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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
41/856

38階 VSトロール

「うおおおおぉ!!」


ケンが剣を抜き雄叫びを上げながらトロールに向かって駆けて行く


トロールはケンの動きに合わせて手に持つ棍棒を振り上げるがその行動を見たケンは自らの速度を上げトロールの横を通り過ぎざまに剣を振るう


「チッ!浅いか!」


トロールの脇腹に一筋の傷・・・ケンが言うように浅い・・・あれではトロールの動きは・・・止められない!


「させない!ファイヤーボール!!」


振り上げた棍棒を背後にいるケンに向けようとするトロールにマホがファイヤーボールを当てて牽制する。その隙にケンは体勢を立て直す


ちょうど挟み撃ちのような状態になったケン達


だが、唯一の前衛であるケンと後衛であるマホ達が分かれてしまうと・・・


「くっ!こっち来いよ!このウスノロ!!」


魔法が脅威と感じたのか前に居たからかトロールはマホ達に向かって走り出す


ケンが叫ぶがその声は届かず、トロールは一直線にマホ達の元へ・・・ケンはすぐに追い付き背後から剣を突き立てるとトロールは歩みを止めて棍棒を振り抜いた



金属の鈍い音が部屋にこだまする



何とか盾でトロールの一撃を防いだケンだったが弾き飛ばされ壁に激突


その様子を一瞥するとトロールは再び動き出す


「ケン!!このっ・・・」


「お、俺が止める・・・止めてやる!!」


「ケンは私が!」


マホの前に出たスカットは短剣を両手に持ち、意識を集中・・・そしてトロール目掛けて放った


その間にマホは詠唱を


ヒーラはケンの元へと動き出す


「へ?」


スカットの投げた短剣はトロールの肉の壁に阻まれ傷すら付けられず地面にポトリ


間の抜けた声を出して見上げると眼前には棍棒を振り上げるトロールが立っていた


マホの魔法も間に合わない。スカットは立ち尽くしただトロールを見上げるだけ。ケンを介抱するヒーラが悲鳴に近い叫び声を上げるも立ち尽くすスカットには届かなかった



残念だが・・・失敗だ



「風旋華!!」


棍棒を振り上げ隙だらけのトロールに風旋華を当てると仰け反るトロール


その隙に距離を詰めると飛び上がり蹴りを放つ


巨体は仰向けに倒れ部屋を揺らす・・・これで少しは時間が稼げる


「ヒーラ!ケンの容態は?」


「あ・・・はい!生きてますがすぐには動けそうにありません!」


「分かった!スカットとマホは少し離れてろ!援護は要らない・・・邪魔になるだけだ!」


「・・・は、はい」「・・・はいぃ!」


倒せるはずだった


なぜこうなったか今は理解するのは難しいだろう


「さて・・・風牙扇を使っては参考にならないだろうから・・・久しぶりに体を動かすか」


風牙扇を通じてしまい代わりに地面に落ちていたスカットの短剣を拾い上げる


「全員聞け!自分より大きい魔物と対峙した時、高い位置にある急所を狙おうとすると無理が出る。焦らずじっくりと魔物の体力を削り自ら急所をさらけ出すよう仕向けろ」


私がサイクロプスを相手にやった戦法・・・自分より一回りも二回りも大きい相手に対する常套手段


ゆっくりと起き上がるトロールを前に私は短剣を手の中で回し逆手に持つと一気に距離を詰める


トロールは向かい来る私目掛けて棍棒を振り下ろすがそれをギリギリで躱して逆手に持った短剣で足を切り付ける


呻き声を上げるトロール


背後に回ると何度も同じように足を切り付け、時には蹴りを放ち徹底的に足を攻めるとトロールは怒り狂ったように棍棒を無差別に振り回す


飛び退き距離を置くと棍棒を振り回すトロールに向けて短剣を放つ。狙いは目・・・狙い通り右目に短剣が突き刺さるとようやく私が近くに居ない事に気付き近付こうと足を踏み出した


トロールは全てに置いて鈍い


動きもそうだが痛みに関しても鈍く、致命傷を与えたとしても動けるほどに


だが今回はその痛みに鈍い部分が災いする・・・踏み出した足は自重に耐えられないほど傷付いているにも関わらず痛みが鈍い故に気付かず思いっきり踏み出してしまったのだ


踏み出した足から血が噴き出し膝が曲がり前のめりに倒れる。そして急所である頭を私に差し出した


「終わりだ・・・眠れ」


倒れた後で起き上がろうと顔を上げた瞬間に残りの短剣を深く突き刺すと叫びやがて力なく地面にうつ伏す


しばらく痙攣していたがその痙攣も収まりトロールは絶命した


「・・・お、終わった?」


「ああ・・・討伐完了だ」


スカットの疑問に答えると全員安堵の表情を浮かべた後、すぐに悔しさを滲ませる


「勝てなかった・・・俺達だけじゃ・・・」


ヒーラに回復してもらったケンは立ち上がると壁を叩き唇を噛み締める。勝てると思って挑んだボス・・・私が居なければ全滅していたという事実が彼にのしかかる


「・・・正確には『勝てたはずなのに勝てなかった』だな」


「・・・何が・・・原因ッスか?」


「反省会は後でしよう。今はボスの・・・!」


魔核を回収しようとトロールを見るとその体はダンジョンの床に吸い込まれるように消えていく。魔核と・・・宝箱を残して


魔物の死体は武器や防具、それに道具の素材になる為に持って帰れば売る事が出来る。だが稀にその死体と引き換えに宝箱を出す事があるのだが、どうやらこのトロールはそれだったみたいだな


宝箱を調べると罠はない。近付き開けると中には・・・


「これは・・・なかなかいい物をくれたな」


中に入っている物を取り出しケンに向けて放り投げる


「・・・これって・・・簡易ゲート?」


「だな。ゲート部屋を見る限り11階はない。となるともうすぐ開く扉を戻って10階入口まで戻る必要がある・・・さてどうする?」


戻る道には魔物が湧いている可能性がある。今のケン達では・・・


「・・・簡易ゲートを・・・使うッス・・・」


正解だな


無理をすれば戻れなくもないが、ボス戦で肉体的な疲労よりも精神的なダメージを受けている状態では万が一もある。安全か金かを天秤にかけてはいけない・・・命懸けで戦う冒険者の鉄則だ



トロールの魔核を回収した後で簡易ゲートで1階へ


ダンジョンを出るとしばらく歩き、空き地に辿り着くと腰を下ろす


反省会の始まりだ


「サラ姐さん・・・遠慮なく言ってください・・・」


「そうだな・・・その前にひとつ聞きたい。簡易ゲートを使った理由は?」


「・・・トロール相手にヘタこいた後で何事もなく戻れる気がしなくて・・・俺・・・いつもサラ姐さんが居なくても行けると判断するようにしてたッス・・・だから・・・」


「分かった。では、感じた事を話すとしよう。まずボス戦・・・巨大な魔物と戦うのは初めてか?」


「・・・初めてッス」


「なら覚えておけ。定石は足元を狙い崩した後で急所を狙う・・・当たり前だが意識するのとしないことでは生存率がかなり違う・・・で、それぞれの動きだが・・・」


私なりの経験・・・色々なパーティーと組んできた経験則から思った事を口にする


「先ずはケン・・・遠距離攻撃を持つ2人に対して指示を出し自分は突っ込む・・・それ自体は間違えではないが問題は指示の出し方とその後の行動。指示は曖昧で具体性に欠けたもの『自分に合わせろ』はいざという時に迷いを生じさせる。格下相手であれば問題ないがボス戦では不向きだな。もっと具体的に・・・出来れば場面場面で指示を出した方がいいだろう。それとケンはパーティーで唯一の前衛・・・常に後衛と魔物の間に居るべきだ。魔物の背後に回る事に気を取られ後衛を危険に晒すのはいただけないな」


「・・・ッスね」


挟み撃ちのような立ち位置はあくまで前衛2人が前提・・・さっきのトロールのように後衛しかいない所に突っ込まれたら止めようがない


「次にマホ・・・最初のファイヤーボールは上出来だが、前衛のケンが離れ、トロールが突っ込んで来た時に魔法がなかなか出せずにいた。あれは自分が止めなくてはと威力の高い魔法を唱えようとして間に合わなかったのではないか?あの場面では何より間に合う魔法を選択した方がいい・・・下級でも牽制くらいにはなるだろうしそもそも間に合わなくては意味がない」


「そうですね・・・何とか倒そうと必死で・・・」


「ヒーラは・・・一番後方にいて状況が見えるはず。ケンが離れて指示が出せない場合はヒーラが指示を出すべきだ。慣れるまで時間はかかるだろうがそういった訓練をしていた方が万が一の時に役に立つぞ?」


「はい・・・向かって来る魔物を見てどうするべきか迷ってしまい・・・何も出来ずただ呆然と・・・出来ないなら出来ることを・・・出来る人に任せっきりではなく・・・」


「そうだな。ヒーラーの役割は回復だけではない。今後覚えればサポートも出来るし指示が出来るようになれば戦略も広がる・・・もっと楽な場面で繰り返し訓練すれば指示は出せるようになるだろう。後はスカット・・・」


「う、うっす!」


「マナで強化し短剣を投げるまでは良かった・・・だが相手は中級の魔物・・・ケンが最初に斬り付けた時に見ていたら分かると思うが生半可な攻撃は効かない。かと言って投げる短剣にマナを纏わす事が出来ない・・・ならどうするか・・・」


「・・・急所を狙う・・・」


「そういう事だ。私がやったように目をピンポイントで潰せとは言わない。だが目の辺りを狙うことによって相手を怯ませることは出来るはずだ」


「・・・うす・・・」


スカットは軽薄に見えて実は責任感がかなり強い。出会った時は攻撃する術が皆無だったにも関わらず1ヶ月やそこらで短剣を投げる技術がかなり上昇し身体強化もスムーズに出来るようになった・・・恐らくこの中では一番成長したのではないか?影の努力か才能か分からないが今後も成長し続けるだろう・・・私が要らないと思うほどに・・・


「・・・やっぱり・・・パーティーを抜けるッスか?」


「・・・」「・・・」「・・・ええ!?」


やはり気付いていたか・・・スカット以外


「どこで気付いた?」


「今朝ギルド長の所から戻って来た時に何となく・・・」


「顔には出さないようにしたつもりだったがな・・・」


「・・・理由・・・聞いていいッスか?」


「ギルド長からの要請だ。聞いてると思うがエモーンズは村から街に・・・そうなると本格的に人が増えるだろう。冒険者も移り住む者も増えて来るはずだ。そうなるとギルドとしては冒険者の協力が不可欠になる。今までのように臨時ではなく常駐レベルで呼び出される可能性もあるらしい。正直半ギルド職員みたいな感じだな」


「・・・なら・・・俺達も・・・」


「・・・ケン・・・もしケン達が今回のトロールを自分達の手で討伐していたら・・・推薦も考えたかもしれない。ギルド長の依頼は困難なものが多い・・・残念だが・・・」


「・・・」


実力不足と言うよりは経験不足


実力的には勝っていたのに経験不足が故にトロールにやられた。場数を踏めばケン達は立派な冒険者になるだろう・・・けど今は・・・


「・・・サラ姐さん・・・俺達・・・いずれサラ姐さんが『パーティーに入れてくれ』って言ってくるような・・・パーティーになるッス・・・きっと・・・いつか・・・」


「ああ・・・その時は断らないでもらえるとありがたいな」


永遠の別れでもないのに・・・何故か全員泣いていた


マホとヒーラは感謝の言葉を口にし、スカットはしきりに寂しいと連呼する。ケンは・・・涙を流しながら口を真一文字に結び拳を握る



私は・・・こうしてケン達のパーティーを抜けた


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