斧を未だ握る事さえしていないオルシアとの間合いを詰めた


そして地面に刺してある戦斧を躱し懐に入り込むと剣を抜き放つ


「・・・居合の類か・・・なかなかだが足りねえな」


刃は鎧の隙間を正確に狙い肉を断つはずだった・・・が、僅かに狙いはズレ鎧に当たり甲高い音を立てて弾かれる


「いい鎧だ・・・『猛獅子』オルシア」


「だろ?さて、次は俺の番だ」


そう言うとオルシアは戦斧を握り持ち上げ肩に担ぐ


構えも取らずただ担ぎ上げただけなのに威圧感は先程とは雲泥の差・・・ケインは額から嫌な汗が流れ出るのを感じながらオルシアの間合いから少し離れる


「どうした?ビビったか?」


「どうしたもこうしたも・・・貴様の番なのだろう?」


「そうだったな・・・んじゃまあ・・・死ね」


オルシアが戦斧を真っ直ぐに振り下ろす


間合いは外している・・・が、ケインは咄嗟に剣を出し防御の姿勢をとった


戦斧から斬撃が飛ぶ


ケインは剣をマナで覆いその斬撃を受けるが受け切れず自身の鮮血が舞うのを見た


「ほう・・・完璧とは言わずとも受けるか・・・やるじゃねえか」


「・・・化け物が・・・」


ケインは斬撃を飛ばす者に覚えがある


『剣聖』と呼び声高いディーン・・・彼を知っていたからこそケインは間合いから外れていても咄嗟に剣を出し受ける事が出来た。もし何もせず躱したと思っていたら今頃体は真っ二つにされていただろう


「さて、まだ致命傷には至ってないが・・・続きはどうする?しっぽ巻いて逃げ出すか?ケインよ」


「・・・ふざけるな・・・次は・・・俺の番だろうが!」


斬られたとはいえ傷は浅い・・・ケインは剣を納めると大地を蹴り再びオルシアの元へと駆け出した


近付けば戦斧の刃、遠のけば斬撃・・・どちらにせよ逃げ場がないケインは自らの間合いに入るしか勝機はない



騎士団の団長となるのが夢だった


その夢を打ち砕いたのは家柄だけが上の2人と年下の・・・ディーンだった


第一騎士団と第二騎士団を諦めせめて第三騎士団の団長にと思っていたケインに立ちはだかる高い壁・・・実力も人望も上のディーン・・・追いつこうと足掻き続けるも追いつけず遂には辺境の地へと飛ばされる始末


騎士団団長の夢は潰えた・・・が、もし・・・もしここでリガルデル王国・・・いや、大陸最強と呼ばれる『猛獅子』オルシアを討ち取れば・・・夢が叶うかもしれない


一度は諦めた・・・団長となる夢が──────


「俺の為に死にさらせ!『剣気抜剣・乱舞』!!」


間合いを詰め『剣気抜剣』と『剣気乱舞』の合わせ技


それも無闇矢鱈に斬りつけるのではなく鎧の隙間を正確に斬りつけるその技にオルシアは戦斧を前に構え亀のように丸くなる


今度はオルシアの鮮血が舞う


ケインはマナが続く限り斬り続けるが・・・手応えがない事に気付き歯軋りをした


「くっ!・・・このっ!!」


もっと鋭く・・・もっと強く・・・


だが皮は切れど肉は切れず・・・次第にオルシアの体が倍以上に膨らむ錯覚に陥りケインの手は止まってしまう


「痛えな・・・ペチペチペチペチ撫でるんじゃねえよ!」


オルシアは手の止まったその隙を見逃さず戦斧を肩に担ぎ振り下ろそうとする


力を使い果たしたケインはその動作を見ても身動きが取れない・・・ジェイズの制止を振り切り一騎打ちに望んだが足りなかった・・・ケインは覚悟を決め逃げようとはせずあえて踏み込んだ


最後の一閃・・・鎧の隙間など狙わず力を振り絞って出した一撃はオルシアの鎧に僅かに食い込む


が、振り下ろされた戦斧はケインの肩に当たると全身の骨を砕かんとばかりの衝撃を与える


「がっ・・・」


「見事だ・・・まさか突っ込んで来るとはな。お陰で柄の部分に当っちまったじゃねえか」


下がれば斬撃が、その場に留まれば戦斧の刃で斬られていたはず・・・ケインは踏み込む事により九死に一生を得たがそれでも当てられた肩の骨どころか身体中の至る所の骨が砕かれた


「好きだぜお前みたいな奴・・・特別に墓標に『オルシアに挑み破れた者』と刻むことを許可してやろう・・・む?」


オルシアが倒れるケインにトドメを刺そうと戦斧を振りあげようとした瞬間、突然飛び退いた


するとそれまでオルシアのいた場所に斬撃が通り過ぎる


「・・・やっと本命が登場か・・・でも礼儀がなってないな・・・一騎打ちに割り込むなんてよ」


「その男は元部下なんでね・・・大目に見てくれると助かるよ」


「いい部下は手放すな・・・上に立つ者の常識だぜ?『剣聖』」


呆れたように肩をすくめるとオルシアは斬撃が飛んで来た方向を向いた


そこには剣を納めオルシアに近付く1人の騎士


「ケインは私の元から離れてから強くなった・・・そしてもっと強くなるだろう。それと私は剣聖ではない・・・ただの第三騎士団団長ディーン・クジャタ・アンキネスだ。勘違いするな『猛獅子』オルシア・ブークド・ダナトル将軍」


「いいね・・・強者の面構えだ・・・で?何しに来た?まさか元部下を引取りに・・・って訳じゃねえだろ?」


「当然だ・・・この愚かな侵略を止めに来た・・・貴様を倒しこの無益な戦いを終わらせてやる──────」

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