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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
417/856

413階 嵐の前

フーリシア王国王城内会議室


そこで開かれているのは昨今巷を悩ませている地上に出てきた魔物についての対策会議であった


「魔物など冒険者共に任せておけば良かろう・・・我ら騎士団が出る幕ではない」


第一騎士団団長バデス・アジート・アルファスは腕を組み興味無さげに言い放つ。国王も宰相も出席している会議の中でこのような態度を取る事からも権力の高さを伺えた


「しかし王都周辺にも魔物の出没情報が挙がっております。王都は元々冒険者の数が少なく対応が遅れていると言わざるを得ません。ここは体制が整うまで騎士団にて対応する他ないかと・・・」


第三騎士団団長ディーン・クジャタ・アンキネスがバデスの意見に真っ向から異を唱える


「それなら第三で当たれば良いのでは?それとも第三だけでは対処が厳しいとか?」


第二騎士団団長ヨーグ・バルトニア・ホグスがディーンを横目で見て挑発するように言うとディーンは口を一文字に結んだ後しばらくしてから『そのような事は・・・』と言葉を絞り出す


「騎士団は元より他国に向けて編成された軍だ。いつ起こるか分からない戦争に向けて剣を研ぎ鎧を磨いている・・・国防に関する事ならともかく国内の些事程度で動いては他国に隙を見せることになりそこを付け込まれる可能性がある。そのくらい分かるだろう?ディーン団長」


「・・・ハッ」


「それでは第三騎士団に魔物の対応を一任する・・・という事でよろしいのですね?」


「問題ない」


「同じく」


宰相クルス・アード・ノシャスが確認の為に尋ねるとバデスに続いてヨーグも答えディーンは無言で頷いた


「では引き続き魔物に関してで申し訳ないがゴーン伯爵・・・今の状態をどう見る?」


「ハッ。これまでの歴史を踏まえますと魔王復活の兆候とみて間違いないでしょう──────」





「何が『騎士団は元より他国に向けて編成された軍だ』ですか!じゃあ第三騎士団はどうなんですか!」


「そう怒るなジャンヌ・・・いつもの事だ」


「でも団長!」


「ジャンヌ」


「・・・はい・・・」


会議を終え第三騎士団駐屯所に戻って来た瞬間に同席したジャンヌの怒りは爆発・・・それをディーンは平静を装い窘めた


ディーンの内心もジャンヌと同じである・・・が、声を挙げても変わらないものは変わらない。騎士団の力関係は数字が低くなれば大きく高くなれば小さい・・・第三までしかない騎士団の中でディーンの力は最も小さかった


たとえディーンがバデスやヨーグより強くとも・・・ディーンが2人に言い返す事は出来ないのが現状である


「・・・魔物退治・・・受けるのですか?」


「受ける受けないではなく決定だ。冒険者は集めて下さっているので揃うまでは我らで受け持つ事になるだろうね」


「・・・魔物を相手にする為に騎士となった訳ではありません」


「国を守る為に動くのに相手が人か魔物かなんて関係ないだろう?」


「それはそうですが・・・」


「これからは魔物を相手にする機会も増えるだろう・・・ジャンヌは冒険者に偏見を持っているようだけど彼らと連携する事も多くなるはずだ。あの時のエモーンズのようにね」


「偏見など・・・ただ・・・」


「ただ?」


「・・・いえ、なんでもありません」


ジャンヌの中で冒険者は『金を稼ぐ為に魔物を討伐する者達』()()()。尊敬出来る冒険者もいるがならず者が多いイメージであり王都に冒険者が少なくて喜んでいる内の一人だった。品位に欠け、トラブルを起こす者達・・・そのイメージが払拭されたのはディーンの言う『あの時』以降だ


街を守る為に必死に戦う冒険者達を見てジャンヌの印象はかなり変わった。なので今は冒険者を下には見ていない・・・が、バデスとヨーグは未だに冒険者を格下と見ている。その2人がディーンに冒険者の真似事をさせようとしている事に腹を立てていた


その思いをどう伝えればいいか分からなくなったジャンヌは押し黙り、ディーンはその思いを汲んで追及はしなかった


「団長!お客様が来てますよ」


駐屯所の中に入ると団員の1人がディーンの元に駆け寄り来客がある事を報せる。だが心当たりのないディーンは首を傾げ隣にいるジャンヌを見た


「客?・・・来客の予定などあったか?」


「いえ・・・誰でしょう?」


「へへ・・・美人2人と1匹ですよ・・・まあ1人は見慣れた顔ですがね」


「?・・・分かった。何処に案内した?」


「勝手知ったる何とやらで・・・団長の執務室で待ってもらってます」


「執務室に?誰だ一体・・・」


「さあ?」


駐屯所にも応接間はある


待たせるなら普通は応接間だが執務室に通すという事は顔馴染みであり信用出来る人物なのだろうと考えるが伝えに来た団員のヒントからは答えを導き出す事は出来なかった


ディーンとジャンヌはそのまま執務室に向かいドアを開けると団員のヒントに納得し会議の事を忘れて微笑み来客を迎える


「お待たせしました・・・サラ殿・・・それにファーネ・・・いや、今はファーネ殿と言った方がいいかな?──────」




「団長!『殿』はやめて下さい」


「いや、そうもいかない。君はもう私の部下ではなく辺境伯閣下の私兵だ・・・呼び捨てにして辺境伯閣下の怒りを買いたくはないからね」


「・・・もしかしてイジメてます?」


「どうだろうね・・・サラ殿お久しぶりです。お元気でしたか?聞いた話によれば辺境伯閣下と共に各国を回っていると・・・」


「色々ありまして・・・突然の来訪申し訳ございません」


「いえいえ・・・どうぞお掛けください」


突然の来訪にもディーン様は笑顔で迎えてくれた


城へ出向いていると聞いた時は一旦帰ろうとしたのだがファーネが面倒だと言って何故かディーン様の執務室で待つ事に・・・居心地悪いったらありゃしなかった


ファーネはいいわよ・・・ここは古巣だし・・・でも私は緊張するっての・・・第三騎士団の駐屯所よ?しかもその団長の執務室に主不在にも関わらず居座るなんてどうかしてるわ


「それで・・・本日の来訪はその『色々』が関連している・・・という事ですか?」


ディーン様は私達の対面に座り部屋の入口にいた騎士に目配せをする。おそらく飲み物を持って来させようとしたのだろうけど私達の分も持って来るよね・・・待っている間飲み過ぎてお腹がタプタプなんだけど・・・


「はい。まだロウニール・・・様は各国を回っている最中・・・今頃はファミリシア王国かと思われます。これまでにアーキド王国、ラズン王国、シャリファ王国と回り不安を覚え私に調査するよう頼んできたのです」


「・・・この短期間に3ヶ国も・・・流石ですね。それで不安とは?」


「各国を回りこの国と同様に魔物がダンジョンの外に出て来ていた・・・それはいずれ国へ報告が上がるでしょうし国もある程度把握しているかと思います。そして魔物とは別に魔族の存在も確認しておりましてラズン王国にパズズ・・・シャリファ王国にベルゼブブという魔族が出現・・・共に討伐済みですがこれまで起きていなかった何かが起きているのは間違いありません」


「魔族・・・歴史は繰り返している・・・という事だね。ただ魔王は不在だけど。もしかしてその事で何か問題が?」


「いえ・・・問題は問題なのですがそれとは別です。ディーン様の耳に届いているか分かりませんがシャリファ王国で反乱が起きました」


「反乱!?・・・まさかそんな・・・」


「事実です。反乱は失敗に終わりましたが問題は反乱が起こった経緯です・・・10年も前から魔族がシャリファ王国女王フレシア陛下にある呪いをかけていたのです・・・それにより民は女王に不満を持ち今回の反乱に至った・・・」


「10年前?・・・どういう事か詳しく話してもらえませんか?」


「はい・・・10年前の事です──────」




ディーン様にシャリファ王国で起こった事をありのまま話した


フレシアが魔族の媒体となっていた事、それにより仕方なく意図せぬ政策を打ち続けていた事、そしてとうとう不満が爆発し反乱に至った事・・・その全てを


「・・・まさかそんな事が・・・という事はロウニール辺境伯閣下はフーリシア王国でも魔族が暗躍している可能性を考え・・・」


「いえ。それもありえるかも知れませんがそこではありません。ロウニール様が懸念しているのは・・・『タートル』」


「っ!まさか彼らが?」


「・・・『あの時』・・・彼らは街を守る為に命懸けで戦ったと聞きます。おそらく彼らが味方してくれなかったらあの場にいた冒険者達や兵士、騎士達の死者は更に多くなっていたでしょう・・・もしかしたら一般の方にまで被害が及んでいたかも知れません。だからこそ見逃していました・・・心の奥底で勝手に思い込んでいたのです・・・彼らは味方だと」


「そうか・・・確かにあの場で共闘し共に困難を乗りきった・・・が、彼らの本質は変わった訳ではない・・・気まぐれで手を貸したのか相手が魔物だから加勢してくれたのか分からないが彼らの根本は・・・」


「変わっていないと思います」


『タートル』の事は私よりも彼の方がよく知っている・・・それでも何をしようとしているかまでは掴めていないけど大きな事・・・つまりシャリファ王国で起こったような反乱を企てているのではないかというのが彼の予想だ


「・・・『タートル』は国でも危険視している闇組合・・・躍起になって捕まえようとしていた時期もあったが最も近付けたのはエモーンズでの時だけ・・・しかしそれから雲隠れしてしまった為に国も動きようがなかった。その彼らが再び動き出すという事かな?」


「かもしれない・・・程度です。実際の反乱を目にしどのようなタイミングで反乱が起きるか見てきました。そこで『タートル』が動きやすい環境はどんな時かと考えるとこのタイミングではないかと」


「と言うと?」


「魔物が地上に溢れ魔物に気を取られているタイミング・・・その隙をつけば彼らの成そうとしている事が成しやすくなるのでは・・・と」


「・・・」


『タートル』がもし反乱を企てているとしたら平和で緩みまくっている時か別の何かに気を取られている時・・・だとすると今は後者に当てはまる


魔物が現れ対応に追われている今だからこそ反乱のチャンス・・・本当は目の前の人には頼ってはいけなかった・・・彼の願いと目の前の人・・・ディーン様と目的は一緒だ


反乱を未然に防ぐ


それが目的となるだろう


けど・・・


「・・・もしそうならば探し出し捕らえるもしくは潰すしかありませんね・・・『タートル』を」


ディーン様ならそうなるだろう


でも彼の願いは・・・『タートル』を止めること・・・捕らえるでも殺すのでもなく止めることなのだから──────

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