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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
416/856

412階 デモンズスピア

「自ら死しに来るとはな・・・『ダブルフィスト』を殺ったのは貴様らか・・・謎のジジイに貴族風の・・・貴族風?」


長い旅路を終えてハベットの街に入ると真っ先に向かったのはスラム街


街の人に『デモンズスピア』がどこにいるか尋ねたら簡単に居場所を教えてくれた


そして師匠と訪ねると向こうもスーザンでの話を誰からか聞いていたらしく大歓迎モード・・・人数を揃えて出迎えてくれた


ちなみに貴族風の男と言うのは僕の事だろう・・・スーザンの時はそうだったかもしれないが今では見る影もない・・・下手すりゃスラム街の住人よりスラムしている


「・・・ふん、アレはお主がやれ」


「はい師匠」


不機嫌そうに指をさしたのは禍々しい槍を持つ自称『デモンズスピア』・・・僕は言われるがまま一番奥で佇む『デモンズスピア』へ向かって歩き始める


「バカが・・・いいだろう道を開けろ・・・俺様が直々に相手してやる!」


『デモンズスピア』が言うと手下共は道を開ける


よほど自信があるのかそれともただのバカか・・・とにかく僕達を舐めているのは間違いないな


「『ダブルフィスト』を殺ったくらいで調子に乗るなよ?俺様にはこの槍・・・『デモンズスピア』がある」


「なるほど・・・槍が本体か」


「・・・その生意気な口・・・今すぐ叩けなくしてやる!!」


三又の槍を突いてくる『デモンズスピア』・・・えっと名前はなんだっけ・・・確かダーグンか


こんな突き師匠の拳に比べればハエが止まる程度・・・僕はそのまま突きを・・・


「食らえるか!!」


師匠の教えでは必要最小限のマナで攻撃を受けその力を利用して相手を叩く・・・失敗すれば普通に刺さるし痛いし死ぬかもしれない・・・師匠はそれを難なく実行するがそんなもん出来るはずもなく僕は普通に槍を弾き飛ばすとこれまでの鬱憤をダーグンにぶつけた


槍が弾かれ体勢を崩したダーグンの懐に入り込み顎に掌底を食らわせる・・・その際にマナを込めると師匠のように首を飛ばすまではいかなかったが顎は跳ね上がり首は真後ろを向くとそのまま倒れた


あっという間の出来事に1人以外を除いて言葉を失い動きを止めた


「・・・ハア・・・出来の悪い弟子を持つ気持ちがようやく分かりました・・・我が師よ」


うるさい無理なもんは無理だ


弱い攻撃ならまだしも死に直結するような攻撃を最低限のマナで受けるなんて正気の沙汰じゃない・・・しかもその衝撃をマナで吸収して次の一撃に伝える?アホか!


確かにそれが出来れば強い・・・攻撃を無効化して相手の攻撃力をプラスした自分の攻撃を相手に叩き込むのだそりゃあ強いだろうよ・・・けど無理・・・そんなもん命がいくつあっても足りないわ!



頭目であるダーグンが死ぬと意気消沈した彼らを狩るのは簡単な事だった。中には投降してきた者もいたがこれまで散々悪行の限りを尽くしてきたはずだ・・・その報いを受けろ


師匠は悪人と思わしき者達には本当に容赦ない・・・弟子に対しても容赦ないけど悪人に対してはもっと・・・慈悲の欠片もないくらいだ


もしかしたら村を襲われた時の幼い記憶が残ってるのかも・・・村を襲った連中はとうに老いて引退しているか死んでいるだろう・・・だから代わりと言ったら変かもしれないが別の悪人に復讐をしているのかも・・・


「・・・これで全部か?」


「おそらく・・・っ!」


ほとんど師匠が倒してしまい終わったと油断した時に背後に蠢く気配が・・・見ると隠れていた奴が飛び出して来て倒れているダーグンから槍を奪い取り構えた


「ハ、ハハッ・・・殺してやる!お前ら2人を殺して俺がこの街を仕切ってやる!!」


男は槍にマナを流すと槍はそのマナに呼応するかのように姿を変えた


槍は男を包み込み槍先だけが右手に残る


『デモンズスピア』・・・これがその能力・・・持ち主を異形の姿に変える悪魔の槍・・・


「殺す殺す殺すー!!」


「精神まで蝕むのか?まったく厄介な・・・」


「下がれ・・・ワシがやる」


師匠は後ろ手を組みながら歩いて男に近付く


「ジジイ・・・先ずはお前からかー!!」


向かい来る男に師匠はため息をつきそのまま槍の一撃を受けた・・・かのように見えたが師匠は一瞬でその姿を消しいつの間にか背後に男の背後に移動すると男の頭上に踵を落とす


『ペグッ!』と変な呻き声をあげて倒れる男・・・すると槍はまたその姿を元に戻し男は頭が潰れた状態で倒れ息を引き取った


どんな魔核が組み込まれていたのか興味があったけど師匠はそのまま槍を踏み破壊してしまう・・・うーん、残念


「何が『デモンズスピア』じゃ・・・笑わせおるわ」


「・・・ですね」


「ですね・・・じゃないわ!この器用貧乏が!」


「うぐっ・・・仕方ないでしょう?染み付いた癖はそう簡単には・・・」


「言い訳するな!」


そう・・・僕は結局元の戦い方に戻ってしまっていた


師匠に更地にしてもらい基礎から叩き込んでもらった・・・相手からの攻撃を力まず身構えず受けることが出来るようにはなったがまた次第に癖が出始めてしまう。サラや今まで戦ってきた人達の癖が出始めると師匠はまた更地にしようと試みるが・・・僕はそれを拒絶した


「我が師の教えでは他の戦い方と異なる為混同出来ぬと・・・なのにお主は・・・」


「・・・何ででしょうね」


「こっちが聞きたいわ!」


師匠の教えてくれた戦い方は確かに他の人達とマナの使い方が異なる


師匠のマナの使い方はマナをバネやクッションのように使う。それにより相手の攻撃を受けたり素早く移動したり出来るのだが・・・おそらくそれだと魔物や魔族には通用しないだろう


どちらかと言うと『対人間用のマナの使い方』と言えるのかもしれない


師匠の師匠が魔族だからそう教えたのか・・・いや、問題はそこではない・・・師匠にこの事実・・・『魔物や魔族には通じない』という事を伝えるかどうかだ


僕は教えを受けている中でその事実に気付き師匠の教えを実践しながらこれまで学んだものを取り入れ始めた。すると師匠は当然ダメ出しをし、また更地にしようとした・・・が、僕は拒絶し続けそうしている間にハベットの街に着いた為にとりあえず『デモンズスピア』から片付けようという話になり今に至る


師匠はひとつの技を極めよと言う・・・けど僕はまた色々な使い方をし始めてしまった為の『器用貧乏』呼ばわりなのだが・・・


「師匠」


「なんじゃ」


「・・・いい天気ですね」


「ここは室内じゃ」


うっ・・・やっぱり言えない・・・苦労して積み上げたものが人間以外には通用しないなんて・・・言えるわけがない


けど言わないともし師匠が魔族と戦う事になった時・・・おそらくやられてしまう・・・それだけは避けないと・・・


「し、師匠!」


「だからなんじゃ!」


「・・・私は冒険者をした事もあります・・・それでその・・・言いづらいのですが・・・」


「ハッキリ言わんか!」


「はい!・・・師匠のマナの使い方では・・・倒せないものがいます」


「・・・なに?」


「いや、あの・・・マナの使い方は素晴らしいと思います。素手や剣で倒せるものなら誰でも・・・それこそ大陸一の者でも倒せると思います。ですが魔物や魔族の中には素手や剣を一切受け付けないものもおりまして・・・」


「ほう・・・で?」


「師匠の技は相手の力を利用したり、マナを使って素早く移動したりするもの・・・でも実際に攻撃するのは生身の拳や蹴りです・・・マナで覆ったりマナ自体で攻撃したりしないと通じない相手には・・・」


僕としても師匠の技を覚えれば強くなれると思っていた・・・けど魔物や魔族相手だと通用しないのではたとえ極めたとしても・・・


「じゃからか」


「え?」


「師には『決して魔族と関わるな』と言われておったのじゃ。理由までは話してくれなんだがそういう事かとようやく分かったわい」


「そんなに落ち込んでないのですね・・・ん?てか師匠・・・最初に私を魔族と思ったからって・・・」


「うむ・・・ワシとて幼い頃に普通の子として過ごして来た。その時に人間の敵として名が挙がるのは魔王や魔族や魔物・・・その記憶は幼いワシに深く刻まれておった。じゃがしかしワシから全てを奪ったのは人間でワシを救い育ててくれたのは魔族じゃった・・・当然師の言いつけを守らねばならぬという気持ちはある・・・が、ワシを産んでくれたのは記憶に薄いが人間の両親じゃ・・・悪人ならともかく善人が師と同じ魔族に殺されるのを黙って見過ごすほど達観は出来ておらんかっただけじゃ」


「・・・なるほど・・・」


「それに落ち込む必要はないじゃろ・・・ワシは魔族や魔物より人間の方が薄汚いと思っておる。ワシの教わった力が魔族や魔物に効かず人間に特化しているのなら渡りに船というもの・・・今のところ魔族に恩はあれど恨みなどないからのう」


そう言われてみればそうだな・・・けど・・・


「最近ダンジョンから魔物が表に出て来ています。それに合わせてか魔族も・・・もしかしたらいずれ戦う機会があるかもしれませんよ?その時師匠は・・・」


「戦う機会はあっても戦う必要はあるまい・・・その時は師の言いつけ通り関わらずやり過ごす」


それならまあうん・・・大丈夫・・・かな?


「それよりまたやり直しじゃ・・・あれだけ壊したのにまた歪になりおって・・・後何度壊せばまともに育つんじゃか・・・」


「いや!だからその・・・せっかくですけど遠慮しておきます!」


「・・・」


「実は・・・仕事柄と言うか魔族や魔物と戦う事が多くてその・・・」


「・・・」


「いや決して役に立たないと言う訳ではなくてですね・・・その・・・」


「もうよい。要は使えぬという事じゃろう?」


「端的に言うと・・・でも人間と争う時もあるのでその時には大いに役立つかと・・・はい」


「ふん、気を使いおって・・・器用なお主の事だ・・・ワシの力の使い方も混ぜて使う気なのであろう・・・もしかしたらお主はそうやって成長していくタイプなのやもしれんな・・・一つを磨き大成するのではなく多数を取り入れものにする究極の器用貧乏・・・決して交わる事の無い力が交わった時・・・それがお主の道となるかものう」


究極の器用貧乏って・・・褒め言葉か貶しているのか分からんな


「そうなるようどんどん周りの人の戦い方を吸収していきます」


「ふん、極めた者を相手にするのも厄介じゃがお主も相当よな・・・まあ道に迷ったらいつでも訪ねて来い。また壊してやる・・・何度でもな」


「・・・それは・・・丁重にお断りします──────」



師匠に教わったこの数日間・・・まったく無駄になった訳ではない。習得には至らなかったけど何となく・・・朧気ながらだけどマナの使い方が少し分かったような気がする。もっと教わりたい気もするけど今はリカルデル王国を目指す事にした


そう言えば師匠の師匠は魔族だからマナの使い方と言うより魔力の使い方なのかも・・・試してみる価値はあるか・・・・・・あれ?


〘ダンコ・・・魔族って死ぬの?〙


〘アナタ魔族をなんだと思ってるの?〙


〘魔族〙


〘・・・〙


〘いや、師匠は死んだって言ってたけど殺されたとは言ってなかった・・・けど魔族って老衰とか自然死ってしないような・・・食事も魔力があればいいんでしょ?〙


〘ええ〙


つまり師匠の師匠である魔族は死んでない?でも師匠が嘘をつく理由なんて・・・もしかして死んだ事にしておけと言われていた?何の為に?・・・いや、全ては憶測だ・・・それに人間である師匠を育てたり鍛えたりしている魔族だ・・・変な事は・・・しないよな?──────





《また酒か?》


《うるせぇいいだろ別に・・・ところでどこも火が起きねえがどういうこった?》


《ことごとく消されているようだ。勇者もどきにな》


《魔王が死に勇者は健在・・・人間共が浮かれている間におっぱじめようとしたが勇者もどきにその出鼻もくじかれるか・・・チッ酒も切れやがった・・・踏んだり蹴ったりたぁこの事だな》


《人間側に傾いた流れはいずれこちら側に傾くはず・・・火は消されど燻り続けているのは確かだ・・・そろそろ決めておくか・・・》


《そうだな・・・ちょうど手持ち無沙汰になったところだ・・・決めようぜ・・・どっちが上に立つか》


《負けても泣くなよ・・・ベリト》


《メエメエ鳴くのはそっちだろ?バフォメット》


《フッ・・・では始めよう・・・いずれ魔王となる者を決める戦いを──────》

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