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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
423/856

419階 インキュバス

「これを少し冷めてからケンに」


一夜明けケンのいる部屋の前で座り込み放心状態のサラに湯気の立つお皿を乗せたお盆を置いた


「・・・これは?」


「モッツさんに急遽作ってもらった。しばらく食事をしてない人に食べさせるものを作ってくれと言ったらこれが・・・まだ熱いからぬるくなってから食べるのがいいらしい・・・散々文句言いながらも結局作ってくれるからなモッツさんは」


まあ『いきなり顔出すな!』と言って叩かれたけど


「・・・ロウは?」


「ちょっと確かめたい事があってね・・・すぐ戻るからケンを頼む」


「・・・そう・・・気を付けて」


「ああ」


行く場所を行ったら止められたかな?・・・いや、今はそれどころじゃないだろう・・・僕でさえこんなに胸が苦しいのに僕より仲良かったサラはもっと・・・


それに『なぜ今そこに行くのか』と尋ねられても僕は答えられないだろう


もしかしたら・・・サラに嫌われてしまうかもしれないから



「辺境伯様!お、お出掛けですか?」


1階に降りると僕に気付いた受付の子が立ち頭を下げると上ずった声を発する


「ああ。今ダンジョンは?」


「と、申しますと?」


「入場許可証がいるのか?」


「いえ!今現在は上からの指示により全ダンジョンからギルド職員を撤退させてますので・・・まさか辺境伯様・・・ダンジョンへ?」


「ちょっと気になることがあってね」


「し、しかしダンジョンは不安定な状態でして近付くのは危険かと・・・」


「大丈夫・・・ギルド長にはダンジョンに向かったと伝えておいてくれ」


「えっ・・・わ、分かりました!」


そう伝えて僕はギルドを出ると街の外へと向かった


街を出てすぐにゲートを開きダンジョンの入口に・・・そこには以前来た時と何ら変わりないダンジョンが口を開けて佇んでいた


「・・・チッ」


〘ロウ?何をする気?〙


「決まってるだろ?僕の意向を聞いてくれたダンジョンコアにお礼を言わないとね」


〘ロウ!・・・アナタの想像通りだと思うわ・・・ダンジョンコアは()()()()()()()()()()・・・けどだからと言って・・・〙


「だからと言って・・・なに?」


〘アナタが責任を感じる必要はない。人間がダンジョンの奥深くまで進む為に自らを鍛えるようにダンジョンも来させないように工夫する・・・アナタは知っているはずでしょ?〙


「・・・」


〘ハア・・・まあいいわ。でもこれだけは覚えておいて・・・あの人間達の死はダンジョンコアのせいではないし魔物のせいでもない。だからロウ・・・アナタの責任でもないわ。命を懸けてダンジョンに入り財貨を得るのが冒険者・・・でしょ?ここはエモーンズではないの・・・分かる?〙


「・・・分かってる・・・」


エモーンズのダンジョンは他のダンジョンと比べものにならないほど死者の数が少ない・・・それは難易度が低いからではなく死なないように設計しているからだ


段階的に魔物を強くし各階にゲートを作り簡易ゲートという緊急脱出の道具も用意してある。もちろんそれでも死ぬ冒険者は死ぬ・・・そこは僕も『ここまでして死ぬのなら他のダンジョンでも・・・』と諦めていた


つまり僕は冒険者の為のダンジョン作りをしていた・・・それが結果として冒険者を集め異例の早さでマナを溜める事が出来、魔王を復活させる事が出来たのだけど・・・僕はいつの間にか他のダンジョンも同じなのでは?と考えるようになっていた


でも現実は違う・・・他のダンジョンは・・・ダンジョンコアは踏破されたらお終いだ。もちろん踏破してもダンジョンコアを破壊しない人間がほとんど・・・だけどダンジョンコアはそんな事を知る由もなく必死に自らを守ろうと魔物を繰り出す


マナを溜める為に意図的に、理不尽に冒険者の命を奪おうとはしないだろう。けどいざ自らに危険が迫ったとしたら・・・ダンジョンコアは冒険者達に牙を剥くはずだ


だから本来ならこう考えるべきだ



『ケン達は命懸けでダンジョンに挑み負けた』のだと



ダンコが言うように僕が挑発しようが関係なく・・・ただ負けたのだと思うべきなんだ


けど・・・それでも・・・



ダンジョンの入口に受付の子が言うようにギルド職員はいなかった


僕は無人のダンジョンへと足を進める・・・するといきなり奇妙な現象に出会した


昨日ケンと会った後、ギルド長のグラントとその配下と思わしき男に詳しい話を聞いた


その男はケンを救い出してくれた人物で元冒険者でありエモーンズでのサラのような役割をしているみたいだ


名前はクルーン・・・その彼はこのダンジョンはいつからかフーリシア王国のバーチの街にあるランダムダンジョンに近い存在になっているみたいだと言う


ランダムダンジョン・・・ランダムに階層が変わる高難易度のダンジョン・・・足を踏み入れる度に構造が変わり、1階と思って油断していたら10階だった・・・みたいなダンジョンの事をそう呼んでいる


それを聞いていたからある程度の事では驚かないつもりだったけど・・・


「どこに繋がっていると思う?このゲート」


入口を入ってすぐ・・・ゲート部屋に行く前に僕の目の前に現れたゲートを見て僕はダンコに尋ねた


〘・・・そうね・・・もしかしたら思い違いだったかも・・・〙


「?思い違い?」


〘ええ・・・てっきりロウの・・・サキの挑発に乗ってダンジョンを変えたものだと思ってたけど・・・まあ入ってみれば分かるわ〙


「いやだからどこに繋がっているか知りたいのだけど・・・」


〘私の予想が正しければロウが行こうとしている場所に繋がっているはずよ〙


僕の行こうとしている場所?それって・・・


「・・・まあどこに繋がっていようと僕にはゲートがあるし何とでもなるか・・・よし!」


意を決してゲートに飛び込んだ


ゲートを抜けると石壁に囲まれた部屋に辿り着く


背後には階段・・・そして目の前には・・・丸い玉


台座に置かれたその玉を見てここがどこだが理解する


ここは・・・ダンジョンの最奥・・・目の前の玉はダンジョンコアだ


「・・・招待してくれた・・・と思っていいのかな?」


〘多分ね・・・挑発に乗ったのではない・・・アナタの言葉を叱咤激励と勘違いしたのよ・・・恐らくね〙


叱咤激励?『亜種とかバフコーンとか使ってんじゃねえよ腐れ〇〇〇』が?どういう思考回路だよ・・・


《お・・・お待ちしておりました・・・魔王様》


目の前の玉から声が響く


待っていた?いやそれよりも・・・魔王様???


「何を勘違いしているか知らないが僕は魔王じゃないぞ?てかそもそも魔族でもないし歴とした人間だけど?」


《・・・ご冗談を・・・号令はいつになりますでしょうか・・・私は何時でも可能です》


「号令?何の号令だ?」


《人間を滅ぼす為に魔王様が奏でる大号令・・・私は今か今かと待ちわびております》


「いやちょっと何言ってるか分からないんだけど・・・」


〘魔王が復活し魔王城を出現させ魔獣を放つ・・・それを皮切りに各地のダンジョンコア・・・サキュバス達は蓄えたマナを使い魔物を作りダンジョンから魔物を放つ・・・人間が独占していた世界に魔物が溢れ混沌に満ちた時、魔族は本来の力を取り戻し人間を統べる・・・〙


「ダンコ?」


〘アナタが第一段階・・・つまり魔獣を放った段階で魔王を仕留めた・・・サキュバス達は待っているのよ・・・自らの役目を全うする為に〙


「・・・ダンジョンコアの目的って魔王を復活させることだろ?」


〘もちろんよ。けど魔王が復活したからと言って御役御免になる訳ではないわ。魔王が復活したら次の役目がある・・・それが魔王の号令を待ってダンジョンを世に解き放つ事よ〙


「・・・それは分かった・・・けどこのダンジョンコアはなんで僕を魔王と勘違いしているんだ?似ても似つかないだろ・・・僕の方がイケメンだし」


〘イケメンかどうかの言及は控えておくわ。彼女が魔王と誤解している理由は・・・アナタが魔王と同質の力を持っているからよ〙


「同質?」


〘ええ・・・魔王の名はヴォルガード・ギルダンテ・・・過去に自ら名乗ったか人間に付けられたか知らないけど意味のないただの名前。彼も気に入ってか名乗っていたけどほんらい魔王はこう呼ぶの・・・『インキュバス』と〙


「全然違うやんけ・・・インキュバス・・・サキュバスに似てるな」


〘ええ。似てて当然、サキュバスはインキュバスの複製品だもの〙


「へぇ・・・・・・・・・え!?」


〘彼がまだ魔王と名乗る前・・・ただのインキュバスだった頃に彼と同質の力を持つサキュバスを創り出した。創造の能力を持ったインキュバスの複製品・・・それがサキュバスよ〙


「・・・」


〘その力は人間を統べるにはかなり便利な力だった・・・何せ自ら手を下さなくても配下となる魔獣や魔物を創り出せばいいのだから・・・広範囲にいる人間を効率的に攻めるにはもはや魔獣や魔物を創り出す能力は必要不可欠・・・そう判断した魔族達はインキュバスを魔王に仕立てあげた〙


「・・・」


〘魔族の力は大気中に含まれる魔力に比例する・・・薄ければ弱く濃ければ強くなれる・・・力をつけた人間に対抗するには魔力を濃くする必要がある・・・つまり魔力の供給源である人間を恐怖に陥れる必要があったのよ。インキュバスはその才能を買われただけ・・・心から魔王に従ってるのは魔獣や魔物や私達サキュバス・・・それと何人かの魔族くらいかしら〙


「・・・何となく話は分かったけど・・・じゃあなんでインキュバスに従うはずのサキュバスが僕を魔王と呼ぶんだ?倒したら継承するシステムでもあるのか?」


〘サキュバスはね・・・差別化を図る為に女の姿をしているの。インキュバスが男でサキュバスが女・・・で、アナタは男でサキュバスの力を持っている・・・って事はアナタは実質・・・〙


「インキュバス?・・・いやいやいや・・・マジ?」


〘マジよ〙


「つまりこのダンジョンコアは僕をインキュバスと勘違いして魔王だと思い命令に従おうとしていると?」


〘さすがに創造主は間違えないわ。勘違いと言うより代わりと認識しているってとこかしら・・・サキュバスにもそれぞれ個性があるからね・・・色々なダンジョンがあると同じようにね。彼女は多分依存するタイプ・・・魔王であったインキュバスに依存していたけどいなくなったから代わりを探してた・・・そんな時にアナタが現れたのよ・・・インキュバスと同質の力を持つアナタがね〙


そりゃまた迷惑な話だな・・・事もあろうに魔王の代わりに僕を選ぶなんて・・・創造主である魔王を倒した僕を・・・


「それで魔王の代わりと思った僕に言われて頑張った結果がランダムダンジョンか」


〘ランダムダンジョンが目的じゃないと思うわ。新たな主に気に入られたかったのよ・・・で、彼女なりに考えた結果がダンジョンに入って来た人間を殺す事・・・号令が出る前に魔力の濃度を上げる方法はより凶悪なダンジョンにする必要があったから作り替えたのだと思うわ・・・簡単に攻略出来ないようにする為に・・・人間から恐怖を絞り出す為に〙


「・・・なるほど・・・ね」


〘ロウ!?待って・・・アナタ何を・・・〙


「凄い複雑だ・・・僕を魔王のように慕い僕に気に入られようと頑張った・・・それは分かる・・・けどそのせいでケン達は・・・マホとヒーラとスカットは命を落とした・・・だからこれは・・・」


ゲートを開き剣を取り出す


そして玉が置かれている台座に近付き剣を振り上げた


〘ダメよロウ!!アナタが何をしようとしているか自分で分かっているの!?〙


「分かってるさ・・・だからこれは・・・単なる・・・」


《・・・魔王様?》



そう・・・これは・・・単なる八つ当たりだ──────

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