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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
400/856

396階 私のダカン

「一体何だったんだ?」


ガシャが呆れたように呟くとフランが頷く


「あれってラドリック将軍よね?大将軍だっけ?これから女王様を討伐に?・・・なんで今更・・・」


「『今更』と言うより『ようやく』じゃないか?これで少しは良くなればいいけどな」


「・・・だな」


「そうかぁ?女1人にいきがって軍で攻め込むのが正義かよ」


「『女』って付ける必要ある?・・・まあ私もガシャの意見に賛成だけどね。ちょっと演技かかってたしどうも好きになれないな」


「別にいいだろ?これで国が良くなるかもしれないんだし」


「けど・・・ねえ」


テリーとハンドは結果を求め、ガシャとフランはその過程をも気にしていた


そんな4人がラドリックが去った後を眺めていると突然背後から声を掛けられる


「なんだか騒がしいな・・・おいお前!何があった」


「あぁ?・・・」


ガシャが振り向くと背後には馬を引く5人組・・・その姿を見た瞬間にBランク冒険者ゆえの危機察知能力が話し掛けてきた男と最後尾にいる男は危険だと知らせる


自分より強い、と


「国が変わる・・・それだけだ」


いつものガシャなら喧嘩腰に返していた


しかし頭の中でガシャは疎かフラン達までやられる姿が浮かんできてぐっと堪え何とか返す


「国が?・・・まさか・・・おい!城はどこだ!」


「・・・ここを真っ直ぐ行って街を出れば城がすぐ見えるはずだ」


「よし!行くぞ野郎共!」


自分の不甲斐なさを感じ下を向き唇を噛み締める


そのガシャの耳に最後尾にいた男の言葉が届く


「ふざけるな!目的はサラとロウニのはずだ!」


「・・・サラとロウニ?・・・」


名前こそ微妙に違うが浮かんで来たのはあの2人


顔を上げると最後尾の男と話し掛けて来た男が言い争いをしていた


「同じ目的だから連れて来てやっただけだ・・・調子に乗るなよ?」


「連れて来て()()()だと?調子に乗るな三下が」


睨み合う2人・・・このまま2人がやり合うのを期待している事に気付く


「ハハッ・・・情けねえ・・・本当・・・やになっちまうぜ・・・」


「あん?」「あ?」


睨み合う2人が同時にガシャを見た


するとガシャは剣を抜き肩に担ぎ2人を睨みつける


()()を狙う奴を見過ごす訳にはいかねえな・・・Bランク冒険者ガシャが・・・てめえらを止めてやる──────」




「プッ・・・ハハハハッ!!橋にへばりつき派手に登場し何を言うかと思ったら・・・この人民を解放する為の聖戦を茶番にしているのは貴様だ!」


「へばりついていた訳ではない。ちゃんと立ってたぞ?」


暗歩を使ってな


完全に動きを止めた橋を渡りきると大地を踏みしめ僕を笑ったラドリックを見る


もう少しイタズラ(足止め)しても良かったが・・・まあ遅かれ早かれこうなっていただろうしまっいっか


「立っていた?・・・フン!そんな事はどうでもいい!貴様が女王の味方である事は分かっていた・・・だが仲間は集められなかったようだな。貴様1人で何が出来る」


「何でも」


「『何でも』?・・・クックックッ・・・ハーハッハッハッハー!この数を前にして何でも出来るとほざくか仮面!」


確かに気が大きくなっても仕方ないよな・・・背後には万を超える軍勢、僕の方は・・・一応振り返り確認したが0だ


けど・・・


「大勢を引き連れて調子に乗っているみたいだが所詮一度にかかって来れるのは10人くらいが限度・・・どれだけ数を用意しようと問題ない」


「バカか貴様は・・・確かに1人に対してぶつかる事が出来る人数はたかが知れている・・・だが直接ぶつかる人数に限りがあるだけで離れた場所から魔法や矢で攻撃する事も出来る・・・いや、それこそが得意分野と言うべきか・・・何せこの国は魔王国なのだからな」


武王国は武力で解決し魔王国は魔法で解決するってか?その名の通りと言えばそれまでだがありきたりでつまらないな


集まった兵士の中で確かに魔法使いは多いように見える。3分の1くらいが魔法使いか?魔王国を名乗るなら攻めて半数は魔法使いにしてくれと思うがな


それならもっと・・・楽だったのに


「だったらその魔王国とやらの実力を見せてくれ。・・・たった1人の女性を害す為にこれだけの数の人間を集める臆病者共め。誰にも頼らず孤独な戦いを続けてきた人に対する応えに俺が1人で応えてやろう。囀れ無能な馬鹿共よお前達は負けるのだ・・・たった1人の俺にな」


「・・・茶番はどっちだか・・・すぐに後悔させてやる!戦闘準備!この愚か者に正義の鉄槌を下せ!!」



寄り添う者は死んでいく


だから孤独になるしかなかった女王


だから今生きている者は全て敵



ラドリックの檄に反応し喚き向かい来る兵士達


知らぬとは言えお前達を・・・必死で守って来た女王に対する応えがそれか


守って来た女王に免じて命だけは助けてやる・・・全て終わった時に感謝しろ・・・守ってくれてありがとうと涙しろ


そして助かった命で償い仕えろ



お前達の女王は・・・俺()が命を懸けて守るに十分値する人物なのだから



「{跪け}」



殺到する兵士達



だが



戦場と化そうとしていたはずが一気に静まり返る



その光景は圧巻だった・・・何せ万を超えるであろう軍勢が一気に跪いたのだから



何だか少し偉くなった気分だ


このままずっと跪かせておければ良かったけど・・・まあそう上手くはいかないよな


「・・・何をした」


歩み寄る影がひとつ


僕の言霊を耐え抜いたって事はもしかしたら『理の内側』だった人間なのかもしれない



『氷盾騎士』シャス・クーデリ・アンキス


アネッサが敵に回さないに越したことはないと言っていた1人だ


「何も・・・もしかしたら俺の神々しさに跪きたくなったんじゃないか?」


「戯言を・・・これだけの人間を操れる能力など聞いたこともない・・・となると貴様・・・魔族か・・・」


「おいおい・・・こんな無垢な青年をつかまえて魔族だなんて・・・てかそこに辿り着くのが遅過ぎるだろ。親しくしている人が死ぬ・・・それを聞いてなぜその発想力を働かせないんだ?」


「世迷言は死んでから吐け!」


「死んだら吐けるかよ!」


剣を抜き斬りかかって来るシャスに合わせて僕は懐に飛び込み剣を持つ手を掴んだ


「くっ!」


「慌てんなよ・・・もう少し会話を楽しもうぜ?」


「ふざけるな!!」


「やっぱダメ?・・・って!」


掴んだ手が一瞬で凍り付く


慌てて離れるが手は凍ったままだ・・・冷たい・・・


「貴様とじゃれ合うつもりはない!一気に勝負を決めさせてもらうぞ!!」


シャスが叫ぶと巨大な氷の盾が僕の周りを取り囲む


「『氷盾壊々』!!」


ひょうじゅんかいかい?


どんな技か分からず首を傾げた瞬間、氷の盾からトゲ・・・いや氷柱が生え僕を目掛けて四方八方から飛んで来る


「こっ・・・マジか!?」


逃げ場は無い!なら・・・



「さて、皆はどうすれば元に戻るのか・・・うん?」


「・・・動ける・・・動けるぞ!よくやったシャス・・・あとは女王の元へ行くだけ・・・」


「ラドリック様・・・むっ!」


「お前盾の意味知ってる?氷柱なんか生やすなよ・・・お陰で言霊の効果が切れちまったじゃないか」


迫り来る氷柱の大群をゲートを使って抜け出して、ケリが着いたと油断していたシャスに一撃食らわしてやろうかと思ったけど・・・次々に立ち上がる兵士達を見て動きが止まってしまった


ハア・・・やっぱりやるしかないか


万の軍対僕1人・・・しかも殺せないという縛り付き・・・


頑張れ僕・・・やってやれない事はない


けど・・・


「ふぅ・・・死んでも恨むなよ・・・まとめてかかって来い!!」




「始まった・・・か」


窓から見える光景は本来なら目を覆いたくなるものになるはずだった


守るべき相手が牙を剥き殺意を持って雪崩込む・・・兵の数はパフォーマンスだというのは理解していた・・・乗り込んでくるのはおそらく数十人程度だったであろう


それでも万の殺意を受けながら迫り来る死の足音に耐えられるか自信がなかった


そんな彼女が窓の外を見てられるのは決して諦めず戦う者がいるから


「ロウニール・ローグ・ハーベス・・・と言ったか・・・なかなかいい男だなダカ・・・」


「あげませんよ?」


「話を最後まで聞け・・・『ダカンの次に』だサラ・セームン」


女王フレシアが窓から目を離し振り返るとそこには病に倒れていたはずのサラが立っていた


しかもメイド服ではなく武道着を着て髪を頭の上でお団子にしている・・・まるでこれから戦いに挑むかのような服装にフレシアは片眉を少し上げた


「驚かないのですね」


「彼奴には余裕があった・・・逆にそなたが無事でなかった方が驚きだ」


「そうですね・・・役者には向いてないようです」


「見た目が・・・か?」


「演技力が・・・です!」


2人は一瞬睨み合うがすぐさま同時に吹き出すと笑い合う


外ではロウニールが万の軍勢と戦っているにも関わらず・・・笑い合った


「久方振りだこれだけ笑ったのは・・・あの時は悪かったな・・・水をかけて」


「お陰で風邪を引いてしまいました・・・彼が治してくれましたけど」


「風邪・・・か・・・そうか風邪か。その風邪どうやって治した?」


「聖女様の・・・そして彼の献身的な看病によるものです」


「・・・その彼は一体何者なんだ?」


「彼は・・・」



話は3日前に遡る


それはロウニールがその日何度目かの見舞いに来て部屋の外に出た後に起きた


「ん・・・」


「ムッ意識が戻ったのか!」


「ここは・・・貴女は・・・」


「ここは城の医務室だよ・・・まあ名ばかりの研究所でもあるけどね。私はマリン・アン・メリア・・・この子はマーナだ。それよりどこも苦しくないのかい?アレは常に激痛が伴うはず・・・マナポーションを飲み続けたとしても緩和されるだけで今も痛みが・・・」


「・・・いえ痛みはありません。それにしてもアン・メリア・・・聖女様であられましたか・・・治して頂きありがとうございます」


「・・・は?いやいやいや私達は何も・・・本当に痛みはないのかい?」


「はい・・・まったく。でもおかしいですね・・・確か意識がなかった時に温かい何かが体の中に・・・」


「温かい何か?別にこれといって・・・まさか・・・いや・・・そんなはずは・・・」


「何か心当たりが?」


「ふむ・・・私達は特に変わった事はしておらん。数年ぶりのアレにかかった患者に対し出来る事などマナポーションを飲ませるくらいだった・・・しかし・・・」


「しかし?」


「これまでと違った事と言えばお前さんの主・・・恋人か?が足繁く通って手を握っていたくらいだよ」


「主・・・恋人・・・ロウニール・・・」


「おやおや本当に恋人だったんだね。誰かと尋ねたら『将来の旦那だ』なんて言ったけどどう見ても貴族とメイド・・・ただのおふざけかと思ったけど・・・」


「しょっ・・・そんな事を・・・」


「初々しいねぇ・・・まあでも関係ないか・・・さすがに『愛の力』なんて非現実的過ぎるしねぇ」


「・・・いえ、そうとも言いきれません。彼は今どこに?」


「多分すぐ戻って来るんじゃないか?邪魔だと怒鳴っても懲りずに来てたし・・・それにしても何か心当たりがあるのかい?そんな大それた者には見えなかったけどねえ」


「そうですか」


「・・・なんで嬉しそうにするんだい?貶した訳では無いけど褒めてもないよ?」


「独占欲・・・とでも言いますか・・・その・・・彼を理解しているのは私だけで良いと・・・」


照れながらサラが言うとタイミングよくドアが開きロウニールが部屋に戻って来た


「サラ!もう起きても大丈夫なのか?具合は・・・」


起きるのが分かっていた・・・そんな口振りにマリンとマーナは顔を見合わせる。そしてサラは・・・顔を真っ赤にして枕を掴みロウニールに投げた


「ぶっ・・・サラ???」


「タイミングが悪い!まったく・・・それで?どうやって私を治したの?白状しなさい!」


「え・・・えぇ・・・」


なぜ怒られているのか分からずに困惑するロウニールだったがマリンとマーナの期待を込められた目で見つめられ怒りの原因は置いといて自分がサラに何をしたか正直に話した



「・・・魔族の魔力・・・それが体内に侵入し攻撃を・・・けど『真実の眼』でも見分けられなかったのに・・・」


「魔力は魔力だからね・・・魔族の魔力と言っても色が付いている訳じゃないし」


「ならお前さんはどうやって・・・」


「サラに魔力を流し込んで攻撃してくる魔力を攻撃し続けただけ・・・けどなかなか本体が見つからなくて・・・」


「本体?」


「媒体を通して魔力を送る為の繋がりを持つ・・・それがこの魔族のやり方で一度繋がりを持つと死ぬまで敵意を持った魔力を送られる。その繋がり・・・魔力を受ける本体を探して潰さないといくら魔力を取り払っても意味がない」


「なぜ・・・先程魔力は見分けられぬと言ったはずだ・・・なぜお前さんはそれが出来るんだい?」


「言ったろ?攻撃し続けたって。そしたらやっと辿り着いたって訳だ」


「ふむ・・・それは私達にも出来るのかい?」


「無理だな」


「なんと・・・では他に出来る者は?」


「おそらく私にしか出来ない」


「・・・つまり魔蝕に対する私達のようにこの病は・・・」


「安心してくれ・・・もうこの病は二度と蔓延しないから」


「なに?」


「反乱が起きようとしている・・・だからか兵士達は女王を放ったらかして城から出て行ってしまっているらしい。残っているのは僅かだ・・・そして魔族はおそらくその中にいる。大勢残ってたら無理だけど少なくなった今なら探すのも容易いはずだ」


「なぜ城に残っていると?」


「まず前提として魔族の能力・・・つまり病を振り撒くには媒体である女王の近くにいる必要がある。それと事が成ろうとしている時は高みの見物と洒落込むはずだ・・・より近くでね」


「なるほど・・・少し魔族に対しての知識があり過ぎるのも気になるが今はそのような事は気にしている場合ではないな・・・」


「ああ。だから私が魔族を・・・」


「待って!」


「・・・サラ?」


「私に・・・私にその魔族を任せてくれない?」


「いやでも・・・病み上がりだし・・・」


「・・・それでも私が・・・私と彼女がやらないといけない気がするの・・・だから・・・」


「彼女?」


「ええ・・・私と・・・女王様──────」




「それで妾の元に・・・だが質問の答えにはなっておらぬぞ?彼は何者なのだ?」


「彼は・・・ダカン・・・私にとってのダカンよ──────」

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