387階 調査
僕の考えた作戦はこうだ
リザードマンが現れたという森にBランク冒険者達と共に行き、Sランク冒険者であるサラがパパッとリザードマンを撃退、森は平穏を取り戻し街は脅威から解放される。んでそれに感激した女王が僕達を招き褒め倒す・・・そこで軽快なトークを繰り広げ女王の凍った心を溶かす・・・うん、完璧
一応ガシャがリーダーを務めるパーティーに同行するという形になる。マグス曰く王都の冒険者ギルドを将来背負って立つ有望な人材の為プライドを傷付けないように配慮して欲しいとの事だが・・・まあ知ったこっちゃない
そのプライドを傷付けないようにする為か僕達はあくまでも貴族とメイドという形で同行する・・・Sランク冒険者が同行するなんて言ったらギルドは自分達を信用してないって思うだろうからな。ギルドとしては『貴族とメイドみたいなお荷物を押し付けてもお前らならやってくれるだろうって思ってますよ』という形を取りたいのだと
なんでそんなに冒険者に気を使うか・・・その理由はこれまた女王にある
女王のやり方に反対する人達は冒険者の中にも当然いる。けど実力のない冒険者は別の街で一からやる勇気がなくてここから離れないが実力ある者は王都に拘る必要がなければ別の街に行ってしまうのだとか
そんな中でBランク冒険者のガシャ達は残ってくれているという立ち位置なんだとさ
で、ギルド職員からガシャ達に紹介された訳だがこれでもかってくらい嫌な顔された
普通帰属に対してはもっと気を使うはずだろ・・・そんなあからさまな態度だとさすがの僕も傷付くぞ?
まあ同じBランクパーティーが全滅した依頼にお荷物を連れて行けって言われたら嫌なのは分かるけどね
「・・・ガシャだ・・・よろしく・・・チッ」
舌打ち聞こえてますよ?
「ハンドだ」「テリー」「フランです。よろしくお願いします」
「ロウニールです」「サラと申します」
という感じで挨拶を終えて早速ガシャ達に従いリザードマンが出たと言われている森へと向かった
ダンジョン探索と違って今回はあくまでも森の調査・・・目撃情報のあったリザードマンの有無とその数を調べるだけだから準備はほとんど要らない。その辺は依頼したギルド職員も念押ししていたのだがはてさて・・・
「よくもアドランさん達を・・・ぶっ飛ばしてやる!」
街を出てその森へと向かっている最中に突然ガシャが手のひらに拳を打ちつけ気合を入れる。その様子を見てフランが大きなため息をついた
「だから・・・交戦は厳禁って言われたでしょ?今回はあくまでも情報収集・・・それによって討伐隊を編成するって話だし仇をとるのはその時よ」
「けど襲いかかって来たらやるしかねえだろ?」
「それでも、よ。アドランさん達の事もあるし・・・ほら・・・」
歩きながらガシャと話していたフランがチラリと僕達の方を見た
「チッ・・・邪魔くせえ・・・」
こらこら・・・一応貴族様だぞ?激しく敬えコノヤロウ
「は、ははは・・・すみません、根が正直なもので・・・」
フォローになってないぞフラン
にしてもこのガシャ達・・・Bランク冒険者の割には歳が若いような・・・おそらくケン達と同じくらいか?それなのにBランクまで上がるなんてかなり才能があるんだろうな
持っている武器を見る限りガシャが剣を使う近接アタッカー、ハンドがタンカーでテリーがスカウト、そしてフランが魔法使いか・・・魔王国なんて言われているから魔法使いパーティーとかだと思ってたら案外普通なパーティー編成なんだな
「あのぉ・・・どうして貴族の方が森の調査に?」
歩いているとフランが僕の隣にやって来て上目遣いで尋ねてきた。とんがり帽子から覗くその瞳は探ると言うより単なる暇潰しの興味本位って色が濃い・・・冒険者が帰属と触れ合う機会なんてそうそうないだろうからそれでだろう
「森の調査・・・と言うより魔物の調査です。ダンジョンから出て来た魔物がどれ程いるか調査しているので」
「貴族様が・・・魔物の調査?」
「ああ言っていませんでしたね・・・私はフーリシア王国の者でして各国の情報・・・主に魔物に関して調査しているのです。ダンジョンブレイク以外で魔物がどれ程外に出て来ているのか・・・我が国でも少なからず出て来ているので他の国はどうか調べる為に」
「フーリシア!?・・・はぇ・・・こりゃまた遠くから・・・」
「なるほど・・・道理でこの国では見られない程の美女を連れていると思った。この国の女性は歩くと大地を凍らすがフーリシアの女性は歩くと花を咲かせるようだ」
フランとの会話に横から割り込んできたのはテリー・・・サラを横目で見ながら歯が浮くようなセリフをサラリと言いやがる・・・スカウトってはどうしてこう・・・
「テリー・・・アンタ氷漬けにされたいの?」
「ほらやっぱり・・・ヤダヤダ野蛮な女性は。僕はサラさんのようなお淑やかな女性がこの国を占める事を望むよ」
サラがお淑やかだって?今はメイドしているから大人しいけど意外と激しいのだよ?昼も夜も・・・痛っ
「・・・ご主人様・・・あまりよからぬ事を考えませんように」
周りに気付かれないように足を蹴られた
どうやって分かったんだ?心の中で呟いただけなのに・・・
「はっ、魔物の調査ならどデカい魔物がいるじゃねえか・・・城の中にな」
「ガシャ!」
「別にいいだろ?フラン・・・ありゃあ魔物だよ・・・どう考えてもな」
フランが窘めるがガシャは悪びれることも無く続けた
城の中の魔物・・・一介の冒険者が一国の王に対して言うセリフじゃないな・・・まあ誰の事を言っているのかすぐに分かってしまう僕も僕か・・・
「興味深い話ですね。その魔物に何かされたのですか?」
「何か?やることなすこと嫌がらせにしか思えないね。何かされたと言うより何もされてないって思ってる奴がいねえくらいされてるよ」
「具体的には?」
「・・・高い税金、高騰する食料、その日の飯もままならねえのに城の中じゃ贅沢三昧って話だ。そのくせ少し文句言ったくらいで地方に飛ばされたり消されちまう・・・もう我慢の限界だぜ実際」
あまり贅沢しているようには見えなかったが・・・それよりも気になるな・・・
「消されたりって言うのは殺されてしまったのですか?」
「・・・さあな・・・いつの間にか存在自体が消えちまって訳が分からねえ・・・呪いだよ『氷呪の女王』のな」
「ガシャ!」
呪いねえ・・・病の事だけかと思ったらそういう現象も起きているのか・・・ふむ・・・
「はいはい・・・フランは何を信じているんだか・・・まあいい・・・到着したぜ?」
言われんでも見りゃ分かる・・・鬱蒼とした森が僕達を飲み込もうと大きな口を広げて迎えていた
この森の中にリザードマンが・・・苦手なんだよな・・・リザードマン・・・
「貴族さんよぉこっからは俺の指示に従え。どんだけ偉いか知らねえが勝手な行動しやがったら魔物のエサにしてやる」
「言い方!・・・でもガシャの言う通り勝手な行動は慎んで下さい。私達の先にここを訪れたパーティーはベテランの方達でした・・・その方達が全滅したのですからこの森には何かあります・・・ひとつの判断ミスが命取りとなりかねないので・・・その辺はよろしくお願いします」
「承知しました。皆さんに従います」
危なくなるまでは、ね──────
森に入ると木が邪魔をして視界が狭まる
それに加えてスカウトのテリーが木に登り近くに魔物がいないか確認してから進むのでかなり進行速度は遅い
サラならこの辺一帯を索敵して簡単にリザードマンの居所を調べられるが・・・
「テリーさんは索敵の能力を持ってないのですか?」
「バッカそれで魔物に勘づかれたらどうすんだよ。逃げられたら元も子もねえだろ?」
「・・・」
勘づかれないようにやれよ・・・とは言わずに大人しく従う
でも言われてみればダンジョンの魔物と違い逃げるって事も考えられるのか・・・ダンジョンの魔物はダンジョンコアの命令で動くから逃げる事はないけど外に出たらどう行動するか不明だしな・・・そもそも出て来て何するつもりなんだろ?
〘ダンコさん?〙
〘そのダンジョンコアによって違うわ。魔王亡き今自由だしね・・・魔王を倒した人間に復讐を考えるダンジョンコアもいれば自分が魔王に取って代わるって意気込むダンジョンコアもいるだろうし・・・単に暇だから魔物を外に出すダンジョンコアもいるかもね〙
なんてはた迷惑な
〘言ったでしょ?何が起こるか分からないって・・・人間が何をするか分からないように今の魔族も魔物も何をするか分からないの・・・けどまあ・・・人間よりは単純だと思うわ〙
〘単純?〙
〘強い者が弱い者を従える・・・強さで全てが決まるのよ〙
〘そりゃまた単純だこと〙
人間の場合は地位とか上下関係が絡んでくるからな・・・それを考えれば分かりやすい。魔王が一番強かったから従っていた・・・なら今は?魔王がいなくなり自由となった・・・誰かに従うか従わせるか何もしないか何かをするか・・・自由って訳だ
〘・・・もしかして勇者に魔王を倒させた方が分かりやすかった?〙
〘でしょうね。物語としてははっきりしてる・・・けど勇者が魔王を倒せるとは限らないわよ?人間は都合のいい記録だけ残していて都合の悪い記録は残してないからね・・・人間の暗黒時代の話聞きたい?〙
〘遠慮します〙
物語はハッピーエンドに限る・・・魔物が世を総べる話なんて面白くもなんともないだろ
「ガシャ!前方にリザードマンらしき影が!」
ダンコと会話をしていると木の上からテリーが叫ぶ
「数は?」
「分からない・・・チラッと影が見えただけ・・・どうする?」
木から降りながらテリーが尋ねるとガシャはリザードマンがいるであろう方向を見つめながら考える
「存在が確認出来たのはヨシとしてあとは規模だな・・・けど気付かれたらアドランさん達の二の舞に・・・」
「僕だけで見て来ようか?それなら気付かれずに近付けるかもしれないし」
「けどもし奴らが潜んでいて近付いた瞬間に囲まれたらどうする?」
「ならここから探索スキルを使うか?ある程度なら分かるかも知れないぞ?」
「『見て来ましたある程度の数なら分かります』じゃ締まらねえだろ・・・さてどうしたもんか・・・」
どうするか考えてから来たんじゃないのかよ・・・てかリザードマンを舐めすぎだ。ダンジョンから出てどれくらい経ってるか知らないかここは言わばリザードマンの住処・・・しかも敵に遭遇して日が浅いともなれば警戒くらいするだろ
多分ガシャ達は魔物をダンジョンの魔物・・・つまり討伐対象としてしか見ていない・・・冒険者の行く手を阻む魔物とダンジョンから外に出て生活する魔物・・・その思考はかなり違うはずだ
〘なあダンコ・・・リザードマンって実は賢い?〙
〘さあね・・・命令に従うリザードマンしか見た事ないもの・・・どれだけ賢いかなんて分かるはずないじゃない〙
〘だよな・・・まあひとつ勉強になったよ。リザードマンは実は賢い・・・みたいだ〙
間抜けな人間より・・・ね
「チッ・・・囲まれるよりマシだ!ここから探索して見える範囲の規模を報告する!奴らがそれに気付いて逃げるならそれはもう仕方ねえだろ」
「そうね・・・突っ込んで囲まれたらシャレにならないし・・・」
「分かった。なるべく気付かれないようにやるが気付かれたら責任持てよ?ガシャ」
「・・・死ぬよりマシだクソッタレ」
うんうん、それがいい。と言うか初めっからそうすれば良かったのに木の上から目で見て近付くなんて・・・ここはリザードマンの住処・・・外敵である人間が来る事も既に学んでいる・・・人間だったらどうする?魔物は外敵が来る事を知っていても何も対策しないとでも?
「・・・あー・・・本当かよ・・・」
「どうした?まさかすげえ数いるとか?」
「いや・・・もう既に囲まれてるわ俺達──────」




