397階 乱入者
「・・・」
女王は目を細め私を真っ直ぐに見つめた
あ、もしかして言葉遣いが気に入らなくて・・・
「・・・確か彼奴が言っていたな・・・改めて思い直すと似ているのかも知れないな・・・彼奴とダカン・・・そして妾とそなたは」
「・・・女王様・・・」
「フレシアでいい・・・久方振りなのだ・・・心穏やかに・・・そして嘘偽りなく話せるのは・・・なのであまり隔たりがあって欲しくない」
「・・・分かったわ。それでどうする?フレシア」
「どうするとは?」
「決まってるでしょ?貴女はダカンの仇を・・・私はロウを助ける為にやる事はひとつ」
「元凶・・・魔族を討伐する・・・か。しかし城は広いぞ?探している間にも彼奴は・・・」
「彼なら大丈夫」
「・・・いや、窓の外を見よ・・・あの軍勢に対して・・・」
「大丈夫・・・心配なのは相手を殺しちゃわないかって事くらいだし・・・」
「なに!?」
慌てて窓の外を見るフレシア
ジッと彼の戦いを見て体を震わせた
「・・・あ、ありえない・・・彼奴は・・・今までずっとこのような・・・このような事をを続けていたと言うのか!」
私は彼女の隣に歩み寄り窓の外から彼を覗いた
武器を持たず魔法も使わずただ素手で殴り飛ばす
間が開けば矢が降り魔法が飛んで来る・・・それをものともせず彼はおかわりとでも言うように次を要求する
普通はありえない・・・押し寄せる軍相手に彼は・・・殺さないよう手加減しているのだ
もし私が同じ状況なら数分は保つ自信はある。しかしそれはあくまで相手を死に至らしめる前提・・・手加減する余裕など毛ほどもない
しかしそれもいつまで保つか・・・魔力は無限にあろうとも体力には限りがある・・・兵士は倒れても回復しまた立ち上がるので実質無限・・・いくら彼でもいざとなったら・・・
「急ぎましょう・・・貴女が守って来た人達が余裕のなくなった彼に殺される前に──────」
うへっキッツ・・・魔法や矢は魔力を纏い弾けたとしても直接叩きに来る兵士達は倒さなきゃならない。僕を抜け橋を渡ればすぐ城だ・・・サラもいるし大丈夫だとは思うけど・・・念の為にあの人も呼んだし・・・うん、大丈夫だ
「退け!私が出る!!」
コイツはサラでも危ないかもしれない・・・
『氷盾騎士』シャス・・・強さで言えばキースと同等かもしくは・・・
「『シールドバッシュ』!!」
それ以上だ
「盾で攻撃するなって言ってんだろ!」
「どんな物も使い方次第だ」
腰に剣をぶら下げているのに剣を抜かず向かって来る
コイツの戦い方は段々と分かってきた・・・魔法で氷の盾を出して戦う。その氷の盾は攻防一体であり魔力を纏った僕の拳も防ぐし殴ったり氷柱を出す事も出来る
しかも魔法にマナを纏う鬼畜仕様・・・言うならばコイツは『魔法騎士』だ
それに僕と違って基礎もしっかりしてる・・・動きひとつひとつに無駄がなく魔力を使わなければ数手で追い詰められて倒されていただろう
ついでに言えば無手の僕にとって盾は相性が悪い・・・攻撃も隙がなく守れば鉄壁・・・本当にコイツは『理の内側』・・・勇者パーティーのタンカーになる男だったかもしれないな
蹴りを放てど拳を突き出せど氷の盾は全てを防ぐ。魔力の出力を上げれば盾ごとシャスを倒せるかもしれないけどそれだとおそらくシャスは・・・盾ごと貫かれて死んでしまうかもしれない
元々手加減出来るような相手じゃない・・・このまま続けばどちらかが死ぬ事になる
「どうした!その程度か!」
このっ・・・人の気も知らな・・・なっ!?
後ろに飛ぶ為に大地を蹴ろうとするとそのタイミングで地面から土で出来た触手が僕の足に絡みつく
アーステンタクル・・・このタイミングで・・・
「バウム殿か・・・これも戦だ潔く死ね!」
バウム?・・・バウムって確か・・・ぐっ!
氷の盾に橋の中央まで吹き飛ばされる
すぐに立ち上がるがここぞとばかりに兵士達が橋へと雪崩込んで来た
「っの!『アーステンタクル』!!」
押し寄せる兵士達を押し返し一部は橋の下へと放り投げる。橋の下は水が張ってあり死ぬ事はないだろうけどこの寒空だ・・・凍え死ぬかもしれないがそこまで責任は取れん・・・死んだら運が悪かったと思え
「退け!退くんだ!」
「いや、突っ込ませろ!このまま押し切り女王を討て!!」
シャスとラドリックの意見が分かれると兵士達は動揺し足を止める。その隙をつきアースウォールを展開するとそのまま壁を動かして橋に進入した兵士達を押し出した
が・・・
「私の前で土魔法を使うとは・・・ものを知らぬとは悲しいな」
僕の出した壁が突然崩れてしまった
すると崩れた壁の奥からローブ姿の男が現れる。この男がおそらく・・・バウム
「殺さないように柔らかくした土壁を壊したくらいで粋がるようじゃ『地仙』って名もたかが知れているな」
「言ってくれるではないか若僧・・・本物の土魔法を見て同じ事を言えるか試してやろう」
「そいつは楽しみだ・・・俺も土魔法は得意なんでね・・・お手並み拝見といこうか」
「若僧・・・『アースファング』!」
「『アースブレッド』!」
「『アースブレード』!」
「『アースハンマー』!」
いきなり始まった魔法の応酬
さすが『地仙』と言わざるを得ないな・・・無詠唱で高威力・・・魔力を混ぜた僕の魔法でも簡単には弾き返せない
魔力のみで魔法を放てば勝てると思うがそれはおそらく威力が強過ぎる・・・かと言ってこのままだとジリ貧だ・・・ん?
今気付いた・・・バウムは右手に持った杖を振りかざしダランと下げただけだと思っていた左でで何やら魔法を展開していた
「お前・・・何をしようと・・・」
「気付いた事は褒めてやろう・・・だが遅い・・・『アースドラゴン』」
左手の指を2本突き立てると地面から蛇・・・いや龍が現れる
うねりながらその龍は天に昇ると僕を見下ろしそして・・・
「おい・・・マジか・・・」
「もうどこに逃げても無駄だ・・・正義の裁きを受けるがいい!私の子を死に至らしめた女王と共にな!」
「なに?・・・うおっ!」
龍は僕に狙いを定めると急降下する・・・僕を飲み込まんとその大口を開けて
ゲートで別の場所に放り込むか・・・いや、さすがにこの大きさは無理だ・・・となれば僕自身が逃げるしか・・・
悩んでいる間に龍は目と鼻の先・・・もはや逃げる時間はないと諦め・・・
「・・・ようやく終わったか・・・しかし凄い土煙だな」
「油断されない方がよろしいかと・・・仮にも万の軍勢にここまで粘った者です・・・もしかしたら・・・」
「自分が仕留められなかったからか?あれを食らって生き残るなどお前でも無理であろう・・・跡形もなく龍に喰われ・・・・・・まさかそんな・・・」
・・・まだ耳がキーンだ・・・ラドリックの奴・・・不敵な笑みを浮かべて何かほざいていたな?聞こえなかったが何となく分かるぞ?
「バウム・ホーキンス!何をやっている!トドメを刺せ!!」
ようやく聞こえて来た耳にはもしやと思っていたことを裏付ける名前だった
バウム・ホーキンス・・・そりゃあ母がいりゃ父がいる・・・アネッサから何も聞いてなかったがダカンの父か・・・
母はダカンの愛した人を信じ助けようと奔走し父はただ上辺だけの事実でダカンの愛した人を恨む・・・真実が分からない内はどちらが正しいとか言えないが真実を知った僕としては・・・何だかなぁ・・・
「嘘だ・・・『アースドラゴン』をまともに食らって無事でいられる人間など・・・」
無事って・・・こっちは魔力を最大限に纏って何とか防いだっていうのに・・・
てかかなり強力だったな・・・もしこれ以上の魔法があるのなら魔力をいくら纏っても危ないかも・・・ったくシャスといいバウムといい油断出来ないやつ・・・ぬおっ!?
油断していた訳じゃない・・・バウムのお陰で警戒心はMAXだ・・・その中で突然一本の矢が僕に向かって飛んで来てこれはまずいと思いギリギリで避けた・・・が、触れてないのに体は痺れ地面に膝をつく・・・なんだこの矢は・・・
「ハッハッハッ!ようやく動いたか・・・さて、Sランク冒険者2人を相手にどこまで粘れるか・・・いやもう終わりか・・・体が痺れて動けまい」
Sランク冒険者・・・バウムともう1人いる?
矢という事は・・・『雷弓』ケティナか・・・
「ぐっ・・・まさかダカンの生き別れの妹とかいう設定じゃ・・・ないよな?」
姿は見えない・・・飛んで来た方角からいる方向はある程度分かるが・・・触れなくても痺れる矢・・・それを警戒しながら『地仙』と『氷盾』の相手をしろってか・・・
「どけどけ!!」
冷や汗を垂らしながらどうするか考えていると叫びながら兵士達を掻き分けこちらに向かって来る奴が1人
兵士より頭一つ・・・いや三つか四つ大きい大柄な男・・・その男に見覚えがあった
「妖刀カミキリマルを返せ!ロウニ!!」
おい
飛び上がったその男・・・ギリスは魔人となり僕に襲いかかって来る
妖刀?返せ?・・・ツッコミどころ満載だぞ!?
振り下ろされる拳
その拳を受け止め睨みつけるとギリスは臭い息を吐き顔を近付けた
「変装の次は仮面か?隠し事の多い奴だな」
「・・・色々言いたい事は沢山あるが・・・とりあえず臭いぞお前の口」
突き放しとりあえず離れると改めて状況が悪化した事に項垂れる
Sランク冒険者2人に『理の内側』にいたかもしれない実力者・・・それに加えて魔人かよ・・・
「ギリスてめえ!1人で突っ走ってんじゃねえ!」
おお・・・それに加えて・・・ウォーレンだっけか?それに取り巻きの3人まで・・・何なんだこのカオスは・・・
「うるせえ!俺様に指図すんじゃねえ!」
「んだとコラ・・・やんのか?」
「な、何者だ貴様ら!」
「ギリス?・・・確かその名は・・・しかしあの風体は・・・」
おーおー、向こうも混乱を極めているな・・・この隙に・・・にゃろっ!
再び矢が襲いかかって来た
今度は大きく躱し痺れこそしなかったがもし他の奴らに攻撃されている時だったら躱せる自信ないぞ・・・
「・・・本当にコイツがあの・・・今の動き尋常じゃねえぞ?」
「あん?間違いねえ・・・コイツはロウニだ」
ロウニールだってえの!
「ならあの時捕まったのはわざとか?・・・まあいい・・・しかし本当すげえな・・・この状況で味方もなく1人で城を・・・女王を護ってたのか・・・」
「フン!ロウニならそれくらいやるさ・・・味方もいたがあの雑魚共じゃ足手まといにしかなるまい」
「・・・味方?」
僕の味方はサラだけのはず・・・そのサラは城の中だし・・・
「なんだ?ダチとか言ってたがあれは嘘か?男3人の女1人・・・旅人みたいな格好してたが・・・」
「旅人ってなんだよ・・・多分王都の冒険者だろ?あれは・・・Bランク冒険者の何とかって名乗ってたな・・・クソ弱いくせに喧嘩売って来やがって・・・」
Bランク冒険者?・・・・・・・・・
「まあそんな事はどうでもいい・・・さっさとカミキリマルを出せ!そしたら見逃してやる!」
王都の冒険者・・・Bランク・・・ダチ?
「・・・ガシャ達・・・か?」
「あん?・・・そういやそんな名前だったか?雑魚過ぎて名前覚える気にもなりゃしねえ」
「・・・」
「さてどうする?やるのか差し出すか・・・チッ!!・・・やる気かよ・・・」
「・・・手加減するのはもうやめだ・・・お前ら1回死んで来い──────」




