424階 訪問者
あれから10日が経過した
何度城に乗り込もうと思ったか・・・だがそんな事をしてしまっては余計に彼の立場を悪くする
ここは我慢だ・・・ラディル様に彼が無事な事は確認してもらっている・・・ただ牢に入れられているだけ・・・城の地下にある特別な牢屋・・・そこに入れられているだけなのだから・・・
「サラ・・・少しくらい寝たら?」
「ファーネか・・・寝ているさ・・・」
「寝ているって言うより『落ちてる』でしょ?そんなに張り詰めてたらいざって時に動けないわよ?」
そうだ・・・旅行から帰って来たキースさん達が協力してくれるって言ってた・・・でも牢に入れられた理由が理由だけに迂闊には動けないらしい
反逆罪・・・それが彼にかけられた嫌疑だ
本来なら反逆罪は即刻死刑なのだがあくまで嫌疑だから無事なだけなので今のところは無事だけど・・・
何がどうなって彼が反逆罪に問われているのか・・・身の潔白を証明するにもそれが分からないことには動きようがないし・・・
あの時を思い出す・・・あの時も彼は牢に入れられてた・・・ただあの時は会って話す事も出来たし味方も大勢いたからまだ安心出来た。けど今は味方が少ない・・・頼みの綱のディーン様は第三騎士団を率いて国境に向かってしまっているし彼の妹の宮廷魔術師であるシーリスちゃんとは面識ないし連絡の取りようがないし・・・警戒されず城に入れるのはキースさんとラディル様くらいだけどかと言って反逆罪に問われている彼を城から救い出してとは言えないし・・・
「コラ」
「いたっ・・・何すんのよ」
「また考え過ぎの虫が湧いてたから追い出したのよ・・・この部屋は騒がしすぎるわ・・・1人はウンウン唸っててもう1人・・・いえ1匹はグルグル動き回ってて」
「・・・何にゃ・・・私の事を言ってるなら殺すぞ人間」
私にデコピンをしたファーネが溜息をつきながら呟くとその言葉に反応して部屋中をウロウロしていたサキが立ち止まり毛を逆立てる
「サキ・・・心配なのは私も同じ・・・少し落ち着いてってファーネも・・・」
《黙れ・・・ロウが気を許しているからと言って私も同じだと思うなよ・・・貴様らを殺すくらい朝飯前・・・にゃー!!?掴むな!持ち上げるな!抱っこするな!》
「だったら魔力を使って話さないで・・・耳障りだから・・・ハア・・・」
苛立つサキを捕まえると抱っこしてそのモフモフのお腹に顔を埋める
ロウと連絡が取れなくて気がたってるのは私も同じ・・・サキは助けに行くと暴れ回っていたけど何とか宥めてこの部屋・・・ロウの部屋に軟禁状態にしている
言うことを聞いてくれているのは気まぐれ・・・その気になればサキなら城に単独で入り彼を救出出来るだろう・・・けどその際に一体何人の人を殺してしまうのか・・・
「・・・サラ・・・他の人間とロウのどっちが大事にゃ?」
「・・・そんなの決まってるでしょ?でも前にも言ったけど城に潜入するのは不可能に近い・・・となると倒しながら進まないと・・・それに助け出せたとしてもロウも含めて私達はお尋ね者になる・・・下手すれば彼の領地にいる人達まで・・・私達はどこでも生きていけるけど彼の領地の人達を巻き込む訳にはいかないわ」
「・・・」
「一番いいのは彼の疑いを晴らすこと・・・大丈夫・・・王様だって無実の彼に酷いことなんてしないはずだし・・・」
「フン、どうだか・・・薄汚い人間のすることなど分かるものか」
「背後から彼を突き刺しておいてよく言うわ・・・」
「あれは!・・・もういいにゃ!我慢の限界が来たら私1人でも助けに行くにゃ!そしてその限界はもう少しで迎えると知るにゃ!」
そう言ってサキは私の手から脱出し部屋の隅へと逃げていく
私だってもう我慢の限界・・・ファーネがいてくれなきゃとっくに・・・っ!?
外から轟音が鳴り響く
「な、なに?」
僅かに地面が揺れ急いで窓から体を乗り出し見上げると・・・
「・・・爆発?・・・魔法?」
「のようね。この近くで誰かが空に向けて魔法を・・・しかもかなりの高威力・・・只事じゃないわね」
こんな夜更けに・・・しかも王都で・・・イタズラ・・・じゃ済まないのは子供でも分かる
「空から魔物が来て応戦した・・・って訳じゃないわよね?」
あれからファーネだけフレイズ達に同行していたが魔物はかなりの数に上るらしい。それでも少しずつだけど減らしてはいるらしいけど・・・
「なくはないわね・・・でもあれだけの火魔法を唱えられるのはラディル様かソニア師匠くらい・・・ここであーだこーだ言ってるより2人に何があったか聞きに行った方が早いかも」
「そうね・・・ってサキ!どこに行くつもり?」
私とファーネが話しているといつの間にか窓辺に立ち外を見ていた
「・・・イヤなニオイにゃ・・・」
サキはそう呟くとそのまま庭へと飛び降りた
イヤなニオイ?一体何のニオイって言うのよ・・・
「ほら、ボヤボヤしてないでサラ行くよ!」
「う、うん・・・今行く」
上空に打ち上げられた魔法といいサキの言葉といい・・・言い知れぬ不安が押し寄せる中、彼がそばにいない事が更に不安を掻き立てる
何も起こらなければ・・・そう願いながら私はファーネの後を追った──────
王都キースの屋敷
「一体何の音だい・・・せっかく寝たシシリアが起きちまうじゃないか」
「爆発音・・・まさかリガルデル王国が攻めて来た訳じゃ・・・」
「それはないよ。リガルデル王国だってバカじゃない・・・少しでも国境を越えれば各国が動き出しあっという間にリガルデル王国を制圧してしまうよ・・・そしてこの世から二つの国が無くなる・・・リガルデル王国とこの国フーリシア王国がね」
シシリアを寝かせる為に一緒に寝ていたラディルが寝間着姿で起きてきて1階の広間にいたソニアの前に座った
ソニアはコーヒーカップを傾け音がした方向を見つめた後で頷いた
「そうよね・・・けど地面が震えるくらいの衝撃・・・何かがあったのは間違いないわね」
「・・・それであのバカは今どこに?」
「人の亭主をバカ呼ばわりしないでよ・・・ロウニールの件で城にいるわ。少しは責任を感じてるみたい」
「責任?てかこの時間にかい?」
「ええ・・・ロウニールが捕まったと聞いた後からずっと暗かったから聞いてみたの・・・そしたら・・・・・・まあ、後で詳しく話すわ。で、ウジウジしてたからケツを引っ張たいて行かせたのよ・・・城にね」
「・・・どんな理由があるか知らないけどアンタも大概だね・・・誰に似たのやら・・・」
「目の前のセクシーお婆さんじゃない?」
「喧嘩売ってんのかい?」
「お望みとあらば」
2人が熱くなりかけたその時、誰かが屋敷を訪ねて来た事を知らせるノックの音がする
遅い時間の訪問に2人は視線を合わせて眉を顰める
「・・・こんな時間に?」
「さっきの音と関連があるんじゃないかい?」
すぐさま執事が対応すべく扉を開けようとした瞬間、外から扉が破壊され吹き飛ばされた
「なっ!?セデス!?」
執事セデスは辛うじて生きているものの胸を押え血を吐く
騒ぎを聞き付けたメイド達が現れるとソニアはセデスを運び出すよう指示する。そして2人はすぐに立ち上がり玄関に向かうが扉を破壊した者が屋敷に侵入し姿を現すとラディルは慌てて先を行くソニアの手を掴みその歩みを止めさせた
「ちょ・・・なによ」
「・・・シシリアを連れて逃げなさい・・・」
「はぁ?何言って・・・」
「いいから早く!!」
ラディルが冗談で言っているのではないことはその目を見れば分かった
侵入者を見る目は殺気を多分に含んだものだったからだ
「なに?新しい彼氏?痴話喧嘩なら他所でやってよね」
「ソニア!」
「ここは私の家よ・・・誰であっても勝手はさせない」
《ふむ・・・ソニアという名か・・・なかなかいい名前じゃないか・・・それによく似ている・・・》
全ての髪を後ろに流した長身で色白の男は2人を不快にさせる声を奏でソニアを見つめ微笑んだ
「・・・そりゃあどうも・・・そっちも名乗ったらどう?」
《躾がなってないぞ?・・・ふむ・・・名前はなんだったか・・・あー聞いてなかったかもしれないな・・・》
「はあ?躾?名前?何言ってんのさっきから・・・」
《ふむ・・・よく似ている・・・だが引き継がなかったようだな。まあよくある事だ。それはそうとなぜワタシがここに来れたか不思議に思わないか?感じるのだよ・・・ワタシの力を・・・脈々と受け継がれるのではなく飛び飛びになるのはよくあること・・・隔世遺伝・・・どうやら子の子が受け継いだようだな》
「アンタ・・・好き放題喋らせてあげたら訳の分からないことをペラペラと・・・そんなに死にたいなら・・・望み通りにしてやるよ!!」
両手を突き出し炎を出すと男は一瞬で炎に包まれる
「口ほどにもない・・・てか知り合いだった?殺しちゃまずかったとか・・・ないよね?」
「・・・ソニア・・・後生だから聞いておくれ・・・今すぐシシリアを連れて逃げるんだ・・・」
「はあ?誰からよ」
《ワタシから・・・だろうな》
炎に包まれながら男は平然と答えると手を振り自らを燃やしていた炎を掻き消す
すると火傷どころか服さえも燃えていない姿で現れソニアは額から嫌な汗が出て来たので手で拭う
「見間違いじゃない・・・確かに・・・」
《ふむ・・・反応も同じだな。あの時も・・・おや?震えているな・・・恐怖によるものかあの時の快楽を思い出し興奮しているのか興味があるな》
「~~~っ!!快楽だと!?巫山戯た事を・・・貴様はあの時!あたしを!!」
「ちょっとちょっと!私を置いてけぼりにしないでくれる?何よ『あの時』って・・・てか何なのよアイツ!」
Aランク冒険者であり宮廷魔術師候補にもなったソニア・・・相手の実力を読む力もそこそこに自信があった
実力を読んだ上で放った魔法が弾かれ更には母との関係をほのめかす男に困惑する一方で探りを入れた
冒険者として生き残る為に手に入れた老獪さが思いもよらない言葉を引き出すとは知らずに
《ふむ・・・そうか・・・どうやら話してないようだな》
「・・・」
《その目・・・変わらぬな。仲間が倒れ1人残った時の目と同じだ》
「倒れだって?貴様が仲間達を!!」
《人の住居に無断で侵入して来たのだ・・・殺されても文句は言えまい。それにワタシはお前には優しくしてやったはずだが?》
「なにを・・・」
《産まれたら連れて来いと言ったはずだが?まあ結果的には連れて来なくて正解だったがな。連れて来られても持て余し殺していたかもしれぬ。そうなると子の子は産まれず終いだったしな》
「さっきから『この子』って誰の事?はっきり分かるように言いなさいよ!」
《『この子』ではない。『子の子』だ。子供の子供・・・ワタシからしたら孫と呼ぶのが相応しいのか?》
「・・・は?」
《ふむ・・・ワタシの精を受けて産まれたのに頭も弱いし魔法もイマイチだ・・・本当にワタシの子か疑わしい・・・が、まあ子の子がワタシの力を受け継いでいるのだから間違いないか》
「・・・ちょっと何言ってるか分からない・・・『ワタシの子』?誰が?子供の子供って・・・何なのよ!!」
《ふむ・・・これほど話が通じないとはな・・・母親であるお前から話してくれ・・・ワタシには手に負えぬ》
「このっ・・・」
「ソニア」
「何よ!」
「もう分かっているのだろう?この男の狙いはシシリアだよ・・・だから早くお逃げ」
「逃げれるわけないでしょ!何言って・・・」
「この男は・・・冒険者だったあたしを犯しアンタを孕ませた・・・魔族シュルガットさね──────」




