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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
4/856

1階 第一号

「よくぞみんな頑張った!これからそれぞれ違う道を歩むことになるが決してこれまで学んだ事を忘れず胸を張って各々の道を突き進んでいってくれ!」


戦闘職の担当をしているバーセル先生が十五歳になった人を集めて熱く語る


就職先は様々だがほとんどの人が冒険者となり村から出て行く事になる


なぜなら村の近くにダンジョンがなく、村には冒険者ギルドもないからだ


冒険者が主に主とする仕事はダンジョンに潜り魔物を退治してその核を集めたり宝を手に入れて財を手にしたりするものだ。なので村の近くにダンジョンがないと冒険者は生活出来ない為にダンジョンが近くにある村や街を拠点にして活動するのが基本である


当然ダンジョンが近くにないと冒険者ギルドも存在しない


冒険者ギルドは冒険者に依頼を斡旋したり魔物の核を買い取ったりするのが主な仕事でやはりダンジョンが近くにないと成り立たない為に存在しないのだ


この村にダンジョンがあると知ったらみんなはどんな顔をするだろうか・・・けど今は言えない・・・まだまだ手直しが必要だし魔物も存在しないダンジョンなんて無価値だ。オープン出来るのはいつの日だろう・・・その日が待ち遠しいな


「ダンはダンジョン都市アケーナに行くんだって?この村の出世頭になるのは間違いないな・・・期待しているぞ」


「はい!」


ダンが力強く返事をすると周囲からは自然と拍手が巻き起こる


ダンジョン都市アケーナ・・・街の中にダンジョンがある為にダンジョン都市と言われている街だ


ダンジョンがあるお陰でどの街よりも発展し活気づいているって聞く


この国フーリシア王国にはいくつもの街や村が存在するが街の中にダンジョンがあるのは今のところアケーナだけらしい。なのでアケーナには冒険者が集う


ただ実力のない冒険者にはそういった活気のあるダンジョン攻略は難しい


と言うのもダンジョンのほとんどは低階層に出て来る魔物が弱く中階層、高階層に進むにつれて魔物の強さが上がっていく。なので冒険者になりたての人は低階層で自らを鍛えて中階層、高階層に挑戦するのが望ましい


だけど活気のあるダンジョンでは低階層の魔物などほとんど狩り尽くされてしまっているのだ


初めて出会った魔物が中階層の魔物・・・なんて事が起きる可能性すらある


そうなれば全滅必至・・・逃げるのが関の山である


だから活気のあるダンジョンには余程自信のある者か経験者が潜るのが望ましく、実力のない冒険者には厳しい現実が待っているのだ


「ダンなら現地の冒険者から引く手数多だろうからな!羨ましいよまったく!」


「初心者には難しいダンジョンも才能ある者には金の成る木・・・稼いだら奢ってくれよダン!」


みんなが言うようにダンなら現地の冒険者に誘われる可能性が高いだろうな


基本冒険者はソロではなくパーティーを組む


仲間を守るタンカーに近接攻撃主体のアタッカーと遠距離攻撃に優れたアタッカー、それに回復役のヒーラーが基本構成となる


ダンはその中でタンカーとしての素質がある


ダンがタンカーとして冒険者ギルドに登録したらすぐに誘われるだろう・・・なぜならタンカーは入れ替わりが激しいからだ



パーティーに1人犠牲が出るとしたらタンカーであれ


もし他の者が死にタンカーが生き残ったらそれはタンカーの恥である



そんな考え方が浸透している為に手に負えない魔物が現れたら真っ先に死ぬのはタンカー・・・『ここは俺に任せて先に行け』を地で行く悲しいジョブなのだ・・・


「ダン・・・死なないでね」


「俺が死ぬかよ。でかい功績を挙げて戻って来る・・・アケーナダンジョン踏破っていう功績を、な」


くっ・・・ペギーちゃん・・・そんなうるうるした目でダンを見つめないでくれ・・・


それにしてもダンジョン踏破だって?アケーナダンジョンは途方もない階層があるって聞く・・・多くの冒険者が挑んでも踏破出来てないのにまだ冒険者にもなってないダンには無理だろう・・・でももしダンがアケーナダンジョンを踏破してこの村に戻って来たら──────



「戻ったぜペギー・・・約束通りでかい功績を挙げてな」


「ステキよ!ダン・・・私と結婚して!」


・・・なんて事になるかも・・・それだけは避けなくては!


《あんな女のどこがいいのよ》


僕の妄想を見透かしたのかダンコが不機嫌そうに呟く


そりゃあどこが良いって・・・つぶらな瞳に少しふっくらとした体型とふくよかな胸・・・とても口に出しては言えないけどいくらでも良い所はある


内面もおっとりしているように見えて友達想いの優しい性格だし面倒見も良くて・・・


「・・・ニール・・・ロウニール!」


「は?はい!」


バーセル先生に大分前から呼ばれていたらしい


全員の視線が僕へと向けられていた・・・もちろんその中にはペギーちゃんの視線も・・・


「残留の申請が出ていたが・・・ロウニール・・・君にはこの村の兵士となってもらう」


「へ?そんな・・・」


ここから僕のターン・・・ダンジョンが軌道に乗れば魔法や魔技が使えるはず。そうなればバラ色の学校生活が待っているのに・・・。ちなみにペギーちゃんも残留申請しているのは調査済み・・・邪魔なダンがいなくなりやっとっていう時に・・・


「君がこれまで努力をしてきた結果、残留を望むなら俺も認めよう・・・だが君は授業に集中せずやる気もみられない・・・才能という言葉で片付けたくはないが・・・・・・才能もない」


グサッ


だからそれはダンジョンが・・・なんて言える訳もなくバーセル先生の言葉に俯く事しか出来ない


みんなの視線が痛い


恐らくバーセル先生が言った事をここいる全員が思っているのだろう。同情や蔑むような視線・・・戦闘職クラスの落ちこぼれと言われているみたいだった


「残留すれば年下の子達と学び続ける事になる。模範的な者なら歓迎だが君は・・・分かるな?」


「・・・・・・はい」



こうして僕の就職先は決まってしまった


村の兵士・・・別に村の兵士が嫌な訳ではない。今の評価のまま就職してしまうと使えない奴のレッテルを貼られ雑用など嫌な仕事を押し付けられるに決まってる


もしダンが兵士を望めば出世コース間違いなしだろう。数年で配下を持ち、更にしばらく経てばこの村の兵士を率いる立場になるはずだ


小さい村の兵士長とはいえ給料もそこそこいいと聞くし責任ある立場は憧れもする


けど僕の場合は・・・




家に帰って兵士になった事を報告したら家族に喜ばれた


妹は既に学校に入れる年齢だったが僕の存在がネックになっていて学校に入るのを躊躇していた。つまり妹が喜んでいるのは()()()()()()


父ちゃんはまだ帰ってなかった。母ちゃんは『今晩はご馳走よ』とはしゃいでいる。兵士になった者はしばらくの間兵舎に住むことになる。つまり()()()()()()


喜んでいる顔の裏の悪意に吐き気がして食事は要らないと自室に逃げ込んだ


《・・・ロウ・・・》


「慰めはいらない・・・分かってたからショックは軽いよ。どこで間違えたのかな?・・・僕は・・・」


《・・・》


もし僕がダンコを拾ってなければ・・・飲み込んでいなければ違う未来があったかもしれない。それはずっと考えていた事・・・でもそんな未来は望んでも訪れない・・・だから歯を食いしばって前を向こう・・・前に進もうと頑張って来たけど・・・



コンコン


ノックの音


振り向くとドアが開き仕事中であるはずの父ちゃんが立っていた


父ちゃんも喜んでくれるのかな?


妹が学校に通えるようになる事を?僕が家から出て行く事を?


「・・・ロウ・・・すまなかった」


「え?」


予想外だった


なぜ父ちゃんは謝っているんだ?意味が分からない・・・


「・・・あの時俺が手を離さなければ・・・。気付いていたんだ・・・あの夜・・・あの誕生日の夜にロウが居なくなり必死になって探して見つけた後から・・・様子がおかしいと・・・まるで我が子でなくなったような・・・それまで理解出来てたはずなのに急に理解出来なくなった・・・でもそれを口に出すと何かが壊れてしまうような気がして・・・これまでその話には触れずに過ごして来た・・・もしあの時俺が手を離さなければロウは・・・」


「・・・」


違う・・・父ちゃんのせいじゃない・・・僕が勝手に広場に行ったから・・・


そう言おうとしたけど声に出ない


言ってしまうとダンコの事を話さないとならなくなると思ったからだ


何もなかった・・・あの時がきっかけじゃない・・・それでいいんだ・・・


「・・・今晩はご馳走だぞ?兵士になるのだから体力をつけないとな・・・お腹が空いたら降りて来い・・・」


父ちゃんが背中を向ける


その背中に思わず手を伸ばすが途中で思い直し手を引っ込めた


「・・・ん?どうした?」


「なんでもないよ・・・父ちゃん」


振り向いた父ちゃんに首を振る


父ちゃんはそんな俺を見て軽く首を傾げると部屋を出て行った


《・・・ロウ・・・》


「分かってる・・・誰にも言わないよ。もし僕の中にダンジョンコアがあると知られれば僕達はいい実験台となって生涯を終えるだろう・・・そんなのは御免だ」


ダンジョンは金の成る木だ。もし自由にダンジョンを手に入れられるとしたら?普通に国が動く案件となるのは目に見えている。国が動けばこう考えるだろう



『僕みたいな人間を量産出来れば・・・』と



そうなると僕を色々調べるに違いない。死ぬまで実験される人生なんて・・・絶対イヤだ!


《行こうロウ!今日はお待ちかねの・・・アレをやりましょう!》


僕がバレた時の事を考えて怯えているとダンコはそれを気遣ってか明るい口調で言った


お待ちかねのアレ・・・そうか・・・ついに!


バレた時の事なんて吹っ飛んでしまった。とうとうアレを・・・僕の手で生み出す事が出来るんだ!


外はまだ宵の口・・・広場には人通りもあるはずだ


逸る気持ちを抑えながら僕は夜が更けるのをじっと待った・・・そして──────



夜も深まり人気がなくなったのを確認して家を出た


広場に直行し誰も居ないことを確認すると中央付近で地面に手をつく。すると吸い込まれるような感覚と共に視界が広がりあっという間に司令室へと辿り着いた


「ダンコ!早く!」


《慌てないの。自分でやってみなさい・・・もう何となく分かってるでしょ?やり方は》


そう・・・不思議だけど何となくやり方が分かるんだ


僕は頷くと両手を前に突き出して念じ始める


アレ・・・ダンジョンに付き物のアレ・・・ダンジョンと言えばやっぱり・・・魔物!


散々ダンコから聞いてた魔物


大きいものから小さいもの、凶暴なものや大人しいもの、知的なものや愛らしいも・・・そんな魔物を僕が生み出すんだ!


《どんな魔物でもいいけど下級限定ね。中級以上はアナタには早過ぎる》


「分かってる・・・それに初めての魔物はもう決めているんだ。ダンコから聞いた中で一番ピンと来たのは・・・この魔物だ!」


10年間溜めたマナを使い初めての魔物を生み出そうとしてる。興奮と緊張が入り交じり、今日あった出来事なんて全て忘れてしまった


今は・・・目の前で徐々に姿を現すものに集中した


分かる


もうすぐ会える


僕の初めての魔物



その魔物はダンジョンクリーナーと呼ばれている



ダンジョンを徘徊するとその魔物が通った道は綺麗になるからだ



子供でも倒せると言われている



攻撃力が皆無で防御力も最弱に近いのだとか



そんな魔物を・・・僕は生み出してみたかった



「さあ出て来い・・・このダンジョンの・・・僕の魔物第一号・・・いでよ!──────スライム!!」

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