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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
394/856

390階 潜入

ハア・・・なんて姿を見られて・・・


あのガシャの顔・・・絶対引いてた・・・もしかしてもう他の人達に話してたりして・・・うあああぁぁぁぁもうお嫁に行けない!・・・・・・・・・それは問題ないか


それにしても彼と居るとどうも油断しがちだ。『私が守る!』と息巻いても結局最後は彼に頼ってしまう・・・と言うか頼りたくなってしまう


しっかりしないと・・・私はメイドで護衛な存在・・・共に歩む為にも強くならなきゃ!


『あー、張り切るのはいいけど戦うのは私達だからね?』


歩きながら気合を入れていると後ろから声を掛けられる


振り向くとおびただしい兵士達を引き連れる若い騎士・・・と言っても私と同い年くらいか・・・が困ったような表情を見せていた


「・・・はい」


そう・・・私は今ロウとは別行動を取っている


昨日突然宿を訪ねて来たガシャ・・・彼はリザードマンの拠点への案内を自分達ではなく私にお願いしてきたのだ


この騎士・・・シャス・クーデリ・アンキスと言う若き将軍率いる軍の案内を、だ


なぜ私に?と思ったが理由は単純・・・本来魔物を討伐するのは冒険者の役目・・・なのに軍に頼らざるを得ない事が屈辱なのだとか


規模が規模だから仕方ないと思うのだけど・・・まあ気持ちは分からなくもない。歩いていると兵士達から冒険者をバカにするような発言が聞こえてくるし・・・ガシャがもしこの場にいたら喧嘩になっていただろう


こうなる事が分かっていたからガシャは私を頼った・・・断る理由はない・・・もしかしたらこの件で女王の謁見が叶うかもしれないからだ


国はガシャ達の報告を受けて未曾有の事態と認識している


それもそのはず魔物が繁殖しているというのだ・・・放っておけば国が滅亡しかねない


そんな事態だからこそそれが起きている場所に案内するだけでこの国への貢献は多大なものとなる・・・国を救う・・・とまでは言わないが女王が礼の言葉を直接述べるくらいは貢献していると言えるだろう



「申し訳ないが少し歩く速度を落としてもらえるかな?私はともかく兵士達が遅れ始めている」


「・・・申し訳ありません」


「いや、鍛え方が足りないこちらの責任だ・・・でも不思議だね・・・一応訓練はしている兵士よりも使用人である君の方が動きが精錬されているように感じる・・・使用人とはかなりハードな仕事なのかな?」


「・・・見た目よりは遥かにハードです。将軍閣下」


「将軍閣下はよしてくれ。シャスと呼んでくれて構わない」


「ではシャス・・・もうすぐ着きますのでご準備を」


「・・・君・・・よく変わっていると言われないかい?」


「?いえ・・・特には・・・」


そんな会話をしている間にリザードマンとの距離はもう既に目と鼻の先・・・今回は襲って来なかったのは敵わないと分かったから?それでも拠点から逃げないのは卵があるから?・・・ハア・・・ロウの話を聞いたらこっちまで余計な事を考えるようになってしまったな・・・


「なるほど・・・あれが・・・」


シャスはリザードマン達の姿を確認すると指を1本立てて左に振り、次に2本立てて右に振った


すると背後にいた兵士達が二手に分かれて行動を開始する


「・・・全員でかからないのですか?」


「第1中隊と第2中隊で充分・・・それにあまり人数をかけると訓練にならないからね」


訓練・・・か・・・


動いたのは100人一編成の中隊が2チーム・・・合計200人が左右に分かれ配置に着くと合図などなく一気にリザードマンに向かって駆け出した


「一体も残すな!卵はなるべく全て持ち帰れ!」


シャスが叫ぶが聞こえているのかどうか怪しいものだな・・・それにしても・・・


「なぜ卵を?」


「生態系の調査で必要みたいだね。どれくらいで孵化するかは分からないけど孵化してからの成長速度は分かるからね」


卵からどれくらいで孵化するかは確かに分からないな・・・いつ卵が産まれたのか分からないし・・・けど孵化したリザードマンがどれくらいで成長するかなら分かる・・・か


良かった・・・この場にロウがいなくて・・・



少し離れた場所で人対リザードマンの戦いが繰り広げられている


兵士達はよく鍛えられていてリザードマンよりも数が多い為か圧倒していた


卵や幼い子を守る為に必死で戦うリザードマンと危険分子となり得る魔物を排除しようとする人間・・・まるで遠い世界の出来事のように感じ呆然と眺めていた


「・・・あまり淑女が見るものではないのだけど・・・」


「そうですか?・・・そうですね・・・あまり誇らしい戦いではないのは確かですね」


「・・・」


兵士達の中で迷いのある人は居ないだろう・・・少なくとも戦っている人達に迷いは見えない。シャスも同じ・・・リザードマン相手に訓練と言えるくらいだし


私は正直迷っている


リザードマンの味方をしたいとは思わない・・・なぜなら私は人間だから


けどこの戦いが正義とは思えない・・・どうしても・・・思えなかった



戦いは人間側の圧倒的勝利に終わりリザードマンと・・・小さなリザードマンの亡骸は地面に転がる


その中で卵を掲げはしゃぐ兵士達を見る私はいつの間にか拳を握っていた


「放っておけば脅威になる・・・知らなければ恐怖になる・・・弱い人間が生き抜く術は先手を打つ事だ」


「・・・弱虫らしい言葉ですね」


「辛辣だね」


何が『辛辣』なんだか・・・自分で弱い人間と言っておいて相手から言われると否定したくなるのね



その後はリザードマンの亡骸を1箇所に集めて燃やし王都への帰路へと着いた


途中シャスから褒美は何がいいか尋ねられ一瞬女王への謁見と答えようとしたがそれだと・・・


「城で働けるよう便宜を図ってもらえませんか?」


「城で?・・・君はフーリシア王国の貴族に仕えているはずじゃ・・・いや、分かった。報酬が仕事の斡旋とは何とも肩透かしだけど君が望むならそうしよう」


何が分かったのやら・・・とにかくこれで女王に会う機会が得られるはず・・・一度や二度会っただけじゃ女王を元に戻すなんて不可能だろうしこれで・・・




〘はあ?城で仕事する!?〙


「はい。なのでしばらく戻れません。エモーンズに戻るか王都で適当に過ごしていて下さい」


城に行く前に準備をしてくると言ってシャスから離れてロウに連絡を取るとかなり怒った様子・・・やっぱり事前に相談するべきだった方が良かったかな?


〘・・・まだ病の謎も解けてないんだ・・・治せるならまだしも患えば死んでしまう不治の病・・・もしサラが・・・〙


「大丈夫です・・・マグス様がここ数年病人は出てないって言っていましたし・・・」


〘それでも!・・・もしサラが病に倒れたら僕は・・・〙


「この国を滅ぼしますか?」


〘・・・必要ならね〙


まったく・・・聞く私も私だが当然のように答える彼も彼だ・・・そして私は知っている・・・彼なら本当にやれてしまう事を・・・


「責任重大ですね。ですがこのままではこの国はいずれ・・・そうなる前に何とかしないといけないと思います。そして今・・・それが出来るのは私だけ・・・ご主人様は私を信用して下さらないのですか?」


〘信用しているさ・・・けど・・・ってそんな事言われてダメと言ったらまるで信用してないみたいじゃないか・・・ハア・・・やめる気はないんだね?〙


「はい」


〘・・・ならひとつ約束してくれ。決して無茶をしないこと・・・君の為にも僕の為にも・・・この国の為にも、ね〙


「畏まりましたご主人様」



今すぐ彼の元に行ってイチャイチャしたい気持ちになるが・・・ガマンガマン・・・絶対行ったら行かせてくれなさそうだし私も離れたくなりそうだし・・・


「もう準備はいいのかな?」


「はい・・・お待たせしました」


待っていてくれたシャスに頭を下げると彼と数人の取り巻きと共に街を出てすぐ近くにある王城へと向かった


堀に囲まれた城に辿り着ける唯一の道・・・跳ね橋は既に下りていて橋を渡ると城の中へ


前にロウと来た時はすぐに応接間に通されたからあまり中を見れなかったが・・・さすが王城ってだけあって天井は高く床はピカピカ・・・ホコリひとつ落ちてないし置かれている花瓶の花も綺麗に飾られている


そんなに来客があるとは思えないけど・・・常に綺麗にするよう言われているのかな?


「城で働きたいって・・・侍女だよね?」


「護衛でもしましょうか?」


「いや・・・案内するよ」


冗談ではなく本気だったのに・・・シャスは苦笑いして侍女のいる待機部屋へと連れて行ってくれた



「・・・畏まりました閣下。ではそのように」


シャスの一言で侍女長が私を受け入れこれで潜入成功・・・にしても待機していた他の侍女達のシャスを見る目が全員ハートになっている・・・まあ若いし将軍だし玉の輿狙いったのもあるだろうけどあからさま過ぎるだろ・・・


「じゃあ私は王都の兵舎に戻るよ。困った事があったら私を訪ねるといい」


「お気遣いありがとうございます将軍閣下」


「・・・共に行動した仲だシャスでいい」


「そうはいきません将軍閣下」


共に行動したと言っても森と王都を往復したくらいでしょ・・・それに親しげにして他の侍女の恨みを買うのは勘弁だし・・・ってもう遅いか


シャスが城を出て行った後は妬みが多分に含まれた視線を浴びせられる・・・そんな中、探していた人物をようやく見つけるとすかさず近付き話し掛ける


「あの・・・」


「・・・あっ貴女は・・・」


部屋の隅でこの前とは違った感じ・・・無表情で椅子に座るエバに声を掛けると私に気付いた彼女はパッと顔を明るくする


すると・・・私に妬みの視線を浴びせていた侍女達が潮が引くようにサーッと居なくなった


「・・・」


「あ、いつもの事なので・・・それよりどうしてコチラに?」


『いつもの事』・・・そうか・・・この子は女王の味方しているから・・・


「今日からここで働く事になりました。よろしくお願いしますエバさん──────」


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