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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
427/856

423階 狼煙

ため息をつきながら初老の男性が自身の屋敷の玄関を開けた


そこでいつもと違う違和感を感じ目を細めると暗がりの中椅子に腰かけこちらを見る存在に気付いた


「・・・何者だ・・・使用人達はどうした?」


「使用人の存在など気にしている場合ではないと思うがな」


「・・・もう一度聞く・・・何者だ」


「貴様に何もかも奪われた者だ」


「なに?」


そう言って立ち上がると屋敷の主に歩み寄る


既に外は暗くなり月明かりが窓から照らされその姿をさらけ出すと家主は首を傾げた


「人違いではないか?知らぬ顔だが・・・」


「ふっ・・・そうだろうな。お前達貴族の言いそうな事だ。自分の発言に責任を持てない・・・たとえ無責任な発言によって何が起ころうとも・・・だ」


「なに?・・・・・・まさかお主は・・・」


「思い当たるという事は少しは自責の念があったのか?まあだからといって何も変わらないがな」


「・・・殺すなら殺せ・・・だがそれで終わりにしろ・・・それ以上は・・・」


「釣り合わない」


「・・・」


「貴様1人の命ではとてもじゃないが釣り合わない。それに腐った部分を取り除いたとしてもまたそこから腐るだけ・・・根本から絶たねば意味が無い」


「何を・・・するつもりだ」


「血の入れ替え・・・腐った血肉を全て葬り新たな血を入れる」


「まさか!・・・リガルデル王国の件もお主の・・・」


「これから死にゆく貴様が知る必要はない・・・貴様はただ自分の過ちを悔いて死ね」


男は近付くといつの間にか手にしていた剣を家主の腹部に突き刺した


「ぐっ・・・頼む・・・私で終わりに・・・」


「釣り合わないと言ったはずだ。それに貴様は本命でもない・・・ただの狼煙・・・これから始まる粛清の・・・ただの狼煙に過ぎない」


「・・・そう・・・か・・・ならば!」


「バカめ・・・抵抗するなら刺される前にするべきだったな」


「っ!・・・ぐぁぁああ!!」


家主が両手にマナを溜めようとした瞬間に男は刺した剣を捻る。すると両手に溜めようとしていたマナは散り家主は激痛に声を上げる


「狼煙を上げよう。この国が生まれ変わる記念すべき日を皆に知らしめる為に。生誕祭の始まりだ」


「やめ・・・」


「『やめろ』?貴様はあの人達のその声に耳を傾けたか!?いや、届いてさえいなかっただろう・・・遠くから結果として受け止めただけのはずだ!・・・ならば私もそうしよう・・・過程など気にせず結果だけを求めてやる・・・それが貴様らのやり方と言うのなら・・・同じ事をしやるまでだ!」


「・・・」


「派手に上がれ・・・それがこの国の終わりの始まりとなる・・・それを以て貴様の償いとしよう・・・ゴーン・へブラム・アクノス」


男はゴーンに刺したままの剣を持ち上げると魔法を放つ


するとゴーンの体は剣から離れ吹き飛び屋敷に穴を開け更に空まで舞い上がった


「爆ぜろ・・・ゴーン」


男が呟くと遙か上空で何度も爆発を繰り返す


何度も・・・何度も・・・王都どころかフーリシア王国全体に響き渡るように


「かー、派手だねぇ。お見事・・・二代目奇術師は決定だな、うん」


「なんでアンタの跡を継がなきゃいけないのよ」


「南無・・・すぐに始めますか?拙僧はいつでも」


「・・・」


天井に穴が空き月明かりに照らされる男の元に集まる4人


見上げていた男はその4人を見て微笑むと剣を収め歩き出す


「当然だ・・・今夜で終わらせるぞ・・・この国を・・・そして始めるのだ・・・私達の手でこの国を・・・」



今宵フーリシア王国は未曾有の危機を迎える事になる


この男・・・レオン・ジャクスの手によって──────




「ヒィ!い、今の音は?」


「外の音など気にしてないで早く開けたまえ・・・焦らすと何をされるか分からないよ?」


子爵ジース・バクアート・クルアクが鍵を持つ男の後ろに立ちチラリと牢屋の奥にいる人物を見ながら呟くと男は何度も頷く


「は、はい!ただ今!」


震える手で何とか牢の鍵穴に鍵を挿し回すと鉄格子の扉がゆっくりと開く


すると突風が吹き荒れ鍵を開けた男が宙に浮くとゴキッと鈍い音が響き渡る


「・・・おいたが過ぎるのでは?剣奴王ジルバ殿」


突風は鉄格子の扉が開いた瞬間にジルバが駆け寄って来た事により起きた風・・・その風を受け髪をなびかせながらジースは首があらぬ方向に曲がった男を見上げた


「マナを封じているからなのか?それとも後ろの4人がそこまで頼れる者達なのか?俺にデカイ口を聞くじゃないか・・・若僧」


ジルバは持ち上げていた男を投げるとジースに顔を近付けニヤリと笑う


マナは封じられているはずなのにマナを纏っているかのように錯覚する程の威圧感・・・返答を間違えれば殺される・・・ジースは唾を飲み込むと意を決して前に進み出た


「私の背では届きませんので屈んでもらえませんか?」


「届かない?何にだ?」


「首輪にです」


「なんだ自殺志願者か?」


「外したら殺されるのですか?」


「殺されないと思ったか?」


ギロっとした目がジースを覗き込む


背後にいる4人が動こうとするがそれをジースは制して再び一歩進み出た


「・・・殺されるとしても外さなくてはなりません」


「なぜだ?誰かに命令されたか?それともまだ俺に恩を売れば操れるとでも思っているのか?」


「・・・貴方を目の前にして操れるなどと微塵も思いませんよ。ただ自然に戻すだけです・・・貴方だけではなく貴方達を」


「!・・・野に放つのか?・・・俺達を」


「ええ・・・貴方がたまたま一番目なだけ・・・これから全ての扉を開き自然に戻します」


「えげつない事を・・・どうなるか分かっているのか?」


「さあ?・・・因果応報ではないでしょうか・・・もし何かが起こるなら」


「面白ぇ・・・なら殺さないでおいてやる」


そう言うとジルバは首輪に手を掛けると力を込め始めた


「まさか!」


メキッと音がして鉄で出来た首輪が千切れる。それを見たジースはさすがに恐れ戦き後退る


「前に引き千切ろうとしたら変形しやがって首を締め付けられて死ぬとこだった・・・が、まあもう少しで出来そうだったから試してみた・・・上手くいって良かったぜ」


「・・・なるほど・・・『外してやる』などと恩着せがましい事を言えば私の命はなかったかもしれませんね・・・」


「ああ、そういうこった。自分で外せるものを外してやるなどと言われたら腹が立つだろう?・・・そこの女・・・脱がせてやろうか?」


ジルバがジースの背後にいる1人に目をやり尋ねるとその者は全力で手を振り拒絶した


「ガッハッハッ!それは残念・・・で、どうしてくれようか」


笑い顔から一転素に戻りジースを見つめる


全員の額から冷や汗が噴き出て場の空気が凍りついた


「・・・どういう意味でしょうか・・・」


「ここの暮らしはそこそこ気に入っていた・・・が、それを壊す者が現れた・・・不利益を与える者には不利益を・・・当然だろう?」


「・・・」


見誤った・・・ジースはそう思い唇を噛んだ


元々ジルバを助けて何かを願う気など毛頭なかった。ただ野に放てば思惑通りに動いてくれると考えていたからだ。しかしジルバは助ける必要など必要なく、しかも剣奴の立場を楽しんでいた。つまりジースはジルバから剣奴の立場を奪った形になる


ジースが死を覚悟した時、背後にいた4人が一斉に前に出た


「・・・圧力半端ない・・・」


「私・・・服脱がしてもらおうかしら・・・」


「ざっけんな!男の俺達は死ぬじゃねえか!なあ?」


「中性的な僕なら何とか・・・ダメかな?」


ジースの前に立つはシル、ジーナ、ハズンそしてレギンの4人・・・『タートル』の二軍である。ジースの護衛をし共に剣奴達を解放するだけの簡単な仕事・・・のはずだったが4人の誰もが死を覚悟する程の状況に陥っていた


だが・・・


「お前ら何を企んでる?その内容によっては生かしてやる」


「・・・分かりました。話します」


「ジース様!」


「もう始まっているのだ・・・もはや誰にも止められない・・・たとえそれが剣奴王ジルバどの口がでもね」


計画を話そうとするジースを止めようとしたシルだったがそんな彼女を諭すようにジースは言った


「ほう?それは楽しみだ・・・話せ──────」





フーリシア王国とリガルデル王国の国境


有事の時には閉じられる国境の門は今は開かれた状態だ


近くにリガルデル王国の軍隊が存在するにも関わらず閉めていないのは事を構えるつもりは無いという意思表示と同時にフーリシア王国はリガルデル王国を恐れていないという虚勢の為だ


「ハア・・・今日は月がキレイだな・・・こんな時は温かい飲み物でも飲みながら月を眺めて・・・」


「言うな。そんな事を言うと更に現実が身に染みる・・・一体いつまで動かない軍隊を眺めてなきゃならないんだよ」


国境を守る兵士の2人は近くに10万の軍勢が存在しているにも関わらず緊張もせず呑気に会話を続けていた


数日前まではいつ攻めて来るか分からずに緊張していたのだが一向に動かない軍隊に慣れてしまっていた


だが・・・


「っ!・・・何の音だ?」


兵士が遠くから聞こえた音に気付き振り向くと遠く離れた上空に小さな火花が見えた


「あれは・・・王都上空?」


「なんだ?呑気に祭りでもやってるのか?こっちの気も知らずに・・・」


「アレは狼煙だ」


振り返り上空を見ていた2人の兵士の肩にズッシリと何かが乗り野太い声がする


「誰・・・っ!?」


振り返ろうとするが体が動かない


まるで巨大な岩が肩にのしかかったかのように


視線を動かし相方であるもう1人の兵士を見ると同じように身動きが取れなくなっていた


「ようやく退屈な日々が終わり楽しい日々の始まりだ・・・お前らフーリシア王国にとっては・・・地獄の日々だがな」


「何を・・・ブゲッ!」「ギャン!」


兵士2人の肩に手を乗せていた男はそのまま2人の頭を掴み引き寄せるとぶつけて潰してしまった


男は頭が潰れた兵士2人の体をその場に捨てると片手を上げ狼煙が上がった方向に向けた


「さぁて野郎共!他力本願な奴らをぶっ飛ばし国を丸ごと飲み込むぞ!!──────」

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