426階 牢にいる
「吐け!さっさと吐くんだ!リガルデル王国といつ結託した!何を企んで・・・って本当に吐く奴があるか!そっちの吐くじゃない!」
ゼンの野郎・・・人を叩くのに生き生きとしやがって・・・にしてももう吐くものがないのか液体しか出やしない
ゼンが牢屋に来た時はこれで疑いが晴れると安心したが・・・この野郎僕を痛めつける為にわざと・・・
「ほ、法務大臣・・・本当に『真実の眼』は効かないのですかな?」
「・・・警備長・・・私が嘘を言っていると?この法の番人である私が?」
「い、いえいえ!ただ・・・その・・・『真実の眼』が効かない相手など聞いた事がありませんでして・・・はい」
「だから痛めつけているのだ。恐らく何かしらの強固な力が邪魔して読めなくさせている・・・だからこのムチで体力を削りその強固な力を無効化して読まなくてはならない・・・何度も説明させるな」
「それは聞きましたがこれ以上は死んでしまいます!死んでしまっては情報を聞き出せないのでは?」
「・・・安心しろ。聖者として長年生きるも死ぬも見てきたのだ・・・どれくらいで死ぬかなど簡単に分かる」
「し、しかし・・・」
「ええい!気が散るからアッチに行っておれ!気が散って手元が狂い死なせてしまったら貴様の責任だからな!」
「わ、分かりました!」
おぉ・・・癒しのぽっちゃり警備長が行ってしまう・・・マナ封じと魔力封じの腕輪・・・それにガッツリ鎖をつけられているし足にも鎖が・・・この身動き取れない状況で何日経っただろうか・・・みんな元気にしてるか・・・なっ!!
「・・・ッのやろ・・・」
「無駄口を叩く元気は残っているか・・・それにしても無様だな・・・救国の英雄とか何とか持て囃されていたのは既に過去・・・貴様がセシーヌを選ばなくて本当に良かったよ」
「・・・」
「いっぱしに睨むか・・・まあそれしか出来ないからな・・・しかし私もムチを振るのが億劫になってきた・・・そろそろ吐いたらどうだ?『私がリガルデル王国と結託しました』と言えばここから出してやるぞ?」
嘘つけ・・・言った瞬間に殺すくせに・・・
もしここから本気で出す気ならとっくに出してるはずだ・・・最初の時に全て話した・・・それを『真実の眼』で見たから嘘ではないと分かってるはず・・・なのにコイツは・・・本当にセシーヌの親父かよ・・・この親父からセシーヌが産まれるなんて信じられないぞ?
「黙りか・・・まあいい・・・時間はたっぷりあるからな。どうせリガルデル王国は攻めて来ん。この国を攻め落としたところで次は自国が攻め落とされるのは目に見えているからな」
バカが・・・攻めて来る可能性をなぜ考えない
確かに攻めて来たら今度は自分達が攻められる側になる・・・けど対策していたら?シャリファ王国の反乱を企てた奴らだって事前にあらゆる可能性を考えてリガルデル王国に直接交渉に行ったりしていた・・・もしシャリファ王国と同じようにリガルデル王国が事前に何かしていたら?・・・フーリシア王国は滅亡しリガルデル王国は生き残る・・・そんな可能性を一切考えないのかコイツらは
・・・いや、考えているからこそ僕なんだろうな
僕ならそれくらいやってのける・・・そう評価しているからこそ僕を拘束して・・・ハア・・・やっぱりバレないように隠し通すべきだったか・・・けど一体なぜ・・・誰が・・・
「おい!いつまで黙り決め込むつもりだ!とっとと言え!」
さっき時間はたっぷりあるって言ったばかりじゃないか!
なんだこのハゲ!・・・ってまたムチが・・・
「おりゃあ!・・・ん?警備長!邪魔するなとあれほど・・・あっ」
「何してんだお前」
「・・・キ、キース殿!・・・何故ここに・・・」
キース?おいおいマジか・・・味方か敵か分からないけど敵なら死確定だぞ!?
「どうでもいいだろ?陛下に許可は取ってある・・・だからてめえはさっさと去ね!」
「わ、私は法務大臣として・・・」
「ウダウダ言ってんじゃねえ!拳で語るか?コラ」
「・・・国王陛下に抗議するぞ?・・・」
「ダー!うるせぇ!早く行けってんだ!」
しつこいゼンに大きな口を開けて威嚇する
これはもう・・・喰われる覚悟もしないといけないかな?
「ったくしつけぇ奴だ・・・なあ?ロウニール」
「・・・ぁ・・・」
くそっ・・・喉が張り付いて声が出ない・・・
「もしかしてずっとその状態か?ちょっと待ってろ」
そう言うとキースは牢屋から出て戻って来ると水が入ったコップを持っていた
それを僕の口に傾けたので僕は口を開けて喉を潤す
何日ぶりだ?人間飲み食いせずに何日生きられるか知らないけど案外いけるもんだな・・・まあだが・・・水が超美味い!
「・・・ぁあー・・・んん・・・もう少しくれ・・・」
「おう・・・ってちなみに小便とかする時どうしてんだ?」
「・・・聞くな・・・」
最初だけは結構頑張った・・・でもその頑張りが無駄だと思ってからは少し気が楽になった・・・ああそうさ・・・垂れ流しだよクソッタレ
「・・・まあ赤ん坊の時はみんなそうだしな・・・」
「誰が赤ん坊だ・・・で?何しに来た?」
「・・・悪ぃが助けに来た訳じゃねえ」
「じゃあ・・・」
水を飲んだお陰で出て来た唾を喉を鳴らしながら飲み込んだ。まさかキースが無抵抗の僕を殺すとは思えないけど・・・
「謝りに来た」
「・・・へ?」
「あー・・・まあ・・・なんだ・・・お前がこうなったのも俺の責任って言うか・・・一役買ってるって言うか・・・」
「らしくないな・・・はっきり言ってくれ」
「お前の事を王に話したのは俺だ」
僕の事を話したって・・・
「魔力を使えたりゲートの能力だったり・・・それからディーンから聞いた事も他の奴から聞いた事も全て王に話した」
「・・・なん・・・で・・・」
衝撃だった
誰だろうと思っていた。けど誰だろうと別にバレたら仕方ないと思っていた。でも・・・この人は違うだろうと思っていたのに・・・
「驚くよな?そりゃあそうだ・・・俺だってしたくてした訳じゃねえ・・・こんな言葉は使いたくなかったが・・・『仕方なく』だ」
「仕方なく?」
「ああ・・・まあお前には聞く権利があるからな・・・全部話してやる」
そう言った後、キースは腕に繋がれた鎖を手で切り落とす
数日ぶりに腕が自由になり足で踏ん張れない為に背中を壁に預けるとズルズルと下がり腰を落ち着かせた
「ハア・・・で?」
「・・・俺にはどうしても守りたい人が3人いる」
「シシリアちゃんにソニアさん・・・あと一人は・・・」
「・・・レオンだ」
なるほどね
「今の俺があるのもレオンのお陰だ・・・力はあるが短気で粗暴・・・そんな印象を持たれていた俺から人は少しずつ離れていった・・・冒険者やってく上でずっとソロってのはうまくねえ・・・物理攻撃無効の魔物なんてのもいるし死に直結する罠なんかもあるしな・・・で、そんな俺と組んでくれたのがレオンだった」
「まあ確かにアンタと組むとなると色々大変そうだし分かる気がする」
「うるせぇ・・・で、レオンのお陰で俺はSランクなんてものにもなれた。嬉しかったんだ・・・こんな俺でも誰もが憧れるSランクになれたこと・・・そして感謝した・・・俺をSランクに引き上げてくれたのは間違いなくレオンだったからな。正面切って言ったことはねえが感謝してもし足りねえと思ってる・・・だがSランクとなった後、レオンは俺の前から姿を消した」
「・・・なぜ?」
「さあな・・・当時は意味が分からなくて随分と探したもんだ・・・けどいくら探しても見当たらねえ・・・そんな時に出会ったのがソニアだ。当時のソニアはクリスと2人で組んでてな・・・ちょうど近接アタッカーを失って探してた時に俺と出会ったって訳だ。初めは俺も乗り気じゃなかった・・・レオンとじゃなきゃ上手くいくはずがねえと思ってたからな・・・だが・・・」
「ソニアさんがレオンの役目を果たした・・・」
「ああ・・・上手く手網を握られたって言うか・・・まあ惚れた弱味ってやつかな?いつの間にかソニアに惚れてた俺はソニアの言う事は聞くようになり上手いこといっちまったって訳だ。レオンの事をすっかり忘れるほどにな」
「その頃なのか?レオンが『タートル』を立ち上げたのは」
「そうだ・・・元Sランク冒険者が闇組合を立ち上げた・・・そんな噂を聞いて俺は後悔した・・・なんで探し続けなかったかって・・・。悪い噂はどんどん耳に入ってきやがる・・・そして国は本格的に討伐に乗り出そうとしてた。そりゃあそうだ、元Sランク冒険者なんてタチの悪い奴が闇組合になって好き放題暴れてるんだ・・・国にとっては脅威以外の何物でもねえからな」
「それでも国はレオンを捕まえられてない・・・まあ変装出来るし捕まえるのは至難の業・・・」
「違う・・・俺が王に持ちかけたんだ」
「なに?」
「俺がレオンを説得するから泳がせておいてくれってな・・・代わりに何でもするって・・・」
「それで僕の情報を・・・」
「そうだ・・・それにゴーンを護衛していたのもその一環だ・・・聞かれりゃ何でも答えるし言われりゃ何でも聞いてた・・・それにゴーンの護衛をしていたら会える可能性が高かったってのもあるが・・・」
「?どういう事だ?ゴーンをレオンが襲うとでも?」
「ああ・・・ゴーンがそう言っていた・・・聞いた当時は深く考えずそりゃあ都合がいい程度に思ってたんだが・・・つい最近その意味を知って更に後悔したぜ・・・俺は何をやっていたんだってな」
「どうしてレオンがゴーンを?」
「アイツが消える前だ・・・ゴーンはある推論を立てた・・・『ダンジョンブレイクは人の死んだ数で起きる』・・・意味は分かるよな?そしてそれを試すにはどうすればいいのかも・・・」
「・・・まさか・・・」
「その『まさか』を国はやりやがったんだよ・・・何も知らない村人をダンジョンに送り込み魔物に殺させた・・・冒険者じゃねえ・・・ただの村人を、だ。その村に何人いたか知らねえがその事実が漏れるのを防ぐ為に村人全員を、だ。そしてその村は・・・レオンの生まれ故郷だったって訳だ」
「っ!・・・じゃあ・・・」
「ああ・・・レオンの両親や兄妹もその中に含まれていた。レオンはSランク冒険者になるって言って村を出たらしくてな・・・Sランクになり凱旋してみりゃ村には人っ子一人いねえ状態・・・で、レオンは当時村で冒険者ギルドのギルド長をやってた奴を探し当て真実を聞いたって訳だ・・・もちろんそいつはレオンの手にかかりこの世にゃいねえ」
「非道い・・・あんまりだ・・・」
「そうだな・・・俺だったら気が狂っちまいそうな話だ・・・そんでやった連中を片っ端から殺し回っただろうよ・・・けどレオンは違った・・・短絡的な行動は取らず冷静に・・・静かに・・・人を集めより確実に実行しようと企んだ・・・復讐を果たす為に・・・」
ああ・・・何となくレオンの言っていた事が今更ながら分かった気がする
もし勧誘時に今の話をされたら・・・僕は国に対して反感の気持ちを抱き仲間になっていたかもしれない・・・けどそれは上辺だけの同情だ・・・実際に経験してない偽りの感情だ。国に対して復讐をするのなら手伝えるだろう・・・けど彼は知っている・・・それは容易いものでは無いと
容易くなければどうするか・・・人道に反した事にまで手を出すしかない・・・そうレオンは考えたから闇組合『タートル』を設立した
同情心で仲間になった僕は反対するだろうな。何せ他人事だ・・・『無関係の人を巻き込んではダメだ』なんて正論をぶつけるだろう・・・所詮寄り添ったつもりでいるだけの偽りの感情・・・その場その場で揺れ動き対立するのは目に見えている
だからこそレオンは自分の身の上話をせずそれでも闇組合に与する者を探していた・・・決して裏切らずブレない仲間を探していたんだ
「キースはもしレオンに誘われていたらどうしていた?」
「そりゃあもちろん手伝ったさ・・・けど・・・途中で止めたかもしれねえ・・・やっぱりダチが堕ちていくのは見てらんねえってな」
「だろうな・・・僕もそうするだろう・・・彼らのやっている事は間違っている・・・チャンスを与えているとはいえ人質を取ったり達成出来なかったら殺したり・・・」
多分仲間集めの為にやっていた事ではないのだろう。兵隊集め・・・死んでも惜しくないある程度実力を持った人達を集めようとしていた・・・真の仲間は恐らく数人・・・決して裏切らずレオンがやる事に賛同している数人のはずだ
「・・・レオンのやろうとしていることに真実を知った今は否定も肯定もするつもりはない・・・俺を誘わなかったって事は巻き込みたくなかったか止められると思ったか・・・その両方かだろうよ。アイツがそう思ったのなら俺は邪魔をしないで見届けるつもりだ・・・アイツのやろうとしていることをな」
「てっきり止めると思ったけど・・・」
「止められねえさ・・・俺がもしアイツの立場なら誰に言われても止まる気はねえしな」
「レオンが失敗し死ぬとしても?」
「誰が止められるって言うんだ?アイツは俺と違って冷静に物事を運ぶ・・・無理と思ったらやらねえし行けると思ったら行くタイプだ。アイツが動き出すとしたらそれは行けると思った時・・・失敗する姿は想像つかねえな」
「最後のピース」
「あん?」
「レオンは僕を『最後のピース』と言った。でも僕は『タートル』じゃない・・・つまり『タートル』は完成していないって事になるんじゃないか?」
「・・・アイツだって間違う事もある・・・」
「だろうね。けど間違いじゃないかも・・・だって僕は・・・全力でレオンを止めるから・・・」
「・・・鎖に繋がれてマナも魔力も封じられた男のセリフとは思えねえな」
「それは言いっこなし・・・まあとにかくレオンが何をしようが失敗する・・・絶対間違いなく失敗する・・・そしてレオンは反逆罪で死刑となるだろう・・・誰も止めなければ」
「・・・俺に止めろってか?さっきも言ったように俺は・・・」
「同情して止めないって言うのならお門違いだ・・・僕なら止めて正しい道に導く」
「ハッ、そうかよ・・・正しい道ねえ・・・いつから聖人になった?ロウニール」
「実は牢に入れられて悟りを・・・」
「・・・くだらねえ・・・帰るぞ俺は。とりあえず謝ったからな!もう会う事はねえかもしれねえな・・・達者で暮らせ!」
そう言って牢から出て行こうとするキース
非道い・・・結局助けてくれないのか・・・まあ今の状態の僕を助けたらお尋ね者になるし仕方ないか・・・でもまあ勘違いして帰らすのも癪だな
「キース!・・・僕が言う『正しい道』ってのは・・・っ!?」
突然聞こえた爆発音に言葉が遮られる
なんだ今の音は・・・外で一体何が・・・
「チッ!嫌な予感がしやがる・・・で、なんだって?お前の言う『正しい道』ってのを聞いてやろうじゃねえか──────」




