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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
411/856

407階 彼の背中

ヒーラは真剣な眼差しでケンに問い質す


私は止めることが出来ずにただ喉を鳴らした


私が聞きたい事・・・ケンの本音はどこにあるのか・・・


幼なじみでありパーティーメンバーであったシルを探そうとしているの?それとも・・・


「・・・ハア・・・馬鹿な事言ってないで行くぞ。今日中に10階のボス倒して次から11階から始めないと稼ぎになんねえしな」


「行くのですね?」


「・・・」


ヒーラはシルを『ケン』として探すならここから戻るように言った・・・それはある意味パーティーの解散を示唆しているのかもしれない


たとえパーティーのリーダーだったとしても色恋沙汰でパーティーを振り回すっていうのはおかしな話・・・恋人を探すなら1人で行けばいいし、手伝って欲しいならはっきりとそう言うべきだ


私は・・・頼まれたら断るつもりはない。多分ヒーラもスカットも


でもきっとケンは頼んだりはしないだろう・・・そうなるとパーティーは解散・・・私達はそれぞれ別の道を歩むことになる


ヒーラがダンジョンの奥へと進もうとするケンに行くのかと聞いても彼は何も答えなかった


つまりそれはケンの答えではないって事だ


「ホッとしましたか?それとも・・・」


「ヒーラ!!」


正直私はホッとしていた


彼が答えを出してしまった時、私も決断しなくてはいけない。今はまだ曖昧でいたい・・・このままもう少しだけ・・・



休憩を終えた後も魔物が出て来ていない時はスカットとヒーラが先に行き、私とケンはその後ろを歩く


私は・・・少しケンより後ろを歩いた


「・・・最後尾は危ねぇぞ?」


「大丈夫・・・私を誰だと思ってるの?」


「へいへいマホ様でしたね」


私は彼の背中が好き・・・多分・・・いや絶対誰よりもこの背中を見ている


シルがいたとしても


シルはタンカー・・・ケンより前に出るからケンはシルの背中を見ていたはず・・・いや、今もずっと見続けているのかも・・・私はシルの背中を見ているケンの背中を見続ける・・・これからもずっと・・・


「ね、ねえケン」


「ん?」


「私は付き合ってもいいよ?あっ、そういう意味じゃなくて・・・ほら、ケンがシルを好きだから探すって言っても・・・ね」


「お前までヒーラに毒されたか?俺は好きだから探すとか嫌いだから探さないとかそういうんじゃなくて・・・仲間だから・・・直接シルの口から聞きたいだけだ。その先は・・・それからだ」


「・・・そうね」


ケンはきっとその先も考えている・・・でも言わない


微妙なバランスで保たれているパーティーが・・・崩れ去ってしまうから


・・・ハア・・・本当嫌になる・・・幼なじみがあと1人いればなぁ・・・奇数はダメよねやっぱり


4人か6人・・・偶数で男女同じ数ならもしかしたら・・・って何考えているんだろう私・・・人数の問題でもないのに・・・


「・・・ホ・・・マホ!」


「ウェイ!」


「・・・ウェイ?」


「あ、ごめん考え事してて・・・なに?」


「なにって・・・9階に降りるぞ・・・もしかしてマナ切れしそうとか?」


「まさか・・・あと20階くらいは行けるわ!」


「行けるか!・・・ハア・・・とにかく油断するなよ」


「はいはい・・・リーダーのご命令通りに」


「・・・あの日か?」


「どうやらスカットが乗り移ったようね・・・焼き祓ってあげるから安心して」


「無駄にマナを使うな!てかアチィ!!」


本当に火を出したら髪が燃えて慌てるケン


それを見て先に行っていたスカットが戻って来るとケンとぶつかりスカットにまで燃え広がった


危うく焼死体が2体出来上がるところをヒーラが冷静に水をかけて消火する


「・・・一体何があったのですか?」


「それはケンに聞いて・・・まあ聞いても答えないでしょうけどね」


「うっ・・・つい口が滑って・・・」


「おうおうケンさんよぉレディーを怒らすたぁ何を囁いちまったんだ?エロか?エロい言葉か?」


「・・・スカットが言いそうな言葉」


「タハー・・・おいコラケン・・・俺を何だと思ってやがる」


「スカット」「スカット」「スカット」


「全員の俺の評価が名前のみ!てか2人には聞いてねえし!・・・俺の価値って・・・」


落ち込むスカットをケンが慰めながら9階へと降りる


・・・いつものメンバーで・・・いつもの光景・・・ずっと続くと思っていた・・・


それも今回の旅で終わりを告げる


結果はどうあれ私は・・・



「おぉ!?」


「どうしたスカット」


「いや、この先に分かれ道があってな・・・そこを左に曲がった所に部屋があって宝箱が・・・」


「・・・え?」


普通は驚くべき事では無い。ダンジョンには宝箱なんて各階に1個はあるし・・・でもスカットが言った部屋は9階に降りてすぐの部屋だった


これまでのダンジョンでは最短でも中間くらいの位置にある事がほとんど・・・最奥付近にある事もしばしば。だがこれまで入口付近に宝箱があったことは一度もない


「・・・怪しいな」


「ああ・・・触らぬ神に祟り何とやらだ」


「そこまで言ったら最後まで言いなさいよ」


「でも虎穴に入らずんば虎子を得ず何とやらですよ?」


「全部言ってるから・・・何とやら余計だから・・・」


何故かヒーラまでボケるから私が2人のボケを拾う


そんな事をしていると1人真剣な顔していたケンが私達を見て頷いた


「開けてみよう・・・何かあってもこの辺に出て来る魔物なら対処出来るだろうし罠ならスカットが・・・まあそれは若干不安だが・・・まあ何とかなるだろう。アレもあるし」


「不安なのかよ!見てろよ俺の腕前を!やってやろうじゃねえか!」


「やってやろうじゃねえか見てろよ俺の腕前を・・・の方が分かりやすいかと」


「・・・やってやろうじゃねえか!見てろよ俺の腕前を!」


素直か!


と言う事で結局怪しげな宝箱のある部屋へと行く事に


両扉を押し開けて部屋に入るとこれまた随分と広い部屋でその奥にポツンと宝箱が置いてある


スカットが探るのと同時に私も色々と部屋を見回したがおかしな所はなさそう・・・あるとすれば天井付近に穴が無数に空いている程度・・・まさかあそこから水が出て来て・・・なんてあるわけないか


「床にトラップはないな・・・扉が閉まらないよう見張っててくれ・・・閉じ込められるなんて初歩的なトラップもあるかもしれねえ」


「あいよ」


トラップにはいくつも種類がある


今スカットが言った『部屋に閉じ込め魔物を大量に発生させるトラップ』や『ある床を踏むと矢が飛んでくるトラップ』それに代表的な『宝箱自体がトラップ』など様々だ


エモーンズのダンジョンはあまりいやらしいトラップがなかったけどこのダンジョンはまだトラップらしいトラップに当たってないから分からない・・・慎重に慎重を重ねても足りないくらいだ


隊列と同じくスカットとヒーラが宝箱近くに、私とケンは入口を固める


もし宝箱付近で何かあっても2人にはアレがある・・・だから問題が起きたら私達はすぐ・・・


「よし!宝箱開けるぜ?」


「おう!てかトラップは?」


「ない!しかも中身は金貨っぽい!」


「ナイス!」


お金があればすぐにでも旅を再開出来る・・・シルを探す旅を・・・


「・・・あっ」


スカットが声を上げると同時に遠く離れたこの場所まで聞こえたカチンという音・・・そして次の瞬間部屋全体が激しく揺れた


「スカット!ヒーラ!そこから離れろ!!」


何かが起こる予兆・・・それは全員が理解していた


「ダメ!ケン!!」


ケンは私が呼び止めても聞かず2人に向かって走り出す


こういう時、冷静になれないのはケンの悪い癖だ。2人はどんなトラップが発動しても生還出来るアレがある・・・だから私達は動いてはいけなかった・・・けどケンは走り出してしまう・・・そして私も彼の背中を追って・・・走り出した


「ケン!来るな!!来ちゃダメだ!」


「ケン!」


2人が叫ぶがケンは止まらない


そしてもう少しで2人に辿り着きそうになった時、宝箱周辺の床が突然開き2人を一瞬で飲み込んでしまった


ケンと私が着いた時には開いた床は完全に閉じてしまう


「クソッ!落とし穴かよ!単純な罠に引っかかりやがって・・・アホスカット!」


「今はそんな事言っている場合じゃないでしょ?この下は・・・10階か・・・変な場所に落ちてないといいけど・・・」


「下に降りるかそれとも・・・どうする?」


「・・・それを決めるのはあなたでしょ?リーダー」


「だな・・・降りよう。待機部屋まで行って・・・」


「イッ!なに!?」


「マホ!?」


左足のふくらはぎに激しい痛みを感じた


見るとそこには・・・拳大程の蟲が私の足に・・・齧り付いていた


「このっ!」


すぐにケンがその蟲を切り払う・・・が、安心したのも束の間、耳に響く背筋を凍らせるには充分な音



カサカサ


カサカサ


カサカサ



見上げると天井付近に空いた穴から先程と同じ蟲が次々に這い出てくる


更に・・・


「マホ!急げ!扉が・・・」


扉が突然動き出し閉じようとしていた


冗談じゃない!蟲の魔物は何度も相手した事あるけどコイツらは異質だ・・・単体の強さはそれ程でもないけど数が尋常じゃない・・・既に壁一面に張り付き床に到達している蟲もいる・・・あんなのに囲まれたら・・・


「何してんだ!早く!!」


「分かってツッ!」


かなり深く齧られたみたいで出血も痛みもかなり酷い・・・走る事なんてとても・・・歩く事さえ・・・


「ケン!私を置いてあなたは早く・・・」


「アホか!何カッコつけてんだ!!早く乗れ!!」


私が走れないのを見ると彼は背中を向けて屈んだ


大好きな背中・・・


蟲が迫っているというのに・・・


私は・・・


「早く!」


「分かったわよ!重いとか言ったらぶん殴るわよ!」


背中に飛び乗ると彼は勢いよく走り出した


落ちるかと思い必死にしがみつく


強く・・・しがみつく・・・


「くっ!マジか・・・」


顔を上げると既に人が1人通れる程まで閉じていた


距離から考えてギリギリ・・・横になれば通れるくらいか・・・1人なら・・・うん


「ケン!」


「なんだよ!」


「私にいい案があるの!」


「だからなんだよ!」


「こうするの」


「熱っ!!」


私を支える両手にちょっとイタズラ・・・すると反射的に手を離した彼の背中をトンと押した


彼はふらつきながらも勢いよく扉の方へ・・・そして閉まる寸前の隙間に何とか体を滑り込ませた


「なっ!?・・・マ・・・」


「バイバイ・・・大好・・・」


扉は閉まり私と彼を永遠に分かつ


あーあ、結局最後まで言えなかったか・・・今のは惜しかったな・・・もう少しくらい時間をくれてもいいのに・・・



耳障りな音がドンドン大きくなってくる・・・振り返るのが怖い・・・でも・・・


「ケンの最後の顔・・・間抜けな顔・・・ぷっ・・・最後は背中じゃなかったなぁ・・・」


ある光景が浮かんで来た



彼の前に私が出て振り返る


そして私は後ろ向きに歩きながら微笑むと彼も私に微笑んだ



来なかった未来、望んだ未来・・・私にもう少し勇気があれば来たかもしれない未来


けど彼の前に出て振り返るのは・・・


「ハア・・・任せたわよシル・・・振ったら承知しないからね!」


目を開けると蟲の絨毯が広がる


いつもの私なら気絶したかも・・・でも今の私は違う!


「さあかかって来なさい!あんた達が大好物の炎を喰らわしてあげるわ!!──────」

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