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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
412/856

408階 誰もが羨む恋愛を

「イテテテ・・・あっ!ヒー・・・」


「シッ・・・気付かれてしまいます」


落ちた先は先程より広い空間・・・そして違いは広さだけには留まらず置いてあるモノが違う


さっきの部屋は宝箱・・・この空間には・・・三体の魔物


幸いまだ気付かれてない様子・・・天井を見上げるとかなり高いし落ちた時にそれなりの音はしたはず・・・それなのに気付いてないのはおかしいけど私の憶測が正しいのなら・・・


「ここはおそらく・・・ボス部屋です・・・9階の一つ下・・・10階の」


「ボ、ボス部屋って・・・じゃあ・・・」


「ええ、出口はありません。あの三体の・・・名前は確か・・・バフコーンを倒さない限りは・・・」


馬の頭に屈強な人間の身体・・・手にはメイスを握る姿は魔物の中で上位に位置する魔物、バフコーンで間違いない


なぜ10階に?疑問に思うけど今はそれどころではない・・・落ちて来た穴は完全に塞がっているのを見るとこの状況を私とスカットだけで乗り越えないといけない・・・せめてケンとマホがいてくれたら・・・いやそれでも一体が限度、三体なんてとても・・・


「ど、どうする?」


「こういう事を想定していたはずです・・・アレを使います」


「アレ・・・あ、ああ・・・」


慎重に・・・気付かれないように指輪にマナを流してゲートを開く


そして手を入れてアレを・・・簡易ゲートを・・・


「ヒィ・・・ヒーラ!!」


背後から何かの息遣いが聞こえた


振り返るとそこにはもう一体のバフコーンが・・・立っていた・・・メイスを振り上げた状態で


すぐに取り出せるよう手前に置いとくべきだった・・・手探りで簡易ゲートを探しようやく掴み腕を引き抜く



これで帰れる・・・ケン達が心配だけどとにかく私達だけでもこの危機的状況を・・・


そしたら今度は何をしようか・・・ダンジョンなんてもう懲り懲り・・・ああ、でもエモーンズのダンジョンならいいかな?・・・エモーンズでみんなで遊んだり話したりダンジョンに行ったり・・・怖いけど恋愛したり・・・



私の肩を揺らし何かを叫ぶスカット


背後に血のついたメイス片手にこちらへ迫り来るバフコーン


ああそうか・・・そうなんだ・・・


「ヒーラ!!!」


「・・・聞こえてます・・・耳元で騒がないでください・・・」


「でも・・・でも・・・」


泣いている・・・私はなんで・・・それよりも右手が・・・熱い・・・



・・・ようやく事態を把握した


私が簡易ゲートを掴んで腕を引く抜こうとした・・・だけど一歩早くメイスは私を捉え・・・その後の記憶が曖昧だけどおそらくスカットがここまで運んでくれたのだろう



ああ・・・せっかくローグさんに・・・ロウニールさんに貰ったのに・・・置いて来てしまった・・・腕ごと



「し、止血を・・・血が・・・」


「魔物が・・・来てますよ?」


「で、でも・・・」


「私は・・・もういいので逃げてください・・・」


「ど、どこに??」


そうだった・・・ここはボス部屋・・・逃げる場所なんてどこにもない・・・でもちょっと情けないよスカット・・・こんな状態の私にどこに逃げるか聞くなんて・・・


「・・・俺がヒーラを置いてどこに逃げるって?待ってろヒーラ・・・全部倒して次の階への扉を開き・・・歩いて地上に戻らせてやる・・・」


私に背を向けバフコーンに対峙するスカット


その姿は勇ましいとは言い難く、身体をガクガクと震わせながら今にも消え入りそうな声で呟いた


それでもこの絶体絶命の場面でそんな事を言われたら惚れない女性はいないだろう・・・私以外なら


震える彼に何か出来る事はないかな・・・そうだった・・・私はまたあの時の役立たずに逆戻り・・・指輪がないと何も出来ないただ誰かが怪我をするのを待つだけ


そんな私が嫌いだった


そんな私を見て欲しくなかった


でもそんな私を彼は追いかけてくれた


そんな私を見てくれた


見て欲しくないのに・・・見続けてくれた・・・そんな私が彼を失ったら・・・


私には何が残る?


「うおおおおお!!来るなら来いや!俺が相手だこの馬面野郎!!」


貴方が私に背を向けるなら・・・何も残らないなら私は・・・追うしかないじゃない!



「オーバーパワー!!」



「っ!・・・ヒーラ・・・指輪がないのに・・・」


「倒してスカット・・・そしてまた・・・私を追いかけてください!」


「ああ!ずっと・・・ずっと追いかけてやる!待ってろヒーラ!!」




昔、どこで聞いたか知らないけど色々な話を聞かせてくれたお父さんとお母さん・・・お金がなかったから本はなかったけど・・・2人の話を聞いて私は色々と妄想を繰り返す


その中でも危機的状況に駆けつけてくれるナイトの話はお気に入りだった


誰でも助ける訳じゃない・・・私だけを助けてくれるナイト


そんな理想の相手を待ち続け・・・今、私の前には彼がいる


傷付き倒れた彼が


壁にもたれ掛かり傷付いた彼を抱き寄せる


もう手にすら力がこもっていない・・・それもそのはずバフコーンに何度も何度も殴られ・・・それでも立ち上がり私を守ろうとしてくれたのだから


それでも私は彼を揺り起こす・・・最後の願いを聞いてもらう為に


「スカット?・・・もう終わりですか?一体も倒せてませんよ?」


「・・・ぁ・・・」


「・・・現実は厳しいものですね・・・あの馬の顔は私を見て笑ってます・・・おそらく私はこのままだと犯され続けるのでしょう・・・死ぬまで」


「・・・」


「もう返事もする力さえありませんか?・・・出来れば私を殺して欲しいのですが・・・魔物の腕に抱かれて死ぬのは少し・・・嫌なので」


「・・・」


本当に現実は厳しいな・・・こんな最後・・・誰も望んじゃ・・・


「くっ!」


バフコーンは近付き私の肘から下を失った右腕の根元を掴み持ち上がる


振り返ると支える者がいなくなった途端スカットはコトンと床に倒れた


もう・・・どうでもいいかな・・・もうどうだって・・・


「ンモォー!!」


勝利の雄叫びなのか私に顔を近付け叫ぶと残りの三体も同じように雄叫びをあげる


私はこれから・・・



イヤだ


イヤだイヤだイヤだ!!


助けて・・・助けてよ・・・助けてって言ってるでしょ!


「助けてよ・・・スカット!!」



足が引っ張られる


切断された箇所から血が大量に出ていたせいかバフコーンの手からスルリと抜け私は何かに包まれた


「触んな・・・これは俺んだ・・・」


耳元で声が聞こえた


そっか・・・追いかけて来てくれたんだ・・・


私が求め彼が追いつく


とうとう私達は・・・


「・・・子供は何人欲しい?」


「10人」


「・・・多過ぎ」


子供を作ろう


彼との子供を


そしてみんなで笑顔でゆっくり暮らそう


逃げる子供を追いかける私


その先に待ち構えてる彼がいる


子供は捕まり今度は彼に追いかけてとせがむ


そして私は彼と共に・・・



初めてのキスは血の味だった


そして彼は私の望みを叶えてくれた


背中に回した彼の手にはロウニールさんから貰ったナイフが握られている


そのナイフの先は私の中へ


彼の最期の言葉は『10人』だった


それはもう叶えてあげられそうにない


だからもし・・・次があったら叶えてあげよう


私の願いは・・・もう叶ったから・・・



「いつか誰もが羨む恋愛をしてみたかったの・・・ありがとう・・・スカット──────」





「9階で生存者を見つけました」


「・・・そうか・・・」


「両手が火傷していてその後から何度も扉を叩いたようで激しく損傷していますがそれ以外の怪我は見当たりません」


「・・・そうか・・・」


「捜索願いは1()()だったのでその時点で搜索は終了・・・ただ血だらけの扉を開けると・・・」


「魔法使いの杖・・・か。それ以外は?」


「ありません・・・服すらなくおそらく魔物に・・・」


「・・・そうか・・・」


「他にメンバーはスカウトとヒーラーがいたようですが何も見当たらず・・・ただ・・・」


「ただ?」


「10階を攻略した冒険者からボス部屋で拾った装備品があると連絡が来て・・・ナイフが4本落ちていたようです」


「ネコババしなかったのは関心だな・・・後で私から礼を言っておこう。それで?その4本がそのスカウトのものだと?」


「おそらく・・・タイミング的にはそうだと思います。ただ確認しようにも彼が・・・」


「まだ気を失っているのか?」


「いえ意識は回復したのですが自己喪失状態と言いますか目の焦点が合っておらず何を話しかけても答えてくれず・・・」


「仲間を失ったショックか・・・」


「おそらく・・・」


「ならば回復するまで待つとしよう。それまでナイフは保管しておいてくれ」


「はい。あ、もうひとつ」


「まだ何かあるのか・・・なんだ?」


「彼らはCランクパーティー・・・想像の域は出ませんが9階と10階に分かれていたということは何かしらのトラップに引っかかり分断されたのかと」


「そうだろうな。それで?」


「はい・・・スカウトとヒーラーと言えどCランクパーティーの2人なら()()()()5体なら倒せるはずです」


「・・・トラップに引っかかった時に何かしらの怪我を負ったとかは考えられないか?」


「かもしれません・・・ですが今のダンジョンは・・・」


「バーチにあるランダムダンジョンと同じ・・・か」


「まだ調査中なので何とも・・・既存の冒険者達はこぞって『変わった』と言うだけで・・・」


「ただの変化ならあるが入る度に変わると言うなら正に『ランダムダンジョン』だな・・・この街の冒険者では荷が重い・・・他のギルドに協力要請を出すしかあるまいな」


「でしたら私が・・・」


「お前がいなくなったら誰が行方不明者を探す?事はもうひとつのギルドでは収まらない・・・なるべく内々に解決したかったが犠牲者が増える一方ではそうも言っていられないしな・・・ギルド長として情けないが仕方あるまい」


「侯爵様に助けを求められては?」


「やめろやめろ・・・袖にされて終わるのが目に見えている・・・自分の勢力拡大にしか興味を示さない方だからな。背に腹はかえられぬ・・・暫くは冒険者達に『ランダムダンジョン』の可能性があり警戒を強めよと通達・・・それと同時に余裕のあるギルドから調査隊を借り受ける」


「・・・騒がしくなりそうですね」


「そうだな・・・エモーンズの魔族騒動といい何かが起き始めているのかもしれんな──────」

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[一言] おう……良いPTだったのに
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