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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
415/856

411階 リセット

スーザンからハベットまでの距離は本来馬車などを使えば一日で着く距離らしい。という事はゲートを使えばあっという間の距離だろう


しかし何故か徒歩・・・しかも休憩という名の地獄の時間を経験しながら進むともしかしたら1週間くらい平気で超えるかもしれない・・・


「ふむ・・・そろそろ休憩しようか」


「ま、まだ歩けます!」


「お主の意見は聞いておらん。ワシが疲れたのじゃ」


嘘つけー!休憩と言いながら・・・


「ゴフッ」


「ほらどうした?いいようにやられて悔しいか?悔しいのなら本気でかかって来い」


ハクシ曰く『窮地に追い詰められたらその者の本性が垣間見られる』のだとか・・・つまり僕は休憩の度に手合わせと言ってボコボコにされて気絶という名の休憩を経てまたハベットに向けて歩き始める・・・これを繰り返すこと既に4回目だ・・・身体中痛くてもう泣きそう・・・


ぶっちゃけゲートを使えば逃げる事は出来ただろう・・・けど疑われたまま逃げるのは癪だったし負けたままってのも気に食わなかった


一泡吹かせてやろうと『ゲート』や『魔拳』を駆使して戦うも全て惨敗・・・倒せるイメージが全く湧かないくらい差があると改めて感じた


これまでマナの使い方が最も上手いと感じたのはサラだ


マナの流れを見ていると淀みなく身体の中を流れ的確に相手にマナを伝えダメージを与える


だがハクシはそのマナの流れを一切見せない・・・マナを使っているのは間違いないのに・・・


「ふむ・・・お主はマナをなんとイメージしておる?」


「・・・イメージ?・・・」


「まるでマナを体内に流れる水のようなものと捉えとりゃせんか?あながち間違えではないがお主は扱えておらぬ・・・だから上手く伝達せず淀むのじゃ」


そう言えばサラと僕の違いは・・・そこかもしれない・・・


流れるように動くサラにはマナのイメージが水と考えるとしっくりくる。けど僕は?サラの動きを真似ようとするがそこまでスムーズに動けないし力んで力いっぱい殴ろうとしたり蹴りを放とうとしたり・・・そんな事すれば水は波立ち淀んでしまう・・・


「お主誰かの真似をしどりゃせんか?それも複数の。それではそこそこ戦えたとしても自らの道を極めた者には敵わん。いずれ壁にぶち当たりどうにもならんくなるじゃろう・・・もしかしたら今がその時かもしれんのう」


壁・・・そうなのか?・・・誰かの真似と言われればそうかも・・・サラやキース・・・ディーンやシークス・・・あ、ダメだ・・・もう意識が・・・



「・・・ようやく起きたか。長い休憩じゃったのう」


パチパチと音がして目を開けると焚き火をしているハクシが目に入る


てか休憩じゃなくて気絶なんですけど!


「腹が減った・・・早う何か狩って来い。そこの森に入れば何かしらおるじゃろう」


「・・・なんで・・・私が・・・」


「ほう?まだ休憩が足りぬとみえるな」


「っ!・・・行きます!行かせていただきます!」


未だ痛む身体を引きずるように言われた通り森に入ると狩りを開始・・・なんで現地調達なんだとブツブツ言いながら手頃な獲物を見つけると仕留めてハクシの元へ持って帰る


「使えぬ奴じゃ・・・モタモタしおって」


獲物を狩って来たのに文句を言われ殺意が湧く・・・それでも我慢して無言で差し出すとハクシは受け取り渡した獣を手慣れた手付きで一瞬で捌いてしまう・・・ナイフなど使わず素手で


「普通は捌いた状態で持ってくるのじゃが・・・まあいい。お主にそこまで期待しても仕方なかろう」


くっ・・・いちいち腹が立つ・・・出来ることならイッパツぶん殴っておさらばしたいところだがその一発すら届かない・・・そしてその実力差が爺さんと共に行動している理由になりつつある。もしかしたらこの爺さんといれば強くなれるかもしれない・・・そんな期待をしてしまっている自分がいる・・・


「・・・お主の師はなんと言っておるのだ?」


捌いた獲物の肉を適当な枝でぶっ刺して焚き火の火で炙りながら質問して来た。僕の師と言えばサラ・・・


「別に・・・何も・・・」


「何もじゃと?」


「教えてはもらってますが私が動きを真似をするといった形です」


「なるほどのう・・・教え方としては間違ってはおらぬな。気付けぬ弟子の出来の悪さが仇となったか」


「うぐっ・・・何を気付けば良かったのですか?」


「この動きは自分には合わない・・・そう気付けば他に道を探せるであろう?」


「合わない・・・そうは思いませんけど・・・」


ただ出来ないだけでいずれは・・・


「ならばなぜ他の動きを取り入れる?どの動きが師事を受けているかは見て分かる・・・が、自らその動きを壊しているのはお主の方ではないか?」


「壊してる?」


「分からぬか?マナの流れを利用していたかと思えばいきなりマナを爆発させる・・・そして波立つマナの流れを利用しようとする・・・やっている事はあべこべで一貫性がない。流れを利用とするなら波立てず、流れに乗せて攻撃を繰り出せ。それが出来ぬのならお主の師の動きを真似し続けても大成はしまい」


気絶する前に言われたことか・・・そう言われるとそうなのかも・・・


サラに教えてもらった動きを真似るけど、自分の実力不足で勝てないと思えば他の人の真似もする・・・そうやって何とか今まで勝ててきたけど結局は全て中途半端だ


今なら何となく分かる・・・サラの動きを真似るのには限界が・・・更に上を目指すなら諦め別の道を極める方が強くなれる・・・中途半端に別の人を真似るのではなく自分に合った自分だけの力の使い方を・・・



自分に合った使い方ってなんだ?



「えっと・・・ハクシさん」


「・・・なんじゃ」


焼けた肉にかぶりつきながらギロリと睨む爺さん・・・別に肉を取ろうとしている訳じゃないから!


「私に合っている力の使い方・・・分かります?」


「分かるわけなかろう・・・アホなのか?」


くっ・・・まあそうだよな・・・


「ただ方法がない訳でもない」


「方法?何か手っ取り早く自分に合った力の使い方を知る術がある・・・って事ですか?」


「違う・・・もはや複雑に絡まった状態のお主では自分の道を探すのは困難であろう・・・だから探すのではなく壊すのだ・・・これまでの道を全て壊しゼロにし無理矢理刻む・・・道をな」


「・・・えっと・・・他に道は?」


「ない」


かなり抽象的だが何となく理解した


ハクシはこれまで覚えた事を全て忘れてしまえと言っているのだ・・・そして更地となった場所に道筋を立てる・・・強引に


「・・・そうすれば大成・・・強くなれるのですか?・・・てかそもそもなんで私にそんな事を教えてくれるのです?」


「・・・数度手合わせしてお主が悪の道を歩むものではないと分かった。じゃから尚更惜しいのじゃよ・・・このまま未完で終わらせるのはな」


「・・・」


このままだとこれ以上強くなれないかもしれない・・・ハクシの言うことが全て信じられるかと言われればそうでもないけど僕より強いのは明らか・・・もしハクシくらい強くなれれば僕は・・・


悩む・・・これまで手に入れたものを手放し一からやり直すとなるとどれほどの時間がかかるのか・・・でももし僕がこのままの強さだとしたらいずれ僕は誰かを守れずに後悔するかもしれない


強くなりたい・・・全てを守れるくらい強く・・・


「・・・どうすればいいですか?」


「やるのかやらんのかはっきりせい。そしたら教えてやるわい」


「・・・やります・・・強くなれるのなら」


「ふむ・・・まだ悩んでおるようじゃがまあいい。どうせ後戻りは出来んからな」


「え?」


「いいじゃろう・・・1回死んで来い──────」




壊すという言葉を理解したのは後悔した後だった


ハクシ・・・いや師匠は僕を徹底的に痛めつけた


もちろんただ痛めつけた訳じゃないのは分かっている・・・体に染み込んだこれまでの経験・・・癖を徹底的に消す為に力ずくで矯正し続けた


歩き方から始まりちょっとした動きでも癖と思わしき動きが出ると死ぬ寸前まで痛めつけられる


それは『壊す』という表現がピッタリな作業であった・・・まあ僕は『壊される』方なのだが


手合わせの時がその最たるもので『死』というものを何度も体験した


師匠程の実力者になれば生かすも殺すも自由自在なのかギリギリの・・・本当ギリギリのところで生かされている感じが伝わる


日に何度も手合わせしていれば否が応でも前回出た癖は出なくなる・・・恐らくあの痛みを味わいたくないと本能が訴えかけ癖を封じるのだろう


「そこでなぜマナを込める!」


「へ?いや・・・ちょっ・・・ぐああああぁぁぁ!!」


拳にマナを込めただけで瀕死になる・・・これまでの戦い方は完全に否定され続けとうとう僕は身動きひとつ出来なくなった


動けばやられる・・・となれば動かなければいいと単純に思うようになった・・・が


「ほう・・・時間はかかったがようやく()()()()()()()()()()


一段階目?


「・・・あの師匠・・・どういう意味でしょうか・・・」


「なーに、動けば痛い目をみる・・・となれば動かなければいいとなるのは自然の流れ。生きる為の本能が働いたという事じゃ。次はその本能を壊す」


そう言って始まった地獄


簡単に言えば動かなくなった僕を師匠が攻撃する・・・それを防御しようとしたらその攻撃を受けたであろうダメージより遥かに強い痛みを与えられる


蚊も殺せぬ拳を受け止めたら上級魔物ですら一撃で葬れるような一撃が飛んでくるのだ


だが攻撃を止める事より防御を止める事の方が遥かに難しい。どんな弱い攻撃でも反射的に躱そうとしたり受け止めたりしてしまう


何度も何度も痛い目をみても・・・食らうより遥かに痛い目に合うと分かっていても・・・体が勝手に反応してしまうのだ


もうどれだけ死ぬ寸前まで叩きのめされただろうか・・・目が虚ろになり師匠の顔すらボヤけて見え始めた時ようやくピクリとも反応せず師匠の拳を受け入れた


「二段階目はかなりかかったな・・・これでお主は死んだも同然じゃ。戦う者としてはな」


そりゃあそうだ


攻撃もせず防御も一切しない者が完成した・・・ただの剣の試し斬りに使われる木人形となったわけだ


「さて・・・次の段階に進もうか・・・全てを見て全てを吸収せよ・・・なーに心配するな・・・最初は死ぬ事はない・・・最初はな──────」

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