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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
404/856

400階 誰がために鐘は鳴る

エバは既に人間の姿ではなくなった


異形・・・蝿の王という名に相応しく巨大な目と触覚・・・そして羽が生えていた


《アハハハハ・・・人間如きが私に勝てるとでも?私を倒したいなら勇者でも連れて来な蛆虫共が!》


羽音と共に聞こえる不快な声・・・魔力が含まれているっぽい・・・それにしても


「どうして私達が貴女の子供なのよ」


「サラ・・・なぜ我らが彼奴の子供になるのだ?」


「蛆虫ってハエの幼虫なのよね・・・だからほら、『蛆虫共』って言ったから・・・」


「ああ、なるほど。そなたの子供ではないぞ?エバ・・・いやベルゼブブとやら」


《・・・人間共が舐め腐って・・・目にものを見せてくれる!!》


ベルゼブブはその名の通りブブブと不快な音を鳴らすと空中へと飛び上がる


《この速さに・・・ついて来れるかな?》


ハエの表情はよう分からないな・・・まあ声からすると自信満々で得意気な表情になっているのだろう


「っ!?・・・くっ!」


速い


視界から消えたと思ったらいつの間にか通り過ぎ切りつけられる


体が反応し何とか躱したと思ったが頬に鋭い痛みを感じた


「速い・・・わね」


「ハエだけに・・・な」


「・・・」


実はフレシアって愉快な人なのかしら・・・この戦いが終わったらゆっくり話してみたいな


《アハハハハ!まずは貴様を切り刻んでやる!サラ!!》


ご指名を頂いたので頑張らないと・・・懐から風牙龍扇を取り出し二つ開く


二式・龍の顎


振ると上下に分かれて風が吹き荒れベルゼブブを喰わんとその口を閉じる


《おっそ・・・って!?》


三式・千牙


《このっ!》


四式・竜巻


《いい加減に》


三式・千牙


《やめっ》


二式・龍の顎


《ちょー!!》


バクンと龍の顎が閉じると息も絶え絶えのハエがフラフラと空中を彷徨う


弱い・・・これなら2人でくる必要なかったかも・・・そう思った瞬間ベルゼブブから魔力の波動を感じた


《死にたいの?死にたいのよね?遊んであげようかと思ったけどもうやめた・・・今すぐ死んで・・・サラ》


完全なるハエ・・・大きささえ除けば


体からは産毛のようなものがびっしり生え、人間のそれだった手足は細く長く虫のそれとなる


もはや形振り構ってられなくなったようだ・・・人間らしい部分がなくなり背中がゾワゾワする


《アハハハハ!!》


「っ!・・・ぐっ!」


笑い声と共に姿を消し気配を察知し躱すが横腹が抉れる


先程と比べものにならないくらい速く鋭い・・・合わせるのは少し厳しいか・・・


「サラ!・・・『アイスフォグ』!」


フレシアが魔法を唱えると冷気の霧が部屋に充満する。そのお陰か羽音は更に大きくなり飛んでいる位置がはっきり見えた


《この霧・・・まとわりつく!》


「『アイスストーンズ』」


間を空けずフレシアは再び魔法を唱えた


すると氷の礫がベルゼブブの周囲に現れ次々に向かって行き当たっては砕け散った


隙のない連携攻撃・・・威力も申し分ないように見えたがベルゼブブには効いていない


《それで攻撃しているつもり?》


先程までとは打って変わって余裕のベルゼブブ。思い出すのは魔王と対峙した時だ・・・あの時も何をしても通用しない感覚に陥った


魔力はマナを凌駕する・・・力の関係は重々承知している


目には見えないがもしベルゼブブが魔力を纏っているならばそれと同等のマナによる攻撃では通じない・・・となればやる事はひとつ


「フレシア!一定以上の魔法しか通用しないと思って!多分魔力で体を覆ってる!」


「一定以上?どの程度?」


「それが分かれば苦労しない・・・ぶっちゃけやってみるしかないわ」


「なるほど・・・心得た」


「一式・風牙!」


「『アイスジャベリン』」


風の牙と氷の槍が同時にベルゼブブに突き刺さる


しかしベルゼブブは何事も無かったように飛び回り効かない事をアピールする


火力が足りない


フレシアはまだ余力を残しているみたいだけど私には手がない


遠距離での最高火力は一式・風牙だ・・・『射吹』もあるが溜めが長く素早い相手には向いていない


せめて接近戦であれば手はあるのだけど・・・


「『ブリザードストーム』」


広域魔法!フレシアが手をかざすと部屋全体を強烈な吹雪に見舞われる・・・私のいる位置を把握し周りは弱くしてくれているけど・・・それでも凍りついてしまいそうだ


さしものベルゼブブもこの魔法を受ければ・・・


《寒いじゃないか・・・女王》


効か・・・ない・・・


ベルゼブブは魔法の吹雪が収まるのを見計らって収まった途端急降下してフレシアへ


私は床を蹴り守ろうとするが間に合わない・・・吹雪を避ける為に少し下がったのが裏目に出た


「フレシア!!」


フレシアは自分の前に氷の盾を展開するがあっさりと打ち砕かれる・・・そして・・・


「ぐっ!」


咄嗟に左手で顔付近を右手で腹部付近を庇うがそれを嘲笑うように肩口に前足を突き刺す


《もっと本気を出したらどう?なんだっけ・・・あー、そうそうダカン・・・もう10年も経って忘れちゃった?私はあの人間の仇でしょ?》


「・・・『アイスソード』」


左手で氷の剣を作り出し振るうがベルゼブブは容易に躱し再び宙へ・・・刺された肩が痛むのかマナ切れが近いのかそれとも・・・とにかくフレシアの限界は近そうに見えた


《冷たいねえ・・・さすが『氷呪の女王』ってところかな?》


「・・・黙れ・・・」


《本当はねメインディッシュは最後に殺した方が盛り上がると思ったんだけどね・・・優男風のクセして勘が鋭くて先に殺っちゃった。もうそれからは計画は無茶苦茶・・・忘れて正解よあんな人間》


「黙れ」


《まあ少し時間はかかったけど終わりよければすべてよしってね・・・愛した人間は全て殺され、愛した人間達に殺される・・・最高の人生じゃない?感謝してよね女王陛下》


「・・・殺され?違うな・・・妾が殺したのだ・・・皆を父を母を・・・ダカンを殺したのは妾だ!!」


感情が爆発する


抑えていたものを全て吐き出すようにフレシアは魔法を乱発し始めた


マナ量がどれくらいか分からないがこれ以上は危険だ・・・止めないと・・・


《アハハハハ!自覚あったのね?そうよ殺したのは女王・・・お前だ・・・お前が殺した・・・全てお前がブッ!》


突然起こる爆発


笑いフレシアを責めるベルゼブブは爆炎に包まれた


「意味分からない事を囀るんじゃないよ・・・見た目通り頭の中も虫なのかい?」


この声・・・もしかして・・・


「それにしても本当このバカ娘は・・・何が『ダカンを殺したのは妾だ』だよ・・・うちの自慢の息子がハエに負けるような弱い女に殺されるもんか」


「・・・お・・・」


フレシアは彼女を見て何か言おうとしてグッと口を噤む。それを見て彼女はため息をついた後でフレシアに何かを投げた


「ほら、さっさと飲みな。こっちに来た部屋にゴロゴロと転がってたからね・・・まだまだあるよ。そして見せてごらん・・・うちの子が惚れたその勇姿を・・・この『お』義母(かあ)さんにね」


アネッサ・・・何故ここに・・・


フレシアに渡したのはロウが私の為に大量に用意してくれたマナポーション・・・それがゴロゴロ転がっていたってことは私が治療を受けていた部屋にアネッサが?


「お前さんもボッーとしてる場合じゃないよ!『氷呪の女王』『風鳴り』そしてかつて『灼熱の魔女』と言われた美女3人が揃ったんだ・・・虫くらい瞬殺と行こうじゃないか」


・・・うん、考えるのは後でも出来る・・・今は目の前の・・・


《よくもぉぉ!!楽に死なせやしないよ!!》


ハエの女王を倒す事に集中するのみ!──────





・・・微かに背後から聞こえた爆発音・・・どうやら間に合ったみたいだな


サラが目を覚ました次の日・・・よほどベルゼブブの魔力に攻撃され体力を消耗したのか死んだように眠るサラの横で座りながらある事を考えていた


ダカンの事、女王の事、そしてベルゼブブの事


ダンコ曰く魔族の中で弱い部類に入るベルゼブブ・・・だがそれはあくまでも魔族の中の話。人間に対しては決して弱いとは言えないだろう


その理由は魔力


一部の人間・・・勇者や勇者パーティーに入るような人間ならいざ知らず対魔力に慣れていない人間には魔族の相手は厳しい


Sランク冒険者であるサラでさえ厳しいかもしれないとダンコは言う


女王は宮廷魔術師候補に混じって魔法を習う程の秀才と聞く。だが少なくとも数年は実戦経験から離れているだろう・・・下手すりゃ10年間の可能性もある


サラと女王で何とかしてくれると思ったが・・・ちょっと心配だった


そこでダンコにベルゼブブの弱点を聞くと『知らない』と返答が・・・でも『虫なら火に弱いんじゃない?』と素っ気なく呟いた


火・・・女王は水・・・サラは風・・・もし1人助っ人に加えるなら火魔法が得意な人と思い考える


そんな時にマークが話し掛けて来たので何気なく『火魔法が得意な人を知らないか?』と尋ねると意外な返事が返ってきた


『さあ知らですね・・・でも()()()で良いなら知ってますよ?』


『かつて?』


『ええ・・・灼熱の魔女と言われた人物・・・』



アネッサ・ホーキンス



かつてSランク冒険者として活躍し『灼熱の魔女』と呼ばれていた彼女は子が産まれ程なくして引退した


魔王国と呼ばれるこの国で一二を争う魔法使い・・・それがアネッサ・ホーキンス



万が一の事を考えて治療室とサイエスの冒険者ギルドの応接室にゲートを繋げた。一時的なゲートではなく僕が消さない限り消えないゲート・・・もし僕が倒され兵士が雪崩込んで来たらそのゲートで逃げる手筈だ


そして・・・僕に中間結果を聞きこれからの事を聞いたアネッサが・・・通って来るゲートでもあった


必ず来るとは限らなかった・・・その時点で僕が話した内容は多分に推測が含まれていたからだ


それに魔族に媒体とされた被害者側の立場とはいえ間接的に自分の子を殺してしまった女王を救いたいと思えるかどうか分からなかった


だが彼女は来た


自らの手で女王を救う為に


・・・多分



「ええい!何をしている!相手は死にかけ・・・今にも倒れそうなのに何を手こずっておる!さっさと殺せ!!」


ならお前が来い・・・と言いたいところだがラドリックすら来て欲しくない状況だ・・・段々と腕が上がらなくなってきた


「し、死ねえ!」


死なんよ


「食らえ!」


食らわんよ


「さ、刺され!」


お願いか


適当に最小限の動きで躱して殴って蹴って気絶させる


時には刃引きした剣を使い時には魔法を使い・・・だが無限に湧いてくる兵士と降り注ぐ矢・・・それに加えて様々な魔法攻撃にどんどん対応しきれなくなってきていた


「くそっ・・・あと少しで・・・ん?」


「ラドリック様・・・私が出ます」


「おおシャス!さすが俺の後を継ぎ大将軍となる男だ!倒せばこれまでの失態は帳消しにしてやろう」


お前は何もしてないくせに偉そうだな


・・・てかここでコイツか・・・本気でマズイぞ・・・


「私でも・・・いや他の誰でもここまで粘れる者はいないだろう・・・敵ながら畏敬の念を禁じ得ない・・・だがそろそろ終わりにしよう・・・」


「・・・また盾で囲むか・・・懲りないね本当」


無数の盾に囲まれた・・・ちょいと今回は厳しいな・・・


「・・・」


「?なんだ?また休憩をくれるのか?」


「『ベルゼブブ』とは何者だ」


「・・・さあな・・・」


「・・・この期に及んでまだ真実とやらを話さないのか・・・次の一撃で・・・死ぬぞ?」


「言ったろ?真実を知る権利はお前にはない」


「意地か・・・それとも・・・」


「優越感だよ・・・俺はお前の知らない真実を知る・・・お前はただ事実だけを見て騎士ゴッコに興じてろ・・・自称騎士さんはな」


「・・・全く理解出来ないな・・・」


「だろうな・・・お前が理解出来る程この世界は単純じゃない。・・・もういいだろ?さっさと始めよう・・・お前はこの国の騎士・・・俺はたった一人の女性の騎士だ・・・どっちが強いか確かめようぜ」


「フーリシア王国の者がなぜそこまでこの国の女王を護る」


「・・・違うな・・・俺は・・・女王を守りたいと願っている女性を護る騎士だ・・・そう・・・だから頑張れる・・・立ってられる・・・」


「・・・それほど大事か・・・その女性が」


「ああ・・・お前がこの国を思う気持ちなんて微々たるものだ・・・俺がサラを想う気持ちに比べればな・・・それを・・・証明してやる──────」

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