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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
397/856

393階 最期の言葉

シャリファ王国王城──────


侍女であるエバ・ノークスが城内で歩いているとどこからともなく声が聞こえた


『いた』


その声は地獄から這い出ようとする悪魔の如く暗く念の籠った声・・・エバは恐怖しその声の主を探そうと辺りを見回していると突然目の前が別空間と繋がり声の主が姿を現す


「サラはどこだ?どこなんだ?」


突然の来訪者に言葉を失うエバ・・・その彼女の肩を掴み声の主は脇目も振らず彼女を揺らす


「ちょ、ちょっと待って下・・・あ・・・貴方様はあの時の・・・一体どうやってお城に・・・」


「そんな事はどうでもいい・・・君だろ?サラに『助けてくれ』と言ったのは・・・ならサラの事を知ってるはずだ・・・彼女は今どこにいる!」


「・・・サラさんは・・・」


伏せ目がちの彼女が指差したのは近くの扉だった


声の主・・・ロウニールはエバの肩から手を離すと一目散にその扉に手をかけ一気に開け放つ


「サラ!!」


「・・・なんだい?騒々しい・・・」


ロウニールの目にまず飛び込んで来たのはサラではなく老婆だった。彼はその存在を無視して部屋の中を確認すると・・・


「サラ!!」


ベッドに横たわるサラを見つける


見つけた瞬間に駆け寄ろうとするがそれを先程の老婆と1人の少女が間に入りロウニールの行く手を阻んだ


「・・・退け・・・」


「す、凄んでもダメです!ダメなものはダメです!」


「・・・」


「ダメで・・・ふええんおばあちゃんこの人怖いです・・・」


「『ふええん』じゃないよいい歳した娘が・・・で、お前さんはなんだい?いきなりやって来て無作法にも程があるよ!」


「その人は()の大事な人だ」


ロウニールは視線をベッドに横たわるサラに向けて呟いた。すると老婆と少女が顔を顰めベッドに振り返る


「・・・そうかい・・・」


「何があった?なぜサラは・・・」


「『氷呪』・・・と言えば分かるかい?」


「っ!」


『氷呪』・・・そう言われてロウニールの顔は青ざめる


あの病に名は無い


だがまことしやかに人々に噂されている・・・病ではなく呪いだと


そしてその呪いを人々に振り撒いているのはこの国の女王であると


そうして付いたあだ名が『氷呪の女王』である


毎日あった連絡がなく、ベッドに横たわるサラ、そして『氷呪』と聞けば簡単に想像がついた



サラがあの病を患ったのだと



「・・・ち、治療は・・・」


「聞いてないのかい?あれは不治の病だよ。私達ですら何も出来ない・・・やれる事はマナポーションを飲ませて痛みを和らげてやる事くらいだ」


「・・・『私達ですら』?」


「そうさ。この国に私達以上の治癒士がいるなら連れて来いって言うんだ。見た目は枯れても癒しの力は枯れてはないよ」


「癒しの力・・・聖女・・・」


「御明答・・・私は()だけどね。今はこの子・・・マーナ・アン・メリアが当代の聖女さ──────」




僕はベッドに横たわり眠るサラの手を握り老婆・・・マリンの話を聞いていた


どうやら一昨日の晩・・・おそらく僕との連絡を終えた後でサラは突然倒れてしまったらしい


症状から担ぎ込まれたのは病を研究する機関・・・聖女達がいるこの部屋だったらしい


「本来はマーナの父であり私の息子マークも居るんだけどね・・・患者が女性って事で今は席を外させている。要らない配慮だったかい?」


「いや、配慮に感謝する・・・下手をすれば元聖者をこの手にかけなければならないところだった」


「脅すねえ・・・マークは患者の裸なんて腐るほど見て来たはずだよ・・・一応は配慮したけど必要なら診せるつもりだけど・・・」


「・・・本当に必要なら構わない。必要ならね」


「念を押すな若僧・・・これでも女だ分かっている」


「そりゃあどうも・・・で、間違いなくサラは例の病に?」


「数年ぶりだけど間違いないよ・・・『真実の眼』でも確認した。それに特効薬って訳じゃないけどマナポーションが効いたのもそれを裏付けているしね」


くっ・・・やっぱり強引にでも潜入なんてやめさせるべきだったか・・・いや、後悔しても遅い・・・今は・・・


「治る見込みは?」


「ないね」


「・・・ハア・・・分かった」


僕はサラの手を離し立ち上がると部屋の隅っこにいるエバを見た


「女王の所に案内してくれ」


「・・・へ?へ、陛下の所・・・ですか?」


「今の段階で唯一の手掛かりは女王だろ?直接話を聞いてみる・・・それとマリン」


「・・・なんだい?」


「マナポーションの在庫は?」


「ほぼ底を尽きている状態だね。なけなしのポーションはもう与えちまったしね」


「なら・・・」


僕はゲートを開き倉庫から在庫としてとってあったマナポーションを全て取り出した


「足りなくなったらすぐに知らせてくれ。これにマナを流せば私に繋がる」


「通信道具・・・マナポーションといい今のゲートといい・・・お前さん一体何者だい?」


「・・・私は・・・彼女の将来の旦那だ──────」




彼女の傍に居たい・・・が、それでは何も変わらない。今は僕の出来る事を最大限やるだけ・・・たとえそれで何が起きようとも・・・やるだけだ


「こ、こちらです・・・」


「何者だ!」


エバの案内で辿り着いた部屋の前には護衛と思わしき兵士が2人僕を見て持っていた槍を構える


訳を話して通してもらう時間すら惜しい・・・かと言って無駄に命を奪うつもりもない


「{跪け}」


「なっ・・・がっ!」


2人が言霊により跪くのを横目に僕は部屋のドアに手をかけ一気に押し開く


「・・・お久しぶりです女王陛下」


「外が騒がしいと思ったらそなたか・・・面会の予定はなかったはずだが?」


椅子に座り書き物をしてた女王は書類から目を離し僕を見る


慌てた様子は微塵もない・・・無表情のまま僕を見ただけ


「そっちに予定はなくてもこっちにはありましてね・・・今日は私も雑談に興じるつもりはありません。単刀直入に聞きます・・・病の原因は何だ?」


「・・・なに?」


「知っている事を全て答えろ。嘘偽りなくな」


「・・・何故だ・・・何故急に・・・」


「聞いてないのか?1週間ほど前からここで侍女として働いていた女性・・・その女性が病に倒れた。世間で言う『氷呪』だ」


「っ!・・・まさか・・・そんな・・・」


ようやく表情を見せた女王の顔は悔しさに滲んでいた。なぜ悔しがるのか・・・今の僕には理解出来る・・・


「時間が無い・・・どこに魔族はいる?」


「!?・・・何を・・・」


「前に謁見した時は表情一つ変えなかったのに今日は色んな表情を見せてくれるな・・・誤魔化そうとしても無駄だ。病の正体は魔族の能力・・・媒体は女王・・・アンタだろ?」


病は魔族によるもの・・・それは病にかかったサラの手に触れダンコに探らせて判明したものだ。半眷族とも言うべきかサラは僕の影響を受けている。そのサラの体内に僕以外の気配を感じたらしい


では女王が魔族なのでは?・・・そう思ったがダンコの推理では違うとのこと・・・なぜならこういった姑息な手を使う魔族はほとんど表舞台に出ず裏から人間を操るのだとか・・・ダカンや両親を殺し近い者を殺せば自ずと女王は疑われる・・・姑息な魔族はそんな事はしないらしい・・・ラズン王国でも経験したし納得だ


「・・・何を知る・・・」


「質問しているのはこっちだ。知っている事を全部吐け・・・あとはこっちが全部やる」


「全部やるだと?貴族のそなたに何が出来る」


「貴族が弱いってのは偏見だぞ?それにこれでも世界で一番魔族に詳しい・・・俺が平民から貴族に成り上がった話でもしようか?」


「平民から?」


「ダンジョンブレイクの原因を突き止めたのは俺だ。それで伯爵となり次に()()を倒し辺境伯となった・・・これだけの実績は貴族どころか冒険者の中でも稀だと思うがな」


「・・・」


「さて、無駄話はこれで終わりだ。魔族はどこだ・・・女王」


庇い立てする義理はないはず・・・むしろ恋人と親の仇だ・・・倒してくれる者が現れたら率先して魔族の居所を教えるはず・・・だが


「魔族?・・・何を言っているか分からぬな・・・」


「女王!」


「そう喚くな・・・もしアレが魔族のせいだとしても・・・妾には居場所を突き止める術がない。アレにかかってしまった者には心当たりがある・・・残念だが諦めるしか方法はない」


「・・・本気で言っているのか?」


「ああ・・・本気も本気だ。聞いておらぬのか?アレは未だ不治の病・・・患えば死が待つ死の病だ・・・アレに対抗する術はひとつしかない・・・それは・・・かからぬこと、だ」


「・・・この10年・・・たったそれだけか?」


「なに?」


「両親を・・・恋人を・・・奪ったものに対してそれだけしか・・・」


「そうだ」


頭に血が上るのをグッと抑える


ダンコに診てもらった時に『マナポーションがあればしばらくは大丈夫』という言葉がなければとっくに目の前の人間を八つ裂きにしていたかもしれない


でも今は・・・


「とんだ無能だな・・・俺がアンタの立場ならとっくに魔族を追い詰め自らの手で最大限の苦痛を与えて殺していた。それがまさか病の正体すら掴めてなかったとは・・・それとも両親に対する愛情も・・・恋人に対する気持ちもその程度だったのか?」


亡くなってしまった人への気持ちが強ければ強いほど・・・復讐心は大きくなり躍起になって原因を突き止めるはず・・・なのに・・・


「・・・そうだな・・・今際の際に言われた言葉で呆然としているところに母上・・・そして父上が亡くなった・・・それから何人亡くなった事か・・・それでも妾は失意から抜け出せなかった・・・皆の死よりも・・・あの言葉が深く妾に深く突き刺さって・・・」


「今際の際に言われた?誰に何を・・・」


「そなたが言う()()とやらだ。ダカン・ホーキンス・・・()()なあの男によって妾は今も囚われておる・・・他人は信用してはならないという呪いにな」


「呪い?ダカンがアンタに呪いをかけたと?」


「そうだ。死の間際、妾はずっとあの男へ愛を語りかけた・・・これまでと今現在の気持ちを伝え続けたのだ・・・が、あの男は最後の最後で妾にある言葉を吐いた・・・その言葉は今も妾を苦しめる・・・その言葉はこの先ずっと妾を呪い続ける・・・妾を・・・ずっと・・・」


「・・・ダカンに何と言われたんだ?」



彼女は尋ねた僕を見て笑った


その笑顔は僕の知る限り最も悲しい笑顔だった



「・・・・・・・・・僕は君が大嫌いだった・・・そう告げてあの男はこの世を去った──────」

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