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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
390/856

386階 総ギルド長マグス

アネッサの情報の中でも重要だった情報は敵に回すと厄介な要注意人物と女王の数少ない味方の情報だ


その中でもアネッサが王都を訪れたら必ず会って欲しいと言っていた人物・・・それがマグス・ナジス・アメーラ・・・王都の冒険者ギルド長にしてシャリファ王国の総ギルド長だ


「・・・アネッサから話は聞いている。まだ諦めていなかったことは嬉しくもあり悲しくもあるのう」


頭も眉毛も髭も真っ白なマグスは長い眉毛で隠れた目を落としそう呟いた


朝早く王都の冒険者ギルドを訪れたらすぐに2階へと通された


今言った通りアネッサが前もって僕達が来る事をマグスに伝えていたのだろう


「悲しくも・・・とは?」


「何事も諦めが肝心と言うじゃろ?最後まで諦めない執念は行き場を失えば己に牙を剥く」


「・・・冒険者ギルドの総ギルド長の言葉とは思えませんね・・・」


「だからこその言葉じゃ。冒険者とは常に死と隣り合わせ・・・進むか戻るか生きるか死ぬか・・・そんな生き方を続けて来てようやくギルド長となり人を導く立場となったのにまた選択をしておる・・・もう冒険者ではない・・・進むか戻るかではなく諦めるという道を知っているはずなのにのう・・・貴族のヌシには分からぬか・・・ヌシはどうじゃ?Sランク冒険者であった『風鳴り』なら」


僕も一応冒険者してたことあるけど・・・マグスはそんな僕ではなく眉毛の奥の目をサラに向けた


「・・・まだ何も諦めておりませんのでよく分かりません」


「・・・そうか・・・そのような姿をしているからてっきり・・・まあいずれ分かる時が来る・・・諦めなければ何でも叶うなどと言うのは幻想じゃとのう・・・」


「なるほど・・・諦めの境地ですか・・・総ギルド長って立場は」


「言うのう・・・じゃが引き際を知らん奴に務まらん職なのは間違いないのう。かの魔王城は6縛りという結界か呪いがあると聞く・・・6人しか入れない結界・・・もしヌシがギルド長で魔王城がヌシの管轄に出現したらどうする?諦めず冒険者を行かせ続けるか?それとも勇者が訪れるのを待つか?」


自分で倒しに行っちゃいます・・・とは言える雰囲気じゃないな


「勇者を待ちます・・・けどそれは諦めたとは言えないのでは?」


「無論諦めたのではなく耐え忍ぶ・・・であろうのう。で、ワシは冒険者を行かせず勇者も待つつもりはない・・・皆を逃がす」


「・・・先程の選択枠になかったのですが・・・」


「選択枠にないものを選ぶのが『諦める』じゃ。なかなか出来るものではないぞ?卑怯者と罵られる可能性もある、臆病者と笑われる時もある・・・じゃが経験から己が後ろ指さされようと最善を選ぶ事が出来るものこそが上に立つ者とワシは思うがのう」


エモーンズに魔王城が出現した時・・・全員逃げるなんて考えた人はいるのだろうか?


もし僕が魔王に負けてたら・・・あそこで一緒に戦った人達はもちろん、外で戦っていた人達や街の人達も全て・・・


結果的に良かっただけで違った結果になっていたら諦めていた事によって多くの人が助かった未来もあったかも・・・けど確かに誰でも簡単に出来るもんじゃないな・・・諦めるって


「まっ何事も見極めが肝心じゃ。のるかそるかなど若気の至りじゃワシらの役目は活かし生かすじゃ。自分の命ではなく他人の命を預かっているのだからのう」


「じゃあまだアネッサさんは・・・冒険者ですね」


「そうじゃのう・・・それが嬉しくもあり悲しくもある・・・ワシが単なるギルド職員であった時のアネッサ・・・そしてギルド長となった時のアネッサ・・・ワシが総ギルド長となりアネッサがギルド長となった時は感慨深いものがあったのじゃが・・・今のアネッサにワシが求めるものはギルド長としての『諦め』・・・引き際と言うべきか・・・じゃが変わらぬアネッサを見て懐かしくもあり嬉しく思うワシがいるのも事実じゃ」


「けど諦めない心が私を引き寄せた・・・ですよね?」


「言うのう・・・ヌシにアネッサの命を背負える器量があるのか?」


「背負って飛ぶつもりですよ・・・その為には翼がいる」


「その翼を求めて来た訳か・・・老いぼれの翼など当てにならんぞ?」


「手探り状態なもんで少しでも・・・それこそ羽根の一枚でもあれば重ねて翼にし飛んでみせます」


「フッ・・・あの子の粘り勝ちになればよいのだが・・・いいじゃろうワシの持っている全ての情報を話してやる──────」



マグスの持っている情報はアネッサよりも遥かに多かった


その中でも特に気になったのは病の事


ダカンや女王の両親、それに女王に近いし者が次々に病に倒れた時に女王はその病を研究する期間を立ち上げた


もちろん原因究明と治療の為・・・不治の病に対抗する為に立ち上げた期間だったが・・・


「未だに原因究明は疎か治療にも至ってない・・・と」


「うむ。どちらかと言えば治療の方が早く確立すると思われていた・・・が、患った者は例外なく死に至っておる・・・残念ながらな」


「聖女は?この国にもいるはずですが・・・」


「当然聖女アニータも治療を試みた・・・が、結果は言わずもがなじゃ」


『真実の眼』でも病の正体が分からない?厄介にも程があるな


「ちなみにどんな症状かご存知ですか?」


「身体中に激痛が走ると患者は言うらしい・・・表面上には特に傷などないにも関わらずじゃ。もちろんヒールをかけてみたり冷やしたり温めたり色々試したみたいじゃがのう・・・どれも効果はなかったらしい」


「症状が出てどれくらいで死んでしまうのですか?」


「まちまちじゃが数日がほとんどじゃ。急に苦しみ出し激痛に悶えながら死んでいく・・・治療にあたった者はとても見てられんと嘆いておったな」


数日・・・か


『魔蝕』は人によるけど年単位だし数日で死に至るなんて毒を盛られたとしか思えない・・・でも毒なら聖女であれば治療出来るか・・・うーん・・・


「そうじゃ・・・薬とは言えぬが症状を少し抑える効果があるものなら見つけたと聞いたな」


「それは?」


「マナポーション・・・らしいのじゃがなぜ抑えられるかは不明じゃとか・・・」


マナポーションが?・・・なぜ??


「とにかく病に関して分かっておるのはそのくらいじゃ。最近は特に進展もないしのう」


「じっくり見ようにも数日で亡くなってしまうのなら仕方ないかもしれませんね」


「いや、そもそも最近は病を患う者がいないからじゃ。調べようにも病人がおらねば無理であろう?」


「流行病だった・・・って事ですかね?」


「さあのう・・・今となっては謎のままじゃ」


それなら病の事は気にしなくてもいいのか?ふーむ・・・気にはなるけど今は女王を元に戻すのに役に立ちそうにないし後回しにするか・・・


「病の事は置いておいて城の中で女王様の味方になるような人っています?サラ・・・私のメイドの話では侍女の1人に女王様を救ってくれみたいな事を言われたらしいのですがそれならその侍女以外にも味方がいる可能性があるかと・・・」


「味方?・・・ふむ・・・城内にいることすら初耳じゃ。陛下に味方が・・・ふむ・・・」


そんなレベルかやっぱり・・・マグスの様子じゃ望みは薄そうだな


「やはり女王様の周りは敵ばかりなのですか?」


「敵・・・とまでは言わんが陛下の悪い噂ばかり聞こえてきてのう・・・『陛下が座った椅子はいつも湿っている』とか『すれ違っただけで寒気がする』とか言いたい放題じゃ。一国の王に対する言ではない噂・・・聞いてて虫唾が走るわい」


湿ってるって漏らしてるって事か?まるでイジメだな


女王はそんな噂話されてて気付いていないのか?それともそんな噂話されているから変わってしまったのか?


恋人と両親を同時期に失い近い人達も・・・それがきっかけと思ってたけど実は違うとか?周りが冷たいから自分も・・・


「マグスさん・・・ぶっちゃけて女王様を陥れようとしている人に心当たりはありませんか?」


「病自体が陰謀説・・・昔はそんな話もあったのう・・・じゃがそれはない」


「なぜです?」


「散々調べ尽くしたからじゃ。無論ワシもな・・・が、いくら調べても証拠など出やせん・・・逆に謎が深まるばかりじゃ・・・病も陛下の事も・・・」


ダカンが亡くなって10年だっけか・・・その間何もしていなかった訳無いもんな・・・その間ずっと調べて分からないんじゃ『ない』と断言してもおかしくはないか


ハア・・・結局何も分からないって事が分かったって感じだな。このままだと女王は殺されておしまいだ・・・何か突破口があれば・・・


「女王様に会うにはどうすればいいですか?」


「会ってどうする?」


「直接会って色々聞こうかと・・・」


「もう会ったのではないのか?」


「お前と雑談する気はないって振られちゃいました」


「なら同じ事じゃ・・・陛下はここ10年なるべく誰とも関わらぬようにしているからのう・・・相当な理由がない限り会ったりはしないじゃろうな」


うへっ唯一の機会を失ったって事か?あの時もっと粘るべきだったか・・・ん?


「ギルド長!」


突然応接間のドアが開きギルド職員と思われる女性が慌てた様子で叫んだ


「来客中じゃ。緊急時以外は入るなといつも・・・」


「緊急事態です!魔物の調査に行ったBランクパーティーが全滅・・・しました」


「なぬ!?アドラン達か?」


「はい・・・たった今ギルドカード・・・あっ」


「構わん。続けよ」


「はい!ギルドカードのマナが消えました。全員のです」


「ぬう・・・調査対象はリザードマンだったな?」


「はい。森の中でリザードマンの姿を確認、その規模を調査する為にギルドから依頼を出しBランクパーティーのアドラン達がそれを受けたのが今朝の話です。時間的にも森の目撃した場所に到着した頃かと・・・」


「言うてもリザードマンじゃ・・・アドラン達が遅れをとるとは思えん・・・まさか他の魔物も?」


「分かりません。今はあの2人がおらず更にAランクパーティーもいませんし他の街に要請するしか・・・」


「それでは間に合わん・・・Bランクパーティーは?」


「ガシャ達がおりますが実力はアドラン達より劣ります・・・なのでさすがに・・・」


えっと・・・2人の会話によると・・・まあ大変な事になってるらしいな


「何やらお忙しそうなので私達はこれで」


「う、うむ、すまぬのう。とりあえずガシャ達に向かわせよ。アドラン達の事もある・・・決して交戦せずあくまでも調査だと釘を刺してな」


「分かりました」


「・・・こんな時にあの2人がおれば・・・」


また出た『あの2人』


部屋から出ようと立ち上がりながら『あの2人』が気になって考える


そう言えばアネッサが言ってた人物の中に・・・


「『雷弓』ケティナと『地仙』バウム?」


「ん?ああそうじゃ。このギルドに所属しておったのじゃが・・・今現在行方知れずとなっておる。まあ理由は分かっておるが、な」


アネッサに教えてもらった避けるべき相手・・・Sランク冒険者の『雷弓』ケティナと『地仙』バウム・・・その2人がいないのか・・・しかもBランクパーティーが全滅したのにまた同じBランクパーティーを送らないといけない懐事情・・・もしかして女王の影響が冒険者にも?・・・とにかく大事件っぽいな・・・まあ僕達には関係・・・大事件?


「マグスさん!」


「な、なんじゃ!?」


「困ってますよね?大変ですよね?大事件ですよね?」


「いきなりなんじゃ藪から棒に・・・それはもちろんリザードマンは冒険者にとっても厄介じゃが街の者達にとってはもっと・・・じゃから早急に手を打たねば・・・」


「でも調査に行ったBランク冒険者達は全滅した・・・で、また同じBランク冒険者達を送ろうとしている・・・ですよね?」


「仕方ないのじゃ・・・腕に覚えのある者達は他の街から引く手数多じゃ・・・窮屈な王都よりも呼ばれて贅沢三昧したいと思うのは当然じゃからな」


窮屈ってのは女王がいるからか?まあそんな事はこの際どうでもいい・・・なぜなら・・・


「マグスさん・・・そのBランク冒険者達に私達もついて行っても?」


「ヌシ達が?・・・そうか・・・彼女は・・・」


「ええ。私達がこの大事件を解決してみせます・・・女王様にお褒めの言葉を貰う為に・・・ね──────」

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