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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
399/856

395階 最期の嘘

「一体1日に何回来る気だい!治療の邪魔だよ!帰んな!」


「治療って・・・ただマナポーション飲ませているだけじゃないか・・・」


「その間に!治そうと必死に努力しているように見えないのかい!いいからさっさと出て行きな!気が散って仕方ない!」


クソババアめ・・・本当に元聖女か?


心配で心配で仕方なくて会いに来ているだけなのに追い出すなんて・・・聖女なんてとんでもない鬼女だ鬼女


「おや?また来られてたのですか辺境伯閣下」


「マークさん・・・この中には入れさせん!」


「入りませんよ・・・少し歩きながらお話しませんか?」


元聖者・・・マリンの息子でありマーナの父親のマークはそう言うと歩き出す


仕方なくついて行くとマークは無言で城内を歩き続ける



マークと出会ったのは今日の・・・3回目のお見舞いの時だ


あろうことか寝ているサラの近くに居たもんだから殺してしまおうかと思ったがマリンに止められた


『必要だから居るんだよ!治したくないのかい!!』


と怒鳴られて



「どうです?」


「ん?何が?」


歩いているとふいにマークが僕に尋ねる


「城を歩いていて何か感じませんか?」


特には・・・あれ?そう言えば・・・


「人が・・・少ない?」


兵士に見つかっても言霊で何とかなると気にもしていなかったけど・・・巡回する兵士も掃除する侍女も気付いたらそこにいる執事も・・・居ない?


「ええ・・・もうすぐ始まるようです」


「何が?」


「反乱・・・粛清とも言えますか・・・」


「粛清・・・だと?」


「怖い顔をしないでください・・・彼らが言っている言葉をそのまま言っただけです」


ついに反女王派が動き出す・・・と言ってもほとんどか


やけに人が少ないのは巻き込まれないように退避したか・・・どうやってやるつもりか知らないが堂々としているな


「マークさん達は逃げないのか?」


「患者を放ったらかして逃げても?」


「・・・サラの為に残ってくれているのか?」


「彼らの狙いは女王陛下です。それに私達は唯一魔蝕を治せる者・・・私と母はどうなるか分かりませんがマーナは丁重に扱われるでしょう」


「そうか・・・しかし『狙いは女王』なんてよく言えるな・・・一応まだこの国の王だぞ?」


「誰も聞いてませんよ・・・聞いたところでって話ですし」


「・・・まあね・・・」


女王に味方はいない・・・か


「そこで相談なのですが・・・サラさんをどうされますか?」


「あ?」


「ちょ、違いますよ!・・・私達は残る覚悟は出来てます・・・マーナが無事ならばそれでいいので・・・しかしサラさんは・・・雪崩込む兵士達が暴徒と化せばどうなるか・・・」


「城に兵士が雪崩込む?」


「えっと・・・話しましたよね?反乱が起きると」


「だから?」


「だからってあの・・・」


「マークさん達は治療に専念してくれ。あとは全て私がやる・・・あっ、治療の時は入るなよ?サラの裸を見ていいのは女か私だけだ」


「へ?・・・そんな事を言っている場合じゃ・・・」


「彼女が病になった理由・・・そして私から離れてでも女王を救おうとした理由・・・そのふたつは一緒だ」


「え?」


「病が彼女を・・・この国を滅ぼそうとするのなら・・・()が阻止してやるよ・・・何度でも、な──────」





サラが倒れてから・・・ずっと考えていた事がある


なぜサラだったのか


別に女王と親しくも何ともないはずだ


けど最後に彼女は『どうしても女王を助けたい』と言っていた


なぜだ?


他国の・・・そんな関わりがある人でもない・・・アネッサに頼まれたからと言ってもアネッサとも付き合いはない


ならなぜ命を懸けてまで?


それは多分・・・


「よお女王!」


「・・・えらく馴れ馴れしくなったものだな・・・まあよい、まだ探せておれぬぞ?」


「だろうね・・・で?何を見ているんだ?」


「壮観だぞ?そなたも見るか?」


執務室に来ると窓の外を眺めている女王・・・彼女は横にずれ僕にその景色を見せようとする


僕は窓際まで進むと・・・女王が見ていた景色を見て息を呑む


「こりゃまた壮観だね・・・戦争でも始めるつもりか?」


窓の外には万を超える兵士が城に向けて進軍する姿・・・耳をすませば地響きと共に軍靴の音が鳴り響いていた


「・・・すまぬな・・・この3日探しはしたが無理であった・・・もうこの城にはおらぬかもしれん」


「どうだろう・・・そうかもしれないな」


「・・・そうか・・・もう諦めていたか」


「誰が?諦めるわけないだろ?俺の最愛の人だ・・・誰が諦めても俺だけは諦めない」


女王を真っ直ぐに見つめてそう告げると彼女は苦悶の表情を見せた


「ならばなぜ!なぜそうあっけらかんとしていられる!」


「この3日間・・・ずっと考えていた」


「なに?」


「最初は心配で心配で・・・ずっと寝ずにどうすればいいか考えていた・・・敵がいれば殺せばいい・・・けど考えても考えても敵の姿が見えやしない・・・怒りが全身を包み込みいっそこの国を滅ぼしてやろうかとも考えた」


「・・・」


「で、考える内にふと疑問に思った・・・ここ最近かかる者がいなかった病になぜサラはかかってしまったのか・・・原因なんてどうでもいいと思ってたけど気になってしまったんだ」


「・・・」


「アンタは分かっているんだろ?だからあえて反対されるようなことばかりしてきた・・・そうだろ?」


「・・・」


「魔族の名はベルゼブブ・・・媒体を探しその媒体と同調するものを攻撃する最低最悪な魔族だ。媒体となった者の親しい者は知らず知らずの内に死んでいく・・・普通は耐えられないはずだ・・・立派だよ」


「・・・皮肉か?」


「いや、素直な賞賛だ・・・けどアンタに対する・・・ではないけどな」


「言っている意味が分からんな」


「そうか?じゃあ細かく説明しよう・・・事の始まりはダカンの死だ」


「もういい!早う逃げろ・・・すぐに跳ね橋はおり攻め込んで来るぞ」


「・・・いつの間にかベルゼブブの媒体となったアンタの周りは次々に死んでいく。恋人も・・・両親も・・・他の人達まで・・・」


「ロウニール!!」


「名前覚えててくれてたんだ・・・まあそんな事はどうでもいいか・・・来る日も来る日も近しい人が死んでいく・・・そんな中でアンタは気付いた・・・病になる原因に」


「・・・」


「気付いたからと言って相談出来ない・・・そりゃあそうだアンタに同調した者は死んでしまうのだからな・・・相談したら相談相手も死んでしまう。そう考えたアンタは実に見事な手を思いついた・・・同調した者が死ぬのなら同調しないような行動や言動を取ればいい・・・とな」


「・・・」


「さぞ孤独だったろうよ・・・さぞ辛かったはずだ・・・やりたくもないことをやらなきゃいけない・・・そうしなければ人が死ぬのだからな。けどアンタはやり遂げた・・・ここ数年病が出なかったのはアンタの努力の結晶だ・・・けどそんな時に現れてしまった・・・アンタに同調する人が・・・」


「・・・」


「サラ・セームン・・・俺の最愛の人だ・・・彼女はアンタに同調してしまった・・・水をぶっかけられたにも関わらずにな」


「・・・」


「嫌われようとした・・・けど嫌われなかった・・・あまつさえ同調までされて数年ぶりの病が出てしまう・・・アンタの頑張りは無駄になったって訳だ」


「ふっ・・・もういい・・・そなたもしょせん同じだ・・・最愛の人?笑わせるな・・・上っ面だけの・・・本当にどうしようもない・・・」


「この国に入ってすぐにアネッサに会った」


「・・・まだ続けるか・・・もはや聞く耳持たん」


「アネッサは言ってたよ・・・俺達と2人はよく似てるって」


「・・・」


「2人ってのはもちろんダカンとアンタだ・・・どこが似てるのかその時は分からなかったけど確かに似てるわ」


「・・・」


「なあ・・・本当は気付いているんだろ?なぜ認めない?なぜ分からないフリをする?ダカンはきっと・・・」


「知らぬそなたがあの男を語るな!何が『ダカンはきっと』だ!そなたらと似てる?ああ、そうだろうな!病に苦しむ最愛の人がおるのに飄々としているそなたとあの男は確かに似ておるわ!」


「そう?それは嬉しいな」


「おのれ・・・」


「ダカンは言った『大嫌い』だと。その言葉はそれまでの2人の関係を否定する言葉・・・」


「そうだ!あの男は過去も現在も全て切り裂いて逝ったのだ!全て嘘・・・全てがデタラメだったと私に告げて逝ったのだ!」


「ならどうして病に倒れた?」


「っ!それは・・・」


「それも嘘か?デタラメか?同調せねば病にならないはずだろ?ならどうしてダカンは真っ先に病に倒れた?もう理解しているはずだ・・・自分で立証したじゃないか・・・同調しなければ病にはならない、と。だったら分かるっているはずだ・・・ダカンが同調したからこそ病に倒れた、と」


「・・・だったらどうして!どうして最後の最後であのような事を言ったのだ!病の原因が妾にあると気付いて呪いの言葉を吐いたと言うのか!」


「そうだ」


「なっ・・・」


「呪いの言葉・・・ぴったりじゃないか。けどその呪いの言葉で呪われたのはアンタじゃない・・・ダカンだ」


「っ!・・・」


「この3日間で俺も考えた・・・彼女がもしって言うのは考えたくないしこれからも考えない・・・けど俺がもしって言うのは結構深く考えられた。俺がもし死んだら・・・彼女はどうなるか。俺は死ぬ間際彼女に何を伝えるべきか・・・これまでの気持ち?今の気持ち?それとも・・・これからの彼女を想っての気持ち?」


「・・・」


「俺が愛を囁けば彼女もきっと囁き返してくれるだろう。そして俺は幸せを噛み締めて逝く事が出来る。でも残された彼女は?俺の言葉を糧に生きていけってか?違うだろ?もし彼女が自分と同じように死が近いならそれもいいだろう・・・けどまだ先が長ければ長いほど彼女を苦しめる時間は長くなるかもしれない・・・それならいっその事嫌われてやろう・・・恨まれてもいい蔑まれてもいい・・・彼女があまり時間をかけず立ち直るなら・・・呪われてもいい」


「・・・」


「ダカンの気持ちはよく分かる・・・彼女の幸せが自分の幸せでもあるから・・・ただ誤算はそれからも死の連鎖が続いた事だ・・・立ち直るきっかけがないままずっと・・・」


「・・・何が『ダカンの気持ちはよく分かる』だ・・・何も知らないクセに・・・」


「言ったろ?俺達とアンタ達はよく似てるって・・・アネッサさんのお墨付きだ」


「・・・くっ・・・そんな事・・・違う!違う!!ダカンはそんな事・・・」


「最後の顔は恨みたっぷりだったか?」


「彼の顔は・・・彼の顔・・・」


「俺ならきっと満足気な表情で逝くと思う・・・そしてきっと・・・」


「違う!!そんなものは望んでいない!!あの日々を否定するような事など・・・最後に言って欲しいなんて・・・望んでない!!」


「ああ・・・だろうね。最後の最後ですれ違いだ・・・アンタは過去を大事にし彼の今を案じた。彼はただアンタの未来を案じただけ」


「そんなの独りよがりだ!はっ!笑わせる・・・そんなんで救ったとでも思って逝ったかと思うと乾いた笑いしか出て来ない・・・妾の・・・私の聞きたかった言葉は呪いの言葉なんかじゃない!ただ一言でいい・・・愛していると言ってさえくれれば・・・」


「何言ってんだ?彼は言ったじゃないか・・・愛より深い大嫌い(愛してる)って」


「・・・」


彼の想いに気付いて彼を心の底から尊敬した


もしかしたら僕は言えないかもしれない。いやきっと言えない・・・けど彼は言ったんだ・・・大嫌い(愛している)と・・・


尊敬するよ本当・・・だからもう・・・終わりにしよう


「女王の目にも涙・・・か」


「・・・泣いてなどおらぬ!・・・・・・そなた・・・仮面をつけて何をするつもりだ」


「ちょっと野暮用でね・・・それはそうとちゃんと魔族の奴始末しといてね・・・時間は俺が稼ぐから」


「は?ちょっと待て・・・時間を稼ぐ・・・だと?」


「いいからいいから・・・ちなみに俺の予想じゃ魔族の奴は高みの見物でもしているんじゃないかな?ようやく理想の展開になりそうだからね」


その時外から大きな音が鳴る


おそらくこの音は・・・


「っ!・・・跳ね橋が・・・」


「頼んだよ・・・そんなに長くは保たないかもしれないから・・・」


「待て!一体何を──────」




「ラドリック様・・・予定よりかなり早かったですね」


「シャスか・・・少々邪魔が入ってな」


「?・・・邪魔が入ったのなら普通遅れるのでは?」


「逆だ。邪魔が入るという事はまだ女王派がいるという事・・・ならば急がねばならないだろう?勢力が膨れ上がる前に仕留めねばならん。民へのアピールは終わった・・・後は城に乗り込み陛下を・・・」


ラドリック達は馬に逃げられた後、たまたま通った行商に便乗し次の街へ


そしてすぐに新たな馬を購入し急ぎ王都に向かった


その途中、冒険者ギルドに寄り到着に合わせて作戦を決行するよう伝えていた


そして今日・・・ラドリックは早まった予定通りに到着し、王都にて女王討伐宣言を城前に集まった兵士達と合流し今に至る


「王都から期待する声援がまだ聞こえる・・・まあ兵士達は突入させるつもりはないがな・・・俺とお前・・・後は2、3人で事足りるだろう」


「・・・ならばなぜ兵士をこれだけ集めたのですか?」


「アピールだよ。これは単なる反乱ではない・・・郡の総意であり正義はこちらにあるという、な」


「そう・・・ですか・・・あ、跳ね橋が下ります」


「ようやくか・・・長かった・・・とうとうこれで・・・ん?」


跳ね橋がゆっくりと下りてくる


ラドリック達は乗り込む人員を決めて橋がかかるまで待っていると先頭にいたラドリックが異変に気付いた


「なんだ・・・っ!・・・あれはあの時の・・・」


橋が水平に近くなり見えたのは橋の上に立つ人影


ラドリックはその人影に見覚えがあった


()()・・・邪魔をする気か!仮面の男!!」


「久しぶり・・・てか邪魔言うなよ・・・俺は終わらせたいだけだ・・・この茶番をな──────」

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