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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
409/856

405階 シルが去った理由

数日ケセナで過ごしたケン達はつかの間の休息を満喫し再び旅立つ


ずっと旅を続けて体力だけではなく精神の方も疲弊していた彼らは一度故郷に戻り骨を休めた


その効果は抜群で皆の足取りは軽い・・・ただ一人を除いて


「なんだよマホ・・・もしかしてもう少し村に居たかったのか?それならそうと・・・」


下向き険しい顔をしながら歩くマホを見てケンが言うと彼女はゆっくり首を振る


「だったらなんで暗くなってんだ?」


「バカだなケンは。決まってんだろ?あの日だよあの火ぃ!?」


ファイヤーボールがスカットの頭をかすめた


「最低」「最低」「最低」


躱したつもりが髪の毛が燃え始め慌てて消すスカットに容赦なく浴びせられる言葉にさしもの彼も少し効いたようで燃える髪の消火に成功すると黙って最後尾を歩く


「で?本当にどうしたんだよマホ」


「・・・ねえ・・・シルを探すのもうやめない?」


「なんで・・・」


「探してどうするの?『タートル』を抜けろと言うの?またパーティーを組もうとでも言うつもり?」


「それは・・・どうしてシルが『タートル』に入ったか聞いてから・・・」


「もし・・・もし自らの意思で『タートル』に入ったとしたら?」


「そんな訳・・・もしかして何か知っているのか?」


様子のおかしいマホを見てケンは足を止めマホを見た


これまでシルを探す旅をして来て一度もそんな事を言わなかったマホが突然やめようと言い出したのには何か理由があると気付き問い質す


「・・・家に帰った時に聞かれたの・・・『今何をしているの?』って。だから正直に『シルを探してる』って言ったらお父さんとお母さんが困惑した顔してたから何でだろうって思って聞いたら・・・」


「聞いたら?」


「・・・『あの子はそうするしかなかったのよ』って・・・」


「『そうするしかなかった』?それって一体・・・」


「・・・実は──────」



マホは両親から聞いた話をみんなに話した


シルがなぜケン達の元を離れ『タートル』に入ったのかを──────



それはまだケン達のパーティーに加入していた時の事


ケセナはまだ領主がいない無主地だった時の話


時折他の土地から貴族がやって来て才能のある者を見つけては自分の領地に招いていたいわゆる『青田買い』が度々行われていた


腕のいい大工や料理人、才能ある者を引き抜いても文句を言う者はおらず庶民は貴族に逆らえない事をいい事に好き放題やっていた


そして冒険者として同い年では抜きん出た才能を持ったシルに白羽の矢が立った


貴族には逆らうことは出来ない・・・だが冒険者としてならまだしもその貴族は自分の妾となるよう強要して来たのだ


貴族としては腕の立つタンカーが傍にいれば命を狙われたとしても盾となり、更に見目がいいシルならば欲望も満たす事が出来る・・・とでも考えていたのだろう


シルは絶望し嘆くがパーティーメンバーのケン達には相談出来ずにいた


きっと貴族に抵抗し殺されてしまう・・・そう思ったのだろう


そんな時、ふと現れた人物がシルの才能に目を付けた


それが『タートル』の組合長レオン


彼はシルに選択を迫る


貴族の慰みものになるか『タートル』に加入するか


シルは結局『タートル』を選びケン達を捨て村を出た



「・・・待てよ・・・そしたらシルは仕方なく『タートル』に・・・」


「それは分からないわ。貴族のせいで思い通りの生活が出来なくなった事を恨み貴族に復讐しようとしているのかも知れないし・・・『タートル』の狙いが国だとしたら貴族個人を叩くより効果あるだろうし・・・」


貴族は国が与えた地位である。国が滅びれば当然貴族はその地位を失う事になる。1人で貴族に復讐するより『タートル』という国が警戒するレベルの闇組合の力を利用した方が効率的と考えたのでは?とマホは言う


「でもそこまでするか?」


「スカット・・・シルは人生を奪われたのよ?その貴族が何もしなければシルは今も私達と共に冒険者を続けていたかもしれない・・・シルがどう考えてたか分からないけど今の歩んでいる道は間違いなく想像していた未来とは違うはずよ?」


「・・・そう・・・だよな・・・」


「でも一言くらい相談あっても・・・そりゃあバカをするかも知れないけど・・・それでも・・・」


「ケン・・・もし相談しようとしていたとしたら?」


「え?」


「シルが去る間際・・・どんな感じだったか覚えてる?」


「シルが・・・どこか焦っているような・・・無理してダンジョンの下の階に行こうとしたり・・・」


「・・・それが『タートル』の加入条件だったら?」


「加入条件?シルの?」


()()のよ。シルは勧誘された立場だとしたら加入は決まっていた。だから加入に条件なんてなかった。でもパーティーメンバーである私達は?よく思い出して・・・エモーンズで『タートル』がやってた事を」


「『タートル』が・・・条件を出してそれを達成すれば幹部に・・・っ!まさか・・・」


「そう・・・シルは私達と『タートル』に加入するにはどうすればいいかレオンに尋ねた。そこでレオンはある条件を出した・・・例えば『1週間以内にダンジョンの20階を攻略しろ』とかね。それでシルは焦って・・・」


「ちょ、ちょっと待て!俺達が『タートル』に?そんな勝手に・・・」


「あくまでも憶測よ。それに条件を達成してから話してくれたかも知れない・・・『全員で加入するか自分だけ加入するか』・・・条件を達成しなければ二択ですらないからシルにとっても苦渋の決断だったのかも・・・でも私がシルの立場でも同じ事をしたかもしれない・・・巻き込みたくないけど一緒に居たい・・・そう考えて・・・」


「最終的にどうするかは俺達が決める・・・か。その決めるにも条件達成が最低条件・・・けど俺達はそんな事を知らずに・・・」


「私達に言えればどんなに楽だったか・・・でも言えない・・・言えば巻き込む事になる・・・ウチの両親は貴族を『貴族様』と呼ぶわ。そしてシルの話をしてくれた時に『貴族様に言われたら仕方ない』と言っていたの・・・何を言われても・・・例え娘を差し出せと言われても逆らえない存在・・・それが『貴族様』・・・私達は『タートル』を極悪非道の闇組合と思っている・・・地下で囚われていた時は生きた心地がしなかったし私達にやろうとしていた事は決して許せない・・・けどシルにとっては救いの手を差し伸べてくれた神様みたいに見えたでしょうね」


「・・・」


「私達は・・・何も知らない私達はそんなシルを『タートル』から抜けさせようとしている・・・シルがどんな状況になっていたか知らずのうのうと生きていた私達が・・・」


「でも・・・貴族に誘われたのは本当だとしても後は全部憶測だろ?」


「ええ。けどさっきも言ったけど私でもそうする・・・みんなを巻き込まないように・・・貴族の言いなりにならないで済むなら悪魔にだって魂を売ると思う・・・きっとね」


「・・・」


ケン達はマホの言葉に何も言い返せなかった


貴族がどんなものか知らない・・・知っている貴族と言えばは最近貴族となったロウニールくらいだ。ロウニール=貴族と考えたら決してそんな事は起こらないと断言出来ただろう


しかしケン達より貴族を知る人達は貴族を『貴族様』と呼び決して逆らえない存在と言う。もしそれが本当であるならばシルはケン達が知らない間に人生を歪められていた事になる・・・『貴族様』によって


今のケン達ならもしかしたらその当時のシルを救えたかもしれない。けど当時のケン達は『冒険者ゴッコ』の域を出ない冒険者だった。死なない程度に稼げればそれでいい・・・無理せず何となく冒険者していれば・・・それで満足だった


パーティーメンバーの1人が悩んでいた事も知らずに気楽に冒険者をしていた事は否めない


そんなケン達の言葉がシルに届くだろうか・・・困難な道を行かざるを得なかったシルと自由気ままに冒険者をしていたケン達・・・あまりにも違う境遇の差は声の届かないくらい広がっているように感じた


「・・・事実はどうあれこのままもう二度とシルに会わないで生きる事は俺には無理だ。アイツにとって俺達が会いに行く事自体が迷惑かもしれない・・・望んでないかもしれない・・・それでもアイツの口から聞くまでは・・・」


「・・・まっ、そう言うと思ったわ。私が言いたいのは探すのを諦めようって言うよりは会った時にどんな対応されても仕方ないって覚悟しておいた方がいいってこと・・・素っ気なくされても無視されても・・・それがシルと今の私達の現実だから・・・さあ行きましょ・・・ここで立ち止まってても何も変わらない・・・そうでしょ?ケン」


「ああ・・・まずは予定通りアジートに行って尽きかけた旅の資金を稼ごう。ウチのパーティーには無駄金使いがいるからな・・・たっぷり稼がないと」


「へぇ・・・ってちょっと待てケン・・・誰の事だその無駄金使いってのは」


「・・・自覚がないのがなお恐ろしいわね」


「やはりイケメンスカウトを入れて泥々の恋愛展開を繰り広げるのはどうでしょうか?」


「ヒ、ヒーラ・・・それだけは勘弁してくれ・・・」



いつもの調子に戻ったパーティーは再び歩き出し一路アジートの街を目指した


ある時を境に変貌したアジートのダンジョンが口を開けて待っている事を知らずに──────

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