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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
43/856

40階 復職の一手

街の入口・・・その近くにヘクト爺さんの家はある


前の家も入口から近かったけど、村の領地を拡げる際に住んでいた家を取り壊し新たなに建てた家もわざわざ入口の近くに建ててもらっていた


どれだけ門番が好きなんだよと最初は思ったけど、今は違う・・・ヘクト爺さんは好きなんだ・・・エモーンズの事が。だから爺さんと呼ばれる歳になっても門番を続けてる・・・そんな気がする


「久しぶりだわい・・・家の中から門を眺めるのは」


「働き過ぎだったんですよ。少しは休まないと」


《どの口が言ってるの?》


お黙りダンコ!


「休みならいいが、な」


そう・・・休みじゃなく解雇・・・もう門番としてあの場所に立つことは・・・


「もし戻れるなら・・・戻りたいですか?」


「・・・戻れはせんよ」


「聞いてるのは『戻り()()』かです」


「・・・お主・・・まさか・・・」


僕が何かすると思ったのだろう。ヘクト爺さんは険しい表情をして僕を見つめた


「・・・あの騎士の言葉は的を得ておる。兵士はいざという時に命懸けで民を守る義務がある・・・となれば自らを鍛えるのは当然・・・それを怠ってたのは事実・・・辞めさせられて然るべきじゃ」


「・・・ですよね。いやー、突然の事だったので驚いちゃったんですけど・・・門番もそろそろ飽きてきたのですがちょうど良かったかな?って思い直したんですよ」


「ほ?」


「もしヘクト爺さんが戻りたいと言って直談判でもしたら面倒だなーって思ってたんですけど大丈夫そうですね。ちなみにいい仕事あります?僕知っての通りお腹が緩いんでその辺を考慮して下さるとありがたいんですが・・・」


「・・・そ、そうか・・・ワシはてっきり・・・。仕事か・・・大工なんてどうじゃ?しばらくは仕事にあぶれる事はないぞ?」


「でも結構厳しそうな・・・トイレなんて言ったらトンカチが飛んできそうで・・・他にあります?」


「なんじゃ根性ないのう。それなら──────」



それから世間話をして僕はヘクト爺さんの家をあとにした。最後は『また来ます』と挨拶して・・・


《ハア・・・本当にやるの?》


「当然」


《声震えてるわよ?》


「武者震いだよ」


なんて強がってみたけど怖いものは怖い


突然斬りかかって来たら・・・僕の人生はそれまでだ


でも・・・



兵舎の近くまで行くとドカート隊長が同じ方向に歩いていた


思い詰めた表情・・・まさか・・・


やはりドカート隊長も兵舎の中へ入って行く。するとすぐに騎士に止められていた


「離してくれ!ケイン様と話しを・・・話しをさせてくれ!」


「黙れ!ケイン様は忙しいのだ!貴様のような奴と話している暇などない!」


ドカート隊長でも門前払いか・・・なら僕の話なんてとても聞いてもらえそうにない


・・・それなら無理矢理にでも聞いてもらうしかないな


「拝啓第三騎士団団長ディーン様!」


突然僕が叫ぶとドカート隊長と騎士達・・・そして道行く人達が僕に注目する。目立つのは嫌いなはずなのに・・・今はそんな事気にしてられない!


「おいお前!いきなり叫ぶとは・・・」


「私はエモーンズの街の兵士をやっていたロウニール・ハーベストと申します!」


「おいやめろ!何を訳の分からないことを・・・」


「なぜ『やっていた』となっているかと申しますと突然やって来た第三騎士団のケイン様より即日クビだと言われたからです!」


「貴様ァ!!チッお前らコイツを取り押さえるぞ!」


「ちょっと待ってくんな!少しくらい聞いてもいいんじゃねえですか?」


「お前・・・」


ドカート隊長が騎士達を引き止めてくれてる間に・・・一気に畳み掛けてやる!


「もしこれが国の意向と言うのであれば私も受け入れます!しかしもし・・・もしケイン様の独断であるのならば!再考して頂くようディーン様よりお伝え願えないでしょうか?どうぞよろしくお願い致します!エモーンズの街元兵士ロウニール・ハーベス!」


よし!一語一句間違えずに言えたぞ!


みんなの反応は微妙だけど元よりコイツらに向けて言ったわけじゃない・・・向けたのは・・・


「・・・騒がしいと思ったら・・・貴様か」


「ケイン様!」


釣れた!


兵舎から出て来たケインは僕を睨みつけた後、周囲を見渡す


「・・・チッ」


なんだなんだと集まって来た野次馬を見て舌打ちすると僕を再び見て顎を兵舎の入口にクイッと動かした


「ま、まさか・・・僕を人気のない所で・・・」


「いいから入れ!!」


だいぶ苛立ってるな・・・これで殺される確率は少し減った・・・はず!


周囲がザワつく中、僕とドカート隊長は彼等について兵舎の中へ


「何のつもりだ?ロウニール」


「ドカート隊長こそ・・・」


「俺はいいんだよ!お前は・・・」


「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと来い!」


歩きながらドカート隊長と話していたらケインに怒られてしまった


相当頭にきてるっぽいなぁ・・・殺されない・・・よな?


僕達が完全に兵舎に入ると後ろで騎士の1人が扉を閉めた。しかもわざとらしく大きな音を立てて


「それで?」


「え?」


「なぜ団長の名を叫んだ?俺ではなく」


「・・・手紙を書きました。第三騎士団団長ディーン様宛です。その手紙を唐突に・・・しかも大声で読みあげたい衝動に駆られてしまって・・・叫びました」


「・・・ふざけているのか?」


「とんでもありません。確かに昨日ケイン様が仰った事は筋が通っていると思います・・・が、その判断が国の意向かケイン様個人の判断によるものか・・・それを聞きたく手紙に(したた)めたのですが溢れる想いを抑えきれず・・・申し訳ありません」


「それを聞いてどうするつもりだ?結局何も変わらないぞ?」


「そうでしょうか?これまでの功績を無視して独断で判断を下したとあれば・・・ひっくり返る事もあるのでは?」


「功績・・・だと?」


「ええ。雨の日も風の日も門番として職務を全うしていたヘクトさん。長年に渡り兵士をまとめていたドカート隊長・・・少なくともこのお2人は評価されてもいいはずです。それから突如としてダンジョンが出来て混乱する最中、ドカート隊長の指示に従い混乱を起こさぬように働いていた先輩方も評価して頂くと幸いです」


「だから言っただろう?状況は変わった・・・実力なき者が民を守れると思うか?俺の判断を必ずや国は支持するだろう・・・だから上書など無意味だ」


「なるほど・・・つまり騎士団とは実力があれば品位がなくても入れるものである、と」


「・・・貴様・・・自分の言っている言葉の意味を理解しているのか?」


「していますよ。だってそうでしょう?ケイン様は僕達に実力がないからと兵士を辞めさせる・・・理由はたったそれだけ。そしてとうの騎士団と言えばこちらの意見も聞かずに、一方的に、これまでの出来事を無視して、実力も見ずに辞めさせる・・・それのどこが品位があると?まるで僕達を村出身だからと端からバカにしたような態度・・・半年前のディーン様は門番になりたての僕でも紳士に接してくれましたが?・・・だから僕は問いたい・・・この対応が国としてなのか・・・騎士団としてなのか・・・貴方個人としてなのかを!」


「貴様ァ!!」


「追記・・・この手紙が届くということは僕はこの世に居ないでしょう。公正な判断を期待してます」


「?・・・そうか・・・誰かに持たせたか・・・」


「その通りです。まだ手紙は出しておりません。ここにもありません・・・僕がもし・・・突然居なくなるようなら出して欲しいとある方に頼みました。もちろんそれが誰なのかは教えるつもりはありません」


「小癪な・・・」


半年前・・・ケインは僕達を明らかに見下していた。確か僕の事を『クズ』とまで言ってたし・・・恐らくだけど・・・ケインは僕達の命なんて何とも思っていないと思う。もし面倒事を起こそうとするなら躊躇なく殺すくらいに・・・。だから殺されないように先手を打った・・・僕を殺せば手紙はディーン様に届く・・・ケインはそれは避けたいはずだ・・・多分


「・・・望みは復帰か?」


「はい。そして待遇の保証を・・・復帰してもいじめられてやめさせられるなんてされたらたまったもんじゃないですからね」


「・・・貴様・・・歳はいくつだ?」


「今年で15になりました」


「どうやって育てたら貴様みたいな・・・親の顔が見てみたい」


親ではなくダンジョンコアにこのように育てられましたと言ったら驚くかな?


「それで・・・返答は?」


「・・・好きにしろ。どうせ我々にはついていけず自発的に辞めていくだろう・・・堕落しきった貴様らに務まる仕事とは思えん。そして気付くはずだ・・・あの時辞めさせられたのは慈悲であったと」


「まるで見てきたみたいに言うのですね」


「一目見れば分かる」


「なるほど・・・いずれケイン様の目が節穴だったと証明してみせます」


「ふし・・・ハア・・・怒りを通り越すと冷静になれるものだな・・・そして思い出したぞ・・・貴様はあの時門番をしてた・・・」


「その節は・・・」


今思い出したのか・・・まああの時の・・・今もか・・・ケインは村の者ってだけで見下してた感じがヒシヒシと伝わって来ていたし覚えるつもりもなかったんだろうな


「・・・いいだろう・・・貴様は門番としてずっと立っておけ。貴様にはそれが相応しい」


「街の看板って事ですね?」


「違う・・・誰でも出来るからだ・・・魔物も野盗も居ないこの地区ならな」


「ヘクト爺・・・ヘクトさんも門番でよろしいですか?」


「好きにしろ」


「ドカート隊長は?」


「それは貴様の預かり知るところではない。調子に乗るな」


「・・・手紙・・・」


「くっ・・・騎士団の者と同等に扱う・・・これで文句はあるまい?」


「ありがとうございます!感謝します・・・ケイン様」


「・・・貴様、名前は?」


「ロウニール・ハーベスです」


「・・・覚えておくぞロウニール・・・そして貴様は後悔する・・・村の兵士を続けた事を、な」


「街です。ケイン様」


「・・・さっさと制服に着替え門に向かえ!ロウニール!」


「はっ!」


思ったよりもディーン様の名は効果があったみたい・・・これで普段通りとは言わないまでも門番の仕事には戻れた・・・ヘクト爺さんも


「お前さん・・・意外と大胆だな」


ケイン達が兵舎の奥に去った後にドカート隊長が僕を見て言う・・・いやいやそんな事ありません・・・手汗びっしょりですよ


「ドカート隊長はどうされるのです?」


「一応続けるつもりだ・・・まあ長続きはさせてもらえなさそうだがな」


「その時は手紙を出しましょう」


「やめとくよ・・・まだ命は惜しいからな」




ドカート隊長と別れてすぐにヘクト爺さんの元へ


復帰の話をしたら驚いていた


またいつもの日常に戻る・・・とは言えないけど、まあ何とかなるだろう


《存外簡単に折れたわね。どうなるかヒヤヒヤものだったわ》


ダンジョンの司令室に戻り椅子に座りひと息つく。ダンコの言う通りギリギリだった・・・けど・・・


「多分大丈夫とは思ってたけど・・・もう二度とやりたくないね」


《なんで大丈夫と思ったの?》


「ディーン様は優しそうだったから」


《は?それだけ?》


「うん。優しそうなディーン様だったら僕達の味方になってくれるはず・・・だからケインはディーン様に知られたくないと思うだろうって・・・」


《呆れた・・・そこまでして門番を続けたかったの?》


「まあ・・・ね」


本当はそこまでして戻りたい訳じゃない・・・ただヘクト爺さんの寂しそうな顔を見たら・・・これをダンコに言うとあーだこーだ言われそうだから言わないでおこう


《それで・・・あの手紙はまだ預けておくの?》


「もちろん。またケインが理不尽なことをしてきたらすぐに出してもらえるしね」


さて・・・また明日から門番とダンジョン作りだ・・・忙しくなるぞ




「ケイン様・・・よろしいのですか?」


「何がだ?」


「村の兵士共を復帰させて・・・」


「仕方あるまい。着任早々問題を起こしたとあれば何を言われるか分からん・・・どうせすぐに辞めていくだろうし問題はない。それに門番は皆嫌がっていただろう?」


「それはそうですが・・・」


「それにどうせ1年でここを去る事になる・・・それまでの辛抱だ──────」

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